解脱を語るハゲ予備軍と、正露丸を処方する教育係
本編「暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった」の1話読み切りのパロディ短編集。
いつものライルの部屋。
そこには、頬が病的にコケ、もはや生気を感じさせないほど涼しげな顔で虚空を見つめる男がいた。
その瞳は、あらゆる煩悩を焼き尽くし、宇宙の真理さえも悟ったかのような静謐さを湛えている。
「シエラ君。……私は昨夜の瞑想により、ついに境地に達した。宇宙の根本原理と、私の自己が完全に溶け合い、一つになったのだ。もはや私に苦悩の螺旋は存在しない……私は解脱したのだ。」
「……解脱じゃなくて下痢でしょ。昨日、値引きシールのついた得体の知れない生魚なんて食べるからよ。ちなみに昨日の夜、あなたがしてたのは『瞑想』じゃなくて『メソメソ』ね。星がつかない、ブクマが死んでるって枕を濡らしながら」
ライルは窓の外に輝く一番星を指差して、至高の聖者のような微笑みを浮かべた。
「シエラ君。星の王子さまの言葉を知ってるかい?『一番大切なものは、目に見えないんだ』。……そう、星(評価)の数や、ブックマークの数字といった卑俗な記号のようにね」
シエラの眉間が、見たこともない深さでピクリと動いた。それは、獲物を完全に仕留める瞬間の捕食者の顔だった。
「ライル…。その言葉、サハラ砂漠に不時着した孤独な飛行士の前で同じことが言えるの? あの王子さまは、目に見えない『愛』や『絆』のことを語ったのよ。あんたが今してるのは、単なる『現実逃避』と『無責任な自己正当化』よ!」
シエラは更に畳みかける。
「いい? 評価の数が見えないのは、大切だからじゃないわ。あんたの作品に『魅力』っていう引力がないから、星が一つも引き寄せられずに、宇宙の塵になって漂ってるだけよ! 読者の目に映ってないのは、透明だからじゃなくて、存在してないのと同義なの! 今のあんたは神どころか、ただの『腹壊したハゲ予備軍の無能』よ!!」
聖者の仮面が、音を立てて粉々に砕け散った。
「うわあああぁぁぁん! ごめんなさい! 大切なものは目に見えてほしい! 星が、星が欲しいよぉぉ! 反省してます! 私が全部悪かったですぅぅ!!」
床に突っ伏して号泣するライルを、シエラは冷徹な眼差しで踏みつけた。
「あのねぇライル、 反省っていうのは自責の念に囚われて泣くことじゃなくて、怒られてる原因を突き止めて、二度と同じ過ちを繰り返さないように具体的な努力をすることなのよ!じゃあ、まずは下痢を治すために正露丸飲みなさい。話はそれからよ」
「……正露丸飲んだら、星……増える?」
「増えるわけないでしょ!! いつまでも宇宙と一体化してないで原稿と一体化しなさいよ!!」
「ヒィィィ……ッ!? ……あ」
シエラは無言で鼻をつまみ、窓を全開にした。




