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Kiss of Monster 03  作者: 奏路野仁
32/42

補完 1-2

その2人も、2度喧嘩をした。

本気で殴り合う寸前だったと2人して言った。

何故そう「しなかった」のかは、2人の間に僕がいたからだと言ってくれた。

ここで殴り合いをして傷付いてお互いが険悪になればキズナが傷付くだろうと。

恥ずかしい事を言ってくれる。

それにしてもどうして。原因は?

2人は顔を見合わせ大笑いしてから言った。

「テンムスかミソニコミか。」

は?

「アナゴベントウかヒロシマフウか。」

何を言っているんだコイツら。

「キズナさん呆れているネ。バッド喰い物の恨みはオソロシー。」

・・・で、結局どうしたの。

「両方食べた。」


2人は僕なんかよりとても日本に詳しくなった。

行く先々で歓迎された。

それは夏祭りのテレビ放映が大きかった。

噂程度でしか知らなかった場所が実際に存在し

さらに前年の秋分の日に行われた「祀り」の話を持ち出され

ヴァンパイアとライカンスロープが

神巫女を称えるように扱えば初詣の異常な人数も納得だ。

ただそれが全てではない。

元々他者をあまり信用しない連中が多く

テレビも見ていないとか噂なんて知らない。となれば

それなりの騒動に巻き込まれたり、

自ら騒動を巻き起こしたりもある。と告白した。

もしかしたらいずれそのうち語られるかもしれないが、それは2人の冒険譚。


とは言っても1つだけ、僕の印象に残ってしかも僕も巻き込まれかねない話をしよう。


2人の騒動の多くはルーの女性絡みがその原因にある。

この際だから暴露してしまうが、ルーはクラス(いや学校中)の数名(もしくは二桁)の女子と

それなりの関係を持っていた。多くは語るまいが、つまり当たり前の行動にも思える。

旅先のちょっとしたロマンス程度は頻繁と言ってもいいだろう。

「ミーだけ泊まっていくからユー先帰るねー。」

何度言われた事か、とエリクは笑った。

1度だけ「一夜の相手」どころか、この地に留まって彼女と暮らす。と言い出した時はさすがに慌てたようだ。

そうなっていたらそれはそれで面白かったかも。と僕は笑ったが

当のエリクは彼がどの程度本気なのか全く掴めず、

本気なら何とかしてあげないと。と、彼も本気で考えたらしい。

その時はそれを見たルーがエリクを指して

「この人がとても慌ててミーの事お世話様してくれるから一緒に帰らないと。」。

とその女性に言ったそうだ

行く先は事前にエリクが調べる。乗り換えや乗継が大変な事もあるが

「困ったガイジンのフリ」をしながら声を掛けると大抵は親切に教えてくれるそうだ。

手口(と言っては失礼だが)は「学生の頃知り合いだったトモダチに会いに行く」と言うと

殆どの人は感心して、しかも2人の人当りの良さから相手は警戒心を薄めてくれる。

今回もそうやって辿り着き、情報を送った「継ぐ者」と出会う事となった。

今回の話も女性絡みだが、趣はかなり異なる。

待っていたのは小さな女の子(彼らからすれば「小さな」だが実際は中学1年生)だった。

待ち合わせはネットカフェ。彼女は1人だった。

「彼女はキズナだった。」

とエリクが説明した。

彼女は転校先で迫害イジメ)を受け続けた。

父親は、少女と、妻と息子が1人。家族を養う稼ぎのある職を手放す事など出来ない。

その父親も、彼女には2人目の父親だった。我儘なんて言えない。ここが引っ越し先なのだから。

中学入学から3ヶ月程経つがイジメは続けられている。そして学校に行かなくなった。

この土地には他に「継ぐ者」がいなかった。彼女の理解者は母親1人だけだった。

彼女はセンドゥに会った。

彼がどうやって彼女を見つけ出したかは不明だが

とにかく出会い、そして彼女は彼に惹かれた。

1人で何か大きな事をしようとしている。

迫害を受けた過去に傷付き、必死で戦っている。

彼女のその今までの全ての不幸は、その「相手の思考の断片が映像として浮かぶ」事にあった。

勿論、意識して使わなければそれは使われない。

だが幼い頃、その頃のトモダチの前でそれを使ってしまった。

彼女はトモダチを作りたくて、自分を知って欲しくてそうしてしまった。

彼女は恐れられ、気味悪がられ、やがて敵とみなされた。

イシメや無視に耐え、母親はそれでも庇ってくれた。

しかし彼女の弟が母を奪った。

彼女は自分は「要らない子」だと思い込んでしまった。

それ以降、母親が少女に何を言っても、何をしても

それがどんな内容であれ「心の無いただの言い訳」としか感じられなくなった。


センドウに対する第一印象は他の誰とも違わなかった。

「薄気味悪い。」

ヒョロとしてまだ学生のようなのにスーツ姿で。目がギラギラしているようでとても冷たくて。

薄らと微笑を浮かべているその表情は何を考えているのかまるで掴めない。

(だからこそ彼女はその能力を使ってしまったのだろう)

そして彼女は彼に惹かれるのだが、同時に彼が彼女に興味を抱いていない事も知る。

直接「役に立たない。」と言われたそうだ。

今なら、全て終わった今なら彼がその子にそう言った本当の理由は判る。

だが彼女はどう思っただろう。

彼女には居場所が無い。彼に拠り所を求めた。彼に救いを求めていた。

自分の気持ちを判ってくれるであろうセンドゥに、未来すら託すつもりでいた。

だが彼は彼女を見捨てた。

彼女にはもう何も無かった。少なくとも彼女自身はそう思った。

彼女がエリクとルーにセンドゥの情報を教えたのはただの腹いせのつもりだったと言った。

そしてとても真摯に話を聞いてくれるエリクと、陽気に接してくれるルーに好意を抱き

「私を連れて行って。貴方達の町へ。」

「おう。それいい考えねー。」

「いや。ダメだ。」

「どうしてー。」

「彼女の親が心配する。」

「どうせ私は捨てられた。だから」




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