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ヤンデレ姉さんに○されたら考えるべき10のこと  作者: くらげマシンガン
▼第二章 俺と美濃部立花の関係について。
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つ『6月18日の問題に先手を打てるか』 後編

 どうした、俺。あまりのハプニングっぷりに頭でもおかしくなったか。……気付けば杏月の姿は既に見えないし、あいつも逃げ足が速い。

 どうしよう。何か言い訳をしなければいけないし、どうして美濃部がこの時間に来ているのかも気になる。

 ひとまず、教室は離れなければいけないな。


「美濃部、屋上に行かないか?」


 俺は、そう切り出す事にした。


「えっ?」


 鞄を掴み、美濃部の手を取り、そのまま歩き出す。美濃部は訳も分からず、俺に付いて来た。

 こうなったら、俺や美濃部が教室に来てもおかしくない時間になるまで、美濃部と時間を潰すしかない。

 階段を勇み足で上がると、美濃部は焦り出した。


「ちょっ、ちょっ、ちょっと、何……?」


 美濃部とは悟られない程度に事情を共有し、この状況を逆手に取るしかないか。

 普段姉さんと八時二十分に登校している事は、誰もが知っている。今日一日をイレギュラーだと感じさせない程度の時間に教室に訪れたい。

 屋上の扉を開いて美濃部を中に入れ、俺は屋上の扉を閉めて内側から鍵を掛けた。

 これで別の誰かが入って来ようとしても、今日は屋上閉まってるのか、くらいに思うだろう。

 とにかく、美濃部がここに居るってことは、何か用事がある訳で。


「美濃部。今日はお互い、時間ギリギリに登校した。そういう事にしないか」

「……はえ?」


 美濃部が素っ頓狂な声を出した。


「詳細は言えないが、俺は『ある男の罠』の存在を知って、それから逃れるために、こんな時間に登校している。誓って、変な事をしている訳じゃない。大丈夫だ。約束する」

「え、いや、約束、されても……」


 俺は美濃部に向かって歩き、至近距離まで迫ると、美濃部の両肩を掴んだ。美濃部がびくんと反応して、額に汗を浮かべながら俺を見ている。


「――俺を信じろ」


 美濃部が俺の言葉の意味を理解しているとか、していないとか、今そんな事はどうでもいい!

 これはもう気合いだ。気合いでなんとかするしかない。俺の剣幕に美濃部は、目を逸らし――


「……う、う――ん。私――も、本当は、あんまり知られたくない用事で、来てた、から。黙っていてくれると、助かるなあ、なんて」


 ……おや? 意外と反応は良い感じだ。もう少し、面倒な言い訳が必要になるかと思ったのだけど。

 もしかして、

 もしかすると美濃部は自分の下着を探す為、こんなにも朝早くから教室へと来ていたんだろうか。そうか、美濃部の立場からしてみれば、ある日下着が紛失するという事件が起きた訳だもんな。

 そりゃあ、家になければ学園へ探しに来るか……

 ――あれ?

 それ、おかしくないか?


「パンツか?」

「……はっ!? ええっ!?」

「パンツ、探しに来てたのか?」


 六月十八日の朝、美濃部は紛失した自分の下着を探しに来ていた……?

 だったら、何故俺の机の上に置いてある下着を回収しなかったんだ。

 その後に自分のスカートが盗まれるのもおかしい。そんな事があったら、普通は警戒する。

 そんな事を考えていたからか、俺はつい、物事の核心を突いてしまった。


「な、何言ってんの穂苅君……」


 美濃部は俺のことを眉根を寄せて、青ざめた顔で見ている。

 ……あれ?

 もしかして、全然違う用事?

 俺、地雷踏んだ?

 やばい。

 どうしよう。

 焦り始めて、俺も頭が働かなくなってきた。


「い、いや、朝、俺の机の上にパンツが置いてあったから――」


 それを回収したのは、他の奴等に見られないためであって、


「もしかして、それは美濃部のものだったのかなあ、なんて――」


 そんな事を、美濃部に言っちゃ駄目だろ――!?

 何考えてるの!? 馬鹿なの!? 俺、馬鹿なの!?

 いや、でもパンツって言ってしまった以上、こうでも言わないと弁解できない!! これはこうするしか無かったんだよ!!

 美濃部の目が大きく見開かれると、


「えっ!? ほ、ほんと!? あったの!?」


 ――あれ?

 もしかして、いらん補足した? これはこれで、やばい?

 だってその下着は今、間辺の机の上に――……


「よ、良かった。私一人じゃ、見付けられないって、思ったから」

「……見付けられなかった?」


 校門や並木道が騒がしい。……やばい、もうそんな時間か!? 俺は腕時計を確認した。八時十分、もうそんな時間か!!

 三十分なんてあっという間だ。美濃部はキスをする目前の距離まで俺に顔を近付け、顔を真っ赤にしていた。


「……ぜ、ぜ、絶対、誰にも、言わないでね?」


 俺は視線を右に――左に――ケーキが邪魔――また、右に動かした。

 当然、屋上には誰も居ない。これ、当たり前だけど聞くしか無い展開だよな。何か、とてつもなく嫌な予感がするんだが……

 俺は――頷いた。

 小さな桃色の唇が、俺の耳元に近付く。


「あのパンツ」


 俺は生唾を飲み込んだ。



「瑠璃の、なの」



 ――――沈黙が訪れた。


「……はい?」

「瑠璃、中学時代は水泳部だったらしくて。今は違うんだけど、たまに学園の室内プールを借りて泳いでたり、するの。どうも、その時に盗まれたらしくて」

「はあ」

「元々、瑠璃って一人暮らしで、あんまり服とか持ってないの。下着も着回す分くらいしか用意してないみたいで、なんか着々と盗まれてるって聞いて、もしかしたら今頃――」


 六月に珍しい、気持ちの良い青空は、僅かに雲を帯び、朝方の太陽を暫しの間だけ隠した。

 ああ、屋上の柵の向こうでは、小鳥達が優雅に歌を謡いながら、陽光を浴びて今朝の準備を始めている。


『……どうしたの、それ?』

『分からん。来たら、置いてあった』

『だって、それ――……』


 ああ、そうかあ。そうだよね。友達の下着の柄なんて、普通分からないよね。

 自分のものでもなければ、反応は出来ないか。外に見えるものなら兎も角、それは下着だったからね。

 俺は言った。


「……ノーパン?」


 美濃部は勢い良く、何度も頷いた。

 ああ、そうかあ。なるほどね。あの驚きは、自分の物だったからなんだね。

 朝方に考えていた、とりあえず青木さんに返しておけば良いや、というのは、実は本人に返すという事になっていた訳で、ああ、それは危なかったね。

 騒ぎが起きていなかったら、どうして青木さんの下着を俺が持っているのか、すごい剣幕で言及され兼ねなかったね――……


 ――なんだとおおおおおっ!?



 ◆



 さて、美濃部の激烈な告白を受けた俺は、ホームルームが始まって合同体育になるまでの間、どうしても青木さんを見てしまっていた。

 青木さんは普通だ。普通にクラスの女友達と談笑している。

 いや、普通に考えて買い足すだろ、下着くらい。

 ……買い足すよな?

 今日、合同体育だぞ。青木さんがあんなに普通の顔して、まさか直にブルマなんてことはないだろ。

 杏月なら兎も角、青木さんは平常心でそんな事できないだろ。できないよな!? できないと言ってくれ!!

 俺は悶々としてしまい、一人、頭を抱えていた。

 気軽に話せる男友達でも居れば、少しは考えが落ち着いただろうに……。

 とかなんとか考えている内に、合同体育の時間は始まる。こんな事に気を取られている場合ではなくて、本当はすぐに着替えなければいけないのに。

 ――そうだ。こんな事に気を取られている場合じゃない。

 幸い青木さんもクラスの女子も居なくなった事だし。俺は素早く着替えると、制服を体操着の入っている袋に押し込んだ。

 通学用の鞄はそのまま、体操着の袋を手に教室を出る。まあ一番最後になってしまったのは、この際好都合とも言える。

 ひとまずは、着替え中に誰かに何かを仕掛けられる事は無さそうだというのが確認できたことだし。

 しかし、本当に誰も話し掛けてきてくれないよな。俺、そんなに変態扱いされているんだろうか……。

 溜め息を付いて、教室の扉を開いた。さっさとグラウンド行こう……。


「あ、穂苅君」


 俺は弾け飛ぶ勢いで振り返り、廊下の先に居る人物を見た。

 ――何故。


「……あ、青木さん」


 青木さんはにこやかな笑顔で、俺に近付いた。俺はつい、そのブルマを確認してしまう。

 ……はいてないなんて事、あるのか? 青木さん、とてもノーパンで学園に来ているとは思えない程に普通だし。

 いや、シャツを出して着てるせいで、ほとんどブルマなんて見え――

 青木さんが気付いて、物凄い勢いでシャツを前に。


「なっ!! ななななな何かな穂苅君」


 ――あれ?


「……いや、別に。青木さんこそ、俺に用事?」

「うううううんっ!? ちょっともうすぐせん先生来るよって言お言おうかとおもおもおも」


 焦ってる。

 焦ってる、よな。

 うん、滅茶苦茶焦っている。

 そもそも、こんな時間にこんな場所をうろついてるって事は、俺と同じで、着替えるのは一番最後だったという事で……。

 他の生徒達は、まだグラウンドに出始めている所だ。もう少し時間はあるだろうか。


「……青木さん?」

「ははははいてるよっ!? はいてるよ!? ただ今日はちょっと、いつもはかないやつをはいてるから、あの、あんまり面積がね!? そう、面積が狭いだけでねっ!?」


 ――自爆した。


「……はいてないの?」

「#$%&っ――!?」


 謎の擬音を発し、壁に手を突いて、ずるずると崩れ落ちる青木さん。……なんだか、見ているこちらが可哀想な気持ちになってしまう。

 やっぱり、仕掛けたのは間辺なんだろうが……青木さんと間辺の間に接点など見当たらないし、少し引っ掛かるな。

 どうしよう。話すべきだろうか。

 ……いや、全貌は明らかにしてから伝えた方が良いな。美濃部の事はハプニングだったのだし、無闇に伝えて回らない方が良いだろう。


「わっ……、分かる、の? 男子には」

「あ、いや、分からないよ? ……ただ、美濃部から、聞いて」

「えっ!? あ、そうなの!? もう、やめてよ!! 心臓止まったかと思ったじゃない!!」


 ……え? 俺が責められるの?

 何故……


「……なんでまた、そんなことに」

「最近、下着泥棒に襲撃されまして……。ひとまずブルマでいっかと思ってたら、今日合同体育だった事に気付きまして……」

「今日、不調って事にして見学してた方が良いんじゃない?」

「ううん、走る。走ってる。今日、陸上でしょ。マラソンなら砂が入る事もないし、ずっと走ってれば誰にもバレないだろうし」


 それで、前回はあんなに頑張っていたのか……。


「食い込んだら、ヤバいよ?」

「ひっ!?」

「転んだ拍子に……とか」


 青木さんが小さくなって震えている。……ちょっと虐めすぎか。でも、見学していた方が良いだろう。大方、そのブルマも最初から身に着けていたものだろうし……いや、やめろ妄想するな俺。

 なんか、不憫だな……。別に青木さんは何も悪くないのに……

 青木さんは、がば、と顔を上げて――あ、少し涙ぐんでいる。悲しいかな、それを俺は可愛いと感じてしまう。


「ほかりくんっ!!」

「うえいっ!?」


 思わず変な声を出してしまった。青木さんは俺の手を握ると、グラウンドに走った。

 何だ何だ何だ!?

 階段を駆け下り、一気に一階へ。グラウンドまではもう目と鼻の先――まだ先生来てないのか。少し遅れているのかもしれないな。

 なんて悠長な事を考えていたが、そろそろ俺達もグラウンドに出ないとまずいだろう。


「今日のメニューは、準備運動と順番にマラソン、もし時間が余ったら任意で短距離、だったと思うんだけど」


 走ってばっかだよな、合同体育。合同でやる意味あんのか。


「各生徒で、記録を出すの。今日やっておかないと、後日放課後に三キロ走らないといけないみたいで」


 ああ、それで合同体育になるのか。要するに、手っ取り早く全生徒の記録出しましょうという事か。

 前回は特に気にも留めていなかったけど、休んだら後日の計測になるのだったか。

 まあ、確かに。放課後マラソンは、居残りみたいで少し嫌だな。でも、ブルマ問題なら後日に伸ばしたって良いのでは……


「だから、協力して欲しいの」

「ええ? マラソンくらい、後でも……」


 青木さんは手を合わせて、俺に頭を下げた。


「バイトは絶対休めないんだよおっ!! こないだ一日休んじゃったから、もう今月の家賃……なんでもない、とにかくお願いだから協力してっ!!」


 ……そういうことか。

 美濃部が、青木さんの生活はあんまり芳しくない状況だと話していたな。青木さんも大変だな……

 前回は、俺じゃない生徒に助けを求めていたんだろうか。……何故、俺に。

 理由が理由だけに、恥ずかしくて目を合わせる事が出来ない。


「あー……いいよ。で、俺は何をすれば?」

「転んでもそれとなく視線が行かないように、してくれれば」


 えっ。

 その注文、難しくない?

 ねえ青木さん、その注文すごく難しいよ。

 俺と居ないのが一番良いんじゃないか? だって、俺と青木さんが二人で居るだけで、相当目立つよ?

 ……どうしろと言うんだ。


「とにかく、グラウンドに出よう!」

「あ、あの。俺はどうすれば」

「ごめんっ!! お願い!!」


 特に具体的なプランはないってことかよ!!

 しかしまあ、近くに女子が居ることで下関の観察をし易くなるから、これはこれで好都合……か?


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