106
真冬の寒空の下
僕は瓦礫の下敷きになったまま数時間意識を失っていた。
肺炎になりかけている。と言われたが深刻な状況ではなく1週間もすると退院できるらしい。
僕とセンドゥ・ロゼは崩れた瓦礫の下敷きになったのだが
それでも生きているのは、彼が僕を庇うように覆いかぶさっていたからだ。
2人が重なるように倒れていたのでお互いの体温で最悪の事態が防げた。
僕は瓦礫と寒さから彼に救われた。
三原先生と他の皆は完全に崩れた跡を見て「一瞬諦めた」と言った。
呆然としているとガタガタと音がした。
駆け寄るとセンドゥ・ロゼが壁やら天井やらの瓦礫を動かそうとしているのが見えた。
「遅いぞクソ魔女。」
彼女は我を忘れて彼に襲い掛かるところだった。
(「三原先生を怖いと思ったのは初めてだった」と皆口を揃えて言った)
「その前にコイツを何とかしてやれ。」
その下には僕がいて、彼は僕を引き摺り出すのを手伝った。
彼はその後も抵抗する事はなかった。
三原先生が「どうしてキズナを助けたの。」と尋ねた。
「彼は、彼がトモダチになってくれたから。」
「コイツはボクを救ってくれた。」
僕は意識を失った彼を担いで逃げ出そうとした。
しかし目眩と頭痛が酷くてよろけて倒れた。
殆ど同時に落下物が頭に直撃し、彼だけは助けようと覆いかぶさった。
もしかしてと、彼が蹴り飛ばした椅子に潜って難を逃れようと足掻いた。
彼が崩れ行く建物の音に目を覚ますと、自分はどうやら何かの下にいて無事だと理解する。
だがその何かから血が滴り落ちるのに気付き
彼はソファや椅子やらでバリケードを組み、さらに自分の体で僕を守ってくれた。
瀕死の僕に、彼は彼の血をほんの少し分け与えた。だから僕は助かった。
「どうかしている。どうしてボクを助けようとした。」
気絶している自分なんか無視して走れば逃げ切れただろう。
「自分で言った通りよ。あなたがキズナのトモダチだから。」
三原先生は完全に呆れたようだった。彼にではなく、僕に。
三原紹実は橘結を呼ぶ。
「コイツ診てやってくれるか?」
橘結は言われるまま躊躇いもなく彼の頭に手を乗せる。
「平気なのか?」
「何?」
「オレはオマエを引き入れようと」
「でももうそんな必要ないんでしょ?」
「必要?」
彼自身、どうしてそうしようとしたのかさえ思い出せない。
「オマエはオレが怖くないのか?」
「今はね。」
「だがオレは今すぐにでもオマエの手を取り」
「キズナ君のトモダチならそんな事しない。それより少し黙って。」
「え?あ、ああ。」
橘結が彼に何を施したのかは判らない。
「簡単に言うと、「呪い」を和らげた。てとこだ。」
と三原先生が教えてくれたがそれでも判らない。
だがこれが切っ掛けでセンドゥ・ロゼは橘結を「道具」としてではなく
尊敬であるとか感謝の対象として生涯彼女の下僕として
「ちょっと待って。イヤよ従者とか主人とか。」
「貴方の一族がどうなのか知らないけど。私にはそんなの要らない。」
「そうね。私ともトモダチになってくれるなら嬉しいかな。」
施術を終えた彼に三原先生が訪ねる。
「で、これからどうするの。」
「国に帰って、多分一族から何かしらの処罰を受けるだろう。その後はそれから考える。」
「要は何も予定が無いって事ね。」
「アナタ国何処だっけ。」
「ルーマニアだ。」
「じゃあ近いわね。」
「近い?」
「オーストリアのグラーツて町に行きなさい。そこの大学紹介してあげるから。」
「何?」
「アナタ頭良さそうだし。コイツらと同じ歳なんでしょ。入学テストまでは手配してあげるわ。」
「確か神学部とか自然科学部なんてのがあったわね。今のアナタにピッタリじゃない。」
「待て。どうしてそんな。」
「あそこの偉い人に魔女と繋がっている人がいて、私がその魔女と知り合いなのよ。」
「そうじゃない。どうしてオレに親切にする。」
「さっきお姫様が言ったでしょ。」
「アナタがキズナのトモダチだから。」
これが最後だった。その後本当に国に帰ったのか、それからオーストリアに向かうのかは知らない。
ただ彼は笑いながら、見られないように涙を拭っていたらしい。




