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かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない  作者: 不破ふわる
九章 九重ちゃん、参上!!

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第272話 学園都市、たぶんかなりピンチだわ

 朝、まだ日も昇らぬ内にトウラクは目を覚ました。


「――ッ!?」


 肌に突き刺さる殺意と、わずかな衣擦れの音が眠っていた彼の意識を呼び覚ましたのである。

 牙塔家の人間にとって、睡眠は無防備を意味しない。

 常に戦場へと身を置く意識こそが、初めに肉体へと叩き込まれるのだ。


 故に、彼は初撃を回避することが出来た。


 ベッドから飛び起き、いつの間にか隣で寝ていたルトラを抱えて、感覚のままに跳躍する。

 その後すぐに、ベッドへといくつもの風穴が空いた。


「ルトラ!」

「うん、起きた」


 腕の中で目を覚ましたルトラは、すぐにその姿を太刀へと変化させる。

 太刀を構えたトウラクはベッドの傍に立つ影の前に着地すると、刹那の間に数度切り裂いた。


 四肢の腱と、持っていた剣を破壊したトウラクは、しかし油断することなく距離をとる。


(得物が違う。僕を襲ってきたのは銃だった。最低でも二人。いや、御景学園の警備をかいくぐって殺しに来たのなら、もっと沢山いてもおかしくはない)


 夏休みの間に、トウラクは牙塔家で正式に当主となった。

 分家も含めた総勢50名の後継者たちによる決闘の末に勝ち取った玉座は、決して楽なものではない。


 牙塔家の使命、それはダンジョンを悪用する人間を殺すことだ。

 那滝家がダンジョンから人を守るならば、牙塔家は人から人を守る。


 影から平和を守護する牙塔家ともなれば、敵は少なくない。

 事実、トウラクは既に学園都市に戻ってきて四度裏の組織から命を狙われている。


 その度に難なく組織を壊滅させてきたのだが、今回は勝手が違った。


(殺したくはないな。できれば脅しで武器を捨ててくれる相手だと良いけれど)


 御景学園に侵入してまでトウラクを殺すことがどれだけ無謀なことか。

 Sランクが在籍するという事実が、それを何より証明しているだろう。


 加えて、トウラクもまたデモンズギアの契約者である。

 故に、今回の襲撃犯に対してトウラクは軽く脅して無力化するつもりであった。

 剣の腕前ならば、つい先ほど一人を犠牲に見せている。

 騒ぎを聞きつけてミハヤやリンカが来るのも時間の問題だろう。

 そう思っていた。


「悪いけど、殺したくはないんだ。隠れてないで大人しく出てきてくれるかな?」


 扉の向こうからの殺意は依然止むことはない。

 返事の代わりと言わんばかりに、一発の銃弾が放たれた。


 トウラクはそれを斬ろうとして、途中で気が付きとっさに身をよじり回避をした。


「っ」


 それは、触れたものに強制的に致命傷を負わせる因果干渉の銃弾。

 一人の少女が厳しい鍛錬の果てに会得した異能だと良く知っていたのだ。


「……ま、さか」


 再び、銃弾が放たれる。

 トウラクはそれを回避し、迷わず壁を斬って外へと飛び出た。


 静かな学園に瓦礫の落ちる音が響き渡り、砂煙が上がる。

 5階からなんなく着地したトウラクは、すぐさま太刀を構えようとして、その空に目を奪われた。


「なんだ、この空は」


 空を何かが覆っている。

 まるで手で包み込むように、覆い隠す様に、夜明けの空が遮られていた。


『トウラク、避けて』

「っ」


 ルトラの言葉にハッとして、トウラクは自身へと向かってきた銃弾を回避する。

 見れば、自分を追って降り立った少女の姿があった。


 その姿をトウラクが見間違う訳もない。


「――誰が隠れたですって? アンタ相手にどうして隠れる必要があるのよ」

「……ミハヤ、どうして」


 双葉ミハヤは、トウラクへと蔑むような目を向ける。

 その銃口はトウラクを捉えていた。


「どうしてですって? 馬鹿馬鹿しい質問ね。貴方が世界を滅ぼすからに決まっているでしょう?」

「……え?」

「デモンズギア使いとSランクを殺すのが私たち探索者の役目。わざわざ御景学園に潜入してまで何をしようとしていたのかは知らないけれど、ここで殺すわ」

「ま、待ってくれ情報の整理を――っ!?」


 銃弾を回避する。

 太ももと心臓と頭へ、銃弾は放たれていた。

 冗談などでは済まない。


 本気で彼女はトウラクを殺そうとしているのだ。


「ミハヤ、どうしてっ!」


 トウラクの叫びに近い問いかけに、ミハヤは顔を顰めた。


「というか。さっきから、どうしてアンタが私の名前を呼ぶのよ。気持ち悪いわね」

「そんな……僕たちは……」


 一瞬泣きそうな顔をしたトウラクだったが、すぐに気を取り直す。

 何か異変が起きていることは明らかなのだ。


『ルトラ、ミハヤに何か魔法がかけられている可能性はないかな』

『どう考えてもあの空。でも、私にはそれ以上のことはわからない。エイナかシヤクならわかるかも』

『なら六波羅さんか……合流した方が良いかもしれない。けど、その前に』


 トウラクは太刀を構える。

 そして、ミハヤを視界にとらえて言った。


「ルトラ一振り」


 切断音が一度響く。


 その瞬間、ミハヤはがくんと項垂れてすぐに顔を上げた。


「あ、あれ……どうして私こんなところに」

「ミハヤっ!」


 いつも通りの彼女に戻ったことで、トウラクは安堵の表情を浮かべる。

 しかし。


「トウラク? アンタこんな所で何をして――」


 再びその目から輝きが消え、銃口がトウラクを捉える。

 辺りが殺意で満たされた。


『……なるほど、仕掛けがありそうだ。僕でも切れるが後から上書きされる』

『こっちが勝つまで切り続ける? それか、ミハヤの周囲の空間だけ切り裂いて干渉できないようにするとか』

『対処は慎重にしよう。どうやら、ミハヤだけじゃないみたいだし』


 気が付けば、周囲には御景学園の生徒たちがいた。

 皆一様に武器を構えて、トウラクを見ている。


 その目は、明らかに敵意に満ちていた。


『殺していいなら一瞬だけど』

『それは駄目だよ。いつも通り、命優先で』


 殺さないことを前提に動こうとするトウラクに対して、生徒たちは各々が本気の攻撃を選択し、迷うことなく放った。


 過去に彼に助けられていようが、憧れていようが関係ない。

 目の前の牙塔トウラクという人間は敵なのだと信じて疑っていないのだ。


『流石にこれだけの数を相手にするのは時間がかかりそうだね』

 

 太刀を構え、トウラクが迎撃に動き出そうとしたその時だった。


「大丈夫、彼らの攻撃は外れる」


 優しい声が聞こえた。

 その言葉に従うように、全ての攻撃がトウラクから不自然に外れる。


 その現象を見て、トウラクは初めて表情を明るくした。


「ユキヒラ会長!」

「やあ、おはよう。と言っても、あいにくの空模様だけどね」


 取り囲んだ生徒たちの中からユキヒラは、笑顔と共に現れた。

 彼の周囲はこうしている間も攻撃が飛び交っているが、不思議と彼には当たっていない。


 五秒先、自身に都合の良い未来を選び取る彼の異能の力である。


「うんうん、トウラク君たちが本気で殺し合う前で良かったよ。流石に君たちが戦ったら、後々面倒くさいことになりそうだし。そういうの気にして傷つくタイプでしょ、ミハヤ君って」

「……なんでアンタが知った風な口をきいてんのかしらね!」


 ミハヤがユキヒラへと弾丸を放つ。

 しかしそれは明後日の方向へと向かっていった。


「攻撃が外れた。また、ラッキーだった。今日も僕は運が良い」


 大量の生徒の攻撃を意識することなく回避しきり、ユキヒラはあっという間にトウラクの前に到達して見せた。


「君も正気で助かった。丁度、事件解決に動ける人材が欲しかったんだ」

「この状況、どういうことなのでしょうか」

「それについては、彼女から聞こうか」


 そう言って、ユキヒラは自分の背後にいたリンカを前に押し出した。


「リンカ! 君も無事だったのか?」

「無事、ではないねー。今、マジで二人とも殺したいし」

「え」


 笑顔を浮かべるリンカは、いつも通りに見える。

 しかし、確かにその手は握られて、震えていた。


「すごいよ彼女。洗脳後の知識の矛盾点に一人で気が付いて、それを逆手に正気を取り戻したんだから」

「洗脳じゃなくて、常識の改変が近いですよクソ野郎」

「……今のは洗脳されているからだよね?」

「勿論!」


 中指を立てながら、リンカは答えた。


「てなわけで、私は味方。だけど、いつでも倒せるようにね。気を許しちゃ駄目」

「わ、わかった」

「ではでは早速なんだけど」


 リンカはトウラクを見ながら、張り付けた笑顔と共にこう言葉を続けた。


「アリアンロッドが壊滅して、理事長が行方不明になった。学園都市、たぶんかなりピンチだわ」


 



 

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