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Kiss of Monster 03  作者: 奏路野仁
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悪い癖の一つなのは自分でも承知している。

この頃、僕は橘結とサーラの身が心配でどうにももどかしかった。

僕は自分が何も出来ない事を承知している。

それでも心配で毎朝彼女と挨拶する度にホッとしていた。

正直に言って、何かするならとっととしろよ。と心の中で思っていた時期だ。

三原先生にもエリクとルーの行動を報告していた。

彼女は僕に「出来るだけ誰かと一緒にいるように」と言った。

「それともしばらくうちに泊まる?」と結構本気で言われた。

むしろ身の危険を感じます。

それにいつ何がどのように起こるのかも、起こすのか判らないから。

いよいよ危険だなって思ったらお願いします。と彼女を安心させた。

そしてもう一つの可能性。

センドゥ・ロゼの標的が僕だったら?

警護され手出しの難しい2人のお姫様を選ぶより。

次いで人質として利用価値の高い僕を選択する可能性は高い。

三原先生の申し出を断ったのはそれが理由

彼女を巻き込まないように。だとかそんな殊勝な意味ではない。

もっと不埒な。身勝手で我儘で無謀で無茶な決意。

僕は皆の前で、あえて全員揃っている機会を選び

橘結と大事な約束を交わした。

彼女は当然それを拒否し、僕は皆からとても怒られた。

皆が何と言おうと、どんなに怒られたって交わさなければならない。

守られる事は無いかも知れない約束。だからこそ僕ははっきり宣言した。

この約束を守ってもらえないのであれば、

僕は君達皆との縁を切る。今後何があってもどうなっても僕はもう君達とは一緒にいない。

残念だけど、僕は橘さんともそうしなければならない。

同じ学校に通って、毎日顔を合わせなければならない。でもそうする。

今ここで、この約束によって皆から怒られて、嫌われたって構わない。

僕にはそれしか出来ない。

今度こそ、僕が皆を守る。


寒い日だった。

朝から雪が舞っていた。積もるかもしれない。

僕はこの日を忘れない。

僕は痛めつけられた。

でも何とか生きている。そしてまたトモダチができた。


いつものように学校に向かった。

まだ雪は舞う程度だったが、外は空気が冷たく白かった。

家を出て、路地に入る。

いつだったかサーラに連行された路地。アレクサンドラの蛇に噛まれた路地。

僕は別にその日に限ってそんな事を考えていたわけではない。

結果としてどちらも無事だったのだし、僕にはあまり悪い想い出ではない。

その中央付近だった。

突然の吹雪。

一瞬視界が遮られる。

なんだ。

以前栄椿が「いつか私の正体を見せてあげるよ。」と言ってくれた事があった。

ちょっとした悪戯だろうか。

1歩、2歩。

おかしい。

ここはあの路地ではない。どうして僕は神社の境内にいる。

そして春の風。どうして。今何月?

鈴の音が聞こえる。

僕の脇には橘結が立っている。

ヒザが震えている。

僕は再会の日を思い出していた。

「これは神様を呼んで願いを聞いてもらうって意味と。

 鳴らした人の体を祓い清めるって意味があるの。」

僕達はあの日のように拝殿に立っている。

そして彼女は1人歩き、神楽殿に消えた。

追わないと。その中は危ないから。

足が動かない。


神楽殿の中には誰もいない。

足元に薙刀が転がった。その先には爪先が。誰のだ。

思い出しちゃダメだ。

アレは人形だったんだ。

何も恐れることなんて無い。僕は何も怖がったりしていない。

怖くないのにどうして震えている?

僕はどうしてここにいる?

僕はまた境内に立っていた。

リン リン

神楽殿から鈴の音が聞こえる。

ゆっくりと心地の良いリズムがいくつか重なっている。

小さな音と大きな音と。

引き寄せられるように神楽殿に体が向くが、足が動かない。

吐き気がする。頭がクラクラする。

中には橘結がいる。だから行かないと。

リン リン 

鈴の音がまた聞こえる。

少し前の過去ともっと前の過去とさらにもっと前の過去が混ざって現在が見えない。

今何処にいる?僕は何処にいて、何処に向かってる?

僕を待っている人がいる。僕はそこへ行く。

鈴の音が僕を導いていくれる。

誰かが僕をずっと呼んでいる。

神楽殿に行かないと。中に入らないと。

大きな熊が立ち塞がっていた。


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