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かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない  作者: 不破ふわる
二章 蒼星の少女

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第58話 大噓と虚偽

 

 六波羅さんともしもガチで戦う事になってしまった場合に注意すべき点は二つ。


 一つはデモンズギアのエイナ。

 ご存じ、クソヤバ厄ネタ装備でありその性能も本人の臆病な性格とは裏腹に怖ろしい。


 二つ目は六波羅さん個人の探索者としての能力だ。

 これはクソゲー仕様であり、この能力相手に真正面から勝てる者は俺の知る限りは覚醒トウラク君しかいない。


 この二つがある限り、俺は勝てない。

 たとえ、ミステリアス美少女であったとしてもである。


「ほらほらァ、テメエの腹ン底見せてくれよォ!」

「っ、随分と品が無い」

「ハハッ、鼠みてェにコソコソしてたやつの言葉かよそれェ!」


 斬撃を回避しながら俺は考えていた。

 六波羅さんを倒す方法でも、ミロク先輩を救う方法でもない。


 それらが収束した一つの問い。


 ミステリアス美少女ならこの状況をどうするのか、である。


『エイナはまだあの機能は使わないようだ』


 星詠みの杖はこっそり、教えてくれた。

 そうかい。

 エイナは後でどうにでもなる。


 ここで必要なのは、六波羅さんの能力を使わせることだ。


 俺の考えるミステリアス美少女は最強でなくてはならない。

 それは那滝ケイであれば負けても良いという事でもある。


 その為に、俺は六波羅さんに能力を使わせる必要があった。


「っ」

「おいおい、当たっちまうぞォ?」


 俺はわざとすれすれで攻撃を回避する。

 回避しているだけなのに体が痛いです……。


 だが、ミステリアス美少女として完璧になるためにはどんな時でも最高のパフォーマンスをしなければならない。


 俺の様子を見て、六波羅さんは更にボルテージを上げているようだった。

 この人ヤバ……。

 今から、もっとボルテージ上げてあげますからねぇ。


「……ッ!」

「ンだ? 目くらましか?」

 

 俺はぴかっと光るだけのクソ雑魚魔法陣を展開する。

 そして一度光らせてやった。

 

 六波羅さんは目くらましだと思っているようだ。


「……っ」

「あ? 逃げようとしてんのかよォ!?」


 発光と共に廊下を全力で走る。

 すぐ背後で六波羅さんの気配がしたかと思えば、次の瞬間には真横から斬撃が迫っていた。


 寸前で床を蹴り横に全力で跳ぶ。

 その勢いで俺は壁へとぶつかり、そしてそのまま突き破った。


「げほっ、げほっ」


 ここは……駄目だ薄暗いだけの部屋か!


「よそ見してんじゃねェよ」

「っ」


 起き上がった俺に双剣が迫る。

 俺はそれをギリギリで避けたかのようにまた横に跳ぶ。


 斬撃は再び壁を破壊。

 向こう側にオフィスのような部屋が見えた。


 お、あの部屋窓あるじゃん!

 あそこを俺のミステリアス美少女の舞台としようか。


「鬼ごっこかァ? 俺は別に野郎のケツを追いかける趣味はねえんだけどなァ」


 六波羅さんは変わらず俺を追いかけてきている。

 俺は度々襲い掛かる六波羅さんを回避しながら壁に空いた穴からオフィスへと転がり込んだ。


 窓、ヨシ!

 外の確認、ヨシ!

 夕陽が沈みかけの時間帯、ヨシ!


 それではこれより「ミステリアス美少女の手のひらでコーロコロ」作戦を開始する!


「鬼ごっこ……? 狩る側は俺だろ、六波羅」

「口だけは達者だなァ。逃げ回ってばかりの癖に」

「俺だけ本気を出しても大人げないだろう。お前が《《硝子の靴》》を履くのを待ってやっているんだ。それとも、俺が履かせてやった方が良いか?」


 俺の言葉に六波羅さんは態度を変えた。

 つまらなそうな顔から一転して、恐ろしく獰猛な顔で俺を睨みつける。


「……おかしいなァ。アレを見た奴は全員死んでいるはずなんだが」


 そう、死んでいる。

 六波羅さんが能力を使うときは、相手は必ず殺しているのでそもそもこの人の能力はごく少数しか知らない。


 が、俺は原作で読んでいるのでぇ!

 知っているんですよぉ!


 だから、六波羅さんの神経を逆撫でするようなことも言えるんですね。


「あんな軟弱な能力で誰が殺せるんだ? ……ああ、その手の中にある道具くらいなら殺せるか」


 かたり、と双剣状態のエイナが震える。

 六波羅さんの表情は怖いので見ない。


 天井でも見ておこうかしら。

 あらやだ、あそこ今の戦闘でひびが入っているわ。あそこに短刀を投げれば良さそうわよ!


「――ハハッお前、どうやら死にたいらしいな」


 いつものように軽薄な声。しかし確かにそこには怒りがあった。


 六波羅さんを相手にするときの豆知識!


 この人はこう見えてエイナと仲良し。

 なので、彼女を馬鹿にすると――。


「お望み通りぶっ殺してやるよォ!」


 こうなるぜ!


「っ」


 肌を刺す様な殺気と同時に空気が一変する。

 まるで処刑場のような、冷たく、恐ろしく、死を実感させる世界。


「十二秒だ」


 宣言と共に六波羅さんの足に赤い水晶のような物が巻き付いていく。

 膝より下を覆うそれはまるで、硝子でできたブーツのように見えた。


 こ、これが原作で何度も見た六波羅さんの能力……!


「十二秒でテメエを殺す」


 音も風もない。

 ただ、閃光とともに俺の腹部に重い衝撃が走った。


「がっ」


 え?

 嘘、俺って動体視力は六波羅さん相手に通用するんですよね?

 え? 今、お腹がドスって……え?


 その場に崩れ落ちた俺の脇腹に再び衝撃が走るとともに俺はオフィスの壁にめり込んでいた。

 あははは、めっちゃ痛くて逆に笑っちゃうわ。

 でも内出血でよかった。


 血がまき散らされると血痕がついちゃうからね。

 

「っ!」


 俺は短刀を構えて何とか立ち上がる。

 ミステリアス美少女の衣装がへそ出しじゃなくて良かったね……。


 お腹が痣だらけのミステリアス美少女とか、一部の変態にしか刺さらないからな。


「何処見てんだ」

「っ!?」


 俺は短刀を声が聞こえた方向に振るう。

 しかしそれは空を切るばかりだ。


「お前もわかってるんだろ? こうなった俺には勝てねェって」

「っ、どうだろうな」


 俺はボロボロのまま立ち上がる。

 

 が、勿論六波羅さんに勝てると思っていない。

 なぜならこの状態の六波羅さんは『世界の全ての事象に於いて上位になる』からである。


 つまり、無敵。

 十二秒間、めっちゃ速く動く無敵の殺意。

 そんなのどう勝てってんだよ!

 クソゲーじゃねえか!


 だから、ここでクソゲータイムを終わらせておく必要があるのだ。

 この能力は一度使えば十二時間のリキャストが発生する。


 これからのミステリアス美少女タイムに向けて能力は使えないようにしておかないと!


「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたァ!」


 俺はがむしゃらに短刀を振るうフリをしながらあっちにこっちに蹴り飛ばされる。

 ははーん、ブチギレて俺を時間いっぱい蹴り嬲るつもりだなぁ?

 スーパーミステリアス美少女じゃなかったら死んでるね、これ。


 俺の身体が破壊と再生を繰り返す。


 が、表面上は俺はボロボロの状態を維持した。

 俺が再生できると六波羅さんに知られてはいけない。


 あくまで六波羅さんには俺を一度倒してほしいからだ。


 血が出ないように細心の注意を払いつつ、俺は攻撃を受け続ける。

 そして窓際に転がされた俺は最後の力を振り絞って立ち上がり、短刀を錯乱して放り投げるように天井にめがけて振るった。


「っ、くそ!」

「何処狙ってんだァ?」


 天井に短刀が刺さると同時に俺の顔の下からすげえ怖い声が聞こえた。

 同時に、十二秒きっかりで俺の胸に蹴りが炸裂する。


 今だ、短刀爆破!


 短刀が魔力操作によって破裂すると、脆かった天井が落ちてくる。

 降ってくる瓦礫を見ながら、俺は窓ガラスを突き破って外へと落下した。

 

 ふふふ、いいぞ。

 今の俺は非常にみっともない。

 だからこそ、これからが映えるのだ!


 一瞬遠のいた意識から、すぐそばに死があった事を実感する。

 というか六波羅さん、マジで俺の事殺す気じゃん……。

 俺の体の中に星詠みの杖無かったら死んでたぞ。


 ってなわけで、星詠みの杖君。


『よぉし、始まりだねぇ!』


 ウッキウキな声と共に転移の魔法陣が展開される。

 座標は、たった今出来上がった瓦礫の上だ。





 昇り始めた月を背景に、大きく破れた窓ガラスと天井が崩落して出来た瓦礫の山。

 それらを一瞥して、六波羅は気に入らない様子で鼻を鳴らす。


「ふん、俺の思い違いだったか。もう少し楽しめると思ったんだけどなァ」

『リーダー……』

「あんな奴に能力使っちまうとは。少し勿体ないが、胸糞わりィままよりかはマシだ」

 

 六波羅は残った侵入者を片付ける為に踵を返す。


 その時、風が吹いた。


「――そう、満足してくれたなら良かった」

「っ!?」


 声を聞いた瞬間、六波羅は即座に行動に移る。


 相手が何かなど思考する事もなくただ己の直感に従って振り向きざまに飛び込んで声の主に斬撃を放った。


 が、しかし。


「随分と品が無いのね」


 強固な魔力障壁が斬撃を防ぐ。

 同時に、複数展開された魔法陣から魔力砲撃が六波羅へと放たれた。


「チッ」


 六波羅は砲撃を躱し、距離をとると双剣を構えなおす。

 そして、月を背にする少女を睨みつけた。


「テメエ――ソルシエラだな」

「だとしたらどうするの?」

「潰す。そして、理事会への土産にしてやるよ」

「野蛮なのね。悪いけど、貴方じゃ私には勝てないわ」


 ソルシエラは瓦礫の上に腰を降ろして、足を組んだまま六波羅を見下ろしていた。

 まるで玉座に座る女王のような姿は、本能的な恐怖を掻き立てる。


『私じゃ気が付かなかった。急に魔力反応が生まれて……これは転移?』

「ふふっ、違うわよエイナ」


 ソルシエラはエイナの言葉に優雅に微笑む。


「私は《《ずっと貴方達の傍にいた》》。傍で、那滝ケイを相手に戦うのを見ていたの」

「……は?」

『え? いやいやいや、あり得ない。私を前にそんな事……』


 驚く二人を前に、ソルシエラはくすりと笑うと手を自分の顔にかざした。

 その瞬間、姿が変化する。


「こっちの姿の方が、わかりやすいか」


 それは、先程殺したはずの那滝ケイのものだった。


『え、どういうこと? え、え?』

「へェ……テメエの正体はそれだった訳か」


 六波羅は目の前でソルシエラが那滝ケイに書き換わる姿を見て、面白そうに笑う。


(あの時、俺は確実に那滝ケイを殺した。その筈だ)


『リーダーぁ! 生きてるじゃないっすかぁ!』


 混乱するエイナを放って、ソルシエラは那滝ケイとして言葉を続ける。

 

「なあ、おかしいと思わなかったのか? 俺は一度もお前に攻撃を当てなかった。ただ回避だけをしていた。そんなの《《いないも同然》》じゃないか」


 ハッとして六波羅は辺りを見渡す。

 荒れ果てた部屋と瓦礫。

 ここには血の一滴すら存在しない。

 あれだけの戦闘があったのに、だ。


(思い返してみれば、回避にしてはおかしな行動がいくつかあった。天井をぶっ壊したり、壁に突っ込んだり。ンな行動、気が狂ってねェとやらねェ……という事は)


 崩れ落ちた天井も、壁も、すべてが不自然だった。

 ならばこれは。


(俺の記憶がリアルタイムで改竄されたのか)


 那滝ケイが行ったものとして記憶が変更されたのだ。


 今この瞬間、那滝ケイのいた証拠が一切この場にはない。

 さらに言えば、この戦闘で一度も那滝ケイは攻撃をまともに当てようとはしなかった。


「能力を使った途端に攻撃が当たるようになってどう思った? ああ、言わなくてもわかる。期待外れ、そう思ったんだろう」

「……テメエ」


 再び容姿がソルシエラへと変化する。

 彼女は蠱惑的な笑みを浮かべて、夜風に吹かれる髪をそっと押さえた。


「貴方達が戦っていた那滝ケイは途中から幻だった」


 ソルシエラの言葉で、確信した。


「幻覚を見せたのか……!」

『お姉様の干渉能力があれば、確かに理論上は可能。という事は本当に幻覚を見ていた……? ヤバいですよリーダーぁ、今の星詠みメッチャ強いですってぇ!』


(突然の挑発もブラフだった訳だ。アレは俺の能力を使わせるための。一体いつからだ……まさか)


 一度だけ、那滝ケイが回避以外の行動をとった時があった。

 戦い始めて間もなく、意味もない魔力光による目くらましを一度している。


「しょうもねェ目くらましかと思ったが……アレがテメエの能力発動の条件か」


 六波羅の言葉を肯定するように、ソルシエラは笑う。


「星の光に魅せられたのね」


 それは異常事態であった。

 感知に優れた個体である筈のエイナが見逃がすという本来ではあり得ない結果に、六波羅は初めて様子見の選択肢をとる。


「感知に優れているというのは考え物ね。こうやって、逆手に取られてしまう事もあるのだから。自分の見ているものが真実だと信じてしまう。幻覚だから、貴方達を傷つけることはできなかったのは少し残念」

「随分と舐め腐った真似をしやがる。性格の悪ィ女だ」

「気に入ってもらえて嬉しいわ」


 ふわり、とソルシエラは地面に降り立つ。

 そして優雅な所作で礼をした。


「改めて、初めまして。私は今代の星詠み――名をソルシエラ」


 魔法陣から大鎌が生み出される。

 脈動するそれを掴みとったソルシエラは、軽く一振りしてみせた。


「次は、私と一曲どうかしら」


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