089
2人を送り届け小室家に到着するとさすがに身体が冷え切った。
小室母がココアを入れてくれ
「飲んだら順番にお風呂入って。」
「杏は私と一緒でいいよな。キズナは後でな。」
どうぞごゆっくり。
2人が入浴中、僕は小室母から小室絢と宮田杏の関係を聞いていた。。
「幼馴染って意味なら綴ちゃんより杏ちゃんとの付き合いのが古いわよ。」
「よくまあ喧嘩して泣かしたり泣かされたりしたわ。」
「でも次の日には仲直りして、また次の日に喧嘩して。」
聞いた話を簡単に整理すると、先ず栄椿なり宮田杏がイジメを受ける。
2人が揃って仕返しをする。
仕返し以上に発展すると小室絢がそれを止める。これが日常。
それがそのうち宮田杏と小室絢との一騎打ちになり
残りの皆がそれを煽ったり巻き込まれたり。
いくつかの武勇伝を聞いていると2人が上がって来た。随分早いような気もしたが
時計を見ると一時間以上経っていた。
小室家にはお風呂が二つある。
普段は家庭用の(と言っても大き目だが)お風呂。
そして道場の子供達がまとめて入れるように大きなお風呂場も隣接されていた。
今回は家庭用のお風呂。僕が最後なのを確認して残り湯で洗濯をするか小室母に尋ねると
さすがに呆れられたように笑われた。
「そうね。使わないからお願いね。」
お風呂終わりで浴槽やら洗ってから小室絢の部屋へ。
小室絢は椅子に座り、宮田杏は床に正座している。まるで説教を受けているような。
どうかしたの?
「どうかしたのはお前らだろうが。」
と小室絢に凄まれた。
「すまにゃい。」
宮田杏は顔を上げ僕に謝った。
お風呂でくつろいで油断したらしい。
「つい自慢してしまった。」
「裏切り行為だよな。」
「うっ。でもでもアレはプレゼントだからっ。数には入れないからっ。」
「はあ。」
と呆れる小室絢。怒ってはいないようだ。
「いいよもう。」
「へ?」
「キズナ。お前綴とも、その。したんだろ?」
ふえ?
「にゃっにゃにっ?」
「綴に謝られたよ。いや謝られてはいないか。説明は聞いた。」
「なっなっ何だ。どういう事だっ」
どうって、そのえーっと小室さんは何て聞いたんです?
「保健室で無理矢理奪ったって。」
「なっなっ」
「トモダチとしての証明だから数に入れないでって言ったとか。」
はい。言われました。
「2人で似たような事しやがって。」
「なんだよーアタシで三番目なんじゃねぇかー。」
え?
「え?」
「あっ」
「な、なんだ。綴とあと誰だよっ。」
「あーもういいや。コイツ梢としてるよっ。」
「なっ何ッ。梢って、留学前か?いつだ。いつだよ。」
「出発の前々日?コイツ呼び出して奪ったんだと。」
「アイツも記念品だから数に入れるなって言ってたんだろ?」
う。はい。
「全く揃いも揃って。」
「お前もちょっと座れ。」
いつの間にか足を崩している宮田杏の隣に正座した。
「で、そのー。えーっと。キ、キスだけ、か?」
うえ、はい。勿論であります。
「オ、オマエからしたのか?」
違うであります。
「つーか簡単に奪われてんじゃねぇよっ。」
すっすみません。
「で、杏。お前もその、したのはキスだけか?」
「勿論であります王子。」
「誰が王子だ。」
「クリスマスが悪いんです王子。」
「うるせえ王子言うなっ。手打ちにするぞこの野郎。」
年末だからですか。年越し蕎麦を手打ちとはオツですね。
「落語みてえな事言ってんなっ。」
良く知ってますね。蕎麦の殿様でしたっけ。
「何だそれ。」
「落語であるんだよ。」
王子、じゃない殿さまがお蕎麦を作るんだけど
素人で水加減も判らないでベチャベチャだわ
蕎麦打ちの道具が無いから馬屋の盥やら屋敷の戸やら使って
手垢やら汗やら付きまくってドロドロのお蕎麦だかなんだか判らないけど
殿さまが作った物だから家臣は食べないといけない。
「食べないと手打ちだってんで手打ち蕎麦と言うとか言わないとか。」
「おおーっ」
と感心する宮田杏。誰の話なのか覚えていない。サゲも違うかも知れない。まあいいか。
それからいつの間にか話題が逸れて関係ない話に流れてくれた。
もうそろそろ日付が代わろうとしていると小室母が
「ホラ、そろそろクリスマスよ。」
とシャンパンを持って来た。
「これってアルコールなんじゃないの?」
「いいじゃないこんな日くらい。私もお父さんと飲んでるから邪魔しないでね。」
「ばっ」
「キズナ君。酔って2人を襲ったりしちゃダメよ。」
うわぁはい。
「ああ違った。2人共っ酔ってキズナ君を襲っちゃダメよ。」
「襲うかっ」
「え?襲わないのか?」




