099
1月5日。
僕は早速土産を持って宮田家に向かった。
サーラの事も挨拶をしないと。それからエリクに無事送り届ける。
最初に僕を頼ってきた彼女をエリクに送り届ける責任もある。
まだ時間あるから。と家に上がるよう言われたが、その前に玄関先で宮田母に
「桃達にお年玉くれたんだって?」
あ、はい。
「はいこれ。」
と、ポチ袋を差し出された。
あ、いや。そんなつもりで
「何よ。遠慮なく受け取るのが日本の風習なんでしょ。」
サーラから聞いたのか。ああはい。それじゃ遠慮なく。ありがとうございます。
「うん。」
祖母から預かったお土産を渡し、改めてサーラの事で御礼を述べると
「ホントしっかりしてるのね。今時の高校生とは思えないくらい。」
僕はずっと1人だった。1人で大人達と、多くの濁った大人達の相手もしてきた。
しっかりしなければ喰い物にされていただろう。
「まあ柚はチョット離れてるけど桃でもいいのよ。」
いいのよ?
「新年会で相当絆君の事気に入ったみたいだから。」
気に入られたと言うか、呆れられていたような。
父親は今日から仕事で部屋には残り全員が笑っていた。
柚ちゃんがすっかりサーラに懐いていて彼女の話に目をキラキラさせて喜んでいたそうだ。
フィンランドのクリスマスの話しや、スウェーデンのお城でのパーティの事、
フランスでの食事会で起きた大騒動など、お伽噺がそのまま現実としてそこに居る。
お昼前に名残惜しむように宮田家を去る。
もっとも名残惜しんでいたのは宮田家の面々だったが。
宮田母には感謝の言葉と抱擁。妹達や弟にも同じことをして2日間の感謝を述べて別れた。
サーラと駅に向かい歩きながら
彼女も宮田母から「娘達と遊んでくれてありがとう」とお年玉を受け取った事を話した。
サーラは当然「自分がお世話になっているのに受け取れません。」と拒否するが
宮田さんが昨日の橘家での話をして
「キズナに何て言われたか覚えているか?」
「そうだけど。」
「それは絆君が正しい。」と押し付けた。
「お礼はどんなものがいいの?」
彼女はどうやら日本ならではの仕来りやら風習があるのではないかと考えていた。
大丈夫。御礼を日本風にする必要は無いよ。
君の国の風習のままで。サーラが皆から日本を教わったように少しサーラの国を教えてあげるつもりで。
「・・・キズナはたまにイイ事言うのよね。」
たまにね。
以前僕の祖父母に贈ったものと同じでいいんじゃないかな。
サーラが言ったんだよ。お花を喜ばない女性はいないって。
それにおそらくあの父親はお酒好きな気がする。
「うーん。そうね。そうするわ。ユイと王子のとこも同じでいいのかな。」
問題ないよ。それより小室さんに王子って言って怒られない?
「さすがに本人の前では言わないわ。キズナは怒られたの?」
僕も言ってないよ。あまり気に入ってはいないみたいだから。
「でもそのまんま王子よね彼女。」
僕もそう思う。全くもってそう思う。
駅に着くとエリクが待っていた。彼女は駆け寄って彼に抱き付き結構長い事そうしていた。
何だかとても安心したような、とても癒されているような表情が一瞬見えた。
ようやく離れて僕と握手をして
「サーラが世話になったね。ありがとう。」
いや僕は殆ど何もしていないんだ。
「そうなのよねー。ホントはもっとキズナとゆっくりお話しするつもりだったのに。」
予想以上に忙しくなったからね。
今日はゆっくりその話をエリクにしてあげるといい。
「うん。そうする。その前にお礼の手配をしないとね。」
まあ慌てなくても大丈夫だっ
突然、思いだしたようにサーラは最後に僕に抱き付いて
「とても楽しかった。全部全部キズナのお蔭よ。ありがとう。大好き。」
そう言って頬にキスをしてくれた。
2人の乗る車を見送って、ようやく僕のお正月も終わった気がした。
とにかく慌ただしかった。僕がそう思うくらいだからサーラには怒涛の1週間だっただろう。
サーラを送り届けたら戻って来いと言われたのでそのまま宮田家に向かった。
宮田さんも一緒に送れば良いのにと言ったら
「最後くらい気を使ってやるから。チューくらいしてこい。」と送り出されていた。
戻ると案の定その事を聞かれるが何もしていないと答えると
「チューくらいなら許したのに。」と桃ちゃんからも言われた。
それで、何か話があるの?
「話とか用事とか無いとうち来ないのか?」
いやそういうつもりじゃ
「冗談だよ。あのさ、サーラの来た夜からうちおでんだったんだけどさ」
うん。いいなあおでん。
「サーラと兄が日本の鍋した事無いみたいでさ、近いうちに皆で鍋しね?」
ああうん。いいね。そうか。場所だね。
「うん。椿も今日帰ってくるかからさ、全員ってなると結構な人数じゃん。」
えーとエリクとサーラ。宮田さんに栄さん。橘さんに南室さんに小室さん。
「念のために言うけどお前も参加するんだぞ。」
あ、はい(本気で忘れてた)。総勢8人か。結構な人数ですね。
そうなると橘家か小室家に限定されてしまう。
始業式は明後日の7日。明日の夜ではその日のうちに解散しなければならない。
通常の土日か。
小室さんにメールしてみる。今日予定なければちょっと行って話してみるよ。
「いやアタシも行くから。」
でも僕一度家に帰って祖母のお土産持って行くから
「ちょうどいいや。お前んとこのじいちゃんばあちゃんにも挨拶させろ。」
と2人で家に戻り宮田杏が「お土産ありがとうございました。」と伝えた。
「確か杏ちゃんだったわよね。かわいい名前だから覚えたの。これからも絆と仲良くしてね。」
とお年玉を渡した。
「うわっありがとうございます。何かホントのばーちゃんできたみたいで嬉しいです。」
小室家に渡すお土産と橘家南室家へのお土産も持って先ずは小室宅へ。
「やっぱイイばーちゃんだな。大事にしろよお前。」
うん。
小室絢は橘結と南室綴も呼んでくてれいて、すんなりと話が進んだ。
しかし今度の土日は道場で子供達の初稽古がある。
学校が始まって通常の土日とかで構わないだろうと話が進んだが
「いっその事今夜しないか?」と言ってくれたのは小室絢。
僕と宮田杏が小室母に確認を取る。
「勿論いいわよ。」
すみません。年末からずっとお騒がせしてしまって。
「合宿の時なんか10人以上子供達泊めて大騒ぎしてるくらいなのよ。気にしないで。」
お言葉に甘えます。ああそれとこれ、祖母から。いつも僕がお世話になっていますって。
「あらあらご丁寧に。よろしく伝えてね。」
はい。
「杏ちゃんも相変わらず優しいのねー。でもキズナ君は絢のよ。」
「いやアタシんです。優しいとか煽てても譲れません。」
「えー。お年玉奮発するわよ。」
「う。ど、どれくらい?」
交渉が始まった。




