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 ⅩⅠ 円卓のカウンセリング(3)

ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。

       アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より

挿絵(By みてみん)

 それから20分ほど後……。


 ピカデリー・サーカスから地下鉄で二駅先のコヴェント・ガーデン駅まで行った刃神達三人は、駅から北上してニール・ストリートを歩いていた。


 この若者やオシャレなロンドンっ子に人気のあるこじんまりとした通りは、平日の午前中であっても結構な賑わいを見せている。狭い通りに面して立ち並ぶビーズ・アクセサリーの店やお茶専門店、アフリカ民芸の店やベルギー料理店など、個性豊かな店舗を物色しながら、センスの良い地元民やロンドンを訪れた旅行客達がぞろぞろと歩いている。


 そうした人の波を掻き分けるようにして、刃神達も左右をきょろきょろと眺めながら、通りを北方向へと進む。ベドウィル・トゥルブが恋愛カウンセリングを行っている〝カウンセリング・オブ・円卓(ラウンドテーブル)〟を捜しているのだ。


「あ! ありましたよ。あそこです」


 しばらくすると、アルフレッドが前方を指差し、他の二人にその場所を示した。見ると人々の頭越しに円卓にハートの(キング)を組み合わせた看板の絵が目に映る。アルフレッドが言っていた通り、小さいが赤煉瓦と白い壁のなかなかに小洒落た建物である。


「どうやら今日はやってるみたいね……さてと。それじゃ、さっそく作戦開始と行きましょうか。これまでの豊富な恋愛経験から嘘の悩み(・・・・)もばっちり思い付いたし」


 入口のドアに掛った「オープン」の看板を確認すると、マリアンヌは準備運動でもするかのように手を組んで腕を伸ばしながら言った。


「ま、小娘のてめーに豊かな経験があるとも思えねえが、無知な小娘を自でいきゃあ、なんとか騙せるだろ」


 隣を歩く刃神も円卓の看板を不敵な笑顔で見つめながら、いつもの悪態を口にする。


「だから誰が無知な小娘よ! ほんっと、あんたって失礼なヤツね!」


 そのコメントに、やはりいつものようにマリアンヌが声を荒げようとしたその時。


「ちょっと待て!」


 不意に刃神が真面目な表情を見せたかと思うと、手を挙げて彼女の口を制する。


「おい、あれを見ろ」


 そして、なぜか声を潜ませると、診療所の方を顎で示したのだった。


 怪訝な顔で刃神を見つめ、彼の示す方向へと再び視線を向けるマリアンヌだったが、その言葉の意味するところを彼女もすぐに理解した。


 カウンセリング・オブ・円卓(ラウンドテーブル)の前を行き交う人々の雑踏の中に混じって、彼らが見覚えのある人物――先日、ストーン・ヘンジで唐突に話しかけてきた、あの奇妙な男女二人組が立っていたのである。


 即ち、刃神とマリアンヌは未だその名も素生も知らないが、マクシミリアン・フォン・クーデンホーフ捜査官とジェニファー・オーモンド刑事である。刃神達と同じ目的でスコットランド・ヤードを出た二人は、タクシーに乗って一足早くこの場所へ着いていたのだった。


 ここニールストリートは、ブロードウェイ街にあるヤードからもほど近い。つまり、大胆不敵なことには、刃神達がいつも屯している緑男の骨董店(グリーンマンズ・アンティーク)とヤードも、やってる裏の商売(・・・・)のわりに実はそれほど離れていない距離にあったりなんかする……。


「見付かるとマズイな。そこらに隠れるぞ」


 刃神はそう小声で告げるや、マリアンヌと独り訳がわからぬという顔をしたアルフレットを促して、診療所の斜め前にあった占いグッズの専門店へと急いで入る。氏素性は摑んでいないものの、彼らがおそらく警察関係者であろうことを刃神もマリアンヌも感覚的に嗅ぎ取っている。


「なんであいつらがこんなとこにいるわけ?」


 水晶玉やら占いに使うウジャ板やらが並ぶ店のショーウィンドウ越しに二人を見つめ、マリアンヌが刃神に尋ねた。


「俺達と同じってこったろう。あいつらもベドウィル・トゥルブの居場所を突き止めたんだ。おっ、中に入ってくぞ!」


 同じくショーウィンドウから様子を覗いつつ刃神が答えている間にも、二人は診療所の入口のドアを開け、建物の中へと消えて行く。


「あいつら、やっぱり騎士どもを追ってるサツだったらしいな……さもなきゃ、あの後、別れ話の持ち上がったカップルか、〝円卓〟と聞いて吸い寄せられた本当に物好きなアーサリアンかだ」


「あのう、ちょっとばかし説明をいただけるとありがたいのですがあ……」


 険しい表情で外に視線を向ける刃神に、アルフレッドが遠慮しがちに尋ねる。


「ああん? ……ああ、そうか。てめーはいなかったからな。いやなに、この前、ストーン・ヘンジを小娘と一緒に調べ行ったんだがな、そん時、あの二人に偶然、出くわしたんだよ。でな、ヤツたの言うには――」


 刃神はその時の経緯を手短に話して聞かせた。


「――なるほど。んじゃあ、あの二人も旦那達と同じように、アーサー王関連の遺跡を調べて回ってるぽかったっつうことっすか? そうか。それで旦那達も知ってたんすね……いや、彼らがサツだったっていう予想は当たってますよ」


「えっ⁉」


「んだと⁉」


 さらっと口にしてくれたアルフレッドのその核心を突く言葉に、マリアンヌと刃神は同時に声を上げる。


「おい、てめー、あいつらに見憶えでもあんのか?」


「いえ、見憶えがあるって言っても、二言、三言交わしただけなんすけどね。実は旧トゥルブ家邸博物館が襲われたあの日、丘城(ヒルフォート)の遺跡を見学しに来てたんすよ――」


 驚きの声を上げる刃神に、アルフレッドは彼らがICPOとユネスコの協同プロジェクトで来た担当官と、その世話役らしきスコットランド・ヤードの女刑事であることを掻い摘んで述べた。


「――ああ! それで思い出した! たぶんその時、偶然、あたしもあの発掘現場にいたのよ。そっか。やっぱりあたし、前にもあの男を見てたんだ……」


 すると、今度はマリアンヌの方がポンと手を叩いて、得心がいったという声を上げる。


「なるほどな。それなら納得がいくぜ。どうりで、あの騎士野郎どもとマーリン所縁のストーン・ヘンジを結びつけて考えられた訳だ。頭の固えサツどもにしちゃあ、よく気付いたと思ってたんだよ。だがそうなるとだ。なんで、んなICPOが騎士どもを追ってんだ?その道に通じてるってとこで捜査に引っ張り出されたか?」


「ま、そんなとこじゃない? 前日行った場所であんな事件が起きちゃったってのもあるし、その後も幽霊の狩猟やらアーサー王関連の遺跡やらでもいろいろと……あ、そうよ! ベドウィル・トゥルブの話ですっかり忘れてたけど、あなた達、今朝の朝刊の記事見た?」


 刃神に答えたマリアンヌが、ふと何かを思い出したかのように二人に尋ねる。


「おお! それだ! あれだろ? 昨日の晩辺りにダラムやドーストンにあるアーサー王の遺跡が何者かに荒されたっていう。ウェールズのアングルシーでもやられたらしいな。他にストゥのウェデイル聖マリア教会やペンザンスのセント・マイケルズ・マウントにも賊が入ったらしいが、この二つもアーサー王伝説に関係のある場所だ」


 マリアンヌの言葉に刃神も頷くと、確認するようにその記事の内容を口にした。


「らしいわね。しかも、セント・マイケルズ・マウントには円卓の描かれた旗が残されてたようだし、これもヤツらの仕業と見て間違いないわ」


「ああ、俺もその記事見ましたよ。そうなると今度は五ヶ所で同時多発的ってことっすよね? まったく仕事熱心なことで。でも、その遺跡で奴さん達、何かお宝手に入れられたんですかね? ストゥの教会では由緒ある古い布だかが盗まれたらしいっすけど、他の宝物が埋まってる伝説はどうにも嘘臭いんですが」


 その事件のことはアルフレッドも知っていたらしく、感心してるんだか、呆れてるんだかわからないような態度で他の二人を交互に見やる。


「さあな。ヤツらにとっちゃ、アーサー王絡みならそんなことも関係ねえのかもしれねえ……んにしても、ダラムやドーストン、アングルシーなんかには、その前に俺達も行ってたんだがな。チッ! ニアミスだったぜ。もう数日遅くに行ってりゃあ、奴らを取っ捕まえられたってのによう」


「確かに惜しかったけど、今更言っても仕方ないわ。それより、どうするのよ?あの二人がいるんじゃ、顔を知られてるあたしは中に入れないわよ?」


 ギリギリと歯を噛みしめ、苦々しく舌打ちする刃神だったが、マリアンヌはいつになく大人な態度であっさりそう言うと、話題をまたもとに戻した。


「日を改めて来てもいいけど、向こうが捜査目的で潜入してるんなら、それでもいずれ出くわすわ。暗がりで出逢ったあの騎士さん達と違って、あいつらにはお日様の下でまじまじと顔を見られておしゃべりしてるからね」


「そうだな。これじゃ小娘にこの仕事は無理だ。同じく面の割れてる俺もな。となりゃあ、残るは……」


 刃神も今、目の前にある問題に頭を切り替えると、そう言いながらマリアンヌとともにゆっくりアルフレッドの方へ視線を移動させる。


「……えっ⁉ 俺っすか?」


「ああ。さっきの話じゃ、(ツラ)を憶えられるほどに関わっちゃいねえようだからな。俺達の中じゃ一番、危険性は低い。ちいとばかし格好を変えりゃあ、充分いけんだろ」


「そうね。それが最良の策ね」


「うーん……急な話で心の準備ができてませんが、ま、そういうことなら致し方ない。あん時はグラサンかけてたから顔はバレてないでしょうし、嘘と芝居は俺の専門分野っすからね。ここは詐欺師の腕前、披露させていただきますよ」


 有無を言わさぬ二人の視線に、アルフレッドはしぶしぶという口調ながらも満更でもない様子で、その変更案を受け入れた。


「そんじゃ、『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』とでもいきますかあ」


「アーサー王のヤンキー? ……何それ?」


 久々の本職とあって、気合を入れるように首をポキポキ鳴らしながら言うアルフレッドの聞き慣れぬ言葉を拾い、マリアンヌが怪訝そうに尋ねる。 


「ああ、マーク・トゥエインの小説っすよ。アダムスの旦那の仕事受けてから参考のために読んだんすけどね。19世紀のコネチカット州のヤンキーがアーサー王の時代に迷い込んで活躍するお話です。なかなかおもしろいんで、もしよかったら読んでみてください」


「なるほどな。アメリカ人(ヤンキー)のてめえがヤツらんとこ潜り込むのと同じって訳か」


 その説明には、マリアンヌの代りに刃神が納得した様子で頷く。


「ま、そういうことっす。じゃ、俺の成功を祈っててくださいな。運が良けりゃ、あのサツカップルの思惑も掴んできまさあ」


 その通りとばかりにアルフレッドは答えると、ひょいと帽子を抓み上げて二人に挨拶をし、占いグッズ専門店から表の通りへと出て行った。


「さあて、賽は投げられたわよ」


「細工は流々、後は仕上げを御覧じろだ」


 一度、入口のドアの前で手を上げて合図をしてから意気揚々と診療所の中へ入って行く彼の姿を、刃神とマリアンヌはショーウィンドウ越しに見送る……すると、そんな二人の方へ魔女宗(ウィッカ)の魔女のような服装をした若い女性店員がおもむろに近付いて来た。


「あのう、何かお探しものですか? でしたらお手伝いいたしますが?」


 先程から窓際の商品の前で何かごにょごにょと長話をしている彼らに、彼女は勘違いをしたらしい。


「あ、いえ、別にそういう訳じゃ…」


 慌てて前に出した手を振ってマリアンヌはそう否定しようとしたが、刃神は何を思ったか、落ち着いた様子でその申し出に答える。


「そうだな。んじゃあ、せっかくだし、西洋魔術の短剣(ダガー)魔女宗(ウィッカ)黒柄短剣(アセイミ)を十本ばかしいただいてこうか。その内、そいつらの役に立つ時が来そうだからな……」

To Be Continued…

A suivre…

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