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小室絢の仕訳も終わり、他の皆が受け取った数を報告し合って
今年のバレンタインはこれにて終了。
の筈だけど。
「そう言えばサーラちゃんはお兄さんにチョコ渡したの?」
「だから私達はそんな事しないって。友達の日なんだから。」
「あ、そうか、そうよね。何言ってるんだろ。」
「あ、でも杏ちゃんは弟にもあげるんでしょ?」
「うあ?まあな。まあな。アイツ彼女とかまだいないし。」
突然サーラが1人笑いだす。
「なにやってるのよもうっ。」
「アナタ達キズナに話すことがあるから態々呼んでおいていつまでもどうでもイイ話ばかり。」
「これが日本人女性の「オクユカシサ」とか言うやつ?」
「まったく普段あんなにガツガツしてるくせに。」
「人を肉食獣みたいに言わないでちょうだい。」
「そうだぞ。確かにここに一匹獣はいるけど。」
「にゃにおうっ。」
「野獣ってより珍獣だけどな。」
「黙れ壊れたダンプカー。」
「ハイハイ。そこまで。ホラ綴。アナタまでそんな事じゃダメじゃない。」
「ユイも度胸はあるくせにキズナの事になると隠れちゃうし。」
「ホラ、杏でも椿でも。絢でもいいから。」
全員で顔を見合わせている。それでも誰も何も言わない。
「もう。だらしない。」
サーラは何の事か全く判っていない僕の隣に座り、僕の手を取った。
「皆を許してあけでキズナ。」
え?
「皆とても後悔しているの。
サーラは皆に懐柔されたのでも僕を軽蔑したのでも無かった。
彼女はずっと皆を説得してくれていた。
あの日僕を怒った皆を叱ってくれた。
相当キツイ言い方をされた。と後で皆が教えてくれた。
キズナが勝手な事をした事に対して怒るのは判る。
だがどうしてそうしたのか考えろ。誰の為なのか。
どうして感謝の言葉が掛けられない。
アナタ達の為に傷付いて帰って来た彼をどうして慰めない。
キズナが欲しい言葉をアナタ達は判っていない。等々。
そのサーラの言葉に落ち込み、またそれをサーラが慰めた。
そしてサーラが「そろそろバレンタインでしょ。」と話し
「フィンランドでは友情の日って言うのよ。」と教えた。
「皆のトモダチのキズナなんでしょ。」
それでも最初は僕に贈りモノをするのは何か違うと言った。
でもどうせなら恨み辛みを込めたチョコでも作ってやろうかと話に流れ
もしくは引くくらいら愛情たっぷり、豪華なチョコくれてやろうか。
でも自分達も食べたいから普通に美味しいチョコにしようって。
「やっぱり皆キズナが大好きなのよ。」
とサーラが教えてくれた。
「先ず私があげる。皆にも。ホラ。」
サルミアッキ。世界一不味い飴らしい。それをチョコに溶かしてある。
まずっ
「ホント不味いわね。何でこれで友情深められるの。」
「面白そうだから取り寄せたの。」
「仲良く無い人にこんな不味い物渡すほど悪趣味じゃないわ。」
トモダチだからこそ笑ってくれる。て意味なのだろうか。
南室綴がサーラと替わって僕の手を取って
「怒ったりして、ゴメンね。」
目を潤ませながら言うので危うく僕も泣いてしまうそうになった。
南室綴の脇に小室絢が座り、その手を上に乗せながら言った。
「キズナがどうしてそうしたのか知っていたのにな。」
栄椿も同じように手を乗せた。彼女はもう泣いている。
「でもやっぱり心配かけたりするからだよー。」
宮田杏も手を乗せて文句を垂れる
「ホントだよっ勝手な事しやがって。大体最初からアタ」
「杏ちゃん。」と南室さんに窘められる。
「う。すまにゃい。ゴメンなキズナ。」
「私達が負うはずだった傷を、全部キズナ君が負ってしまった。」
橘結が最後に手を乗せて言った。
でも僕はそれで良かったと思っている。
皆が傷付いたら僕は立ち直れない。
宮田さんや栄さん達が怪我をしてまで僕を助けてくれた時に決めたんだ。
僕はもう僕のトモダチを傷付けたりし
「あーーーっ絶交なんてしないでーっ。」
栄椿が抱き付いて押し倒されてしまった。
皆の手が繋がっていたので雪崩式に僕の上に皆が覆いかぶさった。
僕の脇でちょっと涙ぐんていたサーラまで巻き込んで僕と彼女の2人が皆の下敷きにされた。
大丈夫?
「うん。うん。大丈夫。良かったねキズナ。」
ありがとうサーラ。
皆が叫びながら「どけ」「オマエこそ」を繰り返す中、サーラは初めて僕の頭を撫でていた。




