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Kiss of Monster 03  作者: 奏路野仁
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115

翌日、朝から栄椿がニヤニヤしながら僕の席に来る。

「聞いたぞ。」

はい?

「あーーっダメっちょっと。」

サーラが彼女を止める。

何なんだ?

「大丈夫だよ言わないから。」

「チョット焼き付けるだけだから。」

焼き?何?

栄椿はそのままエリクの席に駆ける。サーラも慌てて後を追う。

栄椿が何か言う前にサーラが多分母国語でエリクに言い訳らしく捲し立てた。

エリクの顔が赤くなった。何だ?そう言えば昨日も見たなあんな顔。

サーラは必至に謝っている。珍しい光景だ。

「心配するな誰にも言ったりしないから。そういう事じゃなくてさ。」

と何やら栄椿はエリクと交渉している。

気にはなるが僕の席からでは詳しくは聞こえない。

「せめてボクが帰国してからにしてくれないか。」

「うーん。まあイイだろ。ってもサーラちゃんには送り付けるから。」

「ホントよ。約束よ。」

「サーラまで・・・」

栄椿はニヤニヤしながら僕を眺める。

「ゴメンね。本当に何でも無いから気にしないでね。」

サーラは僕に謝りながら栄椿の背中を押して教室から追い出す。

「何なの?」と

騒動に南室綴が聞くのだが

いやそれが何の事か。フとエリクを見ると2人を見送っていた彼と目が合う。

エリクは慌てて顔をそむけた。

何なんだ。

昼休みに三原先生のいる保健室に行って昨日の報告をした。

お蔭さまで何とか許してもらえたと思います。

「うん。綴から連絡来たよ。良かったな。」

「ただ私の聞いた話だとお前が皆を許したって事になってるけど。」

まあお互いして謝り倒してました。

それでその、

「うん?」

いろいろと、あの、

ありがとう。お姉ちゃん。

「うわ。」

うわ?

「何だよそれ。お前何処か行っちゃうのか?」

はい?

「今までありがとうみたいな挨拶するなよ。何だよその吹っ切れたような笑顔。やめろよっ。」

何を言ってるんですか?

「何処にも行かないんだろ?あと1年は居るんだろ?」

え?はい。留年しなければあと1年は。

「あ、留年か。そうすりゃ2年でも3年でも」

いヤですよ。

「だよなー。」

彼女はいつものように僕の頭を撫でる。

何度、この仕草に癒されてきただろう。何度救われたのだろう。

僕は彼女に抱き付きたい衝動に駆られ、そうしてしまった。

「うわっ」

好きです。大好きです。

「え、ええ?いや、あのあれだぞ。」

これからもお姉ちゃんて呼んでいいですか?

「へ?あ、ああ。うん。」

「そうだな。私もキズナが好きだよ。大好きだ。」

物凄い勢いで保健室の扉が開く。壊れるかと思ったくらいだ。

「その悪魔から離れろーっ」

「いくら紹実ちゃんでもやっていい事と悪い事があるわよ。」

「ち、違うバカっ。こ、これはそういうんじゃ。」

「な、な、なんで真っ赤になって慌ててんだよっ。」

「マジなの?マジモンなの?」


3月。

別れの日は来る。僕にも、他の皆にも止められない。

終業式の前の週、シアトルの学校の都合でグンデの帰国が決まっていた。

僕とエリクは皆より先に別れの挨拶を済ませていた。

出会ってから今日までの話をしようと試みたが一晩では終わらなかった。

だから続きはまた3人で会ってから。いつかそうしようと約束した。

最後の別れ、皆で駅に行き彼を見送った。

彼のクラスメイト。それ以外にも親しい者は特別に見送りを許可された。

彼はクラスメイト達との別れを済ませた後で、皆が見ているにも関わらず宮田杏を強めに抱き寄せた。

「楽しかった。本当に。仔猫ちゃん達のお蔭です。鍋美味しかったね。」

「おう。アタシもまあ楽しかったよ。」

僕は彼とはあの日に別れの挨拶とハグを済ませていたから今回は握手だけ。

彼は最初から笑顔で、ずっと笑顔で、最後まで笑顔だった。

太陽のような奴だった。眩しくて、僕は結局最後まで彼を羨ましいと思い続けただけで

そして彼も僕を羨み、ずっと不思議な人の子として認識していた。

教師に挨拶して、最後にホームステイ先の家族と抱き合って

彼は帰った。

電車を見送って、特別に教室から出してもらった僕達は揃って学校に戻る。

「キズナっ。」

はい?うわっ

宮田さんが突然強めに僕に抱き付いてきた。

「ちょっと何やってるのよ。皆見てるでしょ。」

「リセットだっ。」

リセットって何だ?

「全く、お前も一緒に付いて行けば清々したってのに。」

「ああ?アタシはずっとキズナ一筋だぞ。うちで鍋食わせてやったのだってただの親切だ。」

「大体アイツデカイだけで繊細さの欠片も無いっ。」

「まあ確かに陽気で結構イイ奴だったしそこそこ男前だったけどな。」

「うわっ惚れかけてたなお前。」

「キズナ居なかったらヤバかったんじゃない?」

勿体無い。僕なんかよりどれだけイイ奴なのか。

「イヤダメだ。犬語は喋れん。」

気付くと僕は彼女の頭を撫でていた。

リセットとか言っているけど、寂しいだけだ。

だから皆もそれ以上何も言わなかった。




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