牢獄にて死兆星を仰ぐ
本編「暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった」の1話読み切りのパロディ短編集。
監獄島、最下層。
光さえも届かぬ石牢で、ライルは鉄格子の向こう側のメルランへ尊大に言い放った。
「メルラン、キミほどの賢者なら気づいているはずだ。
一部の作家が評価を独占し、無名の労働力を搾取する現状はおかしい!
俺の原稿は『労働量』そのものだ!
文字数に比例して評価は分配されるべきなんだ!」
メルランは溜息をつき、本を閉じた。
「随分と古風な盾を持ち出しましたね。
ライル、それは共産主義的な幻想に過ぎません。
いいですか? 読者が求めているのは『娯楽』であって、あなたの『苦労の痕跡』ではないのです。
10万字のゴミより、140文字の至言に価値がつくのが表現の世界です。
あなたの文字単価が0円なのは、市場の搾取ではなく、単純にあなたの商品に『需要』がない。
あるのは在庫の山、ただそれだけのことですよ」
ライルは顔を真っ赤にして叫んぶ。
「ならば世界そのものが間違っている!
この世界は不完全な神が造った欠陥品だ!
システムそのものが狂っているから俺の評価が増えないんだ!」
「神を欠陥品呼ばわりする前に、ご自分のプロットを鏡に映してご覧なさい。
システムのせいにするのは、敗者の最後の嗜みですが、あなたはそれ以前の問題です。
神が用意した『評価』という名の理は、残酷なまでに平等ですよ。
欠陥品なのは世界ではなく、あなたのその歪んだ自己評価の方ではありませんか?」
ライルは屈辱に震え、鉄格子を掴んで絶叫した。
「小難しい理屈で煙に巻くな!」
「はぁ……、つまりあなたにでも分かるように言い換えれば……
あなたが星を一つももらえないのは、あなたの後頭部がすでに『星一つない夜空』のようにハゲ上がっているからではないですか?
読者はあなたの文章を読んでいるのではなく、あなたの頭髪の寂しさに同情して目を逸らしているだけなのですよ」
「い、今なんて言った!? インテリのくせにハゲって言ったか!? この野郎!!」
「おや、難しい論理は理解できないのに、語彙レベルを下げてあげたら即座に反応しましたね。
やはりあなたは、その程度の知性しかないということの証明です」
「こんな偏屈なインテリ野郎、ボコボコにしてやる!!」
メルランは眼鏡を指先で上げ、冷ややかな魔力を帯びた瞳でライルを射抜いた。
「私をぶっとばすと息巻く前に自問なさい。……元魔塔次席の私に勝てるとでも思っているのですか?
あなたの剣術が『評価』と同じくらい粗末なものなら、指先一つ動かすまでもなく、その肥大化した自尊心ごと消し飛ばして差し上げますが」
直後、石牢の中に凄まじい衝撃波が走り、ライルは壁に叩きつけられ、物理的にも精神的にもボコボコにされた。
ぐったりと白目を剥くライルを尻目に、メルランは騒ぎを聞きつけてやってきた看守に、読み終えた本を渡すような仕草でライルを指差した。
「看守さん、この『欠陥品』、どこか暗くて深い、星の見えない場所にでも捨てておいてください。再利用の価値もありませんので、返品は不要です」
「…………メルラン、星が……星が見えるよ……」
「それ死兆星ですね」
ライルの微かな呻きは、監獄の静寂に虚しく飲み込まれていった。




