ⅩⅤ アーサー王の帰還(1)
ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。
アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より
ティンタジェル島での騒動の翌朝、刃神とマリアンヌはティンタジェルの町にあるB&Bの食堂で、顔を突き合わせながらイングリッシュ・ブレックファーストを食していた。
「にしても、昨日の今日でよくそんな食欲あるわね。ほんと呆れた回復力だわ」
目の前で、皿に山盛りにされた料理をがっつく刃神を眺めながら、呆れたように…いや、完全に呆れてマリアンヌは言う。
「フン。昨日の今日だからこそ、良く食うんじゃねえか……モグ…タンパク質が大量に要んだよ…モゴモゴ…」
対して刃神はベーコンと目玉焼きを口いっぱいに頬張りながら、しゃべりにくい様子で面倒臭そうにそう答えた。
「まあ、そりゃ確かに傷直すのには栄養とらなきゃいけないだろうけどさ……でも、普通、そんな食べれないでしょ? あなた、昨日は歩けないくらいの大怪我して、高熱まで出してたのよ?あ!そうだ。もう一度忘れないように言っとくけど、そんなあなたが捕まらずにすんだのは、このあたしのおかげなんだからね。感謝しなさいよ?」
マリアンヌは皿の上のグリンピースをフォークで弄くりながら、なおも呆れ顔で刃神の食べっぷりを見物していたが、ふと思い出したかのようにそう付け加える。
昨夜、ティンタジェル島での戦闘で太腿を負傷した刃神は、マリアンヌの肩を借りつつも駆け付けた地元警察の手を掻い潜り、コーンウォール半島側の官憲の目の届かぬ場所まで逃れることができた。〝キャス・パルーグ〟を模した豹に警官達が翻弄されていたこともあったが、こんなこともあろうかと、二人が向かったマーリンの洞窟の中には来る途中に買っておいたゴムボートが隠してあったのである。
ちなみに後からランスロット卿を名乗る敵の一人も逃げて来て、反対側にある岩だらけの入江の方へと洞窟を抜けて行ったのであるが、その後、彼がどうなったかまでは知らない……。
まあ、それはともかくも、そうして陸へ上がった二人は借りていたレンタカーでティンタジェルの町へと戻り、刃神の傷のこともあったので、すぐさま適当なB&Bに観光客を装って入った。
二人の読み通り、さすがに警察も現場から目と鼻の先に賊がのんびり滞在しているなどとは思いもしなかったらしく、その宿に捜査の手が及ぶことはなかったが、折れた剣の先が太腿に突き刺さった刃神の傷は深く、チェックインの際、傷口から溢れ出る血を隠すのにも一苦労するくらい、結構な大怪我であった。いつもの悪態もなりを潜め、高熱を出してそのまま寝込む彼に、マリアンヌですらちょっと心配してしまった程である。
ところがだ。驚くべきことに、想像を絶する彼の超人的な自然治癒能力によって、翌朝にはもう、とりあえず歩けるまでに回復していたのである。
平気な顔で起き上っている彼の姿を見て、目を丸くしたマリアンヌが寝起きに訊いてみると、持ち合わせていたハーブを用いた魔術――つまりは、そうした自然治癒力を高めるための暗示を使ったのだとかなんとか刃神は言ってた。魔術武器以外に、どうやらそんなことも彼にはできるらしい……。
「ヘン。ったく、くそムカつくことだが、てめーの手を借りたのは事実だからな。ま、すぐにてめーの分までヤツら叩きのめして、そっちの取り分のお宝も奪い返してやるぜ」
恩着せがましく述べるマリアンヌに、刃神は感謝してるんだかしてないんだかわからないような悪態を吐いて答える。
「でも、まだその足じゃヤツらと一戦交えるには心許ないわね。どうする? 今はウィンチェスターにいるようだけど、雪辱戦仕掛けるのはもう少し後にする?」
「そうだな。あんなふざけた野郎ども俺様の敵じゃねえが、確かに今の状態で遣り合うのは利口たあ言えねえ……それに今から行ったんじゃ間に合わねえだろうしな。まあ、詐欺師の野郎がくっ付いてるんで、もしヤツらがどっかに移動したとしても、すぐに居場所が知れる。今さら焦ることもねえだろう」
二人が狙うアーサー王の宝物と、それを所持する新生円卓の騎士団のその後の動向はすでにわかっている。今日の未明に、騎士団とともにティンタジェルを後にしたアルフレッドから連絡があったのである。
その携帯メールによると、彼らはウィンチェスターにあるアジトへと一旦戻り、残してきた他の財宝や武器弾薬をそっくり持って、早々、どこか別の場所へ移動するのだそうだ。刃神達同様、ジェニファーからの情報により、警察側にもウィンチェスターに自分達の隠れ家があることを知られたためである。
「そういえば、あの王冠とか以外にも、アイツらアーサー王のお宝をたんまり貯め込んでるみたいじゃない? ちゃんと全部持ってってくれればいいんだけど、もし警察に踏み込まれて、押収されたりなんかしたら大損だわ」
ようやく弄んでいたグリンピースをその可愛らしい口に運んでから、マリアンヌはそんな心配ごとをぼやく。
「詐欺師と違って、あの殺されかけてた刑事の女は途中で脱落しちまったからな。サツも正確な位置までは摑んじゃいねえはずだ。ウィンチェスターと言ったって、それなりの広さはある。ま、引っ越しの時間は十分にあんだろ」
自分のものになる予定の宝を勝手に心配する彼女に、刃神はブラック・プディングへフォークを突き立てながら返事をする。
「ならいいんだけど……ま、でも今回、アイツらを取り逃がしたおかげで、他のお宝も手に入る目算が出てきたんだから、考えようによっては結果オーライだった?」
「フン! 良かあるかよ。こうして足をやられた上にダヴィデの剣を折られて、その上、そいつまで持ってかれちまったんだからな。クソ忌々しい。次に会った時にはその代価として、エクスカリバー以外の刀剣類も全部ひっくるめていただいてやるぜ」
顔を不快そうに歪めて刃神はそう言うと、今度は焼きトマトに勢い良くフォークを突き立てる。ガチャンと大きな音がして、周りで同じように朝食をとっていた宿泊客達が野蛮人を見るような目を一瞬向け、再び自分達のテーブルの方へと向きなった。
「もう、ちょっとやめてよ。お行儀悪いわね……なんにせよ、次にアイツらがどこに行くかわかるまでは手が出せないわ。となると、またムシュー・ターナーの連絡待ちね。これからどうする?」
「とりあえずロンドンに戻る。得物を一本なくしちまったからな。仕方ねえ、緑男の骨董店のオヤジに預けてある〝キリストの剣〟を取ってこなきゃならねえ。その後は詐欺師から連絡があるまで、バースにでも行って湯治と洒落込むとしようぜ」
恥ずかしそうに小声で注意しながら訊くマリアンヌに、刃神はそう答えると、カップに残ったミルクティーをぐいと一気に流し込んだ――。
その日の早朝、ハンプシャー州・ウィンチェスター……。
あのヘンリー八世の〝円卓〟が掛るグレートホールからそれ程遠くない距離にある通り沿いに、輝くオレンジ色の朝日をガラス壁に反射させて、周囲の煉瓦や石造りとは一風変わった赴きの建物が涼やかに建っている……ガラスと鉄骨をふんだんに使ったその造作は、おそらく1851年のロンドン万博でハイドパークに建てられたパビリオン―水晶宮を模して、ヴィクトリア朝後期に流行した建築様式であろう。
在りし日の水晶宮を思わす、正面の壁すべてがガラス張りに近い流麗な建造物……それが、新生円卓の騎士団の本拠地〝ティ・グウィディル〟である。
ガラス張りではあるが、透明な壁の向こうは秘密のヴェ―ルに覆われ、外からは決して覗い知ることのできぬ彼らの城の中で、アルフレッドは刃神達の期待を他所に、今後の身の振り方を悩んでいた。
「逃げるべきか、逃げざるべきか……それが問題だ……」
アルフレッドは中世騎士の鎧を木箱にしまいながら、『ハムレッド』を気取った台詞を他の者には聞こえないよう、小声で呟く。
「皆、急ぐのだ! もたもたしていると、官憲に包囲されてウィンチェスターを出れなくなるぞ!」
その背後では、忙しなく行き交う騎士達の足音と、その騎士達を急かすベディヴィエール卿の声が聞こえている。現在、アルフレッドは他の円卓の騎士達とともに、地下の武器庫でこのティ・グウィディルを引き払うための荷造りをしているのだった。
その作業は、まだ日も出ない内にここへ到着してから休む間もなく始められた。無論、マリアンヌが心配するまでもなく、いつ警察の手が回ってもおかしくないとわかっているからである。
「もしここで警察に捕まったら、俺も共犯にされてヤツらと一緒に一生ムショ暮らし…いや、下手すりゃこれもんだよ?」
アルフレッドはまた小声で独り言を呟き、指でキュっと首にかけた縄を絞める仕草をしてみせる。
「それに万一、俺もあのエニード夫人みたくスパイだなんてわかった日にゃあ、ヤツら本気で俺を八つ裂きにして、その上、火焙りにまでしかねない雰囲気だからな……ぶるぶる、おお、怖……」
続けて葬儀の時の騎士団の様子と、けしてないとはいえない自身の処刑される姿を思い浮かべ、彼は青い顔で身震いをする。
少し戻って昨晩の行動から話をすると、ティンタジェル城をボートで脱出した彼らは、母船のプリドウェンへと戻り、さらに警察の手の届かぬ沖へと出ると、そこで亡くなったガヘリス卿の葬儀を執り行った。
船上で仲間達に見守られながら、牧師服に着替えたガラハッド卿の祈りの言葉を受けた彼女は、その後、鎧姿のままボートに再び乗せられ、騎士らしく剣を胸の上に戴いて、そのまま大海原へと流された。
それは、ゆっくり葬儀を行っている時間がないという理由もあったが、潜入したマクシミリアンとジェニファーに顔を知られ、今や立派なお尋ね者となった彼女を教会で弔ってやることも、また公共の墓地に埋葬してやることもできなかったためでもある。
とはいえ、遺体を舟に乗せて流すという方法は、ランスロット卿に恋焦がれ、報われぬ片思いの末に亡くなった〝シャルロットの姫君・エレイン〟のように、アーサー王伝説に登場する人物にはよく見られるものであり、新生円卓の騎士の一員であった彼女としては似合いの葬送だったと言えるのかもしれない。
ただし、ランスロット卿に対して恨みの念を抱く彼らの内に、そう思っていても口に出す者は誰一人いなかったのではあるが……。
また、牧師を志していたガラハッド卿がその場にいたことも、不幸な死を迎えた彼女にとってはせめてもの幸いであったろう。青年司祭の朗々と読み上げる祈祷文が夜の海に響く中、騎士達は皆、悲しみに暗く沈んだ瞳を冷たくなった仲間の上に力なく落としていた。中にはガウェイン卿など、大粒の涙を流し、すすり泣く声を洩らす者さえあった。
……しかし、葬儀に列する騎士達を覆っていたのはそんな悲壮感ばかりではない。
ただ独り、昨日今日あったばかりの者の死に特別な感慨を持てないアルフレッドは、皆に合わせて沈痛な表情を造りながらも、彼らの淋しげな背中から周囲の闇に沁み出る、裏切り者に対する怨嗟の念をひしひしとその肌に感じていた。
特に妹のような存在だったガヘリス卿を殺されたガウェイン卿の怒りはひとしおで、ほんの僅か、指先だけでも彼に触れれば、その煮えたぎる恨みの炎で焼き尽くされてしまいそうな激しさである。
そして、その悲しみと怒りに包まれた葬儀を滞りなく終えた一行は、すでに捜査の網が張られている懸念も多少はあったが、密かにもと来たサウサンプトンへと進路を取り、警察の対応の遅れか、思った以上に何事もなく寄港すると、来る時に停めておいたワゴン車二台に乗り換え、こうしてウィンチェスターの根城へと戻って来た訳である……。
ああ、やっぱしティンタジェルで逃げとくべきだったかなぁ……思わずついて来ちゃつたけど、なんか、このままここにいると、ものすごくヤバイことになる気がしてならない……。
アルフレッドは、心の中でなおもぼやく。
居所はこうして摑んだことだし、別にもう仲間の振りしてなくても、後はこっそり尾行してれば問題ないでしょ?譲ちゃんからの返信じゃ、旦那の怪我も結構ひどいみたいだから、いつ来てくれるかもわかんないし……これ以上長居してたら、冗談じゃなくスパイだってバレる危険性もある……うん。ここはやっぱし、隙を見て逃げ出すことにしよう!
「何をぼうっとしているケイ卿。そんな暇はないぞ?」
今後の身の振り方に悩むあまり、手が疎かになっていたアルフレッドをベディヴィエール卿が諌めた。
「おっと! ……あ、ああ、すみません。ちょっと今後の自分の運命が心配になってたりしまして……」
我に返ったアルフレッドは、己の心の内を見透かされてはいまいかと、ビクビクしながら取り繕う。
「何、心配は無用だ。このティ・グウィディルを引き払っても、すぐに我らの新しい城は見付かる。新生円卓の騎士団はこれまで通り。なんの問題もない……さ、そんなことは気にせず、今度はそこの剣をしまうのだ。それ、その岩に刺さってるやつだ」
すると、アルフレッドにとっては好都合にも、どうやらその言葉を取り違えてくれたらしく、ベディヴィエール卿は頼もしく彼を諭して、気を紛らわせようと指示を与える。
「あ、はいはい。これっすね……ああ! これは…」
その指差された壁際を見ると、そこに置かれていたのはワイン樽ほどの大きさの岩に金床がめり込み、その金床に一本の長い剣が突き刺さっているという奇妙な代物であった。
その物体にアルフレッドは見憶えがある……それは、旧トゥルブ家邸博物館の開館にあたり、彼がアーサリアン向けに用意した玩具の〝石に突き刺さった剣〟の見本だったのだ。
「いや、懐かしいな。こんなもんまで一緒に盗んできてたのか……」
アルフレッドは驚きとある種の憧憬の念を持ってそれを見つめる。その本物を意識して精巧に作られた玩具の剣は、博物館が円卓の騎士団に襲われたあの夜、生前のハンコック博士との最後の会話でも話題に上った品である。
「結局、ハンコック博士にはこれで遊んでもらわずじまいになっちまったなあ……」
亡き人を偲びつつ、アルフレッドは何気に剣の柄に手をかけると、するりと金床から引き抜いてみた。
「ああ、まだ俺がテストで登録したままになってるな…」
「ちょ、ちょっと、何したんですか⁉」
ところが、剣を顔の前に掲げて感慨深げに眺めるアルフレッドを見て、突然、ボールス卿が大声を上げる。
「え? ……何って……なに?」
その言葉の意図がまるでわからず、キョトンとした顔でアルフレッドは聞き返す。
「何って、その剣ですよ! どうやって抜いたんですか⁉」
「え? 剣? ……って、これのこと?」
「ああっ! それは私が試しても抜けなかったのに……」
いまだ意図の汲み取れぬアルフレッドだが、今度はガラハッド卿が目を見開いて口走る。
「ガラハッド卿だけじゃないっす! 俺も、ここにいる誰もそれを抜くことはできなかったっすよ!」
さらにパーシヴァル卿も驚愕の表情で叫び、それに続いてアルフレッドを見た他の騎士達の間にもどよめきが沸き起こる。
「そうだ。どんなに引っ張っても抜けなかったのに、一体、どうやって……」
「いや、誰にも抜けなかったこの剣を抜くことができたということは、つまり、彼がアーサー王の……」
そして、トリスタン卿の呟きに、ついにパロミデス卿などはそんなとんでもない結論へと到達する。
「そうか! 彼はケイ卿ではなく、本当はその弟である我らが王、アーサーの生まれ変わりなのかもしれないぞ! アーサー王とケイ卿は兄弟として育てられ、長じては王と国務長官の間柄になった。ならば、同じような前世の記憶を持っていてもおかしくはない」
「それなら、さすがのベディヴィエール卿だって判断を間違えるかもしれませんね! あ、そういえば、彼の本名は確かアルフレッド……このウィンチェスターに都を置いたかのアルフレッド大王と同じです。アルフレッド大王といえば、アーサー王同様、攻め寄せる外敵からこのブリテンを守った偉大なる英雄……」
「んじゃあ、こいつが…あ、いや、このお方が俺達の……王様……」
続いて、ガウェイン卿、ユーウェイン卿、ラモラック卿もそんなもっともらしい理由つけて、俄かに興奮を覚える。
「あ~あ、そういうこと……」
ここで、ようやくアルフレッドは彼らが驚いている理由を理解した。事情を知らずに盗んできた彼らは、この〝石に突き刺さった剣〟を本物――つまり、アーサー王が引き抜いて、自らにブリテンの王となる資格があることを示した剣だと思い込んでいるのだ。
いや、それどころか信じ難いことには、その剣を抜くことができたアルフレッドこそが、実はアーサー王その人の現世における生まれ変わりであると信じ始めているのである。
そんなあり得ないことを本気で考えるとは、どうやら彼らにかかっているマインド・コントロールの強さはかなりのものであるらしい……。
「なるほど……皆さんには冗談にならない玩具だった訳ね」
騎士達が期待と畏敬の眼差しで注目する中、独りアルフレッドは納得して頷く。
だが、なんのことはない。アルフレッドだけに剣が抜けたのには種も仕掛けもあるのだ。
この剣はその柄の部分に指紋認証システムが内蔵されており、柄を握ることで指紋を確認するようにできているのだが、あらかじめ登録しておくと、その登録した者以外は剣を金床から抜くことができなくなるという、実はかなりの優れものの、お値段もそれなりにしたりする、お金持ちな大人用に作られた超ハイテク玩具なのである(ちなみに剣身も、玩具ながらちゃんと刃の付いた本物の真剣となってたりする)。
そして、業者から納品された直後に盗まれたために、剣にはちゃんと仕掛けが働くかどうか試そうとアルフレッドが自分の指紋を登録したままになっていたのである。
「あ、いや、こいつはね…」
しかし、アルフレッドはその仕掛けを説明しようとして、そこで不意に口を止めた。そんなことを知っているのは旧トゥルブ家邸博物館に関わっていた内部の人間以外あり得ない……即ち、それを語るということは、自分に疑いの目を向けられることに繋がりかねない訳だ。
いや、それはマズい……みんな、こんなキラキラした純真な目をして期待してるのに、それを裏切って、なおかつ不審な点があるなんてわかったら、それこそ火に油を注ぐようなもんだ……ええい、仕方ない。こうなったら、こっちもその勘違いにとことん付き合ってやるってもんだ!
「そ、そういえば、前世でもこんなことを経験したことがあるような……ああ、だんだんと思い出してきた。そうだ、確か兄さんの剣を宿に忘れて困ってたら、この岩に刺さった剣を見付けたんで、こいつは渡りに舟と引き抜いたんだった……」
アルフレッドは腹を括り、彼らの話に合わせて猿芝居を打ち始める。
「おお、では、やはり貴方様が……」
その拙い大根芝居にも、騎士達の間からは感嘆の声が漏れる。
「そうか! 我らの王は、もう既にこんな近くにいらしたんだ!」
「ついに……ついに待ち望んでいたアーサー王が僕らの前に現れたんですね!」
な、なんて、騙されやすい奴らなんだ……んま、マインド・コントロールかかったカルト信者なんてこんなもんか。こっちとしちゃあ、その方がやりやすくていいっすけどね……いや、それどころか、こいつぁもしかして、うまいことやれば、案外簡単にお宝が手に入るかもしんない……。
「うむ。我が円卓の騎士達よ。ずいぶんと長らく待たせたな。この剣のおかげで、我はようやくそのことを思い出した。そう……我こそがブリテンの王アーサーだ。現在、いろいろと大変な状況にはなっているが、もう大丈夫。これからは安心して我について来るがよい。フォ~ロー・ミィーっ!」
皆の歓声にアルフレッドは調子に乗って、さらに芝居がかった口調で剣を天に掲げる。
「おおおお! 我らの王よ!」
「我らの王、アーサーに神の祝福を!」
「アーサー王、万歳!」
だが、そうしてアルフレッドの田舎芝居にますます盛り上がりを見せる騎士達の中、他とは異なり、醒めた目でこの偽者の王を見つめる人物がいた……モルドレッド卿である。
「………………」
彼女は、それまで信じていたものに失望したというような、何かに期待を裏切られたというような表情をして、アルフレッドの方をじっと黙って凝視している。
加えてもう一人、ベディヴィエール卿もまた、他の者達とは違った感想を持って、この詐欺師の素人芝居を鑑賞していた。ただし、彼はモルドレッド卿ともまた違って、外見上は皆と同じに大変、愉快そうである。
……フフフ…これはいい。これはいいぞ……私もまったく見憶えのないあの剣の抜き方を知っていたところを見ると、どうやらこの男にも色々と裏がありそうだが、我が物語に疑念を抱き始めた騎士達の心を再び一つにまとめるには絶好の機会だ……悪いが、そなたのことをとことんまで利用させてもらうぞ……。
「さ、急がないとここへも警察の手が及びます。積もる話もありましょうが、先ずはここを出て、どこか安全な場所へ移動してからにいたしましょう、ねえ、陛下?」
ベディヴィエール卿はその口元を狡猾な笑みに歪めると、アルフレッドに向かって慇懃な言葉遣いでそう奏上した――。
To Be Continued…
A suivre…




