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かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない  作者: 不破ふわる
八章 そるしえらのなつやすみ

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第229話 かいごう


 那滝家の中でも、その部屋には取り分け厳格な雰囲気が漂っていた。

 装飾などなく簡素であっても、その部屋に歴史的価値があるという事はその場にいる誰もが理解できる。


 どれだけの大企業の人間であろうとも、この場では平等に扱われる。

 一様に、口を閉ざし待つその姿に違いなどある訳がなかった。

 彼等は、まるで社会を知らぬ若造のように、どこか緊張した面持ちである。


 しかし、中でも上座に位置する場所に静かに座る那滝家の青年、カイとケイだけは涼しい顔で待っていた。

 彼等にとっては既に慣れた事なのだろう。


 背筋を伸ばし、黙して待つその姿には齢不相応の大人びた雰囲気が在った。


「――当主様がいらっしゃいます」


 ふすまの傍で正座していた老婆の言葉に、全員の意識が向く。

 やがて、そのふすまは開かれた。


 瞬間、カイとケイ、そして老婆がすぐさま頭を下げる。

 それから少し遅れて、企業の人間たちも頭を下げ始めた。


 何かが畳を擦る音ともに、部屋へと入ってくる気配。

 その気配は、全員を見渡せる位置まで来ると、静かに言う。


「顔を上げなさい」


 その言葉に従い顔を上げた全員が例外なくその声の主に、見惚れた。

 老いも若きも関係なく、性別の垣根を超えて心を奪われる容姿を持つその人こそ、那滝家の当主である那滝アイである。


 白を基調として巫女のような装飾が成されたそれは着る人間の美しさも相まってまるで天女のようであった。

 カイやケイでさえも、驚いたように固まっている。


「本来であれば、三日間の祈祷と地絃天星埜御霊の継承をもって当主となるのが習わしです。しかし、今は祈祷に使われた聖域も地絃天星埜御霊も失われている緊急事態。故に、ここでの簡単な挨拶のみで済ませることをお許し下さい」


 そう言って、アイは一度短く頭を下げる。

 そして、静かに腰を下ろした。

 

 その姿一つ一つに気品と美しさ、そして力強さが感じられる。

 誰一人として、彼が当主であると疑うものはいなかった。


「……ふぅ、中々に緊張しますね、この場所は。皆さん、楽にしてください」


 アイの言葉に、全員のなかにあった緊張の糸が切れ、空気が弛緩する。

 人々は息を吐きながら、笑みを浮かべた。


 中でも先程まで顔が青くなっていた女性へと、アイは声を掛ける。


「神宮寺家のご令嬢さん、そう緊張なさらずに。これはただの会合。なにも取って食おうという訳ではありません」

「おっ、お気遣いいただきありがとうございます……!」


 まさか声を掛けられるとは思っていなかった神宮寺ヒナミはカタカタと震えながら何とか返事をした。

 が、握られた手の中は汗でびっしょりである。


「わたしも、まさかこんな形で当主になるとは思っていませんでした。まだまだ至らぬ身故に、皆さまにもお力添えを頂くことになるでしょう。さて」


 アイはちらりとケイを見た。

 そして、眼を逸らすことなく口を開く。


「当主として初めにするべきことは決まっています。……ケイ、分かっていますね」

 

 声を掛けられ、ケイは覚悟を決めた様子で頷く。


「今この瞬間をもって、那滝の名を名乗ることを禁じます。貴方は那滝家から破門です。何か、申し開きは」

「……いえ」

「では、皆さん。今からあれはただのケイです。那滝とはなんの関係もありません。……以降、那滝家ではなく客人として扱うように」


 アイは最後に使用人へ向かってそう付け加えた。

 そして、この話は終わりだと言わんばかりに静かに息を吐き、眼を閉じる。


「待てよ、僕は納得していないぞ」


 その声は、アイのすぐ近くから聞こえてきた。


「……カイ、またですか」

「この場じゃねえとまともに話を聞かないだろ。僕は、まだケイがこの家から追い出されることに賛成していない。そして、する気もない」


 そう言うと、カイは立ち上がりアイの真正面から睨みつける。

 突然の事に他の人々は事の成り行きを見守ることしかできなかった。


「こんな事をしている場合じゃないはずだ。ケイを追放してどうするんだよ」

「こんな時だからこそです。身内の恥は、早々に切り捨てておかなければいけません」

「コイツが恥だってのかよ……!」

「最初からそう言っているのです」


 アイは立ち上がることなく、静かにカイを見上げる。

 対して、カイは感情をむき出しにしてアイを見下ろした。







 はわわわわ~><

 私を巡って、美少女♂が争っているよ~><

 

 というか、アイ兄さんが美人過ぎてつらい。

 一瞬、見惚れちゃったもん。

 あの顔何?

 顔面偏差値高すぎない? やばいって、ソルシエラで勝てるかどうか……!


 流石は兄さんだ。

 俺に美少女がなんたるかを示してくれている。


 つまり、可愛いね♥


『やっぱ追放して正解だろこいつ』

『マイロード、この場には幼き命がいない。さっさと帰ろう』

『こいつもついでに追放しようねぇ』


 那滝家の会合っていうからくそ怠い堅苦しさMAXのお話合いだと思ってたらさ、見てよこれ。

 俺の事でこんなに真剣になっているよ。


 可愛いね♥

 後で、纏めて脳を焼いてあげるからね♥


『うーん、実の兄を相手になんて恐ろしい事を……』


 兄思いの優しい妹でしょ。

 おにいちゃん、だいすきー!


『!!!!!! もしや、その喋り方、幼き命ではないか!?』

『禁断症状が出てる……』


 カメ君にはドン引きです。

 誰ですか、こんな気狂いロリコンにしたのは。


「ケイの事を考えた事あんのかよ! 三兄弟で協力していけばいいじゃねえか!」

「あんな出来損ないは不要です。那滝家の人間ではない」

「……っ! 言って良いことと悪いことがあるってどうしてわからねえんだ!」


 そう言ってカイ兄さんが飛び掛かる。

 しかし、突如としてアイ兄さんの持っていた杖が人へと形を変えると、それを受け止めた。


「美しい髪が乱れますよ♥ 落ち着いてください♥」

「シヤク!? 離せ!」

「嫌です♥」


 突然現れたデモンズギアに、企業の人々はざわついている。

 それもそうだ。

 デモンズギアの事は世間にはすっごく危ないすっごく強い武器少女という認識しかない。


 というか、こうしてカイ兄さんが抑え込まれているの見るとデモンズギアってフィジカル強いな。


『いつでも契約者を押し倒して、ぐちゃトロにできるように設計されているからねぇ^^』


 そんなわけないだろ。

 

「後で紹介しようと思っていましたが、良い機会です。彼女はシヤク。私と契約したデモンズギアであり、私の妻となる女です」

「シヤクです♥ 人間の皆さん、これからよろしくお願いしますね♥ ああっ、暴れないでカイ君」

「離せ! くそっ! おい、アイ兄さん! 考え直してくれよ!」


 ジタバタ暴れるカイ兄さんを見て、シヤクちゃんは困ったように眉をひそめる。

 そして、アイ兄さんへと振り返ると問い掛けた。


「どうしますか♥?」


 アイ兄さんは、弟がマジギレしているというのに表情一つ変えることはない。

 この人、ヤバいっすよ。


「では、こうしましょう。……決闘です。貴方が勝てば、ケイを那滝家の人間としましょう」

「……本当か? 噓偽りなく、僕が勝てばケイは那滝家なんだな?」

「当主として、約束事を違えることはしません」

「わかった。決闘はいつだ」


 カイ兄さんは眼に怒りを宿したまま、冷静になろうと息を吐く。

 対して、アイ兄さんは他人のように答えた。


「今からです。私が当主であるという事を実力でも示す良い機会でしょう。企業にも、那滝家の強さを改めて教える事ができます」

「ついで、って事かよ」

「カイ、貴方が私に勝てたことが一度でもありましたか?」


 挑戦的な言葉だった。


 カイ兄さんはそれを聞くと、ムッとした様子で叫んだ。


「今度こそ勝ってやるよぉ! 今までの僕と思ってくれるな!」


 原作を知っている全知な俺にはわかる。

 このパターンはカイ兄さんが負けるだろう。


 この人、頭がカッとなって敵組織に突っ込んでいって負ける事多々あるから。

 他のヒロインと比べても、囚われのヒロインの回数も多い。


 なんなら性別が男だからセーフという理由で原作者にギリギリのシーンまで描かれている。


 つまり、生粋のかませ役なのだ。


『やっぱり兄弟なんだねぇ』

『つまり、あの子も私の娘なのか』


「絶対に負けねえ!」

「威勢だけは良いですね」


 こうして、那滝家での決闘が始まろうとしていた。


 完全に身内の恥をさらしているだけなので、企業の皆さんには本当に申し訳ないと思っています。

 でも、全部俺が美少女過ぎるのが良くない事だから……。

 

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