呼ばれしモノの名は
チリンチリンと呼び鈴が鳴った。ご主人様のお目覚めだ。もちろん私はもう2時間も前から起きて、朝のすべての準備を整えている。
寝室をノックし、恭しくお辞儀をして枕元へ。
「お早うございます。お目覚めはいかがでございますか」
「ああ、お早う。きょうはわりに気分がいいな。後で少し散歩でもしよう」
「それはそれは結構でございます」
「朝子は連れてきたか」
「はい、ここにお連れしてございます」
私は手に持った新聞の朝刊をご主人様に渡した。
「鏡子はどこにいる」
「はい、ここにおいでになります」
私は枕元にある老眼鏡をとって手渡した。ご主人様は眼鏡をかけると、ちょっと顔をしかめた。「やっぱり変だな。姉の方がどうも見づらくていかん。医者に連れていくべきかな」
姉というのは右目のレンズのこと。左目は妹である。
「ところできょうはブレディに会いたい。少しグラマーなのをな」
「はいかしこまりました」
ブレディとは洋風の朝食のことである。和風はタマ子とご主人様はおっしゃる。
5分とかからぬ早業で私はボリュームたっぷりの朝食を作り、寝室へ運ぶ。
「ピアスさまとチョッピーさまはこちらにおいでになります」
ピアスとチョッピーとはもちろんフォークとナイフのことである。
朝食が終わると、ご主人様は散歩に出ようとおっしゃった。
「伸子はどうしている」
「はい、玄関でお待ちでございます」
玄関に出てこられたご主人様に杖を渡す。
「あゆみさま姉妹はこちらに控えておられます」
「ん、そうか」
ご主人様はその靴をお履きになり、あらかじめ用意しておいた芳枝姉妹を左右の手にはめられ、理佳さまをおかぶりになり、門口に立たれた。
「ではお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「ん」
1時間ほど経って、ご主人様はお帰りになった。
「おい、爪楊枝はどこだ」と大きな声がする。私は慌てて玄関へ出た。
「はい、わたくしならここに」
ご主人様は安心したようにおっしゃった。
「なんだ、こんなところにあったのか」




