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 ⅩⅦ グラストンベリー丘(トール)の戦い(6)

To Be Continued…

A suivre…

挿絵(By みてみん)

「――さあて、早いとこお宝をトゥルブの野郎から取り戻さないとぉ……トゥルブはどこだあ?」


 その頃、ボディ・アーマーを脱ぎ捨て、身軽ないつものソフト帽にシャツ姿になっていたアルフレッドも、ネクタイを締めながら戦場にベディヴィエール卿の姿を探していた。


「そろそろパーティーもお開きの時間みたいね……でも、その前に意地でもあたしのお宝は返してもらうわよ? いい加減、こんなことしてる場合じゃないわ」


 同じくテロリスト達と対峙するマリアンヌも、拳銃両手に素早く視線を周囲に走らせ、恐ろしい速度で向こうの斜面へ消えて行く刃神の姿を見付ける。


「ってことは、お宝は向こうね……」


 …パン! パン! パン! パン! パン! パン…!


「ほっ!」


 マリアンヌは二丁拳銃を同時に連射してテロリスト達を牽制した後、夜空高くジャンプすると、宙で一回転しながら怯んだ敵の向こう側へと舞い降りる。


「待てっ! デートの約束はどうした?」


 その動きに呆気に取られるテロリスト達の壁越しに、マクシミリアンは彼女の背中へグロッグの狙いを付けて叫ぶ。


「ああ、ごめんなさい。でも、やっぱりあたし、警察関係者は趣味じゃないの。それじゃムシュー、また会いましょう(オヴォワー)♪」


 だが、マリアンヌは一瞬振り返るとそう答え、愛嬌たっぷりのウィンクだけを残して、目指す方向へと全速力で駆けて行ってしまった。


 残されたマクシミリアンは引鉄にかけた人差し指に力を込めるが、同じく彼女の方へ注意を向けるテロリスト達を見ると、前方へ突き出した右腕ごと、すぐにそれを弛緩させる。


「……フゥ…フラれたか……ま、今夜は現物を拝めただけで良しとしよう。なに、またすぐに出会える。君は世界中、どこにいても目立つ女だからな」


 …パン! ……パン…!


 そして、微かな笑みを浮かべて溜息を吐くと、マリアンヌに向けていた銃口を外し、彼女を撃とうとしているテロリスト達目がけて銃弾を放った――。



「――待ちやがれ!ベドウィル・トゥルブっ!」


 再び戻って刃神の方では、今一歩で坂を駆け下りるベディヴィエール卿に追いつこうとしていた。


「…⁉ ……くっ…コソ泥め、まだ諦めんのか……これでも食らえ、ベイリン卿!」


 パーン…!


 その声に振り返ったベディヴィエール卿は速度を緩め、宝を抱えていない方の手に握った護身用のエンフィールド・リボルバーを迫り来る刃神目がけて放つ。


「んなろうっ!」


 対して刃神は咄嗟に身をかわして狙いを狂わせると、持っていたボロボロのキリストの剣をベディヴィエール卿の足下へ投げ付けた。


「うわっ…!」


 そして、足を掬われ、バランスを崩した彼に刃神はタックルを食らわす。


「おわあああっ…!」


 二人は黒と銀色の大きな塊となって、坂を真っ逆さまに転がって行った。


 ……ガシャァァーン…!


 程なくトールの中程にある段差で止まった彼らは、地面にぶつかってまた元の二人の人間に分かれる。


 その衝撃で、アーサー王のレガリア三点も、エクスカリバーも、また、ベディヴィエール卿の持っていたリボルバーも放り出されて辺りに散らばった。


「くそっ……」


「うぐ……」


 二人は強かに打ちつけた身体の痛みを堪え、同時に起き上るとそれぞれに武器へと手を伸ばす。


 ブン…!


 カシャ…。


 刃神が手にしたのはエクスカリバーで、ベディヴィエール卿の手に握られていたのはリボルバーの方だった。


 美しい装飾の施された柄を摑むや、刃神はエクスカリバーを鞘から引き抜いて切先をベディヴィエール卿へと突き付け、ベディヴィエール卿も古風な中折れ式リボルバーの銃口を刃神に向ける。


「ハハッ! エクスカリバー、ついに手に入れたぞ!」


 隙なく相手を睨みつけながらも、口元に笑みを浮かべて刃神は歓喜の声を上げる。


「フン。選ぶ武器を間違えたな。この状況では、先ずは銃を手にするのが正解だ」


 対してベディヴィエール卿の方も鼻で笑うと、愚か者を見下すかのように刃神を眺め、さらにリボルバーを握る手を刃神の方へと伸ばす。


「ハン! なるほどな……そうか。どうやらてめーは、このエクスカリバーを本物だとは信じていねえようだな。どんな敵をも打ち倒すアーサー王の魔剣だとはよ」


 ところが、自分に向けられた銃口に怯むことなく、刃神はさらに笑ってそう返してくる。


「本物? ……まあ、我がトゥルブ家に古くから伝わる宝剣だからな。アーサーなる古い時代のブリテンの指導者が持っていた剣だとは少なからず私も信じているさ。だが、伝説に云うような魔力を持っているなどとは勿論、思ってはおらん。少なくとも銃に勝てるような武器だとはな……そういう貴様は、まさか本当にこの剣に魔力があるなどと信じているのではあるまいな?」


 刃神の言葉に、ベディヴィエール卿は訝しげに眉間の皺を寄せて訊き返す。


「ああ、信じてるさ。てめーをぶっ殺すにゃ充分な力を俺様に与えてくれる、本物の魔力(・・)を持った魔剣だってな」


「貴様、正気か? ……本気で魔剣などというものを信じているのか?……」


 だが、はっきりとした声で言い切り、さらに不敵な笑みを浮かべる刃神に、今度は狂気の者を見て恐れる様な表情を浮かべ、ベディヴィエール卿はもう一度尋ねる。


「…ったく。わかっちゃあいねえなあ、ベディヴィエールさんよお……魔剣ってのはな、信じるからこそ(・・・・・・・)魔剣なんだよ。このエクスカリバーが銃なんか相手にならねえ本物の魔剣だってことを今から証明してやるよ」


 ベディヴィエール卿の問いにそう答えると、刃神は右手に持ったエクスカリバーをゆっくりとした動作で振り上げ、自分の頭の上に高々と掲げた。


「……何を始める気だ?」


 銃を向けたまま、夜空にエクスカリバーを突き立てる彼を不可解そうにベディヴィエール卿は見つめる……するとその時、トールの上を忙しなく走っていたサーチライトの光の一つが、ちょうど刃神の立っていたその場所の上を横切った。


「っ…⁉」


 その光の帯はエクスカリバーの銀色の刃に反射し、さらに眩い白光を辺り一面に輝き放つ……突如、闇夜に現れた太陽のように強烈な光に、ベディヴィエール卿は一瞬、目の前が真っ白になって視力を失う。


 輝く剣を手にする刃神のその姿は、まるでバドンの戦いにおいて〝石に突き刺さった剣〟を天に掲げ、刃から放たれる光で大勢の敵の目を眩ませたアーサー王その人のようでもあった。


「くっ、こんな子供騙しで…」


 パーンっ…!

 

 ベディヴィエール卿は腕で目を覆い、即座にリボルバーの引鉄を引く。


「せやっ!」


 だが、刃神は身を低くして弾丸を避けると同時にエクスカリバーを水平に構え、そのままの勢いでベディヴィエール卿の懐へと突っ込んだ。


 ズシュ…。


「ぐが……!」


 エクスカリバーの硬く鋭利な刃は、ベディヴィエール卿の腹部に見事突き刺さる。しかもその魔剣は頑強なボディ・アーマーのセラミック・プレートも、その裏にあるケブラー素材のベストをも突き抜け、彼の肉体奥深くまで到達していた。


「ごはっ! ……ば、バカな……小銃弾でも防ぐ鎧だぞ……」


 内蔵から出血した血と同時に、ベディヴィエール卿は疑問と驚きの声も口から吐き出す。


「言っただろ? こいつは本物の魔剣(・・・・・)だってな。古くより、長年多くの人々によって〝本物のエクスカリバー〟だと信じられてきたこの剣の伝承が、俺の潜在意識に暗示をかけ、俺の肉体に本物の魔剣を使うのと同じような力を発揮させるのさ」


 唖然とするベディヴィエール卿の震える瞳を覗き込み、凶悪な笑みを愉しげに浮かべる刃神は簡単にそう解説してやる。


「……そ、そのようなことが……本当に……」


 そして、まだ信じられぬといった表情を浮かべるベディヴィエール卿の胴に足をかけると、柄を握る右腕に力を込め、彼を蹴り倒すようにして深く突き刺さったエクスカリバーをその身体から引き抜いた。


「傷は深えが、今すぐ手当すりゃ死ぬこたねえだろ。俺はこの剣さえ手に入りゃあ、もう、てめーに用はねえ。死にたくなきゃあ、とっとと警察にでも助けを求めな」


 刀身に付いた血を振り払い、一度、月明かりに照らして剣の状態を確認すると、仰向けに倒れ伏したベディヴィエール卿を見下ろして刃神は告げる。


「……まさか……まさか、このようなことになろうとは……マーリンは……あの魔術師はこの結末も予想していたのか……」


 だが、刃神の声など最早、届いていない様子で、彼はローブの胸元から一冊の古ぼけた手帳を取り出すと、視点の定まらぬ眼で朦朧とそれを見つめ、譫言のように何かを呟いている。


「マーリン? ……もしかして、まだ他に仲間がいやがったか? ってか、なんだよ、それは?」


 と、その時、瀕死のベディヴィエール卿には重すぎたのか、震える彼の左手からその分厚い手帳が地面へと滑り落ちる。


「ひょっとして、マーリン所縁の武器の在処でも書いてあんのか?」


 僅かながら興味を惹かれた刃神はそれを拾い上げると、革の表紙を閉じている留め金を外して、月明かりに中身をパラパラと捲ってみた。


「なんだ、ただのてめーらの計画書か……Dr.ヘンリー・ハンコック?」


 すると、これまで新生円卓の騎士団が行ってきた犯罪の計画らしきメモとともに、後の表紙の裏に記されたそんな署名が刃神の目に映る。


「どっかで聞いたような名前だが……ま、いいか。ほらよ、大事なもんならちゃんとしまっときな。退屈なムショ暮らしのお伴にはなってくれるだろうぜ」


 だが、自分の知りたいようなことが書かれていないのを確認すると、刃神はパタンとその手帳を閉じて、あっさりとベディヴィエール卿の方へ放って返す。


「……フン……貴様には、この〝マーリンの予言書〟の価値がわかるまい……これこそが……あのカマーゼンの森で……マーリンが私に与えてくれた予言の書なのだ……」


 胸の上に落ちたそれに震える手を伸ばしながら、苦しそうな息遣いでベディヴィエール卿はそう答える。


「マーリンの予言書だあ? ……俺にはどう見ても、ただの古ぼけた手帳にしか見えねえがな……ま、御当家自慢のエクスカリバーは信じてねえくせに、そのヘンリーだかの手帳は信じてるってわけだ。つまり、そいつがてめえにとっての魔術武器(マジック・ウェポン)…いや、魔道書(グリモワー)だったってこったな」


「あ! お宝発見! しかも、なんか地面に放ったらかしだし」


 ベドウィルの譫言に刃神がそう答えた時、お宝を追ってアルフレッドも一足遅れでそこへ到着する。


「おお、詐欺師。しぶとくまだ生きてたか」


「旦那も無事、エクスカリバー手に入れたようっすね。んなら、他のお宝は全部俺が回収しときますんで安心してください」


 そして、傍らに倒れているベドウィル・トゥルブへは目もくれず、アルフレッドは辺りに散らばった王冠、王笏、宝珠を拾い集める。


「ああっ! やっと見付けた! ……あ、ちょっと、ムシュー・ターナー、それはあたしのお宝よ! まさか独り占めにする気じゃないでしょうね?」


 また、僅かな時間差でマリアンヌも追い着き、彼らのもとへと斜面を滑り下りて来る。


「もう、わかってますって。旦那はエクスカリバーだけでいいってことだったんで、後は二人で山分けです」


「何言ってんのよ? わたしが七で、あなたが三割に決まってるじゃない。前にそう約束したでしょ?」


 アーサー王のレガリアを全て回収し終えて御機嫌なアルフレッドに、さも当然というように彼女は言い放つ。


「えええっ⁉ そりゃ、ないっすよお~。確かに前にはそう言いましたが、今回の一番の功労者は俺じゃないっすかあ! 本来なら六…いや七割はもらってもいいとこだ!」


「うるさいわねえ。一割でもあげたくないのを三割にしてあげてんだから感謝しないさいよ……さ、そんなことよりも、早いとこ引き上げないと警官隊に囲まれるわ。ムシュー・イソノカミもとっとと行くわよ。ま、別にあなたが捕まっても構わないけど、そん時はそのエクスカリバーもあたしがいただいてくわ」


 それから不満を訴えるアルフレッドを一言でバッサリ斬り捨てると、エクスカリバーを鞘に納めている刃神にも急ぐよう促す。


「誰がやるか、この小娘っ!ああ、そういや、ちゃんとてめーの取り分まで奪い返してやったんだから、これでティンタジェルでの借りはチャラだからな」


「おい! そこにも誰かいるぞっ!」


「動くなっ! 警察だ!」


 と、言っている傍から早くも警官隊が、懐中電灯をこちらへ向けて近付いて来る。


「チッ、来やがったか……おし! ずらかるぞ!」


「あ、ちょっ……もう、なに仕切ってんのよ! それに、お宝手に入れられたのはあんた一人の働きじゃないんだからね! まだ貸しはチャラじゃないわよ?」


「まあまあ、言い争いは無事に逃げ伸びてからにしてくださいな」


 苦々しげに舌打ちし、急に踵を返す刃神をマリアンヌとアルフレッドも慌てて追いかけ、三人は包囲の手薄な暗闇の中をトールの麓目がけて駆け下り出した……。

ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。

       アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より

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