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 間章 アーサー王ーー輝かしき伝説の王の栄華と終焉

ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。

      アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より



挿絵(By みてみん)

 ――なぜだ? ……なぜ、このような結果になってしまった?


 夜気に冷やされた草の上を、ベディヴィエール卿は這いずっていた。


 ……私は、何を間違えたのだろう? ……どうして、こんなことになってしまったのだ?


 皮肉にも家宝のエクスカリバーによって深い傷を負わされた彼は、刃神が忠告したように警察へ助けを求めて投降することはしなかった。


 だが、かといって、警察の包囲網から逃げようとしているのでもない。彼はどこを目指すということもなく、ただ、宛てもなくトールの麓を這い進みながら、心の中で自問自答している。


 ……私の作った〝円卓〟は、あっさりと崩れさってしまった……それも、まるで伝説を再現するかのように、ランスロット卿とグウィネヴィア妃の関係に端を発した、モルドレッド卿による反乱によって……。


 ベディヴィエール卿にとっては幸運といおうか、いや、一般論的にいえば不運だったのか、暗い夜の闇の中、地べたを這い擦り回る彼の姿に気付く者は警官隊の中に一人としていない。


 〝マーリンの予言書〟に記されていた予言は、途中までずっと順調に実現されてきた……新生円卓の騎士団の結成も、アーサー王所縁の品を求めての冒険も、十二の戦いに擬えての異敵排撃も、予言書のままにすべて現実のものとなってきたのだ……。


 それが狂いだしたのは、一体いつからだったのだろう?


 それは、やはりあのティンタジェル城への船旅で、予想外にも…だが、伝説通りにグウィネヴィア妃と密通したランスロット卿が我らに反旗を翻した時からに他なるまい……それを契機とするかのように、〝マーリンの予言書〟には書かれていなかったようなことまでが伝説そのままに現実でも起こるようになった。


 ガヘリス卿の死……石に刺さった剣を抜き、出現したアーサー王……そして、モルドレッド卿の裏切りとカムランの戦い……どれも私が望む以上に伝説通りとなった。


〝マーリンの予言書〟には、ここまでアーサー王伝説の通りになるなどとは予言されていなかった……それが、どうしてこんなにも伝説に引っ張られるようになってしまった?どうして我々の歯車は狂い始めたのだ?


 腹に開けられた傷の痛みも忘れ、ズルズルと大地に生えた草を擦る音だけを微かに周囲へ響かせながら、ベディヴィエール卿はこれまでのことを振り返る。


 ……マーリンは……あの魔術師は、この結末を予想していたのだろうか?……私は、彼の予言に忠実に従い、予言書に書かれていた通りに新生円卓の騎士団を組織した。そして、それは私の想像していた以上にすばらしいものとなった……その輝かしい私の宮廷(キャメロット)が、まさか一瞬にして崩壊するとは誰に予想できたであろう?


 もっとも、〝マーリンの予言書〟に記されていた予言もグラストンベリーの冒険を最後に終っていた。


 しかし、トールに行ったのは、あのアーサー王の僭主が現れたために私が変更したものであり、本来、予言書では聖杯の井戸(チャリス・ウェル)で聖杯を発掘する冒険となっていたのだ。グラストンベリーで終わっていたのは、ただ単に途中までしか書かれていなかっただけのことであろう……。


 だが、そこでふと、ベディヴィエール卿の脳裏に朧げな疑問が過る。


 ……いや、もしかしてマーリンは…あの男はこの結末をも予想していたのだろうか? ……だから、グラストンベリーが最後だったのか? 彼はそこまでわかっていて、敢えて私にあの予言書を……。


 暗い闇の中を、何かを求めるようにしてベディヴィエール卿はなおも這い進む。


 ……いや、それは私の考え過ぎかもしれない……あの日、本当に彼が私に予言書を与えようとしていたのかも、今となっては定かではない……。


 あれは、ただ偶然に、彼が落したものを私が拾っただけかもしれない……いや、そもそも本当にこの手帳に記されていることは予言だったのだろうか? あの男がマーリンだというのも、ただの私の……。


 その時、そうしてトールの周囲を取り巻く湖水のような暗闇と、出口のない深い思索の中を漂っていたベディヴィエール卿の目に、どうしたことか、ふと一艘の小舟(ボート)が映った。二人乗ればいっぱいになる程の小さい舟に、似合いの大きさの白い帆を張ったものである。


 ……舟? ……そうか。私をアヴァロンへと迎えに来たのか……私はもうじき死ぬのだな……。


 その舟の(シルエット)に、ベディヴィエール卿はアーサー王をアヴァロン島へと運んで行った舟のことを連想する。


 しかし、その舟はけして彼の幻想などではなかった。そこに、現実に存在する、誰の目にも見ることのできる実在の物である。


 意識の朦朧とする彼は気付かなかったが、よく見ればその帆には「I ❤ Avalon」だの「LOVE & PICE」などといった文字が黒いスプレーで乱雑に書かれ、胴体も木ではなく段ボールでできている。おそらくは昨日やっていた野外フェスで、どっかの若者が使ったまま放置していったものか何かだろう。


 だが、その陳腐な舟も今のベディヴィエール卿には、自分を迎えに来た三人の乙女達の乗るアヴァロンの舟に見える。


 ……そういえば、これだけは伝説通りにいかなかったな……伝説では、円卓の騎士の中でも酌人であるベディヴィエール卿と彼の兄で執事であったルカン卿だけがカムランの戦いにおいて生き残り、瀕死のアーサー王を戦場から救い出して、自らも重傷を負っていたルカン卿が死んだ後は、唯一残ったベディヴィエール卿がエクスカリバーを湖へと返し、アーサー王をアヴァロンへと送り出したというのに……。


 今にも力尽きようという状態であるのに、彼はその血の気の失せた顔に自嘲の笑みを浮かべる。


 ……あのアーサー王に仕立てた男の代わりに、私がアーサー王の役回りを演じることとなったか……。


 なおも這い進んだベディヴィエール卿は、ついにその段ボールでできた舟へと到達する。


 ……まあ、それも悪くない……こうして、アヴァロンからの迎えが来てくれたのだ。向こうに行けば、本物のアーサー王が待っておられる。不肖ながら、ベディヴィエール卿の血を引く者として私が王にお仕えできれば、トゥルブ家を零落(おちぶ)れさせた私を祖先達も赦してくれよう……。


 ベディヴィエール卿は段ボールの縁に手をかけると最後の力を振り絞り、あまり頑丈ではない胴体を壊しながら、転がるようにして舟の中へと乗り込む。


 ……フフ…円卓の騎士達には洗脳するためにああ語っていたが、私自身は伝説のことなど事実とは毛頭思っていなかったし、あのベイリン卿にもエクスカリバーの力を信じていないなどと言われたが……どうやらこの私も、アーサー王の存在をちゃんと信じていたようだな……。


 段ボールの船底に仰向けで寝転がり、ぼんやりと夜空を見つめていた瞳を静かに閉じると、ベディヴィエール卿はその疲れ果てた顔に、なぜだか嬉しそうに微笑みを湛えた――。


 そして、その日の未明、事件後のトール周辺を捜索していた警官達によって、ベディヴィエール卿の遺体は舟に乗ったそのままの姿で発見された……。


To Be Continued…

A suivre…


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