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Kiss of Monster 03  作者: 奏路野仁
37/42

補完 2-3

少なくとも彼女達から喧嘩を売るような真似はしない。

彼女達は本能的に争いを避けようとする。

小学生の時、2つ年上のイジメっ子にいつものように仕返しをした。

二度と自分達に「ちょっかい」を出さないように念入りに。

南室さんと小室さんが駆け付けて人外バトルが始まるまで徹底的に。

三原先生が現れて全員頭を押さえて終了。

彼女達3人からすると降りかかる火の粉を払っただけだ。

自分達が悪い事をしたとも思っていないし

三原先生もそれを叱ったりはしていなかった。

しかし物語は彼女達の与り知らぬ場所で進んでいた。

そのイジメっ子は標的を代える。腹いせに、彼女達にしたイジメよりさらに強烈に。

イジメられた子達は耐え切れず宮田さん達に助けを求めた。

しかし「自分達で何とかしろ。」としか言わなかった。

彼女達は正義の味方ではない。

何より、今まで、彼女達が受けた仕打ちに対して

この子達はただ眺めていただけじゃないか。

何だったら、一緒になって「人ならざる者」を差別した側だ。

人の子なんて信用できるものか。

どちらの言い分も今なら判る。

宮田さん達に同情し助けたら自分までイジメられてしまう。

中学生になったばかりのある日、3人は全く身に覚えのない事で教師に呼び出される。

いつだったかのイジメっ子に対して恐喝をし金品を脅し取っている。と。

正義の味方ではないが、だからって悪に手を染めたつもりも無い。

この件の真相は簡単に判明した。

当時彼にイジメられていた別の子が彼女達の名前を勝手に使っただけ。

「宮田さんが新しい服欲しいってよ。」

「柏木さんが食事に行くんだと。」

中学生らしいと言うか、浅はかで考え無しの復讐だった。

イジメっ子に対するのと同時に、当時見捨てた宮田さん達にも迷惑を掛けられる。

受け取った金品を親が返却し、イジメっ子も「俺が悪かったんだから。」と

やれやれ一件落着になる筈だった。

宮田さん達も勝手に名前を使った事に対する謝罪も受け、

疑いが晴れた以上何も言うつもりも無かった。

だが何がどう伝わったのか、宮田さん達に対する悪名だけが広がった。

小学生の頃から、片っ端から男子をシメて周り、

中学に入ってすぐに上級生男子をボコボコにした。とか。

彼女に近い者達はそんな噂を笑って済ませていた。

だが噂は町内を飛び出し市内を駆け巡り、県内全域に広まった。

1年生の夏休み前には彼女達は殆ど毎週末呼び出されていた。

人並み外れた身体能力は、中学生男子どころか格闘技経験のある高校生男子をも返り討ちにした。

本当に、ただ火の粉を払っていただけだった。

それが楽しかった事など一度も無い。

一度相手を断ると彼らは学校に乗り込んで来た。

「相手にならないなら今度は家に乗り込む」と脅された。

彼女達は必ず「二度と関わらない」事を条件に相手をした。

相手を打ち倒し、本当に二度と関わらせないように徹底的に脅した。

「今度この町で見かけたらこんな程度じゃ済まない。」

「殺してくれって言うくらい傷め付けてやる。くらいの事は言ったよね。」

「全員裸にして写真撮った事もあったよ。」

こうしてシュワルツランツェンレイターの名が広がった。


彼女達が孤立するのは早かった。

2年生になる頃には誰も近寄らなくなっていた。

そして、あの事件が起きてしまう。

それは必然だった。自分達の周囲に誰もいなくなったのだから。

お互いが、お互いを必要とする時期だったのだ。

僕は彼女達の話を止めさせた。

もう既に聞いた話だったし、今思い出すような事ではない。

彼女達はその時皆で深い傷を負って、さらに孤立を深めてしまったのだから。

中学二年生なんて、とても楽しい時期なんだろうと思う。

友達と遊んで、恋をして、悩んで、楽しんで。きっと一生の内でも数少ない何でも出来る年齢。

僕個人はもうそんな夢は捨てていたから構わないのだが

きっと、彼女達と一緒にいた「もう1人の子」もきっとその年齢だからそうしたのだと思う。

思い詰めて周囲が見えなくなって、自分のしたいようにしたんだ。

結果がどうなるかなんて深く考えもせず単純に、素敵な妄想しかしないでそうしたんだ。


「だからキズナが杏達とトモダチになったって聞いた時は信じられなかった。」

僕は県外から来たから。

「何それ、都会育ち自慢してるの?もしかしてその言葉遣いも嫌味なの?」

そんなつもりじゃ

それに前にも言ったかもしれないけど宮田さん達を怖いとは思わなかったから。

「私達の素の美しい内面が滲み出ていたんだな。」

「でも連行して拉致は無いわー。」

「髪掴んで引き摺り回してた奴が言うか。」

「引き摺り回してねぇよっ。」

何かまたいつものが始まりそうだな。

とにかく僕が皆の事を特別だと思うのは、何というかその

人の子だからとか妖怪やらUMAみたいだからとか何とかじゃなくてですね

僕にとって少し特別だってだけでその、どう言ったらいいのかな。

そりゃチョットは普通の人とは違うかも知れないけど僕にとっては何も違和感無いと言うか

「何だったらキズナが一番特殊だよねー。」

「そうね、特別って言うより特殊よね。」

「あ、そうそう。兄がねコイツの事天使とか言ったんだよ。」

「え。ナニソレ。ちょっと詳しく教えなさいよ。」

「ワタシも聞いてないわよソレ。何なのよ。」

え、ちょっと、その話するの?僕が?栄さんはサーラから聞いたんじゃな

「ホレとっとと話せ。」

小室さんまで。って橘さんも何で身を乗り出してくるか。

あれはバレンタインの日で、エリクとルーはチョコやら何やらたくさんの贈り物を受け取っていて

休み時間に2人が僕のところへ来て

「どうしてキズナはチョコ貰えないのか。」て言い出して。

2人からしたら不思議だよね。

校内で一番チョコが集まる皆から慕われていると2人が思っていた僕に対して

クラスの誰も何も渡さない。いや近付きもしない。

だから、僕は2人以外には見えていない亡霊なんだよって話をして。

「キミはゴーストって言うより、ボクのエンジェールさハニー。」

誰だそれ。作るな。盛るな。

あの時エリクは慌てて口を押さえて続きを言わなかった。後でサーラが教えてくれたんだ。

それを先に栄さんが聞いたもんだからまあ喜んでエリクを揄ったよね。

「あの時杏ちゃん一緒じゃ無かったの覚えてる?」

そう言えばいませんでしたね。

「サーラちゃんからその話聞いたら真っ赤になって動けな」

「だっオラーっ」

「いたっ。もう何だよー。勝手に妄想膨らませて違う世界に行ったくせにー。」

「行ってねーよっ。トイレ行ってただけだっつーの。」

「トイレで何をしていたんだーい?」

「ばっ、バカだろお前ー。変態。やっぱり変態だそコイツ。」

知ってます。

「うん知ってた。」「ワタシも知ってた。」「私もー」


僕には霊感が無い。

もしかしたら、中学生のある日、僕は自らその命を絶ったか、事故にでも会ったか、

本当に亡霊になってしまったのかも知れない。

だから仮に幽霊なんて者が居ても、それを識別する必要が無くなったから

認識しなくなっただけなのかも。

君もそう思うだろ?と、誰も居ない空間に向かって喋った。

「ギャー。」

「何でこんな時期に怪談すんだよっ。」

「そ、そ、そ、それに私達にはキズナ君の事ちゃんと見えてるよっ。触れるよっ。」

それは、実は既に皆も・・・

「やめろーっ。」

「ああちょっと鳥肌がーっ。」

「何なの。何なのキズナのくせにー。」

もしかして全員怖い系の話苦手なんですか?

「別に?怖くなんかないよ?」

小室さんそれ僕のお茶。

「あーーっもう今夜どうするのよー。」

「そうよ。責任取って一緒に寝」

「オマエ今日うち泊まってけ。な?な?」

「ちょっと割り込まないでよ。」

いっその事皆でお泊り会しましょうか?

その時とっておきの話をお聞かせしますよ。

「するなっ。」

僕は武器を手に入れた。今までになく強くなったような気分だ。

だからと言ってあまり調子に乗ると後が怖いから程々に。

亡霊なんかよりどれだけ恐ろしいか。




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