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「いいのよそんなゴチャゴチャ考えなくて。絢ちゃんがキズナに甘えれば済むのよ。」
「はあ?」
南室綴は何を言い出すか。
「そんな事よりキズナもチョコ受け取ってたわよね。誰?」
そんな事で済ませてしまうこの強制力。背筋に冷たい何かが走った。
誰って、名前聞かなかったんですよ。2人と(宮田杏と栄椿)と同じクラスでしょ?
「そうだよー。普通にイイ子だよね?」
「そうな。あまり話はした事無いけど悪い印象は無いよ。」
「かわいい子だったわね。」
「まあボクほどじゃないけどねー」
「そんな事言って動揺しまくってたろ。」
「そりゃあするよ。キズナも人の子が好きなのかなって。」
なんですその人の子って。ああ。そうか。
もうあたりまえ過ぎてすっかり忘れていた。
この際だから言っておきますけど僕栄さんが雪女とか意識した事なんて無いですからね。
「じゃあボクの事なんだと思ってるの?」
ちょっとイタ、マニアックな趣味のカワイイ女子。
「イタイって言おうとしたなお前。キズナのくせに生意気だぞ。カワイイって後から付け足しても許さん。」
「で?」
はい?
ああ、私の事知らないでしょうからお友達になってくださいって渡されました。
「お友達ね?」
え?ええ。そうです。
「じゃあ許す。」
「ボクも許してやろう。」
「聞き耳立ててだけと聞こえなかったんで心配したよ。」
許すとか聞き耳とか。
「それにしてもやっとキズナにも普通の子のお友達できたんだなー。」
「これからデートとかするようになるんかな。」
自分達が普通の子ではない自覚はあるのか。
デートとか付き合ってからでしょ。友達でしかも僕その人の名前も知らないのに。
「カードとか無いの?」
いやまだ開けて無いので。
「ちょっとどんなの貰ったのよ。」
取り上げて吟味。
「コレって自分で包装したんじゃ無いわね。」
包み紙に賞味期限や製造元やらのシールが貼ってあるから判るそうだ。
「開けるわよ。」
返事をする前に開けている。
市販の品。やはりカードは無かった。
「ま、まあ友達だからな。気を落とすなよ。な?」
宮田杏は何に対して励まそうとしてくれている?しかもそんなにニコニコしながら。
皆はこの時点で既におかしいと思っていたようだ。
口にしなかったのは僕をガッカリさせたくなかったからだと事実の判明を打ち明けた際に教えてくれた。
ガッカリとごろか、本当は安心していた。それこそオカシナ話なのだが
今更「普通の子」とお友達になると言われても何をどうしていいのか判らない。
目の前の少女達の何が「普通ではない」のだろう。
産まれや生い立ち、その存在そのものが特異であったとしても
それは「異なる」だけで非難されたり軽蔑されたり差別される云われなんて無い。
トモダチ同士で集まってくだらないお喋りをして
他の誰かと同じように笑い、泣き、傷付いてしまう。
それすらない僕こそ、イチバン「普通」とは程遠い。
小室絢の受け取った贈り物の数々を仕訳しながら
僕の「普通の人」の友達について皆が議論討論を重ねている。
僕は傍観者としてそれを見て聞いているだけ。
「キズナの友達なら私達ともお友達。」で話はまとまるのだが
南室綴が
「結論は急がなくていいわ。」
と、この場でのその話題を切り捨てた。
それから他の皆もそれぞれ自慢する。
「今回ボクもたくさん貰ったんだよー。」
「とは言っても交換だけどな。」
「フィンランドではこれが当たり前の光景よ。チョコに偏っている気はするけどね。」
日本ではホワイトデーなんて日があるけど
皆はそれが面倒でその日に交換として渡してしまう。
小室絢も「不意の贈り物」を予想し相当数の「お返し」を用意した。
「あと2人来たら打ち止めだった。」
「ワタシは多くない?て言ったら姫がこれくらい必要よって。」
「カード入ってないと誰から貰ったかなんて判らないから。」
「そーゆー子はお返し何て望んで無いと思うけど。」
とは言ってもただ受け取るだけなのも気が引けるのだろう。
「名簿作っておこうかって話までしたのよね。」
「葬式とか結婚式で名前書いてもらうじゃん。あれ。」
「綴ちゃんが「私受付するわよ。」て言い出して。」
「ホント人の厄介事になると楽しそうだよな。」
「何言ってるの。他人事だからとかじゃないわよ。絢ちゃんの為じゃない。」
他人事だ。
「他人事だな。」
「他人事よねぇ。」




