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恐怖の人

作者: 神名代洸
掲載日:2017/09/22

僕はある人からずっと逃げ続けていた。

人と言っても人それぞれ。

いろんな人がいる。


中でも怖いのは明らかにおかしい人。

それは…。


突然の叫声。


その場をぐるぐる回る人。


きっときちがいの部類に入るだろう。

町でたまたま見てしまった。

その人を。


私は見知らぬふりをした。


それから数日後のことだ。

また見てしまったんだよ。変な人を。

唇からはみでんばかりに塗りたくられた口紅が真っ赤で異様だ。

まるで…そう、口裂け女のようだった。

車に乗っていたから遠巻きにしか見ていないが、ボーッと立っているだけのその姿も気味が悪い。

いったいどこを見ているのか分からないが、焦点は合ってるのか?と問いただしたくなる。

けれどもそうしないのはその雰囲気が気持ち悪いから。

服装もちぐはぐではっきり言って変だ。

どちらかというと時代を逆行しているように見て取れる。

古い服を着ているのだ。

まるで戦時中の様なモンペ姿。

頭巾も被っている。



でもね、おかしな事に誰もそちらを見ようとはしていない事だ。まるでそこには何もないかの様に無視してるのか、或いは見えていないかのどちらかだ。

僕としては見えてる方がありがたいのだが、どうやら他の人には見えてない様に見える。じゃあ、この人は死んでる?

まさか…ね。


その時は用事があったのでそのまま通過したよ。

でもね、また別の日に同じ場所で目撃する事になるとは…。

嫌な日だ。

そう思った。

よくない事が起きそう…。



予感は的中する事になる。



例のモンペ姿の人。

この人は女性の様だ。

髪は三つ編みで縛っててどう見たって二十代に見える。

で、近くの信号に捕まって止まった時にこちらに振りむいたんだ。一瞬だったのでよくは見えなかったが、顔は…無かったんだ。

目、鼻が無かった。

口だけが大きくあった。

怖いよ。

泣きたくなった。

その口がニヤリと笑った感じがした。

口から何かが出てきた。

それは赤かった。


慌ててその場から離れようとしたんだけど、その女性、何を思ったか私を見てまた笑った。

ガタガタと震えてしまった私はハンドル操作を間違えてしまった。

反対側の車にぶつかりそうになったのだ。


「チッ。」


そんな声が聞こえた気がした。

心臓は漠々としている。


慌ててその場から離れたよ。

でもね、その日の夜…見たんだ。

どこでって?

そりゃ勿論僕の家の前でさ。

アパートに住んでるんだけど、角部屋で窓からは道路の角が見える。そこの電柱に立ってたんだよ。ありえる?

おかしいでしょ?

全く知らない人なんだよ?なんでそんな人が僕の家の前に立ってるんだ?


明るい電球が暗く感じるほどに下を向いたままの女性はこちらの方に体が向いていた。

つまり見てるのだ。

何を?いや、僕を…。


どうしよう??

今日は友人宅に転がり込むか?

事情を知れば泊めてくれるかも。

イヤイヤ、無理かなぁ〜。確か両親が来てるって言ってたなぁ。

だけどこの部屋で悶々とした一夜を過ごすなんてできない。

どこでもいいからここからとにかく出よう。

財布と車のキー、免許証を手にアパートを後にした。

駐車場まではどうしても歩かなくてはならず、後ろをビクビクしながら歩いたよ。

で、駐車場まで徒歩5分。

さっと車に乗り込んで発進させようとした時に、何かの視線のようなものを感じた。

そしてミラー越しに見てしまった。

車のすぐ後ろに立っている女性を。

モンペ姿は変わらず、下を向いたままこちらにスーッと近づいて来るではないか。

怖くてアクセル全開で発進したよ。


「はぁ、はぁ、はぁ、何なんだよ。何でついて来るんだよ。マジ勘弁。」

チラリとミラーを見たら時々姿を見る。

ついて来ているようだ。

僕はもう怖くて近くの警察署に滑り込んだ。

入り口には警官が1人立っていた。


「すっ、すみません。助けてください。」

「何かあったんですか?」

「変なのに追いかけられてるんですよ。」

「それはどんなのですか?」

「女性です。モンペ姿の…。」

「そんな人どこにもいないですよ?何かと見間違えたんじゃないですか?」

「そ、そんな〜。確かに見たんだ。モンペ姿の三つ編みの女性を。」


トランシーバーで仲間の署員を呼ぶと再度聞いて来た。

「三つ編みの女性なんですね?」

「あっ、はい。そうですが〜。」



「その女性は数日前に亡くなった女性ですよ。文化祭の準備で、モンペ姿になってたところ、立ってた場所に車が突っ込んで来て頭を打って亡くなったみたいですよ。つまり殺害されたということですね。あなたは確か…その時間は。」

「はい、友人宅にいました。飲んでたんですよ。友人は飲んでませんでしたが…。で、送ってもらったみたいで…よくは覚えてないんですが。それが何か?」

「実はですね〜、あなたの車…調べさせてもらったんですが、傷付いてますね。いつ傷を?」

「いや、そんなはずは…僕は傷つけたことないですよ。それは本当です。飲んだら乗りませんから。いつも友人に送ってもらってますから。確か…その時も送ってもらったんじゃないかなぁ?よくは覚えてないですが。」

「そのご友人の連絡先と住所…教えてもらえますか?お聞きしたいので。」

「はぁ〜、まぁ〜〜。」


そしてわかったことと言えばモンペ姿の女性は僕の車で運転する友人によって轢き殺されたということ。

友人は僕が酔っていて半分寝ていたので逃げ切れると思ったらしい。でも、事件当夜の傷を隠そうと下手に塗料を塗って…バレないと思ったそうだ。


僕は車を乗り換えたよ。

事故した車なんて怖くて乗れないからさ。


事故現場に花束を備えた。



女性の霊はもう見ない。

成仏したのだろうか?いや、そうであってほしい。

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