第13話 美少女の偽物でも可愛いなら役割は果たしている
ダンジョンは日夜、出現する。
攻略されるものもあれば、攻略に失敗し救援依頼を出されるものも多い。
なので、連続で救援依頼をこなすというのは少なくないのだが、今回はどうやら状況が違った。
『ダンジョンを攻略しに行った生徒が救援依頼の申請後、五名全員行方不明。それを受けて救援に行った生徒もまた行方不明になりました』
救援にオペレーターはまず付かない。
基本的には現場の情報のみで判断する必要があった。
『既に救援は二度失敗し、エイピス理事会ではこれをBランクダンジョン指定。ですので、Bランクの探索者である照上ミズヒさんに救援を依頼しました』
「道理だな。ちなみに、コアは私の学園で貰い受けて良いのか?」
『許可は下りています。仮に、救援者が生きていたとしても、コアの所有権は貴女にあります』
「わかった。ということだが、ケイ。もう少し付き合ってくれるだろうか」
「勿論です。半額じゃなくて、いいお肉買いましょう」
もやししか食ってねえんだよこちとら。
いざとなったら、俺の作戦の一つである『ソルシエラ……一体何者なんだ』作戦があるし。
「ふっ、やはり頼もしい。では行こうか」
「はい」
お肉!お肉!お肉!
ダンジョンに関する豆知識を一つ。
ダンジョンの系統は、三つにカテゴライズされている。
生物の生息可能な自然を模倣したダンジョン。
機械や科学技術が集約したダンジョン。
そして、神話や伝承を元にしたダンジョンだ。
ダンジョンはこの世界に出現するにあたって必ず何かをモチーフにする。
これには色々と理由があるが今は良いだろう。
ちなみに、厄介なダンジョンは三番目の神話などをモチーフにしたダンジョンに多い。
そういう意味で言えば、今回はまだマシだったのだろう。
「――機械系統か」
「みたいですね」
俺達は、救援要請のあったダンジョンにいた。
入ってすぐの攻撃も警戒したが、そういう事もない。
一見すると、真っ白い廊下が続く病院の一区画のようだった。
「フォーメーションはいつも通り。だが、初手で決められなかった場合は即時撤退も視野に入れるぞ」
「はい」
俺達は警戒しながら奥へと進む。
その背後をドローンカメラが追っていた。
オペレーターが、ダンジョンの実態を探るために撮影しているらしい。
いえーい、見てるー?
「カメラが気になるか?」
「見られるのは、落ち着かないですね」
「ははっ、そうだな。まあ、そのうちそんな事を気にする余裕も無くなるだろう」
軽口を言いながらも、ミズヒ先輩の表情は至極真面目だ。
ふざけてカメラにピースしなくて良かった。
それから道中、一切の魔物に出会うことは無く俺達は救援信号が来た最奥の部屋へと来ていた。
「……この奥だな」
「手術室、みたいですね」
扉の前に打ち付けられた手術室のプレート。
しかし、それが本当に手術室である訳もない。
「行くぞ」
「はい」
ミズヒ先輩が扉を蹴り破った。
同時に、俺は短刀を構えて内部に飛び込む。
そこには、三つの手術台、そして二人の少女が寝かされていた。
「――ミロク先輩に、トアさん? 」
なんで????
ともかく、そこにはミロク先輩とトアちゃんが病衣で手術台に寝かされていた。
……んー? 二人は学園にいるはずなんだけどな。
って、今はそんな事はどうでもいいか。
「大丈夫ですか、二人とも!」
俺は二人へと駆け寄ろうとする。
が、その足元へと焔の弾丸が着弾した。
「待て、ケイ。ソイツは偽物だ」
「え?」
ぽかんとした顔の俺を放って、ミズヒ先輩はまるで動じた様子はなく銃をその二人へと向ける。
「あの二人が無断でダンジョンに潜ることはない。特に、私に言わないなど、絶対にあり得ない」
力強い断言と共に、ミズヒ先輩はそれぞれの銃口を向けて躊躇いなく引き金を引いた。
放たれた弾丸は、寸分違わず二人の頭部を撃ち抜く。殺意高いっすね。
「どうだ、血は出ているか?」
「……いえ」
撃ち抜かれた二人の脳内は空っぽだ。
ミズヒ先輩はつまらなそうに鼻を鳴らす。
「おそらくは、同様の手口で他の探索者を仕留めたのだろう。対象の記憶を読み取り知り合いを偽装するダンジョンか……確かにB相当だな」
『ですが、種が割れた今ならば攻略は可能かと』
オペレーターの言葉に賛同しようとしたその時だった。
手術台から、ミロク先輩の偽物が起き上がる。
そして手術台から降り立った。
俺は短刀を構えて叫ぶ。
「ミズヒ先輩、いつものアレやります!」
「ああ」
俺は駆け出す。
こちらに対して構えることもしないその偽物に対して、俺は短刀を振るう。
対象に魔力由来の半ば概念に近い麻痺毒を流し込む。
が、しかし切りつけた瞬間、まるで陶器を砕くような軽い感触と共に偽物の腕が崩れ落ちた。
「えっ!?」
偽物は麻痺した様子も無く依然としてミズヒ先輩の方へと歩いて行く。
が、その姿は徐々に変化をしていった。
「――a、あ、ああ、あー……うん、《《こんな感じかな》》」
蒼かったはずの髪がまるで書き換わるように変化していく。
腰まで伸びる桜色の髪。
そして、翡翠色の目。
それは、既にミロク先輩の姿ではなかった。
「……《《先生》》?」
ミズヒ先輩の口から呆然と声が漏れ出る。
あ、この人が例の先生なのか。
ん? これ、桜庭ラッカじゃない?
先生=桜庭ラッカって事? え? どういう事?
ミズヒ先輩とは別に、俺は俺で頭にハテナがいっぱいである。
が、とりあえずミズヒ先輩に接近しているので俺は短刀を再び振るった。
左側面からの不意打ちに近い一撃。
しかしそれは、まるで赤子の手に触れるような優しい手つきで受け止められた。
は?
「あー、なるほどなるほど。うん、それは危ないなー」
そう言って、俺の短刀をあっさりと奪ったソレは、部屋の天井へと投げて突き刺した。
ああっ、俺の貴重な武器がぁ!
「さてさて、久しぶりだねミズヒ。私がいない間、学園は守ってくれていたかな?」
「っ」
ミズヒ先輩は引金を引いた。
二つの銃口から水と焔が射出される。
しかし、それはまるで花びらが舞うかの如くソレの前で散った。
いつの間にか手に持っていた長槍をくるくると回しながら、ソレは笑う。
「君の武器が殺傷能力に長けているのは知っている。でも、それに頼りすぎる癖があるね。って、前にも言ったっけこれ」
まるでミズヒ先輩を知っているかのような言動。
それはつい先ほどまで別の形を取っていた筈だ。
それは頭を撃ち抜かれたはずだ。
しかし、今のソレは、いや彼女はどう見ても。
「桜庭ラッカ本人……!?」
「お、そっちの新顔は話が早いねー。じゃ、サクッと死のうか」
「ッ!?」
気が付けば、眼前に槍が突き出されていた。
瞬間移動、攻撃過程の省略――原作知識から様々な理由が思い浮かぶが、そのどれもが否定される。
能力を使ったようには見えない。
これは、純粋な技量のみでの攻撃であり、体術の一種に近いだろう。
俺は体を逸らしてそれを避ける。
それから一拍置いて、桜庭ラッカへと弾丸が飛来した。
「おっと、危ない危ない」
桜庭ラッカはまるで危機感のない言葉と共にそれを避けて距離をとった。
武器を失った俺を庇うようにミズヒ先輩が前に立つ。
その表情は、今まで見た中で一番険しい。
「オペレーター、エイピス理事会にこれをAランクダンジョンへ格上げするように申請しろ」
『Aですか!? しかし、姿を模倣するだけではA相当の脅威とは』
「アレが姿だけの模倣だと思ったのか?」
ミズヒ先輩は、喰い気味に言葉を続ける。
「ミロクとトアの模倣は、まだ初期段階での私へのアプローチでしかなかった。先生と一緒にいた私にはわかる。アレは、本物に限りなく近い。つまり、このダンジョンの本質は――」
「対象の記憶から、最も強い人物を再現すること、だよ。よく見ているね」
まるで教え子に接するように、桜庭ラッカはそう言った。
「それじゃ、さっくり殺そうか」
「……気をつけろ、ケイ。分かっているだろうが、先生は強い。私とミロク、トアの三人で触れることすら叶わなかった――最強の探索者だ」
「はい……え?」
え?
知らん、なにそれこわ……。




