補完 1-1
補完 1
エリクとルーの2人が旅をしたのは大きく二つの期間に分けられる。
高校一年の2学期と、高校二年の4月から翌3月まで。
前半部分は「ツマラナイ」と話を渋っていた。
そもそも、ルーにとってセンドゥは全くの他者。無関係な存在だ。
ただ彼は、元々の留学目的が
「日本文化を堪能する」
なので、エリクの
「旅費宿泊費は全額負担するから。」
の協力要請に快く応じただけだった。
2年生の4月に再会した2人は、週末や連休の多くはセンドゥの足取りを追った。
2人は柏木梢を介してSNS等駆使してセンドゥの目撃情報を集める。
同時に彼と対峙しても刺激しないよう注意を促し、
彼が危険な思想の持ち主で協力を仰いでくるだろうが
決して彼に協力したり、そのフリをする事も無いよう要請していた。
半年後、彼女が留学する前にはその情報網は全て引き継いでいたので
彼女は何の懸念も無く2人に送り出されていた。
余談になるが、柏木梢が留学を決めた最大の理由は、
エリクとルーの存在と、彼らの依頼によって広がった交流。
そしてそこから海外の「継ぐ者」との繋がりを築く事に発展したからだと帰国後教えてくれた。
彼女はそこでもSNSを駆使し、小さな世界ではあるが確かな繋がりを作り現在も交流を続けている。
「今どこそこにセンドゥが居る」と連絡が入る。その週末その地に向かう。
当然本人は既にその土地から離れているが、2人はそれを続けた。
夏休みに入るとその目撃情報は増大する。
その殆どが学生なのはある意味当然だろう。
ルーは観光目的で大喜びでエリクと行動を共にする。
実は、サーラが9月に留学したのは
エリクが夏休みに帰国しなかったからだ。
「国にいるよう言ったが聞いてくれなかった。」
と嘆いていた。
「薄気味悪い奴だった。」
「美味しい話があると持ち掛けられた。」
等、実際に接触した「継ぐ者」達からの証言もいくつか手に入れた。そして
「日本中に居る自分達のような存在を集めている。」
「そしていすれこの国から君達を救ってみせる。」
と、まるで全ての「継ぐ者」達が差別や迫害を被ったかのような言い方だったと同じ事を言った。
その内の数人は「きっと彼はそうだったのだろう。」と彼に憐れみを感じ
一晩泊めて話を聞こうとしたり、食事を振る舞いもてなそうとさえしたと言う。
だがセンドゥは常に彼らを見下していた。多分そうする事しか出来なかった。
結局彼は交流する事なく、いつも「後悔するぞ」と捨て台詞を置き去る。
元々社交界でそうであったように、エリクは誰に対しても礼儀正しく接した。
ルーは相手が誰であろうと遠慮なく無邪気に接した。
この2人が一緒にいる事で大抵の相手は2人を同時に信頼していた。
相手の警戒心を解く事に関して、エリクはルーを認め、
相手から適切な情報を仕入れる手際に関してはルーかエリクを称えた。
具体的には、エリクが自分の無茶を窘めたり、寛容したり、
その場面で適切に対処している事にやがて気付く。
そして、そうするのは「全てはキズナのため。」だと言った。
彼は自分がエリクにそうされている事も全てが
実はボスのためなのだと言われ
その思想や思慮深さにとても感動し感銘し、
「私は細っちぃヴァンパイアさんを尊敬します。」
とまで言った。
それに対しエリクは
「ボクは何でも全てを受け入れられるキミの心の広さを尊敬する。」
と返し、互いの信頼関係が深まった。
ルーが僕をボスと呼び何かと助けてくれるのは、このエリクに対する尊敬があるからだろう。
その上体育祭での一件を他の皆が
「キズナが命をかけて助けた。」
と大袈裟に吹き込んだので、以降本当に僕を崇めるようにさえなってしまった。
高貴な吸血鬼がどうしてこんな人の子の為に?
神の使い達がどうしてこんな人の子と親しくしている?
仔猫ちゃんや雪の女王はどうしてこの人の子を慕う?
これらの疑問が全て
「何となく判ったよ。」
と言った。




