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その日僕達は遅くまで話をして、翌日お昼近くにようやく起き出して
鍋の残りでうどんを食べて、
エリクとサーラは翌日からの登校準備に一足早く帰った。
僕は小室絢と台所で片付けを手伝う。
「いいのか?お前あまりアイツとゆっくり過ごせなかったんだろ?」
でも喜んでくれたから。小室さんにもとても感謝してましたよ。
「いやまあそれはそうだけど。」
「お前は、その、アイツの事好きなんだろ?」
好きですよ。小室さんだって気に入ったでしょ?
「え?ああ、まあな。この前抱き付かれた時惚れかけた。」
と笑ってくれた。
「キズナがアイツを好きになる理由もよ」
「おらぁっ」
だっ
僕はどうして宮田杏に蹴られた?
「新婚さんみてぇな空気出してんじゃねぇよっ」
はい?
「そんなんじゃねぇよ。ってかオレんちだぞ。コイツもオレんだ。」
「あ、オレって言ってる。キズナの前では言わないってい」
「うらぁっ。」
「いだっ」
「本人前に言うんじゃねぇよっ」
「うるせぇ乙女王子がっ」
「たっ。何だそりゃ。」
仲いいなぁ
「何ニヤニヤ見てやがるこの野郎。」
と同時に小突かれたので
客間で帰り支度をしている南室綴に告げ口するように報告する。
「ホント仲良しよね。」
「誰がこんな奴と」
「それと」
ぐいっと僕を引っ張り
「何度も言っているけどコレはワタシのだから。勝手に取り合わないで。」
と僕を抱き寄せて頭を撫でる。
「むぎゃー」
栄椿が叫んだ。
「も、もう我慢できん。今年はおしとやかにしてキズナに一目置かれようとしけどムリだっ」
「はやっ」
「こちとら年末年始キズナの臭い嗅げなくて悶え死ぬとこだったんだからなーっ」
と南室綴から僕を奪う。
「くんかくんか。はーイイ匂いするなー。」
と頭を撫でながら顔を寄せる。ちょっと止めて。恥ずかしい。大体鍋の匂いくらいしかしないでしょ。
うわっ
橘結がいつの間にか僕の後ろで匂いを嗅いでいる。
「ホントだ。イイ匂いする。」
ええっ
「だろ?だろー。ホラ姫ポンも。ナデナデってしてみ?もっとイイ匂いでるから。」
な、何だ。僕は柑橘類か。
「いや私はその。えっと。」
「あーあーモジモジしちゃった。」と小室絢が呆れる。
「ホント相変わらずよね。思いっきってしてみなさいよ。」と南室綴も嗾ける。
「キズナも真っ赤になって。ナニコレ。どっちらけだよなー。」
栄椿まで何を言い出すんだ。赤くなったのは2人が抱き付いてきたから
「何でこの2人になると急にラブコメになるのかな。」
と宮田杏がしみじみと言った。
「あーあ、帰るかー。」
「そーねー。もうゴチソウサマよねー。」
何なんだ一体。
新学期
昨日遅くに来日したルーと再会。
「お前ももう一日早く帰って来てたら皆と鍋できたのにな。」
「残念デーす。私も皆とナベりたかったデース。」
その週末、彼は宮田家に招待され、子供達は今度は冒険活劇の世界に誘われたそうだ。
その席で宮田杏は柏木梢からの伝言を受け取る。。
「シアトルでスパイダーガールに会って来たねー。」
僕は既にメールを受け取っていて、と言うかネットで結構マメにお互いの近況報告している。
ので本当に今更だった。
それで何だったの?
「えーと、もうすぐ帰るからそれまでにキズナさんと何もなければ私がいただく。だったよ。」
何言ってるんだと言うか何だその伝言。
とにかく3学期。
エリクとサーラ、そしてルーと過ごす最後の3ヶ月。
僕はその日が近い事を察していた。
エリクもルーも時には揃って休む日が増えた。
2人はもしかしたら核心に近付いたのかもしれない。
くれぐれも気を付けて。無茶はしないで。
彼女達も、2人の様子には少なからず異変を感じている。
僕ほど直接彼らに何かを尋ねようとはしないが
特に南室綴と小室絢は、必ず橘結と行動を共にする。
宮田杏と栄椿にはくれぐれもサーラをお願いと頼んだ。
こんな事を頼めるのは2人しかいないから。
危険な事に巻き込んでしまうかも知れないけど。
「とっくに兄に頼まれてるよ。」
「それよりお前のが心配だ。」
「そうだそうだ。ボク達が1日中ベッタリしていてやろうか?どうだ?」
「ホント緊張感の無い子達よね。」
エリクが直接動いているのであれば彼女が人質なり囮にされる場合も考えられる。
エリクの行動を制限されないためにもサーラは守らなければならない。




