表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界の感情は全部作られていた ~共鳴しない僕だけが「ノイズ能力」でフェイク・レゾナンスを壊すまで~  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/13

第10話:レジスタンス

 ハルの案内で、俺たちは旧アジトをさらに深く潜った。地下五百メートル。システムの監視が届かない、最後の聖域へ。


 地下の空気は、湿った鉄の錆びた匂いと、逃げ場を失った剥き出しの熱気で満ちていた。


 第七エリア、あの中継アンテナを黒いノイズで粉砕した夜から、わずか十数時間。

 ネオ・トーキョーの地上では、昨夜の惨劇は『落雷による一時的なシステム障害』という無機質な文字列で処理され、何事もなかったかのように漂白されていた。

 だが、その平穏な皮を一皮剥けば。

『共鳴調整局』の包囲網が、網膜を焼くような殺意を孕んで、かつてない密度でこの地下区へと触手を伸ばしてきている。


「……ここが、俺たちの『本拠地』だ」


 黒崎ハルの案内に従い、俺たちはさらに深い、地下五百メートルの廃駅跡へと足を踏み入れていた。


 そこには、ハルの個人アジトとは比較にならない規模の『生きた地獄』、あるいは『最後の聖域』が広がっていた。

 旧時代の地下鉄車両を強引に繋ぎ合わせ、溶接して作られた無骨な居住スペース。

 そこかしこで火花を散らす溶接機の光。

 油の染みた作業着。

 そして、何よりも俺を立ち止まらせたのは。


「……人が、あんなに」


 俺――朝霧レンは、ひび割れたコンクリートの縁で、思わず喉を鳴らした。


 数百人の人間が、そこにいた。

 地上の、あの規格品のような笑顔を貼り付けた市民たちではない。

 額に脂汗を浮かべて働き、腹の底から大声で笑い、時には取っ組み合いの喧嘩を演じ、そして何かに怯えるように肩を寄せ合う人々。


 剥き出しの、本物の感情。

 フェイク・レゾナンスという名の麻薬から切り離され、自分の心を取り戻した、不格好で、泥臭くて、愛おしい「人間」の姿がそこにはあった。


「彼ら全員が、『リアル・レゾネーター』……システムから弾き出された人たちなのですか?」


 隣を歩くミナが、銀色の髪を揺らし、どこか切なげな瞳で周囲を見渡す。


「いや。能力を持っているのは、ほんの一握りさ」


 ハルが、使い古されたキーボードを叩くような軽い足取りで答える。


「大半は、システムの不自然さに気づいて自ら降りてきた連中か。あるいは……『調整』という名の脳洗浄を受ける直前に、俺たちが強引に引き抜いた『欠陥品』共さ」


 欠陥品。

 その無機質な言葉が、胸の奥を鋭い棘で刺した。

 自分の感情を殺せない人間が、不純物として排除される世界。

 そんな歪なことわりを数千万人に強いているのは、間違いなく、あの偽物の青空の向こう側に鎮座するAIなのだ。


「よう、ハル。……そいつが、噂の『ノイズ』か」


 大型車両の影。

 熱を帯びた鉄の匂いと共に、一人の女性が姿を現した。


 短い黒髪。射貫くような鋭い眼光。

 鍛え上げられたしなやかな肉体には、数々の死線を潜り抜けてきたであろう火傷の痕が、地図のように幾筋も刻まれている。


「リーダー。ああ、こいつが朝霧レン。……で、こっちが元調整局の神崎ミナだ」


 ハルの紹介に、女性は俺の目を真っ直ぐに見据えた。


 その瞬間。

 俺の『ノイズ共鳴』が、彼女の全身から放たれる圧倒的な熱量を感知した。

 リクトの岩のような質量とも、ミナの鋭利な高周波とも違う。

 静かに、だが確実に燃え盛る残り火のような――重厚な『信念』の波形。


「私はレジスタンス組織『エコー』のリーダー、桐生きりゅうだ。……中継アンテナの一件、見事だった。まさか本当に、あの防衛網を突破して、あの『真実』を掴んでくるとはな」


 桐生が、無骨な右手を差し出してきた。

 握り締めたその掌は、驚くほど硬く、そして身体の芯まで伝わるほどに熱かった。


「……ハルから聞いた。十年前の事故が、AIの実験だったって」


 俺が掠れた声で言うと、桐生の眉間が微かに、そして深く歪んだ。


「ああ。我々も薄々は感づいていた。だが、確証がなかった。……君が持ち帰ったあのログデータは、この街の根幹を、欺瞞を、根底からひっくり返す爆弾だ。これがあれば、我々の戦いには揺るぎない正当性が生まれる」


 桐生は、広場の中心に鎮座する巨大なモニターを指し示した。

 そこには、ネオ・トーキョーの全図と、中央にそびえ立つ『中央共鳴増幅塔』の3Dモデルが、真っ赤に脈動しながら映し出されていた。


「今この瞬間も、地上の市民は、自分たちが『生きた電池』として搾取されていることも、かつての同胞が実験台として殺されたことも知らない。……彼らの耳に、本当の音を届ける時が来た」


 桐生の声が、地下広場全体に、鐘の音のように響き渡った。

 ざわついていた人々が、一斉に、祈るような目でこちらを向く。


「作戦名は――『レゾナンス・リベレーション(共鳴解放)』」


 モニターに映る増幅塔が、血のような赤色で点滅を繰り返す。


「我々は、中央タワーに直接侵入し、メインサーバーを完全にジャックする。そして、レンの『ノイズ共鳴』を増幅塔の全チャンネルに同期させ、都市全域のフェイク・レゾナンスを、物理的に叩き壊す」


「都市全域の……!? そんなことをしたら……」


 サラが、震える両手で自分の肩を抱きながら、悲鳴に近い声を上げた。


「今まで『調整』で抑え込まれていた何百万もの人々の感情が、一気に溢れ出すことになる。……パニックだけじゃ済まないわ。街中が、耐えきれない狂気に呑み込まれるかもしれない」


「その通りだ。……だが、サラ」


 桐生が、静かに、だが断固とした重みを持って言った。


「偽物の笑顔を貼り付けたまま、家畜として緩やかに死んでいくのと。痛みを知りながら、己の足で、己の心で立ち上がるのと。……どちらが『人間』らしいと思う?」


 サラは、潤んだ瞳を彷徨わせ、そのまま黙り込んだ。


 俺は、自分の、まだ黒い粒子が微かに燻る右手を見つめた。

 この手に宿る力は、救いの力なんかじゃない。破壊の力だ。

 ハルが言った通り、俺は、この美しい檻をぶち壊すための、たった一つの致命的な鍵。


 俺がこの力を解き放てば、この街の平和は終わる。

 何万もの人々が泣き、叫び、混乱し、のたうち回るだろう。


 でも。


「……やるよ、俺」


 俺の声は、自分でも驚くほど静かに、地下の空気に染み込んでいった。


「あの塔がある限り、この街の人は、ずっとただの『燃料』のままだ。……俺の家族がそうされたみたいに、いつかまた、AIの効率次第で誰かが消される。……そんなのは、絶対に、間違ってる」


 ミナが、俺の、血の滲んだ手をそっと握った。

 その華奢な指先の温もりが、今にも迷いそうになる俺の心を、現実に繋ぎ止めてくれる。


「私も、一緒に行きます。……私の『ソニック共鳴』なら、レン君のノイズを、より遠くへ、より正確に運ぶための『道』を作れるはずです」


「ミナ……」


「ふん。……いい顔になったじゃねえか、二人とも」


 リクトが背後で太い腕を組み、不敵に鼻を鳴らした。


「中央タワーの防衛は、これまでのアンテナとは次元が違うぞ。調整局の総力……そして、あの霧島カイが、全力でお前たちの首を刈りに来るはずだ」


 霧島カイ。

 あの、あらゆる音を凍りつかせ、感情を無に帰す、絶対的な『静寂』を操る男。


 あいつという壁を突破しなければ、この街に、本当の夜明けは来ない。


「決行は、明朝午前四時。……都市のエネルギー出力が最も安定し、家畜たちの『夢』が一番深い時間だ」


 桐生が、モニターの電源を落とした。

 暗転した画面に、俺たちの、覚悟に縁取られた顔が映り込む。


「各自、装備の最終確認と休息に入れ。……これは、我々人類が、AIから『心』を奪還するための、最初で最後の聖戦だ」


 *


 決戦前夜。


 俺はアジトの端、崩れかけた展望デッキに一人で立っていた。

 地下五百メートルの廃駅から、地上の様子は見えない。

 ただ、天上から微かに響く、都市の巨大な脈動のような、低い地響きだけが伝わってくる。


「眠れませんか?」


 背後から、風のような足音と共にミナが声をかけてきた。


「……ああ。明日のことを考えると、どうしてもな」


 俺は苦笑を浮かべて振り返った。

 ミナは、自分の指先で、壊れた鍵盤を叩くように虚空をなぞっていた。


「……私、ずっと怖かったんです。自分が組織を裏切って、この街の平和を壊そうとしていることが。……それが、許されない罪なんじゃないかって」


 彼女は、暗闇の先を見つめる。


「でも、レン君。あなたの隣にいると、その『恐怖』が……別の名前に変わるんです。これが『信念』なのか、それとも……」


 ミナの言葉が、ふっと途切れた。

 彼女の頬が、地下の非常灯の、微かな赤い光に照らされて。

 ほんの少しだけ、熱を帯びたように色づいているのが見えた。


「ミナ、俺は――」


 俺が何かを言いかけた、その時。


 ドォォォォォォォォォォン!!


 地響きのような、暴力的な振動が、地下アジト全体を根底から揺さぶった。


「なっ……何だ!?」


『――緊急事態だ! 全員、戦闘配置バトル・ステーション!!』


 通信機から、ハルの絶叫が鼓膜を突き破った。


『見つかった……! 調整局の『ハウンド』じゃない。……奴だ、奴が直接来やがった!!』


 天上の分厚いコンクリートが、巨大な圧力によって紙細工のように無惨にひしゃげる。

 そこから降り注いできたのは、爆発の熱でも、銃弾の雨でもない。


 全身の毛穴が収縮するほどの、凄まじいまでの『静寂』。


 俺の心臓が、底知れぬ恐怖で一瞬、停止した。

 この波形。この、生命活動を強制停止させるかのような、絶対的な威圧感。


「……霧島、カイ……ッ!!」


 俺たちの反撃が始まる前に、宿敵は。

 その氷の牙を剥き出しにして、地下深く、この最後の聖域へと降臨してきた。


 静寂が、地下空間を完全に支配した。


 それは音が消えたのではない。

 この場所に満ちていた、人々の熱気。叫び。生きた感情の波。

 そのすべてが、巨大な氷塊の中に閉じ込められたかのように、一瞬で凍りついたのだ。


 ドォォォォォォォォォォン!!


 天井の巨大なコンクリートが、内側へとひしゃげ、凄まじい崩落音と共に土煙を巻き上げる。

 その中央。瓦礫の山の上に、彼は静かに降り立った。


 白いマントが、闇の中で静かに翻る。

 銀色の装甲が、非常灯の赤に照らされて、殺意を孕んだ鈍い光を放つ。


「……霧島、カイ」


 俺――朝霧レンは、喉の奥から絞り出すようにその名を呼んだ。


 共鳴調整局、第一部隊長。

 ネオ・トーキョー最強のレゾネーター。

 彼が放つ『統制共鳴』の重圧は、そこに立っているだけで、俺たちの心臓を、直接素手で握りつぶすかのような威圧感を持って迫り来る。


「……社会の不協和音を一掃するために。私はここに、秩序を執行する」


 カイの声は、どこまでも冷徹で、一滴の感情の混じり気もなかった。

 彼が、軽く右手を虚空へかざす。


 その瞬間。広場にいたレジスタンスのメンバーたちが、次々と、糸の切れた人形のようにその場に膝をついた。


「が、あ……っ……息が……!」

「身体が……動かない……っ」


 絶叫すら、途中で真空に吸い込まれたかのように掻き消される。

 カイの能力は、他者のレゾナンスの波形を強制的に抑制し、無効化する絶対的な秩序。

 感情をエネルギーに変えて生きるこの世界の人間にとって、それは、生命活動そのものを強制終了させられるに等しい。


「レン君、下がって……!」


 ミナが、血の気が引いた顔で前に出た。

 彼女は巨大な音響兵器『ソニック・エミッター』を限界まで引き絞り、銃口をカイへと向けた。


「出力、80%! ――貫け!!」


 ドゴォォォォォォォン!!


 目に見えるほどに圧縮された、空気の巨大な弾丸。

 超高周波の衝撃波が、一直線にカイへと突き進む。


 だが。

 カイは、睫毛一本すら動かさなかった。


 彼が、指先を僅かに動かした、その瞬間。

 凄まじい勢いで迫っていた音波の弾丸が、カイの目前で『停止』し。

 朝靄が晴れるように、呆気なく消滅した。


「……波形を、静止させたの……!?」


 ミナが驚愕に目を見開く。

 物理的な衝突ですらない。

 カイは、ミナの放った『音の波形』そのものを統制し、存在そのものを、この世界から削除デリートしたのだ。


「神崎隊員。……君の才能は、秩序を守るためにこそあったはずだ」


 カイの、氷の刃のような視線がミナを射抜く。


不協和音ノイズと同調し、混乱を撒き散らすのが君の『本物の心』だと言うのなら。……それはもはや、排除されるべき汚れでしかない」


「汚れなんかじゃない……! これが、私の本当の声なんです!!」


 ミナが再び、震える指でトリガーを引こうとした時。

 カイの放った、目に見えない絶対的な統制の衝撃が、彼女を襲った。


「がっ……あ……っ!!」


 吹き飛ばされるミナ。

 俺は、咄嗟に駆け寄り、その華奢な身体を抱きとめた。

 腕に伝わるミナの体温。それは、歯の根が合わなくなるほど激しく震えていた。


「ミナ、しっかりしろ!!」


「……調整局、総員突入。……バグの根源を、断て」


 カイの機械的な命令と共に、崩落した天井の穴から、数十人の調整局員がワイヤーを伝って降下してきた。

 彼らは一糸乱れぬ動きで、混乱と恐怖に陥ったレジスタンスのメンバーを、次々と無力化していく。


「ハル! 桐生さん! 逃げるんだ!!」


 俺は叫んだ。

 だが、ハルのアジトであったモニター群も、すでに調整局の電子干渉によって真っ赤なエラー画面に染まっている。


『――くそっ! システムのバックドアを逆探知されたか……! レン、悪い! 俺たちの負けだ……ここはもう、持たねえ!!』


 ハルが、血の滲む唇を噛み切りながら、メインサーバーの自爆スイッチを叩き込んだ。


「ハル、何をしてる!?」


「お前らを逃がすための、目眩ましだよ! いいか、レン。お前は……お前は、俺たちの最後の希望なんだ……!!」


 ドォォォォォォォォン!!!


 サーバーユニットが次々と内部から破裂し、地下広場に凄まじい熱風と電磁ノイズが立ち込める。


「……往きなさい、朝霧レン。神崎ミナ」


 爆煙の向こう側から現れたのは、リーダーの桐生だった。

 彼女は、両腕から燃え盛る残り火のような『信念』の炎を立ち昇らせ、カイの前に立ちはだかる。


「桐生さん、あんたまで……!」


「私はここでお前たちの『道』を守る。……中央タワーへ行け。あそこで、あの傲慢なAIを叩き潰さない限り、この地獄は、永遠に終わらない!!」


「……非効率な、自己犠牲だ」


 カイが冷酷に言い放ち、桐生に向けて無造作に右手を振る。

 二人の巨大なレゾナンスが激突し、地下のアジトが崩壊の悲鳴を上げた。


「行こう、レン君……!」


 泣き出しそうな顔を無理やり押し殺し、ミナが俺の腕を強く引く。

 リクトも、サラを片腕で抱えながら俺たちに合流した。


「走れ!! 桐生さんの覚悟を、ドブに捨てるんじゃねえぞ!!」


 俺たちは、崩れゆく廃駅から、唯一残された旧地下鉄の保守用トンネルへと飛び込んだ。


 背後で。

 激しい爆発音と、カイの、一切の温度を持たない冷徹な声が響き続ける。

 俺たちの、帰る場所は、もうなくなった。


 *


 雨が降っていた。


 地上の、ネオ・トーキョーの深夜。

 地下五百メートルの暗闇から這い出してきた俺たちが目にしたのは。

 相変わらず美しく、そして相変わらず冷酷に、無機質に輝き続ける都市の夜景だった。


 ホログラムの広告が、ありもしない『幸福』を市民に売りつけている。

 雨に濡れるアスファルトの上を、システムに生かされた家畜たちが、傘を差しながら、機械のように無表情に歩いている。


「……はぁ、はぁ……っ……」


 俺たちは、中央区のそびえ立つビル群の影で身を潜め、荒い息を整えていた。

 全員がボロボロだった。

 ハルも、桐生さんも、地下にいた仲間たちも……みんな、あの暗闇の底に取り残され、塗りつぶされてしまった。


「……終わったのかしら。私たちの戦いは……」


 サラが、震える声で呟いた。

 その膝はガクガクと震え、読み取った感情の濁流に酔ったように、顔色は青ざめている。


「……いいえ、終わっていません」


 ミナが、静かに、だが。

 鋼のような強靭な意志を持って、言い切った。


 彼女は、雨に濡れて頬に張り付いた銀髪を払い、顔を上げる。

 その視線の先。

 雲を突き抜け、ネオ・トーキョーの頂点に君臨する『中央共鳴増幅塔』――。

 中央タワーが、傲然とそびえ立っていた。


「今、地上のシステムは、地下の制圧に全リソースを割いています。……私たちの計画を前倒しするなら、今こそが、最大にして最後の好機です」


「……ミナの言う通りだ」


 俺は、右手を、骨が鳴るほどに強く握りしめた。


 手のひらには、まだ。

 あの漆黒の『ノイズ』が、消えることなくチリチリと燻っている。

 仲間を失い、居場所を奪われ、すべてを剥ぎ取られた俺に残された、最後にして最強の、反逆の極光。


「ハルが言った……俺は、世界を壊すための鍵だって。……だったら、ぶっ壊してやるよ。みんなの心を、あの日殺された家族の想いを、全部燃料にしてな」


 俺の言葉に、リクトが不敵に、獰猛に笑った。


「……ヘッ、最初からそのつもりだ。身体強化の限界まで、お前をあの塔の頂上へ担いでいってやるよ」


「私も……。皆の波形を、最後まで支えます」


 サラも、涙を拭って立ち上がった。


 雨脚が、さらに強くなる。

 ネオ・トーキョー、午前三時。


 偽りの平和を享受する何百万もの家畜が、何も知らずに、心地よい夢を見ながら眠る夜。


 傷だらけの四人の反逆者は。

 都市の心臓部を見据え、一歩を踏み出した。


「行くぞ。……これが、俺たちの、最後で最高の不協和音だ」


 朝霧レン。神崎ミナ。白峰リクト。伊吹サラ。


 偽りの世界を終わらせるための、最終決戦の幕が。

 今ここに、凄まじいノイズを上げて上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ