恋愛共通一次試験
「彼の本当の気持ちが分からないの」
幼馴染みに喫茶店に呼び出されたので何かあったのかと心配しながら行くと、いきなり身を乗り出し深刻な表情。高校卒業以来久し振りに会ったが相変わらず可愛い顔だちで、周りは全く見えてない様子。本当に相変らずだ。
「男の人ってさり気ない一言とかどういう感じかたするの? ねえ、教えて。こんなこと聞ける男の人ってほかにいないのよ」
そんなアバウトなこと言われても全然話が見えないが、何となく見えた。
「ちょっとまって。注文くらい取らせてよ」
自分はちゃっかり「キングダム」と名の付けられた巨大パフェを注文して食べていたらしい。悩みと食欲は別なのか、悩めば食べたくなる性格なのか。とにかくこちらはレモンティーを注文する。
「……ということなのよ」
涙ながらも彼女は早口で話した。要領は得ないし早口でまくしたてるしで人に話を聞いてもらおうという姿勢はない。自分が話せばそれでいいというところだろう。「分からないから、もう一度説明して」といったところで余計うろたえてますます要領を得なくなるので何度も頷いておく。これが本当にこちらにも見当のつかない話なら「つまり、まずはこういうことで、そしてそういうことで……」と順序だててポイントごとに対話を繰り返し翻訳に近い作業をするのだが、あまりにも分かりやすい話なので省略する。第一、すでに来ているレモンティーが冷めてしまう。
「とりあえず、この問題でもやってみて」
取り出したケータイに表示したサイトの画面を見せ、差し出した。
最初「なんでこんなものを」と不満げだった彼女だが、サイトのタイトルを見て目つきが変わり真剣になった。
サイトのタイトルは、「恋愛共通一次試験」。
問題はたったの一つ。
以下、そのサイトから引用。
「恋愛共通一次試験」
問題・あなたの前にあるA~Vの内、あなたが一番大切なものを一つ選べ。
A、ニヤリ
B、鶏
C、突破
D、東京
E、時計
F、嘘
G、名前
H、空き缶
I、人生
J、受信料
K、紅白
L、クリスマス
M、ファイル
N、北海道
O、アイドル
P、てst
Q、管理人特別賞
R、応募資格
S、投稿
T、締め切り
V、商品
引用以上。
「うーん、『I』かなぁ」
彼女は悩みながらもそういう。
おそらく何も分かってないのだろうなぁと思いつつも、その選択に思わず吹き出す。
どちらにせよ彼女に何度も告白したにもかかわらず聞き流されてしまった男にそんな悩みを打ち明けるような相変わらずな女だ。
ちなみにこのサイトには、「意中の女性の前に座り選択してもらうこと」と注意書きがちゃんと添えられている。
おしまい
ふらっと、瀨川です。
深夜真世名義で他サイトに発表した旧作品です。
ニヤリ、鶏、突破、東京、時計、嘘、名前、空き缶、人生、受信料、紅白、クリスマス、ファイル、北海道、アイドル、てst
のうちからキーワードを5つ、作品中に出すこと、という条件での競作でした。