迷える子羊と、毒舌の女神
本編「暗殺依頼を受けたらとんでもない事になった」の1話読み切りのパロディ短編集。
薄暗いライルの部屋。そこには、何をトチ狂ったか頭髪を綺麗に剃り上げ、怪しげな袈裟を纏って座禅を組む男がいた。
「シエラ君。……聞こえるかね。星の評価、ブックマークの数字……そんな実体のない虚像で一喜一憂するのは、もうやめ給え。人は、足るを知るのです」
ライルは伏せ目になり、悟りを開いた大僧正のような手つきでシエラを諭した。
「……はぁ。あの大僧正、いえ、ただのハゲ散らかした逃避者さん。それ、高みを目指すのを諦めた現状維持の、最高にダサい言い訳ですよね?」
シエラはゴミを見るような目でライルを見下ろした。
「いいかねシエラ君。立派な牛は綺麗に装飾され、神に祀り上げられたあとに、美味しく食べられてしまう。……それであれば、私は泥の中で自由に遊ぶ牛でありたい。ランキングという名の屠殺場へ向かうなど、愚の骨頂なのです。」
「……あの、牛さん。泥の中で遊んでるだけで、誰にも見向きもされず、そのまま泥に埋もれて誰の胃袋も満たさずに腐っていく牛が、一番無価値だと思いませんか? 泥牛なんて、ただの汚物ですよ。祀り上げられる度胸もないくせに、神聖な牛のフリしないでくれます?」
「……っ。シ、シエラ君、言葉が過ぎるよ。いいかね、人生とは酔ったように生き、夢のように死ぬものだ。無駄なことに気を揉んでいては、人生が勿体ないだろう?」
「無駄? 読んでくれる読者さんに『面白い!』と思ってもらうための努力が無駄? 酔ったように生きてるんじゃなくて、ただ現実から酔っ払って逃げてるだけでしょ! 夢のように死ぬんじゃなくて、寝言言ってる間に人生終わってるんですよ! そもそもその頭、どうすんの! 私の金髪売ってまで買った育毛剤、全部無駄にしたわね!!」
シエラの怒涛の正論ラッシュが、悟りを開いた(つもりの)ライルの脳天に突き刺さる。
「……う、ううっ。……だって、だってさぁ……昨日からブックマークが一個も増えないんだもん!
それどころか一個減ったんだ! 誰だ解除したやつ! 何が悪かったんだよぉぉぉ!!」
ついに決壊。大僧正ライルは、その場で手をついて号泣し始めた。
「わ、私は泥の中で遊びたくなんてない! 祀られたい! 美味しいって言われたい! みんなにチヤホヤされたいよぉぉぉ! シエラぁ、なんとかしてよぉぉ!!」
「……はいはい。わかったから。とりあえずそのハゲ頭に油性ペンで『★5希望』って書いとくから、それで我慢しなさい」
「……それで増えるかなぁ?」
「増えるわけないでしょ! さっさと毛を生やして、次の話書きなさいよ!!」
結局、ライルの「悟り」は、わずか5分の正論パンチによって木端微塵に砕け散るのだった。




