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ヤンデレ姉さんに○されたら考えるべき10のこと  作者: くらげマシンガン
▼最終章 俺と姉さんについて。
132/134

つ『エピローグ』

 丘の上にいくつものノートパソコンを広げ、マンションの一室を盗撮している男がいた。

 男は大きなヘッドホンを装着して、何やら楽しそうにしている。どうにも、そのマンションの中で生まれる音を拾っているように感じられた。

 和装をした茶髪の男――妙に若作りで、おおよそ年齢がいくつなのかは分かり辛い。和装をしたまま丘の上に胡座をかく男に対し、すぐ側でスーツを着た中年男性――青木善仁は呆れ顔をして、腕を組んで和装の男を見ていた。

 僅かに、ヘッドホンから漏れる声が聞こえてくる。音量が大き過ぎるだろう、と善仁は思ったが、敢えて口には出さなかった。


『この身体の――ううん、私の誕生日、五月十九日みたい。『一日』違いの姉?』

『まーたそういうのかよ』


 ノートパソコンに広げられたモニターでは、一組の男女がダブルベッドで会話をしている。その様子を眺めて、男はニマニマとお世辞にも気持ちが良いとは言えない、陰湿な笑みを浮かべていた。


『純くん。もうちょっとしたらね、あのね……子供、欲しいなあ』

「キャー!! 子供だって!! 善仁、子供だってマジで? 有り得ないでしょー」


 外見に全く似合わないはしゃぎ方で、和装の男はまるで女子高生のような黄色い声を出した。

 善仁は立ったままでそれを見詰め、溜め息をついた。


『じゃあ、子供の名前は『甘味』かな』

「そーだね、生まれてくる子供はたぶん、ケーキだからね」


 誰にでもなく、和装の男はあたかも会話をするかのように独り言を言う。


「盗み聞きとは趣味が悪いな、恭一郎」


 耐え切れず、善仁は口を開いた。

 穂苅恭一郎。

 その男から事の成り行きを聞いた善仁は、何故またしてもそのような幻想的な出来事に――恭一郎が関わっているのかと、不思議に思っていた。

 勿論善仁に前世の記憶などはないが、恭一郎からある言葉を聞いたことで、予感は確信に変わったのだった。


『……では、その『ティシュティヤ』という国の中で、恭一郎は誰になっていたんだ』

『え? そりゃ勿論、タンド・ウォルクスだったよ。君と僕はそういう因果よ、善仁くん』


 この自由人め、と善仁は思わざるを得ないのだった。

 恭一郎はヘッドホンを外し、ふと懐かしむかのような表情になった。その様子を確認して、善仁は眉をひそめた。


「――――良かったね、純くん。お姉ちゃん」


 性格が良いのか、悪いのか。思いながら、善仁は口を開く。


「そろそろ、本題に入らせてくれないか。恭一郎、お前は一体――どうして、現実に存在しないようなモノの事を知っている?」


 恭一郎はさも当然のように、善仁に言った。


「そりゃ、過去の『僕の記憶』だけは、『ノーネーム』の監視外にあるからね」


 だから、そういう事をどうやってやるのかと、聞いているのだ。

 善仁が聞くまでもなく、恭一郎は立ち上がった。


「まあ、歴史というのは繰り返すものでさ。『世界』と『生物』の不思議な矛盾なんてのは、今に始まった事じゃない。完璧を求めていて、完璧には生きられないようにできてんのよね」


 悟ったように、恭一郎は言う。


「もしも世界中が完璧だったら、誰も困らないし、助けを必要としない筈でさ。『愛情』なんてものは無かったかもしれないじゃない。ところが、『愛情』は、ある。人は――ううん、全ての生物は、世界を愛して、この世界を自分達の住処にすると決めているわけだよね」


 恭一郎は大空を見上げ、天真爛漫に笑った。


「それって、すごいことだよ」


 改めて、この『穂苅恭一郎』という存在について――善仁は、不思議に思った。

 幼い頃に善仁の下に現れて、当然のように仲良くしてきた。ある時から、彼はこう言ったのだ。『これから君の身に不思議な事が起こると思う。何が起こるかは分からないんだけど、ちょっと注意していて欲しいんだよね』と――……

 事実、不思議な出来事は起こった。善仁にではなく、実の娘にだったが――散々、不思議な能力も見せられた。

 だが、それを予知することは人間の能力とは思えない。


「恭一郎。お前は一体、何者なんだ」


 善仁は聞いた。恭一郎は首を傾げて、そして。


「んー……何者、って言われると難しいよね。純くんが、タイルズ・リッケル……あー、ほにゃらら、ジュンじゃない」


 せめて『ローウェン』くらいは言って欲しかった。

 だが、恭一郎は立ち上がって、言う。


「僕には、とても口に出せるような長さじゃないほど、名前があるから――……」


 ふと、風が通り過ぎて行った。恭一郎はノートパソコンを閉じ、機材を片付け始めた。


「ああ、まあ、そうだね。どうしても何者かって決めたいなら、『アダム』とでも呼んでくれればいいよ」


 アダム。……神話の『アダム』だろうか。だとするならば、それはもう遥か昔――……

 そうして長い時を過ごしていく中で、いつしか会得した、ということなのだろうか。


「既に起きてしまったことは変えられないと言われているけれど、不思議なもんだよね。『過去』ほど人間の好きなように改変できるものはないよ。だって、そこに起こった出来事の真実は、自分しか知らないんだからさ」


 恭一郎は、不敵に笑った。


「僕だって、できると言い張っているだけ、だとか。本当は純くんの中に起こった不思議な出来事は奇跡みたいな『ノーネーム』の仕業で、僕は『さも自分の能力だと言うように』振舞っていただけで、本当は関係無かった、なんて事にも出来るわけだからね」


 そんな、屁理屈のようなものが。

 いや、所詮『記憶』や『過去』などというものは、屁理屈のようなものでしかないのかもしれない、と善仁は思い直した。確かに、人から人へ伝えられただけの歴史など、どこに偽りの過去が混ざっているのか分かったものではない。

 ひとは、『今』を生きているのだから。


「まあ、そんなもんはさ。考えるだけ無駄なわけで。僕も『人間』だよ、何の代わり映えもしない。奥さんが大好きなだけの、ただのオヤジでさ。人の『過去』なんてもんは――……」


 そう、この議論はするだけ無駄なものだ。強いて言うならば。


「ほら、殺されてからでも考えれば良い話なんじゃないかな? そん時でも遅くないよ、きっと」






Fin?



ご読了、ありがとうございました。

『ヤンデレ姉さんに○されたら考えるべき10のこと』は、この話をもって完結となります。

本当に最後まで、ありがとうございました。無事、完結に漕ぎ着けることができました。


後日談を含めて、完璧に終わりとなります。

もしかしたら、小話もいくつかやるかも?

もし良ければ、そちらもお付き合い頂ければ幸いです。


本当にありがとうございました!


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