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かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない  作者: 不破ふわる
四章 騎双学園決戦

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第130話 迷走

 領地戦当日。

 まだ朝も早いうちから、各陣営は動き出していた。

 

 中でも、御景学園の生徒会は日の昇らない時間帯から活動している。


 騎双学園解体の代表として、他校と多くの企業からの支援を受けた彼等にとってこの戦いは必ず勝たなければならない。


「勝利をより盤石なものに。……それが君の理由かな、リンカ君」


 生徒会室で、眠気覚ましのコーヒーを入れながらユキヒラはそう言った。

 その背後では、リンカが彼を見つめている。


「ミハヤが襲われた件、騎双学園の仕業とするにはあまりにも違和感があります。そう思うのが自然であるように誘導されている」

「まあ、君が言うならそうなんだろうね」


 ユキヒラはリンカの言葉を否定しない。

 銀の黄昏にいた彼女が違和感を持ったのであれば、それを信じるべきだろう。


「実は、僕もおかしいと思ってたんだ。騎双学園は品のない学園だが、上には《《彼女》》がいる。彼女がいる限り、領地戦前にリスクとなる様な行動を起こすわけがない」


 ユキヒラは淹れたコーヒーに角砂糖を沢山入れ、ミルクを注ぐ。

 そして、それを美味しそうに飲み干した。


「止めても行くのだろう――銀の黄昏の本拠地に」

「……見たんですか、未来」

「見た。そして止めた。けれど、無理だね。君ってば頑固だから」


 ユキヒラは呆れたように笑う。


「今回の一件、必ず銀の黄昏が絡んでいます。このやり方には見覚えがある。アイツは、自ら手を下そうとしないですから」

「今更止めはしないよ。けれど、トウラク君はどうする」

「どう、とは?」


 リンカが首を傾げる。

 が、それを見てユキヒラは「分かってるくせに」と鼻で笑った。


「今の彼、危ういよ? ミハヤ君がいない今、誰かが傍にいてあげないと」

「……領地戦までには戻ります」

「約束できるのかな?」

「はい」


 強い意志を持った目だった。


 銀の黄昏にいた頃のリンカとは違う。

 自身を道具として使うのではなく、一人の人間として、生き残るべく行動することができる。


「いい目だ。だからこそ、失うのは惜しいね」


 ユキヒラはそう言って、拡張領域から一つの宝石を取り出すとリンカへと放り投げた。


「……これは?」

「綺麗でしょ。僕の持っている聖遺物の一つでね。一度だけ死の因果を捻じ曲げる事が出来る」


 手の中に収まった青い宝石。

 ユキヒラの言葉を信じるなら、それは死の運命から一度は逃れることが出来るという事だ。


「これを、私に……!?」

「うん。だって、僕よりも君に必要だからね」


 ユキヒラは、そう言って椅子に腰を下ろすとアイマスクを付けた。


「僕はこれから仮眠をとるとするよ。その間に君がどこへ行こうが自由だ。だけど……きちんとまた戻ってくること」

「……はい。必ず」


 リンカは、力強く頷くと一礼する。

 そして、駆け足で去っていった。






 それから暫くして――。


「……おや、君は訓練場にいるとリンカ君から聞いていたのだが」


 アイマスクをしたまま、ユキヒラはそう言った。

 彼の背後には、トウラクが佇んでいる。


 普段の彼からは考えられない程に静かで冷たい。

 まるで幽鬼のような顔で、トウラクは言った。


「僕を第一部隊に入れて下さい」

「んー」


 ユキヒラは迷う素振りを見せながら、自身のこめかみを何度か小突く。

 そして、椅子をくるりと回転させアイマスクのまま口を開いた。


「それは無理だ」

「なぜですか」

「意味がない。君は僕と同じ今回の領地戦の切札の一つ。君を最初の突撃部隊に入れれば防衛ラインが破綻する。相手にSランクがいる以上それは避けたい」


 理路整然とした言葉。


 今回のトウラクとユキヒラの役割りは、騎双学園のSランクである六波羅の足止めだった。

 ミズヒという攻めの役割を担う者がいる以上、二人で守るのがベストである。


 が、トウラクはそれを聞いても譲る気はないようだった。


「問題ないです。僕が、最前線で全て切り伏せます」

「出来るの? 今の君に」

「……今はまだ。けど、領地戦までの残り僅かな時間で必ず星斬を使えるようにします」

「そういう事を言っているんじゃないんだけどね」


 ユキヒラはそう言って、机に頬杖をつく。

 その姿にムッとしたトウラクが口を開いた瞬間、狙ったかのようにユキヒラは「じゃあこうしよう」と呟く。


「要するに、君が実力を示してくれればいいわけだ。最前線で騎双学園の生徒を全員倒せるというその根拠を」

「……今は星斬がありません」

「だから――当てるだけでいいよ、僕に攻撃を。一手、それで僕に攻撃が届けば君の好きにしてあげよう」


 ユキヒラは自分の首を指さす。


「君が間もなく星斬を手に入れることができるというのなら、ここで僕に攻撃を当てるくらいは訳ない筈だ。そうだろう? 武器というものは、使い手の腕が良くなくてはどれだけ上等でも意味がない」

「わかりました……では」


 本来のトウラクであれば受けるはずもない提案。

 しかし、今の彼はそれを呑んだ。


 そして、ダイブギアから無骨な刀を顕現する。


「ルトラを使ってもいいんだよ?」

「いえ、必要ありません。生徒会長を大怪我させてしまったら大変ですから」

「言うねえ」

 

 軽薄に笑うユキヒラの前で、トウラクは居合抜刀の構えをとる。


 彼が得意とする一撃必殺。

 牙塔家に伝わる殺人剣術の基礎だ。


「いつでもどうぞ」

「はい」


 頬杖をつき、アイマスクをしたままユキヒラは笑う。

 対するトウラクはまるで殺さんばかりの気迫であった。


「――ッ」


 剣が抜かれる。

 デモンズギア契約者として底上げされた身体能力は、常人を凌駕するものである。

 さらにそこへ、長い歴史の中で洗練された技が組み合わさった。


 驚異的な速度で抜かれた刃が、ユキヒラへと目掛けて放たれる。


 が、変わらずユキヒラはアイマスクをしたまま欠伸をして――。


「おっと」


 首を傾けた。

 その瞬間、ユキヒラの背後の窓が割れて、何かが飛び込んでくる。


「ッ!?」


 飛び込んで来た何かに、トウラクは条件反射で刃をあてがった。

 普段、抜刀術をカウンターとして用いているが故の彼の癖だ。


 生徒会室に、小さく何かが切断された音が響く。


「……今のは」


 綺麗に二つに別れたそれを拾い上げたトウラクは首を傾げる。

 それは、狙撃に用いられる銃弾であった。


「おや、どうやらトウラク君に助けて貰ったようだね。いやー、ありがとう」


 軽い調子でユキヒラはそういった。

 それから立ち上がると、召喚したナイフを割れたガラスの向こうへと放り投げる。


「ふぅ」 


 再びユキヒラは椅子に背を深く預ける。

 何に向かってナイフを投げたのか、そもそも当たったのか。


 それを気にする素振りも見せずに、ユキヒラは伸びをした。

 彼は随分とリラックスした様子であり、今にも眠ってしまいそうだ。


「僕って生徒会長だからね。こうしてたまーに殺されかけるんだよね。毎回、運よく生き残ってるんだけどさ」


 九死に一生を得たとは思えない程に、緊張感のない声色だった。


「それで……助けて貰って悪いんだけど、約束は約束だからね。君は一撃当てられなかった訳だし」

「そんな……ッ、今のは」

「――そうやって戦場でも言い訳をするのかい?」


 ユキヒラはアイマスクをしたまま、そう言った。

 が、どこかその言葉には力が籠っている。


「邪魔が入った、自分の想定とは違った、相手が卑怯な手を使った。なんでもいいけど、相手にまで誠意を求めちゃ駄目だよ」

「……それでも僕は」

「いいんだ、今は理解しなくても。後で嫌というほどわかるさ。難しい事は先輩に任せて、君はミハヤ君の見舞いにでも行って来たらいい」


 ユキヒラはそれだけ言うと、もう会話をしないという意思表示のように椅子をくるりと回して、わざとらしく寝息を立て始めた。


「……ありがとうございました」


 その姿に、トウラクは形だけの礼をして去っていく。


「本当に、今年の一年生は責任感が強くて嫌になるね」


 ユキヒラの言葉は、虚しく部屋に木霊した。













 おはようございます!

 皆のミステリアス美少女のソルシエラです!


 クソ眠いけど、ミステリアス美少女として頑張ります!


 まだ日が昇る前の朝。もはや夜と言ってもいい時間に俺は欠伸を我慢してミステリアスにミステリアス美少女をキメていた。


『うとうとソルシエラのデフォルメイラストはローディング画面に適している』


 なんの電波受信してんだ君は。

 それよか早く探せ!


 俺のミステリアス美少女ごまかしも限界が近いぞ!


「この辺りにいるんだね」

「そうよ」


 騎双学園のビルの屋上から街を見下ろして、俺はクラムちゃんの言葉にミステリアス美少女として返す。


 何を隠そう、今の俺は天使をぶっ殺すソルシエラごっこの最中なのだ。

 クールな美少女が天使と呼ばれる崇高な存在を殺すこの美しい構図。


 本来ならウキウキなのだが、違う。


 前に、天使を殺す時は誘うね♥と無責任に言ってしまったので、俺はクラムちゃんを同行させていた。

 というか、同行してきた。

 

 昨日のトランスアンカーの一件から、クラムちゃんの距離感がおかしい。


「それで天使はどうやって殺すの?」

「ふふっ、慌てないで。全ては星の思うまま」


 クールに微笑んで、クラムちゃんの頭を撫でてやる。

 その間も、星詠みの杖君が頑張ってくれていた。


『天使ってどこにいるの……? こういう時の為のエイナなんだが……』


 文句を言いながら必死に騎双学園内を探す星詠みの杖君に代わり、俺は今それっぽいことを言いながらクラムちゃんを誤魔化している最中だ。

 ソルシエラが天使の居場所を知らないのは恥ずかしいからね。


 ……というか、本当に騎双学園にいるよね?

 原作と違う場所にいるとかないよね?


「それにしても……別に私に付いて来なくても良かったのよ? 皆と一緒に、領地戦を見ていても」

「嫌だ。一緒に行く」

「そう」


 ヒカ×クラはどこ……?


『ヒカリとクラムに貪られるソルシエラはいるねぇ!』


 いねえよ早く天使探せ。


「ミロクにはもう理由もつけてあるし、大丈夫。むしろ、今私だけ戻ったら怪しまれるよ」

「……確か、領地戦で多くの学園が動いていない今だから、ダンジョン攻略をする――だったかしら」

「そう。ダンジョンコアは、適当に私が浄化ちゃん時代に狩ったやつを差し出すよ。それでミロクは誤魔化すから安心して」


 安心できないねぇ!

 つまり俺は、クラムちゃんに監視されたままミステリアス美少女として活動しなければいけないのだ。

 無責任な発言は出来ないわよ!

 サドンデスミステリアスわよ!


『天使 見つけ方 簡単』


 ネットに頼るな!


『というわけで、今回天使は見つかりませんでした。いかがでしたか?』


 それ腹立つから止めろって言ってんだろ!

 

『仕方ないだろ。今探しているけど、全然場所が分からないんだから! これは後でソルシエラぐちゃトロ本の制作に付き合ってほしいねぇ!』


 付き合ってやるから黙って働け。


 原作で天使を見つける時の目印は空に入った罅であった。

 空が割れる様に天使が現れるのである。


 原作では今回で初めてのお披露目なのだが、正直天使の存在を提示する以外の意味はない雑魚天使なので俺が殺しても良い。


 というか、領地戦でトウラク君と六波羅さんが戦うっていう重要なイベントに雑魚天使が割って入るのは構図として美しくない。


 天使の出現と領地戦が被ってしまった以上、ここはミステリアス美少女が修正をする。

 歴史の修正は任せろー^^


 だから、俺が天使を殺す!

 俺はミステリアス美少女ムーブができる。

 トウラク君は領地戦で原作主人公ができる。


 これがwin-winってやつだ。


『口だけは達者だな――む、見つけたぞ! 天使の反応だ!』


 マジ!?

 よっしゃ行くぞ、ナビゲートよろしくぅ!


「そろそろ、奴らが目覚める頃ね」


 俺はそう言って大鎌を背負う。

 クラムちゃんはその横に並んで、嬉しそうに笑っている。


 美少女の笑顔は可愛いねぇ^^


「それじゃあ、行きましょう?」

「うん」


 そうして俺達は、ビルの上から姿を消した。

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