お試し期間
ロケバスの中は、思ったより静かだった。
前列に、三宮和龕。
その後ろに、霜月百。
さらに後方、窓際に神無。
そして、その隣に睦月。
配置は、自然に決まった。
神無は、無意識に睦月の影に入るように座っている。
「……今日の現場、聞いてる?」
百が振り返って、柔らかく声をかける。
「地方の公開収録。歌はなし、トーク中心」
「聞いてる」
神無は短く答える。
マイクケースを、膝の上で抱えている。
和龕が、前を向いたまま言った。
「倒れるなよ」
一瞬、空気が張りつめる。
「そのために俺がいる」
睦月が即答する。
和龕は、それ以上何も言わなかった。
この小さな子供の言葉を信じれるから。Donectのファンだから。
現場は、小さなホールだった。
客席との距離が近い。
ざわつく声。
視線。
神無は、久しぶりに“舞台袖”に立った。
胸が、微かに痛む。
歌わない。
それでも、ここはステージだ。
「大丈夫?」
睦月が、小声で聞く。
「……多分」
「多分は信用しない」
「じゃあ、大丈夫」
睦月は、それで納得したらしい。
スタッフの合図。
「本番、いきます!」
三人が、並んで出る。
拍手。
思ったより、温かい。
神無は、マイクを握る。
歌わないマイク。
それでも、手は震えなかった。
「今日は、特別な形での出演です」
司会者が説明する。
「新しい体制で、初めて現場に立つ三人です」
百が、軽く会釈する。
和龕は、視線だけで客席を見渡す。
神無は堂々と自分の足で立っていた。
今までの活動で無意識に体に染み込んだ行動として。
——いつも通り。
トークが進む。
質問が振られる。
「今の活動について、どう思ってますか?」
一瞬、間。
神無が、マイクを口元に持ってくる。
「……正直」
会場が静まる。
「怖いです」
ざわり。
「でも」
舞台袖の睦月が、視界に入る。
「一人じゃないので」
それだけ言って、マイクを下ろした。
百が、すぐに繋ぐ。
「僕らも、まだ途中です」
和龕が、短く締める。
「だから、見ててください」
本番が終わる。
袖に戻った瞬間、神無は息を吐いた。
「立てたな」
和龕が、ぽつりと言う。
「……はい」
「それでいいんだよ」
百が、笑う。
「初現場としては、上出来」
睦月は何も言わず、神無の様子を見ていた。
神無は、マイクをケースに戻す。
歌わないまま、現場に出た。
それでも。
——確かに、始まってしまった。
三人で立つ、最初の一歩。




