補完 2-2
南室さんと小室さんには何も感じなかった。
宮田さんと栄さんと柏木さん。それに橘さんには違和感があった。
良い意味でも悪い意味でも無い。ただ自分とは何かが異なる。だけの意味。
脅威も敵意も無かったが興味は沸いた。
南室さんと小室さんが彼女達と居るのは幼い頃からそうしていただけに過ぎない。
「普通」の幅と言うか、置き所と言うか、その言葉の持つ意味は
その使用者にしか適応しないように、それが「普通」になるのだから。
僕にとって、いや他の誰であれ、「普通」なんて言葉はあやふやで不確定で不誠実だろう。
誰がそう言ったのか、それは自分でしかない。
数字でそう表現されたからって、それが個人の全てでは無い。
ただ「普通」て言葉に安心し委ねる事で気が楽にはなる。
他人達と変わっている事は、迫害の対象になりやすい。だから集団に依存し砂浜の一粒になる。
僕はそうして自分を消した。「木の葉を隠すなら」の格言通り
誰とも交わらずに誰かと同じ事をし続けた。
だが僕は一度として自分を特別だとも普通だとも思った事はない。
ただ、違うだけなのだと言い聞かせ続けた。
1人1人が異なる自意識を持つように、僕もそうなのだと。
他の誰とも違う存在である事実は、他の誰とも違わない。
僕は他人との接触を避けた。他人も僕を遠ざけた。
意図したのではなく、結果として「継ぐ者」の置かれる状況に似た。
自分とは異なる何かを彼女たちに感じたのは
きっととても似た何かだったのだと思う。
だから「特異」では無く「特別」に近いように思う。
言葉のちょっとした匙加減なのだが
全く別の何か、では無く、ある特定の何かが多いとか少ないとか
そんなような事だ。
イチゴショートとモンブランの違いのような。
「甘くて美味しいケーキ」である事に「違いは無い」が
材料も製法もその味もまるで異なる。
もう何だったら好みの違いでしかない。
「私チョコレートケーキのが好き。」
「ワタシレアチーズ。」
「ボクはティラミスが好きー。」
何の話だ。
「プリンアラモードでもいい?」
いい?て何ですか。
「イチゴショートのスポンジの間のフルーツってイチゴ以外でも許す?」
「あーーーっ難しいな。桃とかなら許す。パイナップルは許さん。」
だから何の話を
「お前がイチゴだのモンブランだの言うからだろうが。」
「あーもうっ。追加注文していい?今何か特集ある?」
「抹茶パルフェだって。」
「パルフェって何だよっ。抹茶パフェでイイだろうが。」
「パルフェとパフェって何が違うの?何かいつからかパルフェが幅聞かせてきたけど。」
幅て。
元々はフランス語で完全なって意味のパルフェが日本で英語読みになっただけみたいですよ。
パーフェクトのパーフェですよね。
ただパルフェは今の日本のパフェとは違ってホイップクリーム甘くして卵の黄身入れて凍らせて
お皿に盛ってソースとかフルーツとか掛けたものだから
日本のパフェはむしろサンデーに近いかも。
「なんでそんな事知ってるのかは聞かないでやるけどサンデーって何が違うの。」
サンデーはアメリカでパフェを簡略化したのが始まりみたいです。だから明らかな違いは無いみたいですよ。
まあサンデーもパフェもパルフェ風ってくらいじゃないですかね。
「何も見ないでそんな事言えるのってやっぱりちょっとヘンよアナタ。」
「抹茶パフェとガトーショコラじゃ明らかに違うよな。」
「でも甘いモノでくくると一緒じゃん。」
いやまあだから僕が言いたいのもその程度の事ですよ。
ただケーキは表面的に見た目でコレとコレは違うってハッキリ判るけど
人だって見た目なら皆違うじゃ無いですか。
でも中身は見えないのに違うのは判るでしょ?
その判らない部分の中でも他とは変わった何かがあるような。
「もうややこしくて何言ってるのか判らないわ。」
僕もですよ。
「実際変わり者扱いはされるよねー。」
それって栄さんが雪女だとか関係無いと思いますけど。
変わり者と言うか、変人とかへ
「それ以上言ったらねぶり死なす。」
変態。
「何だよ舐られたいならそう言えよー。」
栄さんにならいいですよ。
「んなっ。何だよお前っ。キズナのクセにっ。」
彼女は僕が困っているのを楽しんでいるだけなのを知ったので安心して言える。
実際何もしてこない事は確信している。
彼女は僕と恋人になりたいのではない。親友になりたいのだから。
栄さんと宮田さんが仲良くなったいきさつは聞きましたけど、柏木さんは?
「あの時梢が椿に声掛けたんだってば。」
ああそうか。それじゃ柏木さんと宮田さんが先に知り合いになっていたんだ。
「あああっ。」
宮田さんが突然叫んだ。
「コイツ、最初酷かったんだぜっ。」と柏木さんを非難した。
「ある日いきなりアタシの前来て「ねえ尻尾見せてよ。」とか。」
「でも杏ちゃんだって「お前こそケツから糸出るのかよ。」とか言ったじゃん。」
「言ってねぇよっ。」
え?どっち。
「だいたいその時お前が蜘蛛女だなんて知らないっつーの。」
「それにだっ。アタシは小さい時もっともっと大人しかったんだからなっ。」
そうなの?
「そうだよー。杏ちゃん小さい時なんて引っ込み思案でいつも指咥えてたよね。」
「くわえてねぇよっ。」
ええっもう何なの。どれなの。
「普通の子だったよ。照れ屋で引っ込み思案でスゲェかわいかったんだ。」
「そんな杏ちゃんをこずちゃんが悪の道に引き摺りいれたんだよねー。」
「人聞きの悪い。私は杏ちゃんの本性を引き出しただけよ。」
「すぐだよね。3人で遊ぶようになって。杏ちゃんがスカート履かなくなって言う事聞かなくなったの。」
「もうね、すぐに何かに首突っ込むようになって。」
「気付くともういなくなってたりしたよね。」
「そうそう。右に居たと思って見ると居なくて左見るとでも居ないの。」
どこ行ったの。
「不思議でしょー。」
「で、段ボールの中に突っ込んでたりするの。」
「猫丸出しじゃねぇか。」
「猫じゃん。」
「丸出しだよねー。」
「今度杏ちゃんチ行ったらアルバム見せてもらってみ。」
「うん見る価値あるよ。桃ちゃん産まれた頃の杏ちゃんなんてもう天使だから。」
「あ、ボクそれ持ってるよ。」
スマホを取り出してその写真を見せてくれた。
「なんだってそんなん持ってるんだよっ。」
「ほら。」
うわっ。カワイイなっ。まだ1歳くらいの桃ちゃんと遊ぶ宮田さんの写真。
「でっしょー。杏ちゃんクセっ毛で色も薄いから外国の女の子みたいでさー。」
「酷いんだよ。椿ちゃんこの写真見たとき杏ちゃんに「なんで?どうして?」とか言って。」
どんな意味だ。
「ホントかわいいわね。ホントどうしちゃったのよ。」
南室さんまで。
まあ実際シュワルツランツェンレイター(黒色槍騎兵艦隊)なんて呼ばれてしまうまでになるなんて
この写真を見る限り想像できない。




