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 Ⅹ 探求者達の旧所名跡ツアー(3)

ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない。

       アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より

挿絵(By みてみん)

 一週間後、正午より5分前。サマセット州・サウスキャドベリー丘……。


 この大きな堀で囲まれた高さ150メートルの丘の平らな頂に、新生円卓の騎士団の面々は穏やかな春風に吹かれながら立っていた。


 長閑な村の丘城遺跡には他に見物客もなく、辺りを見回してもいるのは彼らだけである。一週間前、〝マーリンの予言書〟に従ってそれぞれに与えられた冒険の結果を報告し合うべく、約束通り彼らはこの地に集まったのであった。


 しかし、正午までにはまだ若干の時間があるせいか、円卓の騎士達は全員揃ってはおらず、姿が見えるのは男6名、女2名の計八名である。


「ここがキャメロットの有力な候補地の一つ、かのサウスキャドベリー丘城なのですね?」


 すでに集まっている者の一人、黒いジャケットを羽織った学生風の若者が、頂上からの雄大な景色を眺めながら弾んだ声で言った。


「そう。テューダー朝の好事家ジョン・リーランドがキャメロットの跡だと考えた場所だ。16世紀以降、地元の人々もここを〝キャメロット〟と呼び、教会の南には〝キャマレイト〟なる地名がある。そこにはかつて有名な城か町があって、アーサー王がよく訪れていたという伝承もあるそうだ。1960年にレズリー・オールコックが発掘調査をした際には、この頂上部分からローマ時代の宴会用大広間の跡が見付かっている。宴会用の広間は、アーサー王の生きた当時の城には不可欠なものだ。また、木材による五重の櫓付き城壁と木製の門楼があったこともわかっているな」


 若者の問いかけに、彼の背後に立つ灰色のスーツにソフト帽を被ったベディヴィエール卿が観光ガイドのように説明する。


「確か、紀元61年の王妃ブーディッカ率いる〝イケニ族の叛乱〟の時の跡も見付かっているとか」


「さすが元将校だな、ガウェイン卿。ここの発掘では人の骨や武器、炎による城の破壊の跡なども確認されているが、その乱の際、ウェールズから帰って来たローマの司令官スエトニウス・パウリヌスの軍が行ったものだと考えられている。もう一つ付け加えると、ここは七王国時代のブリトン人の王国〝ドゥムノニア〟の領土内にも位置する。一説によると、アーサー王はこのドゥムノニア王国の王族ではなかったかとも言われているな」


 同じくすでに到着していたガウェイン卿の言葉に、振り返ったベディヴィエール卿はそう補足を加える。


「では、やっぱりここがキャメロットである可能性が高いんですね…」


 再び黒いジャケットの青年がそう口を開こうとした時。


「いや~遅れてすみません」


 まだ到着していなかったユーウェイン卿、パロミデス卿、ラモラック卿の三人組が、急な丘の坂道をあくせく登って姿を現した。


「ほんとはもっと早く着くつもりだったんですが、昨夜飲み過ぎたラモラック卿がなかなか起きてくれなかったものでして……」


 到着早々、いつもの申し訳なさそうな顔をしてユーウェイン卿は皆に謝る。


「別に遅刻したわけじゃねえからいいじゃねえかよ。ほら、時間ちょっきしだぜ?」


 そんなユーウェイン卿のとなりで、少々二日酔い気味のラモラック卿はスポーツタイプの腕時計を見せながら反論する。


「私達で最後ですか?」


「いや、ランスロット卿がまだ来ていない。遅刻だな……」


 さらにそのとなりで、既に集まっている仲間達を見回して尋ねるパロミデス卿に、渋い表情でガウェイン卿が答えた。見ると、確かにランスロット卿のすらりとした長身はその中に見られない。


「まあ、その内来るだろう。では、定刻となったので、冒険の報告をそれぞれに始めてもらいたいと思う」


 だが、それをあまり気にはしていない風のベディヴィエール卿は、そう言って各人の冒険報告会をさっそくに始めた。


「そうだな、先ずはダラムの〝アーサーの丘〟に行ったガラハッド卿、ボールス卿、パーシヴァル卿の三人からお願いしよう」


「はい……それが……」


 一番手に指名されると、それまではにこやかだった黒ジャケットの青年始め、ダラム組若手三人の顔が急に暗くなる。


「がんばってアーサーの丘を掘ったんすが、宝はさっぱり出てこなかったっすよ。騎士達の亡霊も出てこなかったんで、それはまあ良かったんすが……」


 パーシヴァル卿が、訴えるような眼を向けてベディヴィエール卿の問いに答える。


「すみません。冒険は失敗です。かなり探しはしたのですが……」


 続いて、牧師のような黒服の若者も申し訳なさそうに述べる。


「そうか……まあ、時にはそのようなこともある。そんなに気を落とすな……それでは次に、アングルシー河畔の〝アーサーの洞窟〟に行ったガウェイン卿、モルドレッド卿、ガヘリス卿。そなた達はどうだった?」


 二番目にベディヴィエール卿がアングルシー組三人を指名すると、名を呼ばれたガウェイン卿もその表情を硬くする。


「それが、恥ずかしながら我々も失敗に終わりました。環状列石の立っていたと思しき所を掘り返してはみたのですが、財宝はおろか、それを守る魔法の生き物達の気配すら見られず……」


「こういってはなんだが、あんな所にアーサー王の財宝があるようには思えなかったぞ?あれはただの迷信の類いではないのか?」


「ええ。わたくしもお兄さまの意見に賛成ですわ」


 一方、畏まって報告するガウェイン卿の傍らで、モルドレッド卿とガヘリス卿の二人は不満大ありという態度で逆に文句を口にする。


「こら、お前達なんてことを言うんだ!」


「まあよい、ガウェイン卿。二人がそう言うのも冒険を成し遂げられなかった悔しさが故のことだろう。これからもその悔しさをバネに己の騎士道を磨くのだ。次、今度はドーストンの〝アーサーの石〟に行ったユーウェイン卿、パラミデス卿、ラモラック卿。貴殿らだ」


 妹…というか、弟にあたる二人を嗜めるガウェイン卿だったが、そんなロッド王の長兄を宥めると、ベディヴィエール卿は今しがた来たばかりの三人の方へ視線を移した。


「まあ、なんと申しましょうか……実はこちらも手ぶらで……」


「ええ。同じく岩の下付近を掘ってみましたが、人間の骨みたいなものは何も出てきませんでした」

すると、ユーウェイン卿とパラミデス卿も、先程からの申し訳なさそうな顔のままにそう報告する。


「仕方ねえよ。あんだけ掘っても出てこなかったんだからよ。俺達のミスじゃない」


 ドーストン組のもう一人ラモラック卿も、相変わらず反省の色は見せぬ代わりに、他の二人を慰めるように言う。


「そうか。そちらも駄目だったか……では、ランスロット卿はまだなので、とばしてセント・マイケルズ・マウントに行ったトリスタン卿。貴殿の方はどうであった?」


「なんだ、みんな全滅かよお~。んじゃあ、俺の結果は発表しない方がようさそうだな。俺もそんな大したことはできなかったからよ……ククク…」


 冒険の成功者が一人として現れぬ中、最後に振られたトリスタン卿も、その口振りからやはり失敗したかに思われたのだったが、なぜだか彼は含み笑いを見せた後、顔を上げて愉快そうに答えるのだった。

「ま、別に自慢できるようなもんじゃねえが、コーンウォールの地方紙を買って来たから見てみな。俺の果たした些細な冒険のことが記事に載ってるぜ? 〝セント・マイケルズ・マウントの最上階の部屋に、何者かが深夜忍びこんで円卓の旗を立ててった〟っていう珍事件のな」


 言うと、トリスタン卿は革ジャンの懐から折りたたんだ新聞紙を取り出し、写真入りの小さな記事を皆に見せる。ベディヴィエール卿を始め他の者達が覗き込むと、どこかの部屋に掲げられた、紛れもなく自分達の〝円卓の旗〟の写真がそこにはあった。


「おお、これはまさしく……トリスタン卿、見事、冒険を成し遂げたな」


 記事を確認し、ベディヴィエール卿は称賛の声を上げる。


「貴殿は本当に冒険を成功させたのか……」


「トリスタン卿だけが成功を……」


 すると、ガウェイン卿やパラミデス卿ら冒険に失敗した他の者達は、嫉妬の思いがあるのか、複雑な表情で口々に呟く。


「フン。トリスタン卿の冒険は、あるかもわからぬ宝を探す我らのものとは違うからな」


「そうですわ。お一人だけずるいですわ!」


 中にはモルドレッド卿、ガヘリス卿のように、露骨に嫉妬の言葉を表す者もある。


「ヘヘヘ、まあ、そんな焼くなって。確かに俺の冒険の方が成功確率は高かったかもしれねえな。でも、こっちは独りでだからな。これでも厳しい警備を掻い潜って旗立ててくんのには苦労したんだぜ? それに、これだけじゃ物足りないと思って、カースル・ドアっていう同じコーンウォールにある丘城(ヒルフォート)にも自主的に行って、そこにある〝トリスタン石〟っていう前世の俺の墓の横にスイカズラも植えてきてやった。勿論、マリ・ド・フランスの『スイカズラ』にちなんだ、俺様特有の愛のジョークってやつよ」


 しかし、成功者の余裕か、それとも元来の性格のためなのか、トリスタン卿はそうした誹謗に怒ることもなく、砕けた調子で自身の苦労譚を語る。


「おおーい! みんなーっ!」


 と、その時である。どこからか、そんな聞き憶えのある呼び声が、丘を吹き上げる風に乗って聞こえてきたのだった。


 その叫びに皆が振り返ってみると、いつもの白いロングコートをたなびかせ、ランスロット卿が颯爽とこちらへ登って来るのが見える。冒険の地より戻ったばかりなのか、手には大きな旅行鞄を下げている。


「遅れてすまない。今朝、スコットランドを発って来たんだが、ちょっと電車が遅れたもんでね」


「おお、待っていたぞ、ランスロット卿。今、皆の冒険の結果を聞いていたところだ」


 仲間達のもとへと到り、皆の顔を見回しながら遅刻を詫びる彼に、挨拶もそこそこ、早速、ベディヴィエール卿が本題を問う。


「で、貴殿の方はどうであった? ストゥのウェデイル聖マリア教会に所蔵される〝アーサーの旗印〟を手に入れることはできたのか?」


 他の円卓の騎士達は、じっとランスロット卿の反応を見守った。


 その多くが自分達と同じように、彼もきっと冒険に失敗したのであろうと心の内で思っていた……いや、そうであってほしいと願っていたと言っても間違いではないだろう。


 ……ところが。


「はい。聖母マリアを無事、救い出すことができました。アーサー王が身に着けたというマリア像の描かれた布の切れ端は、今、この鞄の中に入っています」


 ランスロット卿は手に提げた旅行鞄を持ち上げて見せ、意気揚々とそう答えたのである。


「なにっ⁉」


「なんだって⁉」


 瞬間、皆の内に動揺が広がる。


「ほら、これがその〝アーサーの旗印〟だ」


 だが、その動揺を一蹴するかのように、ランスロット卿は鞄を地面に置いて開くと、中から色褪せた女性のような図像の描かれている、一片の古い布切れを慎重に取り出した。


「おお! これがグイニオンの戦いの際にアーサー王が身に付けたという……」


 その伝説の品を前にして、さすがのベディヴィエール卿も興奮した様子で先程以上に感嘆の声を上げる。


「すごい! すごいですよ! さすがランスロット卿だ!」


「へぇ~…やっぱ円卓最高の騎士だけのことはあるっすね!」


「ええ。是非、見習いたいところです」


 聖杯の騎士若手三人組も、その戦利品を前に素直に彼を称える。


「ヒュ~♪ あんたもなかなかやるじゃねえか」


「残念ながら俺様の冒険も、さすがにこいつには負けたな」


 ラモラック卿、トリスタン卿も、意地を張ることなくランスロット卿の功績を認める。


「いやあ、これは申し分なく冒険大成功ですね」


「ああ。こうして目の前に実物があるのだから、認めざるを得ないな」


 無論、ユーウェイン卿、パラミデス卿も、それぞれの言葉でこの騎士を称賛している様子だ。


「………………」


 しかし、ガウェイン卿、モルドレッド卿、ガヘリス卿の三人だけは違っていた。


 彼と彼女らは恨めしげな瞳でランスロット卿を睨み、悔しそうに歯を噤みしめている。


 そこには、同じ円卓の騎士として独りアーサー王の財宝を持ち帰ったランスロット卿に対する嫉妬心もあったのだろうが、それとともに伝説上の…否、前世において、グゥイネヴィア妃を巡る争いで対立した(かたき)同士だという関係も幾ばくかは含まれていたのかもしれない。


 そして、この前世にまで遡る根深い嫉妬心が、ランスロット卿に対する強い負の感情を彼と彼女ら三人の中に呼び起こすこととなったのであった……そう、自分達の愛する王国を知らず知らずに蝕んでいくほどに……。


「ところでベディヴィエール卿、あなたはどうだったのだ? 確かあなた自身にも冒険が用意されているという話だったと思うが?」


 そんなどろどろと身体の内を流れる黒いモノの遣り場をなくし、モルドレッド卿はその矛先を取り仕切り役のベディヴィエール卿へと向ける。


「んん? ああ、そのことか。それについてはこれから話すつもりだったが、私の冒険の成果は大き過ぎて(・・・・・)ここへは持ってこれなかった」


 しかし、その思い付きで出た質問に、王の〝酌人〟はそんな奇妙なことを口にする。


「大き過ぎて? ……ベディヴィエール卿、一体、あなたの行った冒険というのはなんなのだ?」


「それはな。『キルフフとオルウェン』で前世の私が行ったことに由来するものだ」


 怪訝な顔で訊き返すモルドレッド卿に、ベディヴィエール卿は何か悪巧みをするかのような笑みを浮かべ、先を続ける。


「即ち、キルフフのため、アーサー王とともに船〝プリドウェン〟に乗ってアイルランドへと冒険の旅に出るというものだ。その、プリドウェンを皆のためにも用意した」


「なにっ⁉」


「なんですって⁉」


「それは本当ですか⁉」


 その答えにはモルドレッド卿だけでなく、他の者達も驚きの声を発する。


「ああ、まこともまこと。宿敵ディヴッド・アダムスの屋敷を襲う際にもナロウボートを使ったが、今度は全員が優に乗れる程の大きなクルーザーだ。その内、このプリドウェンに乗って皆でどこか冒険の旅にでも行くことにしよう」


「それはつまり、アイルランドで何かやらかすということか?」


 思わず驚いてしまった自分を隠すかのように、再びモルドレッド卿が眉間に皺を寄せて尋ねる。


「フフフ、まあ、行先はその時のお楽しみということにしておこう。それよりも我々の次なる冒険だ。それぞれに別れての冒険も経験し、我らもさらなる成長を遂げた。そろそろ本格的に世直しの戦いを始めるべき時であろう。我らの王をこの現世に呼び戻すため、今度はアーサー王がサクソン人を打ち破った十二の戦いを模した冒険を行う……そう。ネンニウスの『ブリトン人の歴史』に記されるかの十二の戦いをな」


 サウスキャドベリー丘の頂から眼下の雄大な景色を望み、さも愉快そうに次なる冒険の旅へと誘うベディヴィエール卿の横顔を、円卓の騎士達は驚きと期待を込めた瞳で見つめていた……。

To Be Continued…

A suivre…

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