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 ⅩⅦ グラストンベリー丘(トール)の戦い(4)

ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。

       アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より

挿絵(By みてみん)

 さて、その一方、同じくジェニファーの救援に向かおうとしたマクシミリアンと警官達は、大混戦の戦場の中、テロリスト達との銃撃戦に巻き込まれていた……。


 ――パン! ……パン! ……ダラララッ! ……パン…!


「まさか、こんな野戦を強いられようとはな……応援が着くまで持ち堪えられればいいが……」


 マクシミリアン自身も、暗く冷たい地べたに這いつくばって敵の弾を避け、愛銃のグロック17を手に果敢に応戦している。


「ん⁉ あれは……」


 そんな時、彼の碧い瞳の上に、遠く人混みの中で舞い踊る、クリーム色のドレスを着た奇妙な娘の姿が映った。


「うりゃりゃりゃりゃあ!」


 ダララララララッ…!


 そのドラクロアの〝民衆を導く自由〟の女神のような格好をした若い女性は、両手に小銃(ライフル)とフランス国旗ならぬ二丁の短機関銃(サブ・マシンガン)を握り、辺り構わず乱射してテロリスト達や円卓の騎士達を蹴散らしている。


「私はちょっと用事を済ませに行って来る。応援が来るまでなんとか凌いでくれ。とにかく軽はずみに命を捨てるような行為はするなよ」


 マクシミリアンは首だけを振り向かせて後方の警官達にそう告げると、なんとか彼女に近付くためのルートを見極めようと目を素早く戦場に走らす。


「用事って……一体、何をなさるおつもりですか、クーデンホーフ捜査官?」


「ずっと恋焦がれていた女性を偶然見付けたものでね。なに、すぐに戻る」


 そして、生真面目な彼らしからぬ冗談めかした口調で、しかもこのような状況にあってなぜだか少し嬉しそうに言い残し、銃弾飛び交う乱戦の中へと単身、突っ込んで行った。


 彼は迂回してマリアンヌの背後へと回り込み、その長身を低くして流れ弾を避けながら、他の者達には目もくれず、草叢から獲物を狙う肉食獣のように静かに、かつ時に激しく、果敢に彼女のもとへと迫って行く……。


「まったく、ゴキブリみたいに湧いてきて! いい加減、あたしの邪魔しないでくれる? …ハッ⁉」


 銃を撃ちながら無駄口を叩いていたマリアンヌは、突然、自分の背後にただならぬ気配を感じだ。


 ガチャ…。


 振り返りざま、彼女は左手のMP5Fをその気配の頭部へと向ける。すると、彼女の額にもゲルマン人らしい風貌の青年が握るグロッグ17の銃口が突き付けられていた。


「やはり、君だったか……やっと会えたな。怪盗マリアンヌ」


 月の逆光に半分隠された彼女の顔を碧い瞳で見据え、マクシミリアンは重々しく呟く。


「あなたは……へぇ~、あたしのファンだったとは驚きね」


 同じく半分だけ蒼白く照らし出されるマクシミリアンの顔を眺め、それがストーン・ヘンジで出逢った人物だということに気付いてマリアンヌも言う。


「ああ。長らく君の追っかけ(・・・・)をやっててね。今回もはるばるリヨンから追って来た」


「リヨン? ……そういえば、インターポールとユネスコがどうとかって聞いたわね。ああ、なるほど。それで、あたしを捕まえに来たって訳だ。ふーん……なんか、あたしも世界的にトレジャーハンターとして認められたって感じで光栄だわ」


 互いに銃口を突き付けながら、冗談めかした調子で語り合う二人……相手が自分のような者の天敵であると理解したマリアンヌだが、彼女は不敵な笑みを浮かべている。


「まあ、認められたのはただのコソ泥としてだがね。それでも、君のやらかしてくれた数々の輝かしい業績を讃え、我々の授賞式にご招待するよ。さあ、ご同行願おうかな、マドモワゼル?」


 対するマクシミリアンも臆することなく、毒を含んだ台詞を淡々とした口調で返す。冗談めかした言葉使いではあるが、目に見えぬその水面下では、お互い激しい牽制の火花を散らしているのである。


「申し訳ないですけど、そのお誘いはお断りしますわ、ムシュー。なぜって、わたくしの銃はあなたの頭を容易に吹き飛ばせる状況にあるんですもの」


「それはこちらとて同じだよ、お譲さん。君のそのか細い指が引鉄を引こうとした瞬間、私のグロッグも君の額に熱いキスを与えていることだろうからね。それも、火傷ではすまないくらいのね」


 二人はそこで無駄口を閉じると、ともに引鉄にかけた人差し指に意識を集中する……僅かな、しかし、逆に長くも感じられる一瞬の間、彼らの周りはピンと張りつめた緊張と静寂によって支配された。


 ダララッ…!


「…っ!」


「キャッ…!」


 しかし、その聖域の空気にも似た静けさは、足下で土埃を巻き上げるテロリスト達の銃弾によってすぐに打ち破られた。二人はそれぞれに振り返って周囲を警戒し、偶然にも互いに背と背をくっ付ける形となる。


「……ねえ、今は二人でパーティ抜け出す相談してる場合じゃないんじゃない?」


 周りをぐるりと敵に囲まれた輪の中心で、自分側の180度を受け持つように目を凝らしながら、マリアンヌはそんな提案を背後の相手に持ちかける。


「……そうだな。どうやら、みんな抜け駆けを許してくれそうにはない」


 同様に相手の背を守るようにして立つマクシミリアンも、その言葉の意を組んで冗談混じりに答える。


「それじゃ、このパーティーが終わるまで一時停戦といきましょう?」


「ああ、二人だけのデートはそれからだ」


了解(ダ・コール)!」


 …ダララララッ! …パン! パン! パン! パン…!


 こうして奇妙なことにもインターポールの捜査官と彼の追う女盗賊は、同じく置かれた危機的状況と目先の利益の一致により、一時的ながらも共闘体制を組むこととなった――。



 ――ギン! …ギン! ……ギャィン! ……ギィィィーン…!


「……ハァ…ハァ…」


「……ハァ…ハァ…」


 その頃、戻ってランスロット卿とガウェイン卿の方では、死力を尽くした激闘の末、お互い剣も盾も鎧も、また、その中の生身もボロボロになっていた。


「……ハァ……ハァ……くそうっ! ……相変わらず……ハァ……軍人並にタフな野郎だな……」


 激しく肩で息をしながら、地面に突き立てた剣を杖代わりにしてガウェイン卿は苦しそうに言う。


「……ハア……ハァ……いい加減……やめにしないか……ガウェイン卿?」


 同じく剣にもたれかかるランスロット卿も、途切れ途切れにそんな言葉を返す。二人のボディ・アーマーはそこら中が切り裂かれ、左肩の盾もボコボコに変形してしまっている。


 だが、ダメージを追っているのは彼らの外見だけではない。ボディ・アーマーの傷の下は剣の殴打によって腫れ上がり、鎧に覆われていない部分には血を流す切傷も見られる。


「フン……それは聞けぬ相談だな……貴様を許せば……俺は妹達に顔向けができない」


 それでも、ガウェイン卿はランスロット卿の提案を突っ撥ね、けして闘いをやめようとはしなかった。彼の脳裏には今、目の前にいる男に斬り殺されたガヘリス卿の哀れな姿と、さらになぜか、かつての恋人であり、妹のような存在でもあった女性の泣き顔が不意に浮かび上がる。


「……ハァ……ハァ……死ねえっ、ランスロットぉっ! ガヘリスの仇ぃぃーっ!」


 ガウェイン卿は息を大きく吸い込むと、最後の力を振り絞り、渾身の力を込めて愛剣ガラティーンをランスロット卿の上に振り下ろす。


「くっ…!」


 その攻撃に、疲れ切ったランスロット卿の身体も咄嗟に反応した。無意識の内に彼のアロンダイトも夜気を切り裂いてガウェイン卿に襲い掛かる。


 ガギィィィーン…!


「ぐがっ……」


 次の瞬間、ボコボコの盾に阻まれたガウェイン卿の剣に対し、ランスロット卿の剣はガウェイン卿の兜側面に命中していた。しかも不運なことに、その刃はアーメット型兜の鉄板を打ち破って中身の頭蓋にまでめり込んでいる。


「…! ……ガウェイン卿っ!」


 己のしてしまったことに声を上げるランスロット卿の前で、ガウェイン卿はゆっくり後方へと倒れていく。


「…………エマ……ジョーイ……俺は、またバカをやっちまったよ……フフ、すまないな。どうやら、この性格は死んでも直りそうにないようだ……」


 冷たい土の上に大の字に寝転がったガウェイン卿は、眼前の闇の中に浮かぶ旧友達の幻影に向けて、消え入るような声で語りかける。


 そして、自嘲のようでもあり、だが、なんだか愉しそうな微笑みをその顔に湛えて、彼の命の炎はそのまま静かに燃え尽きた。


「ガウェイン卿…………くそうっ! なんでこうなるんだ!」


 またも自らの手で命を奪ってしまった仲間の姿に、ランスロット卿は剣を地面に叩きつけ、悔しそうに叫び声を上げる。


「………………」


 同じく、遠からず自分が原因で命を失う者の姿を再びその傍らで見ることとなったジェニファーも、なんとも遣り切れぬといった表情で、ガウェイン卿の無残な躯をただ呆然と見つめていた。


「ランスロット卿!」


 また、もう一人。ガウェイン卿のその死をすぐ近くで見届けてた人物がいた……同様にランスロット卿とジェニファーの二人に浅からぬ因縁を持つモルドレッド卿である。


 アルフレッドの首を戦場に追い求めていた彼女も、ランスロット卿の乱入に気付き、目標を変更してこちらへ向かっていたのである。


「ガヘリス、アグラヴェイン卿に続き、今度は我が兄ガウェイン卿までも殺したか」


 その声に振り向いたランスロット卿に、右手に握った長剣の先を向けてモルドレッド卿は言う。その一見、冷静で落ち着いた声の中には、背筋の凍り付くような、薄ら寒い殺意と怒りが含まれている。


「まさに前世で犯した罪の再現だな。所詮、貴様は何度生まれ変わってもそのような罪深き騎士なのだ……その罪に穢れた命、グウィネヴィアともどもこのわたしが葬ってやる」


 長剣を大きく頭上に振りかぶり、ガウェイン卿との死闘で疲れ切ったランスロット卿目がけてモルドレッド卿は駆け出す。


「最早、闘う気力も残ってはいまい! ガヘリスとガウェイン兄上の思い、今こそわたしが果たす!」


 兜をなくしたモルドレッド卿は、彼女のボディ・アーマーと同じ色をした黒髪を月明かりの中になびかせて、トールに吹く一陣の風のように突進して来る。


「チッ…」


 もう、仲間だった者を手に掛けることにうんざりしていたランスロット卿も、迫り来る自らの命の危機に已む無く彼女を仕留めねばならぬと覚悟する。


 ビュン…!


 モルドレッド卿の剣が、闇に銀色の軌跡を描いてランスロット卿の頭上に迫った。と同時に、無防備な彼女の喉元目がけてランスロット卿も刃を突き立てる。


「……!」


 だがその瞬間、彼の瞳にまだあどけない少女の面影を残すモルドレッド卿の顔が映った。


 それは、その刹那の内にも彼の中の婦女子を守るべき騎士道精神を呼び起こし、闘いには不可欠である非情な判断を鈍らせる。


 ランスロット卿は意識する間もなく、突き出す剣先の狙いを喉元から僅かに下げる。


 ガギィィン…!


 交錯する二つの刃……今度はガウェイン卿の如くランスロット卿のボコボコに変形した兜が、振り下ろされたモルドレッド卿の剣によって割られていた。


 対するランスロット卿の剣はモルドレッド卿の胸部に突き立てられるも、堅固なセラミック・プレート入りボディ・アーマーに僅かな傷を付けただけで、その内側にある彼女の肉体自体には到達していない。


「ぐ……」


「うっ……」


 ランスロット卿はその場に崩れ落ち、モルドレッド卿は受けた衝撃に一歩身を引く。


「ジョナサン!」


 頭をやられた恋人の姿に、じっと傍らで見守っていたジェニファーは思わず叫ぶ。


「フン……」


 その声に彼女の方を一瞥したモルドレッド卿は、不気味な笑みをその口元に浮かべる。


「騎士の情けだ。とどめを刺してやる……恋人が見ている目の前でなっ!」


 そして、再び剣を大きく振り上げると、まだ事切れず、両手両膝を突いて項垂れるランスロット卿の割れた兜目がけて最後の一撃をお見舞いしようとする。


 パーン…!


「………………」


 しかし、彼女は剣を振り上げたままの体勢で、その動きを止めてしまう……僅かな時間の後、彼女の額に開いた穴からは、真っ赤な鮮血が白い肌を伝って流れ落ちた。


「な……」


 モルドレッド卿は見開かれた鳶色の瞳でランスロット卿越しに前方を見つめる……するとそこには、銃口から煙の立ち上る拳銃をしっかりと両手で構えて立つジェニファーの姿があった。


 モルドレッド卿を貫いたのは、恋人を救うべく咄嗟にジェニファーが撃った拳銃の弾だったのである。


「………………」


 モルドレッド卿は頭上に振り上げた剣の重力に引かれるようにして、無言のまま、バタリと後方へ倒れ込む。


 ……ガヘリス……これでようやく、お前の所へ行けるな……。


 それから心の内でそう呟くと、どこかほっとしたような微かな笑みを浮かべ、この哀れな少女はその短く、その荒んだ生涯を瞼とともに永遠に閉じた。


「…………ハッ! ジョナサンっ⁉」


 図らずも人を撃ち殺してしまった衝撃に、一瞬、呆然と立ち尽くすジェニファーだったが、すぐに自分を取り戻してランスロット卿のもとへと駆け寄る。


「ジョナサン! しっかりして! ジョナサンっ!」


 駆け寄ったジェニファーは彼の身体を仰向けに抱きかかえると、引き裂かれた彼の兜を急いで剥ぎ取った。


「……ああ、ジェニファー……どうやら無事なようだね。良かった……」


 ジェニファーの必死の問いかけに、ランスロット卿は朦朧とする意識の中で、自分のことよりも彼女の身が無事なのを確認してほっと息を洩らす。


「何言ってるの! わたしのことなんかよりも、あなたの方が……」


 彼の頭の傷は、この青年を神の御元に召すのに充分過ぎるほどのものであった。べっとりと血に濡れた彼の金色の髪を見ると、ジェニファーは涙ぐみ、言いかけた言葉を詰まらせる。


「ジェニファー……最後にもう一度、こうして君に会えて良かったよ……君を救うこともできたし、神様に感

謝しなきゃな……」


 そんなジェニファーの涙の伝う頬に、血の付いた手を優しげに当てると、ランスロット卿は別れの言葉を紡ぎ始める。


「最後だなんてよして! 大丈夫、傷は浅いわ。しっかり目を開けて、ジョナサン!」


「……やっぱり……僕と君はランスロットとグウィネヴィアだったみたいだ……また来世でも、こうして君と巡り会えるのかな? ……禁断の恋だろうと構わない……それなら、悪くないな……」


「ジョナサン! しっかりして! あなたはランスロット卿なんでしょ⁉ 伝説じゃこんな死に方はしなかったはずよ! いや、死なないでジョナサン!目を開けて!」


 ジェニファーの呼びかけも虚しく、ランスロット卿はそのまま再び目を開くことはなかった。だが、その血塗れの顔には、とても満足そうに穏やかな笑みを湛えている。


「いや、わたしを置いていかないでジョナサン! ……いやあぁぁぁぁーっ!」


 横たわる愛しき恋人の胸の上に、ジェニファーは人目も憚らず泣き崩れた――。

To Be Continued…

A suivre…

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