パトラッシュ、僕のブクマは身内の誤クリックだったよ
本編「暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった」の1話読み切りのパロディ短編集。
ライルは、静寂に包まれた部屋で、真っ白な装束を纏い正座していた。
目の前には白木の台に載せられた短刀。
彼は、報われなかった己の執筆人生を、幕末の志士の如く一句に託す。
「……星が為、つくす心は水の泡、消えにし後ぞ、澄み渡るべき。……俺の人生も、これでようやく澄み渡るというわけか」
陶酔にも似た諦念の中で、ライルが短刀に手を伸ばしたその時、背後の襖が音もなく開いた。
「澄み渡るわけないでしょ。濁りきった人生の最期に泥をぶちまけるつもり?」
シエラが、お盆に載せたお茶を持って部屋に入ってきた。
「邪魔をするなシエラ。散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ……。俺の『時』は今なのだ」
「散り際が美しいのは、それまで美しく生きた花だけよ。
あなたが今散っても、それはただの『季節外れに枯れた雑草』。
あと、それキリシタンの女性の句よ。
信仰も、ついでに性別すら間違って恥ずかしくないの?」
「ぐっ……。だ、だが……執筆道、いや武士道とは、死ぬことと見つけたんだ!」
「その本、ちゃんと最後まで読んだ? それって『毎朝死ぬ気で、後悔のないように今を生きろ』っていう精神論であって、『文字通りお腹を切って死ね』っていうマニュアルじゃないわよ。
文脈を無視して字面だけ受け取るなんて、あなたの読解力は幼児並み?
そんな知能で死なれても、死因は『誤読』としか書きようがないわ」
「ごっ…ごどく!そんな死因あるわけないだろ!」
シエラはお茶をライルの前に置き、冷徹な瞳で見下ろした。
「いい? 本物の辞世の句を遺した人たちは、自分の信念に準じたの。
対してあなたは、現実の厳しさから逃げるために、他人の美しい言葉を借りて自分をデコレーションしているだけ。
それは『高尚な死』じゃなくて『ただの不法投棄』よ」
立て続けの正論に、ライルの瞳から光が消える。彼は力なく床に伏した。
「パトラッシュ……僕はもう、疲れたよ……ブックマークが1から増えないんだ……」
「その1は私が誤ってクリックした分よ。ねぇ、あんた死んでからもパクリ野郎って言われたいわけ?
死んで逃げるんじゃなくて、生き残って汚れ仕事を全部片付けなさい。
ほら、そのさらしを解いて、その白装束レンタル衣装でしょ?
延滞料金が発生する前に返してきなさい」
「……………………はい、返してきます」
ライルは、澄み渡るどころか、シエラの放った現実という名の泥水にまみれ、重い腰を上げた。




