アストリアの姫騎士たち~姫騎士王はヤンデレ男(複数)から逃亡したい~
女性の襲爵が許されているアストリアでは、嫡出の男子がいなければ庶出の男子か嫡出の女子、そのどちらもいなければ庶出の女子にも爵位を継承できる緩い相続法がある。
その条件として騎士団に入団し、子ども(性別を問わない)が生まれるまでそこに籍を置くことが求められている。ただし、通常の男子が従騎士になれる十八歳の年齢になるまでは仮襲爵が許され、入団しなくてもよい。入団すれば、襲爵者はそのまま小隊を率いる隊長に任ぜられる。それは部下という名の良く言えば夫候補及び愛人、悪く言えば種馬を与えられることを意味していた。
これはそんなアストリアの女騎士の一人の話――
オリヴィエが十を数える前、婚約者も決めぬまま、父親が死んだ。それから、続々と家族は死んでいき、オリヴィエは天涯孤独になってしまった。
寄る辺ないオリヴィエは亡兄よりは年上だが、亡父よりは年下の男たちに育てられた。
オリヴィエが十四になり、結婚もできるようになる頃、国の重鎮たちが次々と亡くなり、彼女を育てた男たちが国の要職に収まった。それから、彼女は彼らの子どもを産まされるようになり、十八になった今では未婚のまま二児の母親となっていた。
子どもたちもいるので、オリヴィエにはもう種馬は必要なかった。
しかし、保護者から種馬になった男たちはオリヴィエを解放しようとはしない。
彼らの豹変に四年経った今でも未だに感情が付いていかないオリヴィエは、彼らの気持ちも理解できなければ、重すぎる彼らの気持ちに窒息しそうだった。
国の重臣になっていなければどうにか距離も置けたのだが、残念ながら彼らが一致団結すればまだ若い女王の権力など歯が立たない。
「どうしたものかしら、イヴリンガム卿?」
晩餐の支度の為に私室に戻ったオリヴィエは侍従長に相談した。
「どうかなさったのですか、陛下?」
大臣とオリヴィエの侍従長を兼任するイヴリンガム卿は思い詰めた表情の若き女王に首を傾げる。
「あの者たちをどうにかしたいのだけど、何か良い考えはないものかしら?」
「陛下。陛下お一人ですべてを担う必要はないのですから・・・」
「わたくしはもう十八になりました。一人前です。あの者たちに政を任せておくわけにはまいりません! このままではこの国は――いえ、わたくしの人生はあの者たちに乗っ取られてしまうわ!!」
「彼らを追い払うのは至難の業ですが、それを知っていて、あえて茨の道を選ぶということでしょうか?」
大臣であるイヴリンガム卿が侍従長としてオリヴィエに仕えているのは彼が愛妻家だからである。
一族の長同様にパートナー以外に対して著しく無関心な性質であるイヴリンガム卿の一族の既婚者たちは侍従や女官として、未婚女性たちは侍女としてオリヴィエの身の回りの世話をしている。
「イヴリンガム卿。あなたならわたくしの力になってくれますね」
「わたくしめの力が必要とあらば、いつでも。陛下」
大臣も兼任するイヴリンガム卿の能力はこの国でも一、二を争うくらいだ。ただし、妻や一族のこと以外にはまったく興味がない無欲な性質をしている。
「では、あの者たちを追い払う策を教えてください」
「それなら、陛下が彼らの中から一人を選ぶだけでございます」
「却下。別の策を出してください」
それができたら苦労しないとばかりにオリヴィエは即答する。
「では、陛下が本当に愛する相手を見つけてください」
「あなたは簡単に言いますが、愛する相手なんて、そのような人をすぐには見つけられません。わたくしはあの者たちを今すぐ排除したいのです。イヴリンガム卿」
オリヴィエの切実な様子にイヴリンガム卿はゆっくりと瞬きをした。
イヴリンガム卿は中立であり、これ以上減らすことのできない国の重鎮でもあった。そのおかげで彼はオリヴィエの言うあの者たちから排除されることはなかった。だが、その最大の理由は愛妻家であり、愛に忠実に生きる一族だからだ。
オリヴィエの言うあの者たちはオリヴィエを自分たちの手から取り上げるすべての者を排除した。
オリヴィエの縁談を考えた国王を、国王の死後に自分たちを処罰してオリヴィエから引き離す彼女の兄弟や后や王弟を。更には、オリヴィエを側で支える国の重鎮たちを数年かけて自分たちと挿げ替えていった。
家族や国の重鎮たちの相次ぐ病死や事故死に悲嘆に暮れている間にオリヴィエは十八歳になった。
「彼らはこの国の柱になっていますから、即座に、というのは無理な話です。陛下」
「あなただけが頼りなのです、イヴリンガム卿」
イヴリンガム卿の上着にしがみ付きかねないオリヴィエの様子にイヴリンガム卿は女官長を務める妻を見る。
十年近くオリヴィエの女官長を務めるイヴリンガム夫人はオリヴィエの現状に憐れむような顔をしている。イヴリンガム夫人にとって、若き女王は我が子と同じ存在になっていた。
「・・・」
オリヴィエの力になってあげて欲しいとの妻の無言の訴えに、イヴリンガム卿はその仕事の困難さに溜め息を吐く。
「わかりました、陛下。陛下があの者たちから逃れられるよう、わたくしめも精一杯、尽力いたしましょう」
イヴリンガム卿は妻の願いを叶える為だけに頷くのだった。
姫騎士王オリヴィエは自分が王位に就くのに邪魔な父王や兄弟たちを殺したと言われている。
また、自分の寵臣たちを国の要職に就けたいと前任者を殺したとも言われている。
今となっては真偽のほどはわからない。
彼女が寵臣たちから逃げ切れたかどうか、そしてどのように逃げ切ったかも後世には伝わっていない。
オリヴィエ:子どもの頃にヤンデレどもに目を付けられた美貌の王女。
イヴリンガム卿:一人選ぶだけで殺し合って最後には相打ちで全員いなくなるのに、面倒臭いと思っている。妻>一族>||越えられない壁||>オリヴィエを含むその他
イヴリンガム一族:特徴は金眼(緑や青い目の者もいる)と異常執着。アストリアの姫騎士制度と相続法を作ったことで有名なハイスペック一族。愛する相手以外に執着や関心はない。




