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布団2組を床に敷いてその上に座り込んでのクリスマス。
当然小室絢が自分のベッドで寝て僕と宮田杏がそれぞれ布団に入る。
と思っていた。が、
「オマエら2人で寝かせたら人の部屋で何しでかすか判らん。」
小室母の持って来たシャンパンと、ちよっとしたツマミをチビチビしながらそんな話をしていると
日付が替り12月25日になった。
「とりあえずメリークリスマしゅ。」
しゅ?
「おうメリーさんメリーさん。」
「ヤギじゃねぇよっ」
「羊だじょ。」
「旗坊かっ。」
酔っぱらい2人がマトモ(?)な会話らしきをしたのはこの辺りまでで、
お互いが好きな事を好きなように無理問答。
そのうち宮田杏がゴロゴロ言い出して僕の膝の上に頭を乗せて丸くなり
小室絢はそれを見て僕の胸倉を掴んで勢い余って押し倒されてしまった。
「なんだよー。杏ばっかりー。」
な、泣いているのか?
「お前には橘結って相手がちゃんといるだろうがおうっ。」
「挙句に綴とか梢にまで手ェ出しやがって。」
出してませんっ
「私の事嫌いだからってそんなん見せ付けなくてもいいだろー。」
嫌いって、いつそんな事言いました。
「嫌ってるだろー。私なんかこんなんだし。王子とか言うしー。」
いや僕は王子だなんて一言も
「やっぱりキズナも私の事女の子として見てないんだろ。」
そんな事無いですよ。何処からどう見ても女の子じゃないですか。
縁日の時に着ていた浴衣似合ってましたよ。あれだって皆褒めてたじゃないですか。
「ホントに似合ってた?」
はい。とても。
「じゃあちゃんと褒めて。頭ナデナデしながら。褒めて。」
ええ?あっはい。えっと、浴衣姿とても似合ってましたよ。可愛かった。皆見惚れていたんだから。
「えへへー」
えへへ?
「キズナが初めてだったんだよ。私の事をちゃんと女の子って言ってくれた男の子って。」
「それまでずっと男女だとかお兄さんとか王子とか。」
ああ小学生の癖だ。カワイイ女子や好きな女子を揄アレ。彼女はそれをずっと悩んでいたんだ。
ところで僕はいつ彼女にそんな事を言ったのだろうか。
「私がキズナの事守ってやるって言ったら、君は女の子だから俺が守るって。」
言ったか?そんな事言ったのか?いつ?
「キズナは私の事女の子だと思ってくれてるんだよね?」
彼女は僕の顔の両脇で体を支えながらかなり近付いて問い詰める。
僕はずっと頭を撫でながら、宥めるように言った。
当たり前じゃないですか。僕は小室さんの事、ずっと素敵でカワイイ女の子だと思ってましたよ。
「それじゃ私の事嫌いじゃないの?」
はい。嫌いなんかじゃありません。
「じゃあ、好き?」
好きですよ。小室さんの事も皆と
「じゃあキスして。」
はい?
「杏とか綴には出来て私には出来ないって。やっぱり私の事嫌いなんだろー。」
そんなんじゃ。それにあの二人には無理矢理
んっ
「んむ。ぷはっ。}
離れると同時に彼女は僕に覆いかぶさったままどうやら眠ってしまった。
僕のお腹を枕にしている宮田杏。
僕の首に巻き付いて「袈裟固」をする小室絢。
ちょっと、コレ、動けないんだけど。
と、静かにドアが開く。
小室母。
チラっと目が合う。
「ちょっと今ドスンて音がしたけどホントに押し倒された?」
は、はい。
「じゃあごゆっくり。」
いやいやいやいや。ちょっと助けてもらえませんか。
2人を引き離すのを手伝ってもらい何とか解放され、小室母にお礼と就寝の挨拶を済ませ
さて僕も寝ようとしたのだが何処で?
まさか小室絢のベッドを使うわけにいかないだろうし。
でもこのままじゃ寒い。ええっと。
空いているのは2人の間のみ。
掛布団を少しずつ分けてもらって、下は敷布団の間の隙間に沈むのは仕方ない。
寒い。
朝方、先ず小室絢が目覚め、布団の隙間で掛布団も半分掛かっていないような僕を見兼ねて
「ちょっとホラこっちこい。」
と、ようやく布団の中に入れてもらえた。
「冷たいぞ。」
彼女も寝惚けているのだと思う。
僕の体に腕を回して体を押し付けて来た。
僕を宮田杏と間違えていたに違いない。
僕は僕で三原先生にそうされていると思い込んでいて、つい彼女の体に腕を回してしまった。
僕が目を覚ましたのは宮田杏に後ろから髪の毛を掴まれたからだ。
「にゃにをしている。」
にゃにって?
状況が全く判っていない僕を察した宮田杏は僕の体を無理やり仰向けにして
布団の中に潜り込み胸の上に頭を乗せた。
「お前は最高の枕だ。」
小室家も猫飼っていたのか。
とか思ったのは覚えている。