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あたしは死には屈しない!

作者:ひなた

「このマッチをすべて売るまで帰ってくるんじゃあないぞ。わかったな?」

意識が朦朧としていて、なにが起こっていたのかわからない。

あたし、どうしていたんだったかしら。
塾の帰り、歩いて家を目指していて、それで……

そこから先がどうしても思い出せないの。

やっと意識がはっきりとしてきたと思えば、目の前には知らないおじさんがいるし、あたしの格好から考えても、おじさんの言葉から考えても、これって

「マッチ売りの少女じゃないの」

どうして、どうしてあたしがマッチ売りの少女に?

演劇かなにか?

いや、そんな覚えはないし、カメラも客席も見当たらなくって、スタッフさんだっていないんだわ。
それでだれに見せる演劇だっていうのよ。

ドッキリってこと?

いや、芸能人とかじゃないんだから、急にドッキリを食らう意味がわからないわ。

それにあたし、少し前の記憶が曖昧なのよ?
番組企画としては考えられないわね。

だったらなに? なんだっていうの?

「ブツブツ言ってないで、早く行ってこい。ほら早く!」

急かされて、やむなく寒い冬の夜、外へ出る。

降り出す雪。
それはとってもきれいで、物語の主人公の結末を、そのままあたしが送ることを、示唆しているように見えた。

どうせなら、ハッピーエンドの物語だったらよかったのに。

「マッチ、マッチはいりませんか?」

これで売れないことくらい、わかっている。
都合よく物語が変わっているだなんて、そんなのありえないわよね。

異なるエンディングへ進む方法を、どうにか探さないと……。

とりあえず、マッチを擦るのはだめね。
暖かい家が見えて、それで、そのままあたしは死んじゃうんだわ。

そんなのっていや。ごめんだわ。

マッチを擦らないでいたら、寒さのせいで、もっと早くに死んじゃいそうだけど。
だけど、物語にあったとおりの行動が、いけないってことはわかっているの。

正解がわからない。
間違いがわかっていても、正解がわからないんだもの。

これじゃあ物語を知っていたって、なんの意味もないわ。

「マッチ。だれか、マッチを買ってくれませんか?」

無意味とは知りつつも、希望を込めて言葉を紡ぐ。
だれも振り向いてもくれない。

わかっていても、辛いものね……。

逆に、マッチ一本火事の元、なんちゃってね。

「だれかマッチを買って! このマッチが売れなくっちゃ、あたし、死んでしまうのよ。ねえ、どなたかマッチはいりませんか?」

同情を誘おうとする作戦は、総スルーされておしまい。

それでいいなら、マッチ売りの少女は幸せになれたわよね。

「どなたかあたしを買いませんか?」

 初めて、振り向いてくれる人がいた。

 特に深い意味があったわけじゃないわ。噛んだだけ。
 だけど一人でも振り向いてくれたのはいいことだわ。

 一つ残念なことがあるとすれば、あたしが売るのはマッチだけってことね。

 ごめんなさい。あたしは売り物じゃないの。
 あたしみたいな美少女じゃ、すぐに売れるに決まってるわよね。

 ……。…………。

 自分で恥ずかしくなるようなことは、思うもんじゃないわね。

「マッチ。どなたかー、マッチはいりませんかー?」

 今時、マッチなんてだれも使わないわよね。

 マッチ売りの少女がいつの話かわからないから、今時って言うのが、いつのことなのかわからないのだけどね。

 ライターはあるのかしら?
 電気ってあるの? だったら、火って使う機会ないわよね。

 あっでもIHヒーターは確実にないわよね。
 そもそもうちはオール電化だし、よくわかんないの。

 マッチっていつ使うってのよ!

「みなさん、マッチとは何かご存知ですか? この寒い日に、マッチを使うのは、ただ火が灯るだけにしても、それ以上の価値があるってものなのよ。楽園だって見えるわ」

 何を口走っているのかとは思うけれど、注目さえされたらいいのよ。
 そう。ただそれだけでいいの。

「寒いでしょ。試しにほら、一本のマッチを擦ってごらんなさい。したらば、そのありがたみっていうのが、きっとわかるはずよ。ねえ、わかるでしょ。ねえ、わかるわよね。ねえ、わかってよ。火は温かいわよ。家が遠い人には、何よりだって思うわ」

 こういうときには、とにかく押すのが重要なんだわ。

 そう思ったものだから、あたしは敬語なんて捨てて、全力で語り掛けた。
 声が大きかったらば、簡単に人って騙されちゃうものなのよ。

 なんてったって、耳に入って来るんだもの。
 耳に入って来たら、その分だけ、頭にも入る人が多いわけだわ。

 きっとそうよ。そうに違いないわ。

 んまあ、あたしだって、興味のないことは右から東へ聞き流しちゃうものだから、なんとも言えないんだけどね。

 流しちゃう人は流しちゃう。
 あたしタイプの人は駄目なんだから。

「遠慮しないで、近くで温まってごらんなさいよ。この一本だけは、お試しってことで、特別に無料なんだから。急がなくっちゃ、なくなっちゃうわよ。近付かなくっちゃ、温まらないわよ」

 ケチケチしてたら、逆に売れやしないわ。

 安物買いの銭失いって言うのかしら?
 失いやしないけど、大体はそんなとこよね。

「どうかしら。さあ、どうかしら」

 押してもやはり買うには至らないのかしら。

「ねえ、最初に買う役をお願いできますかしら? お代は払ったふりで構いません。ですから、最初にマッチを受け取って、こりゃよかったとたった一言もらえればいいのです」

 近くで迷っている人がいたので、他の人にはバレないようそう告げる。

 この笑顔は、了解ってことね。

「おい、一箱もらえるかい?」

「どうもありがとうございます!」

 できるだけ大声で言って、できるだけ大袈裟に一箱のマッチを渡す。

 ふん、計算通りね。
 海外っぽかったから、日本人的な感覚とは違うのかと思ったけど、別にそういうわけじゃないのね。

 人なんて、どこの人だって変わらないってことかしら。

「私ももらえるかしら」
「家まで寒いからな。俺の分も頼む」
「私も私も!」
「わしも頂きたい」

 買収した人を皮切りに、冷静に考えたらだれも必要としてないであろうマッチを、どんどんどんどん売ってみせたの。

 もしかしたらあたし、ショップ店員とか向いているのかもしれないわね。

 これだけ人がほしがっていたら、何か特別なものがあるのかと思って、更に人が増えるでしょう?
 どんどん人が集まるってわけ。

 本当はただのマッチでしかないんだけどね。

 人だかりがあったら、あたしがどれだけ大きな声を出すよりも、注目されるに決まっているじゃないの。


「最後の一箱です! ほら、最後の一つ貴重な一つ、だれが買いましょう!」

 なぜそれが貴重なのかと、自分でツッコミたいくらいだけれど、みんな雰囲気に惑わされちゃってるみたいね。

「私が買おう。倍の値段を出しても構わん」

 貴重の言葉に食い付いたのか、本当にレア度の高いものとでも思ったのか。
 理由はわからないけれど、紳士そうなおじさんが、勝手にオークションみたいなことを始めてくれた。

 たった一箱のマッチの値段が、引き上げられていく。

 何を求めているのかも、わからなくなっているのかしら。
 冷静さが損なわれていっているのかしら。

 マッチの一箱をみんなで求め合っていた。

「ふふっ、ありえないくらいの儲けね。ろくな人ではなさそうだし、余分に得たお金は、あたしが持っておこうかしら。ふふ、ふふふっ、新たな才能尾を発見よ」

 嬉しくって、スキップであたしは家へ帰る。

 とはいっても、あたしの知っているあたしの家とは違うんだけどね。
 マッチ売りの才能はあるみたいだから、マッチ売りの少女の世界も悪くはないわ。

「ただいまー」

 マッチがお金に変わった籠を持ち、扉を開けたら、


「意識を取り戻したわ。大丈夫、大丈夫なの? わかる?」

「あれ、ママじゃないのっ!」

 見慣れない天井。
 どうやら病院なようだった。

「事故に遭って、目を覚まさないものだから心配したのよ。よかった。無事でよかった」

 ママに言われて、あたしはやっと思い出した。
 塾の帰りに事故に遭ったのだったわ。

「ねえママ、マッチ売りの少女って、どんなお話だったかしら?」

「ん? マッチ売りの少女、女の子がマッチを売る話よね。ちょっと最初の方は可哀想だったけど、マッチを全て売れてよかったわよね」

 夢ってわけではなかったのね。
 あたしはマッチ売りの少女になったんだ。

 ハッピーエンドの物語ならよかったのに。
 そう思って、あたし、ハッピーエンドの物語に変えちゃったんだわ。

 死という運命を乗り越えた、っていうことなのかしらね。

この作品は「冬の童話祭2018」に参加しています。

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