ⅩⅦ グラストンベリー丘(トール)の戦い(2)
ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。
アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より
「誰だっ⁉」
「何者だっ⁉」
そこに居合わせた者達は皆、その声のした塔の残骸の上部を見上げる……すると、塔の頂の雁木状になった壁の上には、青白い月明かりに照らされて、巨大な剣を肩に担いだ黒衣の男と、クリーム色のドレスに赤いフリジア帽を被った若い娘が立っていた。
「き、貴様らはベイリン卿とモルガン・ル・フェイ!」
その姿にガウェイン卿が目を見開いて叫ぶ。また、他の騎士達も彼と同じように驚きの表情を浮かべ、DRCの者達は事情がわからぬまでも、その奇抜な闖入者の出現に口をポカンと開けて呆気にとられている。
「もう、何がおもしろいことになったよ! 変なのが増えて、ますますややこしくなっちゃってるじゃないのよ」
そうして一団が見上げる中、マリアンヌはまるで緊張感のない様子で、いつもの如く可愛らしい眉を寄せて刃神に文句をつける。
「ヘン! ぶった斬る野郎が増えていいじゃねえか。この前はダヴィデの剣を折られるわ、足に怪我させられるわで鬱憤が溜まってんだ。それにここんとこ、怪我のおかげ運動不足だったからな。今日は思いっ切り暴れさせてもらうぜ」
対して刃神は彼女の方に顔を向けることなく、獲物の敵達を見下ろしたまま、愉快そうに凶悪な笑みを浮かべて言った。
「だ、旦那! 譲ちゃん! どうしてここが⁉」
思いもよらぬ仲間割れに巻き込まれ、独り取り残されていたアルフレッドは、懐かしい二人の顔を見るや思わず芝居も忘れて叫んでしまう。
「なあに、大したこたあねえ。今夜〝もう一つのガラスの塔〟に行くって聞いてたからな。ガラスの塔で思い付くアーサー王関連の場所といやあ、グラストンベリー〈Glastonbury〉以外考えられねえ。ここはヨセフのおっさんが持ってきた聖杯〈Glass〉を埋めた場所だからな。んでもって、塔と言ってんだから、僧院跡や聖杯の井戸じゃなく、やっぱこのセントマイケルズ教会の塔が立つ丘だろ?」
「それで、あなた達がここへ来ると踏んで、日が沈んでからずっと、こんな寒いし、休むこともできないような場所でわざわざ待っててあげたって訳よ。感謝しなさい」
「なかなか来ねえんで、夜食に持ってきたスコーン五つも食っちまったぜ。こんなパサパサしたもんたくさん食うと喉が渇いていけねえ」
歓喜の声を上げるアルフレッドに、ベディヴィエール卿らを出し抜いたという自慢もあるのか、塔の上の二人はご丁寧にもそう説明を加える。
「チッ。また、余計な邪魔を……」
「フン。まあ、よい。〝カムランの戦い〟となれば、全員参加の方が盛り上がろうというものよ」
そんな招待客リストに載っていないゲスト二人を見上げ、モルドレッド卿とベディヴィエール卿はそれぞれに異なった感想を誰に言うとでもなく呟く。
「んま、そういうことで、そのエクスカリバーとアーサー王のお宝は俺様達がいただく。おとなしく渡せなんてこたあ言わねえ……俺様にぶった斬られてから渡しな!」
「ああ、あたしはこのバカと違って、お宝さえくれれば見逃してあげるわよ?」
「フン。誰が貴様らなぞに。王の宝は王位を受け継ぐこのモルドレッドのものだ」
「どちらも勝手にぬかしていろ。これらの正当なる持ち主は、ベディヴィエール卿の血を引くこの私と新生円卓の騎士団だ。それを奪おうとする輩は何人たりと排除するのみ」
〝太くて短いヴロンラヴィン〟の切先を向けて吠える刃神と、その横でこいつとは無関係とばかりに注釈を入れるマリアンヌに、二大勢力の頭目二人も自分達の権利を各々主張する。
「ハン! そうこなくっちゃな。んじゃ、早速おっ始めるとするか。〝グラストンベリー・フェス〟よろしくド派手に行こうじゃねえか。盛り上がろうぜぃぃぃーっ!」
その嬉々とした雄叫びとともに刃神は大鉈を振り上げながら眼下の敵軍目がけて飛び降り、それを合図として新生円卓の騎士団、DRC、そして刃神、マリアンヌ、&アルフレッドによる三つ巴の乱戦の幕が切って落とされた。
ドォォォーン! …ガシャァァァーン…!
刃神は重く巨大な刃を地面に叩きつけて人垣を真っ二つに分断すると、その開いた空間に着地した瞬間、身体を三六〇度回転させて周囲にいた者達を一気に薙ぎ払う。
ボディ・アーマーで全身を覆い、またティンタジェルでの経験から咄嗟に盾を身構えた円卓の騎士達はなんとか転倒させられるだけですんだが、何も防具を着けていないDRCの者は吹き飛ばされ、強打と斬撃による傷を負ってそのまま動かなくなる。
「ヒャッハーッ! 邪魔するヤツは容赦なくぶった斬らせてももらうぜっ?」
「ひるむなっ! そんなコソ泥など早く撃ち殺せっ!」
突然、竜巻にでも遭ったかのように吹き飛ばされる仲間の姿を見て、呆然と立ち尽くすテロリスト達をモルドレッド卿が叱咤する。
「……お、おう!」
…パン! パン! ダララッ! ……ギン! ギン! ギン…!
その声に彼らは一斉に黒衣の闖入者目がけて銃を放つが、刃神は前回の戦闘同様、ヴロンラヴィンを盾にして、すべての弾丸を防ぐ。
「フン! 甲冑も着けねえで俺にケンカを売るたあ、いい度胸してんじゃねえか!」
そして無駄口を叩きつつ、やはり前回同様、短剣と黒柄短剣を数本、片手で懐から取り出すと、そのまま一続きの動作で素早く彼らへ投げ付ける。
「ぎゃっ…!」
「ぐわっ…!」
魔術武器の魔力によって命中精度と威力の増した短剣は一本づつ、その本数だけのテロリストに命中し、防御の薄い彼らの身体深くに突き刺さる。ある者は太腿を貫通し、ある者は胸から短剣の柄の部分だけを生やし、皆、苦痛に満ちた悲鳴と血飛沫を上げて大地に倒れ伏した。
「何をボサっと見ておる⁉ 我らも戦いを始めるのだ! 先ずは邪魔者のベイリン卿を排除せよ!」
「オーッ!」
すると、今度は背後を取る形となっていた円卓の騎士達が銃の狙いを刃神に定め、一斉に弾を放とうとする。
ダラララララララッ…!
「うぐっ…!」
だが、そんな騎士達の足下に、上空から無数の弾丸が牽制するように撃ち込まれる。
「もう、何も後先考えずにただ力任せに突っ込むんだから。これだから野蛮で戦い好きの男は困るのよね」
先刻より、塔の上からその戦闘を見下ろしていたマリアンヌである。しかし、そういう彼女も他人の事は言えず、その両の手にはUMP9とMP5Fという短機関銃二丁が銃口から煙を上げて握られている。今宵の彼女の得物は、それでも拳銃の格好をしていたこの前の小型短機関銃ではなく、それよりもさらに火力の上回る銃火器なのだ。
「今回はちゃんと準備してきたからね。さあ、今夜は容赦なく行くわよ~!」
「くそっ! 妖妃モルガンめ! もう容赦せんぞ!」
対して体勢を立て直したガウェイン卿は振り返ると、塔の上目がけて自動小銃を放つ。
ギィィィーン…!
「きゃっ…!」
その短機関銃を上回る小銃弾の威力に、雁木状をした石壁の頭は砕け飛び、破片を辺りへと撒き散らす。それをマリアンヌは咄嗟に後方へ宙返りして避けると、塔の下へと着地した。
「チッ! …よくもやってくれたわねえ!」
「魔女め、ようやく地に落ちたな!」
同じ高さの土俵に立ったマリアンヌとガウェイン卿は、お互いに照準を定め、再び銃撃戦を開始しようとする。
「放てーっ!」
…パン! …パン! …ダララッ…!
が、そこへテロリスト達の攻撃が邪魔に入った。
「もう、ウザいわねえ!」
「くっ…こいつらの掃討が先か」
マリアンヌはいつものアクロバティクな動きで飛び退け、ガウェイン卿は盾を身構えて銃弾をやり過ごす。
ダララララッ…!
そして、二人ともお互いから標的を外し、今度はテロリスト達目がけて銃口から火を吹かせた。
「ベイリン卿、ちょっと待ってろ! やっぱお前らは後回しだ!」
「先ずは謀反人に天の裁きを下す!」
トリスタン卿、パロミディス卿を始め他の円卓の騎士達も、それぞれにモルドレッド卿の反乱軍に対して果敢に立ち向かっていく。
「アグラヴェイン卿は一隊を率いてそのままベイリン卿とモルガンに当たれ! ロヴェル卿、フローレンス卿の隊は円卓の騎士どもの相手だ! ガングラン卿はわたしとともにアーサー王を追うぞ!」
対してモルドレッド卿の方も彼女の兵であるテロリスト達にきびきびと指示を飛ばし、応戦体勢を整える。
「モルドレッド卿よ、やれるものならやってみるがいい……私が作り上げた円卓の騎士団は……キャメロットはそう簡単には滅びぬ。我が騎士団が生き残るか、それとも伝説の通り貴様に滅ぼされる運命にあるのか勝負だ」
また、ベディヴィエール卿は独りローブも羽織ったまま、他の者達からは少し離れた場所に立ち、エクスカリバーや他のレガリアを腕に抱えて守りつつ、トールの頂で繰り広げられる大乱戦を見守っていた。
「撃てーっ!」
「くたばれ! 謀反人どもっ!」
…パン! パン! パン! ……ダララッ! …ダララララッ…!
三勢力入り乱れ、一進一退の大混戦の様相を見せる戦場……その中で、我らがアーサー王―アルフレッドはというと、勇猛果敢にも、ただし戦うことは全力で避けて、ベディヴィエール卿のもとへ近付こうとしていた。
「考えようによっちゃ、こいつは絶好の好機。この混乱に乗じてお宝を奪い返してやる……おーい、ベディヴィエール卿~! お宝を早くこっちへ~! 俺が守りますぜ~!」
わざとらしくも味方を装い、アルフレッドは飛び交う弾を避けながら、ベディヴィエール卿の方へと駆ける。
「アーサー王がいたぞ! 先ずは王の首を討ち取れーい!」
しかし、その途中で彼の姿はモルドレッド卿の目に止まってしまった。アルフレッドを見付けた彼女は手勢を率いて彼に突撃をかける。
…パン! パン! パン! …ダララッ…!
「うひっ! …えっ! ちょ、ちょっと待った! 話せばわかる!」
足下に銃弾を受けて立ち止まったアルフレッドに、なおも剣を抜いたモルドレッド卿と銃を構えたテロリスト数名が迫る。
「俺らの王様をやらせはしねーぜ!」
その危機からアルフレッドを救ったのは、不意に乱戦の中から飛び出したラモラック卿であった。元プロ・フットボール選手である彼はその俊敏な足を活かし、狙いを定められぬようジグザグに動きながらテロリスト達を急襲する。
「なっ…!」
…パン! …パン! ギン! …ザシュ…!
「ぐあっ…!」
速攻で襲いかかるラモラック卿にテロリストは拳銃を二発連射するが、一発は的を外し、もう一発は盾をかすめただけで、次の瞬間には剣の餌食となって血飛沫を上げて倒れる。
「ぐおっ…!」
「うぐっ…!」
そのようにして、ラモラック卿は瞬く間に三人の敵を討ち倒した。
「…ハァ…ハァ……よっしゃーっ! これでハット・トリックだぜ! おい! 大丈夫か、陛下?」
「あ、は、はい! ありがとうございます…じゃなかった。うむ。でかしたぞ、ラモラック卿。褒めてとらす」
息を切らしながら粗野な言葉遣いで無事を尋ねるラモラック卿に、アルフレッドは思わず歓喜の声を上げた後、改めて王様っぽい口調で礼を述べる。
「おのれぇ、ラモラークっ!」
すると今度はそこへ、兵を殺され、怒りに満ちたモルドレッド卿が斬りかかった。
ギィィィィーン…!
だが、やはり十九歳の少女と成人男性、しかもフットボールの選手とでは肉体的な力の差がある。
「モルドレッド卿! いくら女の子でも、裏切り者には容赦しないぜっ!」
…ギン! …ギン! …ギン! …ギン…!
ラモラック卿は軽々とモルドレッド卿の剣を受け止めると、返す刀で激しく撃ち込み、僅かの間に彼女を押し倒してしまう。
「ぐあっ! …や、やめろっ!」
そして、黒い彼女の兜を剥ぎ取ると、豊かな黒髪を振り乱した彼女の白い首筋に冷たい刃を押し当てる。
「悪りぃな。だが、これも騎士の習いだ。謀反人を赦す訳にはいかねえからな。潔く円卓の騎士として天に召されな」
「ま、待って! 殺さないで! そうじゃないの! あたしはあのアグラヴェイン卿に脅されて仕方なくこんなことをしただけなの! 自分の意思で反乱を起そうなんて思ってなかったのよ!」
ところが、自らの死を前にしたモルドレッド卿は、いつにない若く非力な女の子の声を発し、涙目になってラモラック卿に慈悲を懇願したのである。
「……!」
その蒼白な顔の中で潤む瞳に、ラモラック卿は固まったように動きを止めて息を飲む。
「エミリー……」
彼の脳裏には、なぜだか、かつての恋人の顔が浮かんでいた。
なぜ、彼女のことを思い出したのかはわからない。髪の色も違うし、別に顔貌がモルドレッド卿と似ていた訳でもない……ただ、必死で懇願する彼女のその瞳が、最後に会ったあの日、別れ際に見せた恋人の悲しげな眼と同じ色をしていたとは言えるかもしれない。
「フッ…」
だが、その一瞬の隙が彼に取り返しのつかない悲劇を与えた。不意に哀れを誘う少女の顔が凶悪な笑みを浮かべたかと思うと、モルドレッド卿は肩から提げていた短機関銃の銃口をボディ・アーマーに覆われていないラモラック卿の脇の下へ突っ込み、迷うことなくトリガーを引いたのである。
「バカめ…」
ダララッ…!
「ぐごぉ…」
ラモラック卿は口から真っ赤な血を吐き出し、びくびくと身体を震わせてから後方へと倒れる。
「…エ…ミ…リー………」
そして、誰にも聞き取れないような微かな声でもう一度恋人の名を囁くと、そのまま敢え無く息を引き取った。
「あ、あああ……そりゃ、あんまりだ……」
その惨劇を傍らで目の当たりにしたアルフレッドは、彼女の無慈悲な行為に空恐ろしさを感じながら呆然と立ち尽くす。
「ラモラック卿……これも、伝説に似た死に方だな」
レガリアを守りつつ静観するベディヴィエール卿もどこか感心しているような口調で呟くが、その他の円卓の騎士達は各々の戦いに夢中で彼の死に誰も気付いてはいない。
「フン。かつて、モルゴースの不倫相手だったラモラック卿は、それを許せぬモルゴースの息子ガヘリス卿によって殺された……ガヘリスのなき今、その兄弟たるこのモルドレッドが代わりを務めてやったまでだ」
その周りだけ時の止まった空間の中、特になんの感慨もない様子で淀みなく立ち上がると、息絶え、奇妙な格好で大地に横たわるラモラック卿を冷徹な瞳で見下ろし、モルドレッド卿はそんな言葉をかける。
「皆の者っ! こっちだ! アーサー王を仕留めよ!」
そして、新たな手勢を呼び寄せると、再びアルフレッドの首を取りに向かって来る。
……パン! パン…!
「うひっ! ま、まだ来る気かよ⁉ ……な、何か……何か武器は……?」
迫り来る敵兵と顔の横をかすめて飛んで行く弾丸に、他人の死様に感傷なぞ抱いている場合ではないと悟ったアルフレッドは、なんでもいいから自分の生命を守ることのできる物はないかと、とりあえず辺りを探し回る。
すると、彼は己の手に握られた一本の発煙筒の存在に気付いた。
「そ、そうだ。こいつなら、殺傷能力はなくても目晦ましくらいには……」
最早、考えてる時間も他に役に立つような武器もない。アルフレッドは急いでその発煙筒の導火線にライターで火を点けると、向かって来る敵に向かって思いっ切りそれを放り投げた。
「ええい! これでも食らいやがれっ!」
…ブン…………ドオォォォォーン…!
ところが、発煙筒から上がったのは想像していたような煙ではなく、眩い閃光と爆風、そして、耳を劈くような轟音であった。
「うわっ…!」
重い空気の塊のようなもの食らい、アルフレッドは後方に転がされる。
「うっ…!」
同じく爆発地点から少し離れた場所にいたモルドレッド卿もその衝撃で地面に身体を放り出したが、先陣を切ってアルフレッドに向かって行った数人のテロリスト達はさらにひどいことに、地表の土くれともども木端微塵に吹き飛ばされていた。
「なんだ?」
「何? ……どうしたの?」
突然の爆発に、刃神もマリアンヌもその他すべての者が動きを止め、辺りには一瞬の静寂が訪れる。
「……だ、ダイナマイト?」
しばしの後、アルフレッドはようやく何が起こったのかを理解した。
「くっそぉ~! ベドウィル・トゥルブのヤツ、発煙筒だとかなんとかぬかしておいて、実は俺まで消す気でいやがったな。もしあのまま芝居続けてたら、あの哀れなテロリスト達みたくミンチになるところだったぜ。まっとうに商売してる詐欺師を騙すたあ、ひでえやつだ。もお~こうなったら意地でもお宝を奪い取ってやる!」
危うく爆死させられるところだったアルフレッドは、その怒りから俄然やる気を出して、勢い良く跳び起きると先程以上の勇敢さでベディヴィエール卿の方へ突進して行く。
「ベディヴィエール卿ーっ! 予は武器を持っておらぬ! エクスカリバーを、予の剣をこちらへよこすのじゃっ!」
ただし、先程の爆発で他の円卓の騎士達もこちらに注目していることを知ると、それを利用してベディヴィエール卿も下手に断ることができぬよう、芝居がかった威厳ある王の口調で注文を付けてやる。
「フン…ハハッ! 陛下、ではこの剣を!」
すると、予想外にもすんなりと、ベディヴィエール卿は一振の剣をアルフレッドの方へと放って寄こした。
「えっ⁉ …おわわわっ!」
な、なんか肩透かしだけど……やった!先ずはエクスカリバー、ゲットだぜ!
慌ててそれを両手で受け止めると、アルフレッドは心の中でほくそ笑む。しかし、ベディヴィエール卿は彼よりも上手だった。
「ん? ……おい! こりゃ、エクスカリバーじゃなくて〝石に突き刺さった剣〟の方じゃんか!」
それは、よく見ると、アルフレッドの作らせた例の精巧な玩具の方である。
「くっそ~…詐欺師なのにまた騙されたぁ。こんなのもらっても、どうしろっていうんだよ……んまあ、けっこう遊べたりはするんだけど」
その剣を特注の鞘から引き抜くと両手で顔の前に掲げ、アルフレッドは嘆く。
「おお! 陛下が剣を掲げておられる。まるでバドンの戦いのようだ!」
「アーサー王陛下万歳ーい! 蛮族を討ち滅ぼせえっ!」
だが、剣を持つ彼の姿を見た円卓の騎士達は、何か誤解している様子で歓声を上げる。
「ええい! こうなりゃもう自棄だ! 皆の者~っ! 我に続けぇ~! フォ~ロミィィィーっ!」
「オオーっ!」
そんな騎士達の姿に投げやりなアルフレッドもその気になり、その勇敢なお言葉に騎士達の士気はさらに高まった。
「ケッ! あのバカ、調子に乗り過ぎだ。ま、お蔭でパティーも盛り上がってきてイイ感じだけどな……うおりぁぁぁっ!」
ドグァシャァァーン…!
「ぐわっ…!」
「うごっ…!」
刃神は遠目に大根役者を演じるアルフレッドを眺めると、独白しつつテロリスト達の方へ突っ込んで行く。彼が振り回すヴロンラヴィンは、また二人のテロリストを薙ぎ倒した。
「見付けましたよ、ベイリン卿!」
ところが、前回のティンタジェルに引き続き、またもガラハッド卿、パーシヴァル卿、ボールス卿の聖杯騎士三人が、敵を掻き分けて彼の前に立ちはだかる。
「ああっ! てめえらぁ……おい、クソガキども! この前はよくもやってくれたなあ。あん時盗んだダヴィデの剣はどうした? あれは俺様のもんだ。痛ぇ目に遭いたくなかったらとっとと返しやがれ!」
三人の姿が目に映るや、刃神は苦々しく表情を歪め、片手でヴロンラヴィンの鈍く巨大な刃先を三人に向けて凄む。
「ああ、この剣のことですか。前にも申しました通り、前世以来この剣は私のものです。これは私が使わせていただきます。前回同様、私が修復に成功し、今の長さに合うよう新しく蛇革の鞘も作りましたしね」
しかし、そんな脅しに怯む若者達ではない。何食わぬ様子でそう述べると、ガラハッド卿は右手に握る剣を刃神の方へ突き出して見せた。青い月明かりに照らし出されたその刃には、赤いヘブライ文字が刻み込まれている……
それは、ティンタジェルで折れたはずのダヴィデの剣だった。しかし、以前のものよりかなり短くなっているように見える。
「そいつは……早々と焼き直しに出しやがったか。チッ、そんなに短くしちまいやがって。俺の愛しいダヴィデの剣がそんなになっちまったのも全部てめーらのせいだ!もう許さねえぞ、この三バカ聖杯トリオ! 今度こそブッた斬ってやる!」
月影にぼんやりと光るその刃を見つめ、一瞬、驚いたように目を見開く刃神であったが、それを遥かに上回る怒りの感情が彼の中に沸き上がる。
「こちらこそ、今度という今度はあなたの蛮行をやめさせ、再び円卓の騎士として目覚めさせてみせます!」
「こんなことはもうやめて、昔のように僕らとアーサー王にお仕えするんです!」
「そうっすよ! 前世の記憶を思い出すっす!」
それでも三騎士はたじろぐことなく、散開して剣や銃剣を構えながら、余計なお節介にも不忠な円卓の騎士ベイリン卿の説得を試みようとする。
「ほざいてろアホどもがっ! そのデンパ極まりねえ口をいい加減塞いでやる!」
火に油を注ぐようなことを口にする若僧達に、刃神は空いている左手で背中の偽〝キリストの剣〟を引き抜き、左右不釣り合いな大きさの二刀で斬りかかって行った――。
To Be Continued…
A suivre…




