第400話 8‐5 始まりの星を詠う君へ
なんて恐ろしいミステリアス美少女パワーだ……!
お労しさを消し去ったソルシエラなんて、反則ソル!
そんなのルール違反ソルよ!
ジャッジ!
『うーん、しかしねぇ……。その辺の裁定は曖昧でねぇ……』
使えねえソル!
ネームレスと初めて遭遇した時以上の衝撃が俺の美少女血管を駆け巡っていた。
見ただけでわかる。
目の前にいる破滅のソルシエラは、芯までミステリアス美少女だ。
『おぉ……しかし奴は幼き命ではない。よって勝者はマイロードと赫夜牟である』
『えぇ……』
こっちのジャッジはロリにしか反応しねえし。
どうなってんだミステリアス美少女コンテンツバトル界隈は。こんなんじゃ新規は入ってこねえぞ!
「それじゃあ、最後の舞踏会を始めましょうか」
くそっ、余裕そうな表情が良すぎる……!
流石は俺の偽物……!
『いいねぇ^^』
既に観客気分の奴いるな?
「せっかくだもの。正々堂々と戦うとしましょう? ねえオリジナル」
「……いいわ、貴女の最期の望みだもの。聞いてあげる」
俺は大鎌を構えてそう告げる。
なるべく強気に、しかしソルシエラの内面を知る者には『あっ、この子今虚勢を張ってる……!』ってわかる感じでやるのがポイントだ。
「ふふ、感謝するわ。……それにしても、少しだけ呆れたわ」
破滅のソルシエラはため息をついて、俺を煽る様な視線を向ける。
まるで心の内まで覗くようなその瞳に、俺は思わず目を逸らした。
『君の心の内を覗くとか自殺行為だろ』
『おぉ……幼き命のみがマイロードの心の中を覗けるのだ……』
『我は絶対に覗きたくないのじゃ』
三者三様でボロクソに言いやがって……!
「まさか、オリジナルともあろう者が最後に掲げた理想がこんなものだったなんて」
「何が言いたいのかしら」
「わからない? ソルシエラバトルは本来、理想を研磨し完成させるための儀式。故に、私に挑むソルシエラは一人でなくてはならない。星の輝きは愚者であろうとも分け隔てなく照らし出す。だから私はそれを否定しない。けれどね」
破滅のソルシエラの瞳がどんどんと冷たく、鋭くなっていく。
俺を見下すようなその瞳は、間違いなく軽蔑していた。
「失望するのも、私の勝手でしょう? ねえ、出来損ない」
「……っ」
一旦怯んだ感じを見せてから言い返そうとしたその時、ガーデナーが一歩前に進み出て俺の代わりに口を開いた。
「破滅のソルシエラ、貴女にはわからないよ。ソルシエラの歩んできた道は、ソルシエラだけのものだから」
「ガーデナー……」
「行こう、ソルソル。私達が一緒に戦うから」
その言葉に同意するように、全員が頷く。
み、皆……!
『どんどんミステリアスが奪われていくねぇ。これもうただの健気美少女だろ』
今はそれでいいんだよ!
それよりもこの後、銀星冠装を出すんだからちゃんと準備してよね!
『わかっているとも。しかし、正直これだけの過剰戦力なら出す必要はないように感じるねぇ』
いいや、大丈夫だ。
俺にはわかるぞ。
破滅のソルシエラは、たぶん滅茶苦茶強い。
正直、ルシエラと同等かそれ以上だ……!
このままだと負けてしまうだろう。
くっ、今は双星形態も鎧星形態も使えない!
かといって赫牙形態はリスクが大きすぎる……!
『なんて?』
『おぉ……マイロード、欲しいものは事前に私にお話しておいてくれ……。すぐには出せない……』
『甘やかすな』
俺と赫夜牟君が一時的に強制共鳴する禁断の姿だ。
設定資料集で言及された程度で、本編では姿すら出ていない禁断の形態だよ。
曰く、10秒しか姿を保てないらしいが、その強さは双星形態や鎧星形態にも引けを取らないとか……!
『わ、我がそんなに強く……! 照れるのじゃ』
けど出ることはないよ。幻の形態だからね。
『それも特別感があっていいのじゃ! カメ先生、これで我も形態が出来たのじゃ!』
『おぉ……良かったな、赫夜牟よ……』
『天使と怪物が平和ボケしやがって^^ 戦ってこそ形態は意味を成すだろうに^^』
おや、星詠みの杖君それは違うよ。
設定上は存在する形態、あるいは本編では登場しなかったが理論上は可能な形態というのは一定の人気を誇るんだ。
形を定めないこともまたコンテンツ。
常に空白を残しておくことで、コンテンツは伸び伸びと育つんだよ。
『言っていることは一丁前だが、口から出任せで勝手に形態を増やしただけでは?』
……さ、そろそろ真面目に破滅のソルシエラと戦うとしよう!
取り敢えず、いい感じに苦戦して、それからガーデナーに励まされて新形態お披露目といこうか!
いくぞ皆、これより『これが私の輝き!』作戦を開始する!
『『応ッ!』』
『えへへ……赫牙形態……』
『浮かれるな新入り^^』
■
大広間を沈黙が支配する。
既に戦いは始まっていた。
互いに間合いを測りながら動き始め、砲撃陣が展開されたのはまったくの同時であった。
「塵にしてあげる」
「威勢だけは良いのね、オリジナル」
ソルシエラと破滅のソルシエラは、同時に大量の砲撃陣から銀光を放った。
辺りに昼が訪れたかのように、眩い輝きが照らし出す。
その一撃一撃は見事に全てが相殺され、空中で何度も激しい爆発を起こした。
「私達も行くよ!」
ラッカは槍を構えて駆け出す。
破滅のソルシエラ本人を殺す事はソルシエラバトルの性質上不可能である。
あくまで目的は、三人のソルシエラのサポート。
堕落、背徳、そしてソルシエラの誰かがとどめを刺せばよいのだ。
故にこそ、その一撃は威力が抑えられてはいた。
が、それを加味したとしても、誰が指先一つで受け止められると想像できただろうか。
「は!?」
「私にソルシエラ以外の攻撃は効かないわ。それが《《理想》》だもの」
破滅のソルシエラは未だに武器を手にしていない。
ただ星光を掬い取る様に静かに手を伸ばしただけである。
その指先がまるで水面をなぞるようにそっと突き出され、槍の先端を完全に停止させていたのだ。
「チッ、こっちは既に理想の銘を使いこなしてるのかよ!」
「これでもまだ半分程度だけれどね。……あら?」
不意に破滅のソルシエラの両腕がだらんと下がる。
戦うべきであるという意思に反して、その体は戦闘を放棄しようとしていた。
次いで体を襲うのは体を縛るような強い拘束感である。
まるで重い砂の中に閉じ込められたかのように、彼女の体は動かなくなっていた。
「この精神への干渉、背徳のソルシエラね。それにこれは……時間への強制介入……? ソルシエラではない。ああ、そこの小さなお嬢さんの仕業かしら」
「ハッ、その小さなお嬢さんにお前は今から臓物を曝け出すのじゃ!」
「堕落のソルシエラ、オリジナル、今です!」
背徳のソルシエラと赫夜牟が、外と内から拘束を成功させる。
その時には既にソルシエラと堕落のソルシエラは破滅のソルシエラを挟み込む形で移動していた。
「あっけない最期ね。これでおしまいよ」
「死ね、破滅のソルシエラ」
大鎌の柄から魔法陣が何重にも展開し、ソルシエラはすぐさま引き金を引く。
それに合わせる形で、サソリの尾からも細く鋭いレーザーのような砲撃が放たれた。
両脇から放たれた致命の一撃。
しかしそれを前にして破滅のソルシエラは何もできなかった。
「あら、私の負けね」
危機感のない言葉と共に激しい爆発が起こる。
「やった!」
「うん、ダルくない戦いだった」
ガーデナーと堕落のソルシエラは勝利を確信して声を上げる。
言葉にはしないものの、背徳のソルシエラや赫夜牟の表情にも安堵の色が浮かんでいた。
想像よりも容易く破滅のソルシエラを倒せたという事実に喜ぶガーデナー達。
しかし、二人だけは違った。
「……いつからだ」
「私相手に随分と舐めた事をしてくれるじゃない」
ラッカとソルシエラは戦う構えを解かず、それどころか今までよりも厳しい表情で夜空を睨みつける。
そして、両者同時に槍と砲撃を夜空へと放った。
「あら、流石に貴女達はわかるのね」
称賛するような声が響くと同時に、夜空が槍と砲撃により割り砕かれる。
まるでガラスが粉々に砕け散る様に、空が割れ、甲高い破砕音を響かせた。
そこに広がっていたのは、天井などではない。
漆黒を覆いつくさんとする大量の星が輝く夜空であった。
星一つ一つが宝石よりも眩く輝き、祝福しているかのようである。
この星空に祝福を受けるのはただ一人――破滅のソルシエラであった。
「まだ目覚めるには早いでしょうに。このまま死んだ方が幸せだったわ」
「幻覚……!?」
「幻覚とか、面倒くさいギミックのクソボスじゃん」
破滅のソルシエラは傷一つない状態で星空にウェディングドレスを揺らしている。
唯一違いがあるとすれば、その手に漆黒の大鎌を握っていることだろうか。
「同じように殺してやればいいだけじゃ!」
赫夜牟はそう叫び、再び停滞の力を行使しようとする。
しかし、その時には既に破滅のソルシエラは赫夜牟の背後にいた。
「ふふっ、可愛い子。星の輝きを止めてしまおうだなんて。無邪気で残酷なのね」
「っ、いつの間に――」
赫夜牟はすぐさま振り返り袖から伸ばした触手で切り裂こうとする。
しかし、その動きを読んでいたかのように銀の鎖が現れ赫夜牟を縛り上げてしまった。
「くっ、小癪な」
「これでお終い。さようなら」
身動きが取れない赫夜牟へと、破滅のソルシエラは手で銃の形を作り額にその先を当てる。
可愛らしい動作とは裏腹に、その指先には大量の魔力が込められていた。
「っ!? ちょ、待っ――」
「ばん」
無情にも砲撃が放たれる。
しかしそれは、頭蓋を割る事はなく漆黒の羽根が散るだけで終わった。
破滅のソルシエラはゆっくりと後ろを見る。
そこには、赫夜牟を抱きかかえたソルシエラの姿があった。
「仲間思い? いいや、犠牲を許容できない弱者なだけね」
「星の光は誰にでも平等に注がれる。それだけよ」
「そう、くだらないわね」
破滅のソルシエラは彼女の言葉を一蹴する。
そして大鎌を構えてこう問いかけた。
「星は何故輝くと思う? その問いの答えを教えてあげる」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間には、両者は再び動き出した。
戦場が、轟音と閃光の奔流に呑み込まれる。
砲撃が大気を震わせ、爆炎が一瞬で灼熱の壁を築き上げた。
その只中で、二つの影が縦横無尽に駆け抜けている。
彼女らは互いに転移を繰り返し、次の瞬間にはまるでその場に最初からいなかったかのように姿を消し、遠く離れた場所へ現れた。
爆発の余波を背に受けながら一方は斬撃を振るい、もう一方は砲撃を撃ち放つ。
軌跡は幾重にも交差し、残された閃光が夜空に鋭い線を刻んでいった。
それはまるで、ただ二つの流れ星が絶え間なく落ちては交わり、また遠ざかるように見える。
永遠に続くかに思えたその光景は、唐突に終わりを迎えた。
「チェックメイト」
破滅のソルシエラは淡々と宣言する。
彼女の鎌は、幾重にも及ぶ転移の中で遂にソルシエラの胸を貫いていた。
背後から突き立てられた刃はソルシエラの胸からとびだし、鮮血に染まっている。
「……っ」
「星は何故輝くか、わかったかしら?」
破滅のソルシエラは、ソルシエラの耳元へと口を近づけてそう囁く。
既に命の灯が消えようとしているのか、ソルシエラには体を震わせることしか出来なかった。
「輝くことを定められているからよ」
刃が引き抜かれる。
鮮血が溢れるその体を、破滅のソルシエラは愛おしそうに抱きしめた。
「貴女を吸収してあげる。その力、貰うわね」
「……」
ソルシエラは抵抗すら出来ず、遂に手から大鎌が零れ落ちた。
「ソルシエラっ!」
ガーデナーに名を呼ばれて、その指先が僅かに動いた。
既に彼女の体は光の粒子へと変化されている。
その中で、ソルシエラはゆっくりと弱弱しく口を開いた。
「がー、でなー……しょう、りを……しん、じ――」
言葉は最後まで紡がれることはなかった。
彼女を構成していた銀の粒子が全て、破滅のソルシエラへと吸収されたのである。
「っ、求道者!」
「おい、流石にオリジナルが吸収されるのはやばいんじゃない!? ダルいとかいうレベルじゃないって!」
「なんて恐ろしい事をするのじゃ……!」
ソルシエラの死に、悲鳴に近い声が上がる。
それを一身に受け止め、恍惚とした表情で破滅のソルシエラは夜空を仰いだ。
「あぁ……良いわ、心地が良い。理想が完成されていく」
酔いしれるような言葉と共に、破滅のソルシエラは大鎌の先を地上のガーデナー達へと向けた。
「次は貴女達の番よ。どうか恐れないで、私と踊って頂戴」
不敵な笑みと共に告げられた言葉。
それはまるで、死神からの宣告のようであった。
『へぇ~! ここが破滅のソルシエラの中かぁ~! テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるな~』
『変態を吸収とか自殺行為かな?』
『おぉ……では早速侵食を開始しよう……』
『主殿という劇毒を自ら摂取するとは、なんて恐ろしい事を……! どうして勝てたのに自ら死にに行くのじゃ……!?』




