あーざす、死後の世界でも現役であります!
本編「暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった」の1話読み切りのパロディ短編集。
真夜中の墓地。ライルは墓石の前に座り込み、手酌で安酒を墓石にドボドボとかけていた。
「……なぁ、オーウェン。聞いてくれよ。最近シエラの奴が酷いんだ。あいつ、外伝でマジカル美少女にする為に出したのに『ロジカルモンスター』になっちゃったんだよ……俺もう自室に居られないよ……」
ライルが深いため息をつくと、墓石の陰から、ぼんやりと光る赤い巻き毛の『人魂』がふわふわと現れた。
「ん? オーウェンの霊魂か? いや、オーウェンじゃないな、名前はなんだ?」
「自分の名はアルザリウスであります!」
「アル……ザリウス? えっ、誰だっけ? そんなキャラいたっけ? ……まぁいいや、酒飲むか? 幽霊でも墓石にぶっかければ飲めるだろ。ほらよ、死後の世界じゃ高級品だぞ」
ライルが再び酒を墓石にぶちまけると、人魂が激しく明滅した。
「あーざす!」
「……お前、もしかして『アーザス』か?」
「イエス隊長! アーザスであります! 礼儀正しさには定評があるっす!」
「そうかアーザスか……。お前、あの時ガルダスに……。まぁ、災難だったな」
ライルは遠い目をしながら、空になった酒瓶を振った。
「いいかアーザス。お前が死んで俺が生き残った。世間様はこれを『実力の差』だと言う。だがな、これは典型的な『生存者バイアス』なんだよ」
「せいぞんしゃ……? なんすか、その強そうな魔法は」
「魔法じゃない、論理バグだ。生き残った奴(俺)のデータだけを見て『ライルは有能だ』と判断するのは間違いなんだ。本当は、お前のような『死んでしまった天才』が山ほどいるはずなんだよ。つまり、俺が今評価ゼロなのは、俺が無能だからじゃない。真に俺を評価できたはずの審美眼を持つ読者たちが、みんなお前みたいに先に死んでしまっただけなんだ!」
「えっ、自分を評価できなかったから、みんな死んだってことっすか? 読者の全滅っすか? 隊長、それ呪いの装備か何かの話っすか?」
アーザスの素朴な疑問を、ライルは酔った勢いで一蹴する。
「そうだ! 死後の世界にこそ俺の真のファンがいるはずだ。だいたい、シエラは俺の作品を『排泄行為』だなんて言うが、死者は何も言わない。静寂こそが最大の肯定なんだよ」
「ノー・サー、それじゃ『死人に口なし論法』っすよ、隊長。単に誰にも読まれてないだけじゃないっすかね……?」
「うるさい! 批判がないということは、完璧だということだ。いいか、誰一人として俺の新作に低評価なんて言わない。つまり、俺の支持率は今、このエリアにおいて100パーセントなんだよ!」
ライルは上機嫌で墓石をパチパチと叩いた。
「シエラがいない今、こここそが俺の理想郷だ」
「そうっすね、理想郷は大事っす。……あ、隊長。そろそろお迎えの時間っす」
アーザスの人魂が、少しずつ薄くなって消えて行った。
「おっ、もう行っちゃったのか……」
すると、入れ違いに別の不機嫌そうな人魂が現れた。
「あのー、さっきから酒臭いんですけど。人の墓石に酒かけるのやめていただけませんか?」
「え? これオーウェンのお墓だろ?」
「オーウェンさんのお墓は隣ですよ」
「ああ、そう。キミは何してた人だっけ?」
「ヴァルトさんにボコられてビャクさんにギッタギタにされ、作中のほとんどを気絶してましたね」
「あーお前か! じゃあこれは……」
ライルは墓石をペチペチ叩き、人魂の正体――墓の下で眠るあの男にやっと気が付いた。
「破壊神の墓石か、なんつって」
その瞬間、『ザ・ワールド』全てが停止する。
墓地を支配したのは、死の静寂すら生ぬるく感じるほどの絶対零度の沈黙。
そして『破壊神』の人魂さえ消えていた……。
「……あぁシエラ……ツッコミが恋しいよ……」
ライルは中毒患者のように渇望し、そのまま墓石に額を押しつけ、泥のように伏せて泣いた。




