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かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない  作者: 不破ふわる
一章 星詠みの目覚め

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第27話 美少女は傷を負っても美しい

 学園都市の夜は少し騒がしい。

 学業から解放された生徒たちが、青春をまるで浴びるが如く自由を満喫しているからだ。


 ダンジョン特区も例外ではない。

 昼間はノートとにらめっこしているような子でも、今は武器を片手にダンジョンを探し回っていた。


 そんな生徒たちを、廃ビルの上から見下ろす影が一つ。


 そう、俺である。


「この都市の夜は随分と騒がしいのね。私、夜は静かな方が好き」


 こんな事を言えちゃう俺である。


 というわけで、女装してまーーーす!!

 いえーい!


『■え■■!』


 お、ソルシエラもノリノリだねぇ!

 女装の良さがわかるようになってきたかな?

 髪も伸ばしてくれたし、このまま安全な美少女化装置に徹してくれるならこれからも仲良くできそうなんだけど。


 ダンジョン特区の端に存在する、廃ビルに俺はいた。

 どこかの学園が過去に監視用に作り上げ、そして廃棄したものだろう。


 ビルとはいえど、普通のビルとは違いどこか物々しい装いがされている。

 破れた有刺鉄線や、空薬莢、砲台の跡があちこちに点在していた。


 俺は砲台跡の上に腰を降ろして片膝を抱えながら都市を見下ろしている最中である。


「私には、この都市は眩しすぎる……」


 楽しい。


 今、俺はせっかく右腕を怪我しているので、闇を抱えた美少女ごっこをしている。

 ゴスロリ衣装×包帯だ。あまりにもシナジーがありすぎる。

 眼帯も持って来ればよかった……!


 ちなみに、包帯は改めて俺の好みに巻きなおした。

 きっちりと無駄なく巻かれていた物を、あえて風で靡くようにしている。


 ここはビルの屋上。包帯も髪も靡き放題である。

 悲し気な表情で髪を押さえる右手は包帯が巻かれているなんて、そんな素敵な絵面が完成していた。


 この美麗スチルを保存する機能がなぜかダイブギアにもソルシエラにもないらしい。

 どうなってんだ。

 

「はぁ……」


 それはそれとして、右腕が痛い。

 今までは平気だったんだが、包帯を巻きなおす時に思いっ切り傷口を開いてしまったのが原因だろう。なんなら、傷口が広がって悪化した。


 だって、今も包帯に血が滲んでいるもん。

 でも、少し血が滲んでいる包帯の方が、よりらしさが出るし結果オーライである。


 俺は美少女は悲しい目に遭わないべきを世界の真理と定めているが、同時に傷ついた美少女の美しさも理解していた。


 フェクトム総合学園の皆には笑っていてほしい。具体的には美少女日常四コマ辺りに収まって欲しい。

 けど、傷を負ったり、苦悶の表情を浮かべている美少女もまた素敵。


 相反するこの二つの感情をどうすればいいか。


 簡単だ。

 俺が傷つけばいい。


「……少し、無茶したかしら」


 そんな事を言いながら、俺は右腕をそっと撫でる。

 その傍らには、立てかけられた漆黒の鎌。


 こんな美少女って、いいよね。


『■■■、■■■■?』


 え、魔法陣完成したの?


 いいねぇ! 君、よく有能って言われない?


 じゃあさ、俺が右腕をかざしたらその先に魔法陣出してよ。

 俺、それで遊ぶから。


『■■』


 星詠みの杖の元気な返事と共に、俺は右腕を都市に向けてかざす。

 

 すると、手のひらの先に一メートル円形の魔法陣が展開された。

 

 深い蒼と紫が互いに食い合うように色が混ざり合い、変化を続けている。

 意味不明な文字列と計算式は、それっぽくてとってもいい。


 俺はそれを展開したまま、風に消えるか消えないかの声量で呟く。


「――世界はまだ私に応えてくれないのね」


 くぅ~!

 これですよこれ!


 一度心を許したらどこまでも共依存でズブズブになりそうな美少女!

 そういう美少女のロールプレイが一番楽しいね!


「それでも、戦い続けるしかない」


 俺はガスマスクを取り付け顔の下部を覆うと、鎌を手に取り立ち上がる。


 立ち上がっただけだ。

 何もしない。

 ただ、それっぽい事がしたかったのだ。


 ついでにスカートをふわりと浮かせて後ろを向いちゃったりなんかして――。


 あ。


「……えっと、ソルシエラで、合ってますか?」


 振り返った先に少女がいた。

 目が、ばっちり合っていた。


 夜に溶けることのないハッキリとした水色のハーフアップツイン。

 聡明さを感じさせる瞳。


 そして、御景学園の制服。


 そうだね、原作メインヒロイン様だね!


 やべ。






 双葉ミハヤは、その日は珍しく一人だった。


 ダンジョンで傷ついた自身の相棒である牙塔トウラクは、今もまだ医務室のベッドの上である。

 身体の傷は治っているものの、魔力の枯渇症状が出ているため安静にしている状態だった。


「はぁ」


 この日、何度目になるかわからないため息をつく。


 隣に彼がいない事以外は、全てがいつも通りだった。

 いつも通りに授業を受けて、放課後はダンジョンを探して。

 

 まるでリアリティがない今日という一日を、ミハヤは惰性で過ごしていた。


 そんな今の彼女だからこそ、普段とは違う行動を取ったのだろう。


「……あんな所にビルあったんだ」


 普段は風景であるはずの世界が、彼という欠損を埋める為に急速に色を取り戻す。

 気が付けば、ミハヤの足はふらふらとその廃ビルの方へと向かっていた。


 そして。


「――世界はまだ私に応えてくれないのね」


 彼女と出会った。


 夜空を流れる星の様な蒼い銀色の髪。

 俗世から浮いたおとぎ話の住人のようなモノクロの服。


 まるでホロスコープのような魔法陣越しに都市を眺めるその少女をミハヤは一方的に知っていた。


「……ソルシエラ?」

 

 御景学園で生徒たちが話しているのを聞いたことがあった。

 学園都市の八人目のSランクであり、所属不明の謎の探索者。


 一度、彼女が戦っている映像を見たが、その光景はミハヤの中に強く焼きついている。恐ろしいほどに、自己完結された強さだった。

 

「……戦い続けるしかない」


 何をするでもなく見つめていると、ソルシエラはふとそう呟いて立ち上がった。

 そして、傍らにあった鎌を手に取り、振り返る。


「ぁ」


 それが自分から漏れ出た声だと、ミハヤは理解していなかった。

  

 目が合った。

 自分の中を見透かされていると錯覚する程鋭利で、冷たい目。


 双眸が、確かに自分を捉えている。


 ソルシエラから何かを話す様子はなかった。

 辺りに風の音だけが響く。


 やがて、ミハヤは何とか言葉を絞り出して言った。


「……えっと、ソルシエラで、合ってますか?」


 分かってはいる。

 が、咄嗟に出てきた言葉がそれだった。


 もう少しまともなファーストコンタクトはあったと、勝手に後悔するミハヤを他所に、ソルシエラは「そうよ」と簡潔に答える。


「何か、私に用でもあるのかしら」

「あ、えっと……」


 警戒するように、ソルシエラは言った。

 無理もない。


 Sランクに認定されたという話は本人も知っている所だろう。

 そして、彼女を多くの学園が欲しがっているという事も。


 彼女からしてみれば、ミハヤはそういった有象無象の一人に映っているのかもしれない。


「ち、違――」


 否定しようとしたその時、ソルシエラの右腕に目がいった。

 風に大きく靡く物があったからだろうか。


 それは、粗雑に巻かれた包帯であった。


 ソルシエラの右腕に包帯が滅茶苦茶に巻かれている。

 出血を抑えられればそれでいいとでも言いたげな程に雑だ。


「怪我、しているの?」

「……ああ、前にダンジョンで少しね。イレギュラーが発生して」


 自分の事だというのに、まるで無関心にソルシエラはそう言った。

 今も、吹く風から髪を押さえるために躊躇なく右腕を使っている。


 その包帯に滲む血が、どれだけ多くなろうともだ。


「貴女、血が……!」

「別に大したことは無いわ」


 どこまでも冷静なソルシエラに対して、ミハヤは気が付けばこう言っていた。


「いいから、右腕見せて。包帯の巻き方も滅茶苦茶だし、直すから」


 相手がソルシエラだと理解していながらも、ミハヤは躊躇うことなく近づき座るように促した。


「別に気にしなくていい」

「そういう訳にはいかないでしょ。目の前で傷ついた人を見て、放って置けっていうの?」


 随分と立派な言葉だ、とミハヤはどこか自嘲的に考える。


(アイツの事は放っておいた癖に)


 脳裏に、一人の青年の顔が浮かぶ。


 思えば、あの青年も右腕を怪我していた。

 いや、だからこそソルシエラを放っておけなかったのか。


 どこかで、助けるべきであった彼とソルシエラが重なって見えたのだ。


「ほら、座って」

「はぁ……お人好しね」


 ソルシエラは、ため息を吐きながらも渋々従ってくれた。

 ダイブギアの拡張領域から、救急の医療キットを取り出しその場に広げる。


「包帯、一度剥がすから。なるべく、痛まないようにするけど、痛かったら言って」

「別に、痛みには慣れている。……あの頃に比べたらどうって事ないわ」


 投げやりにソルシエラはそう返事をした。


 ミハヤは、包帯をゆっくりと解いていく。

 血が半端に凝固しているせいか、剥がしづらい。


 それでも、やっとの事で剥がし終えた。


「……酷い傷」

「そうかしら」


 なぜ平然としていられるのかわからない程に痛ましい。

 陶器のような白い肌を塗りつぶすように広がる赤黒い傷。


 ミハヤは、思わず目を逸らしそうになるのをグッと堪えて、消毒液を振りかけた。


「染みるわよ」

「そう」


 痛みはある筈なのに、ソルシエラは変わらず涼しい顔だ。

 おかげで、妙な沈黙が場を支配しなんとも言えない空気になっている。


 自己満足の行動だとはわかっているが、それでもあまりに気まずかった。


「この包帯は自分で巻いたの?」

「そうよ。やった事なかったから、うまく巻けなかったの」

「血も滲んでいるし、傷口も開いてる……何度も巻きなおしたでしょ?」

「すごい、よくわかるわね」


 初めて、ソルシエラが感情を露にした気がした。


(病院、は行く訳ないか。これだけの傷を、自分でどうにかしようとするなんて)


 確かに探索者の自己治癒力なら、いずれは治るだろう。

 しかしそれまでは痛みに苦しむはずだ。


 それを、ソルシエラは当たり前の事として受け入れたのだ。

 今までも、そうだったのだろう。


 ミハヤは、医療キットから新しい包帯をとりだす。

 そして、これ以上傷口が風に晒されないように手早く丁寧に包帯を巻いた。


「はい。これでおしまい」

「……ありがとう」


 包帯の巻かれた腕を興味深そうに見つめながら、ソルシエラは礼を言った。


「随分と、巻くのが上手いのね」

「幼馴染によく巻いてあげてたから」


 ミハヤはそう言って笑った。


「そう。貴女みたいな人が傍にいるなんて、幸せなのねその人」

「……それはどうかしら」


 思わず、そうこぼしてしまう。

 が、すぐにハッとして取り繕うように笑顔を浮かべた。


 ソルシエラはそんなミハヤを見て、ふっと優しく微笑むと自分の隣をちょんちょんと指さした。


「座りなさい。包帯のお礼に、悩みぐらいなら聞いてあげる」

「でも……」

「まったく関係のない人間だからこそ、話せる事もある筈よ。ほら」


 ミハヤは、引け目を感じつつも隣に座る。

 そんな彼女を見ることなく、ソルシエラは都市の方を見たまま「自由に話しなさい」とだけ言う。


 やがて、ミハヤはぽつりぽつりと話し出した。

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