トップアイドル
会場の外は、まだ騒がしかった。
祝勝会の案内。
取材の依頼。
スタッフの足音。
神無は、その全部を背中に感じながら、屋上に出た。
夜風が、汗の残る首元を冷やす。
ポケットには、使い慣れたマイク。
歌った。
ちゃんと、最後まで。
その事実が、胸の奥で静かに灯っている。
今年のアイドルランキング、一位。
新人。
異例。
そういう言葉は、もうどうでもよかった。
屋上の縁に腰掛け、夜景を見る。
遠くの光が、滲んでいる。
「……万里」
名前が、自然に零れた。
呼び戻したいわけじゃない。
責めたいわけでもない。
ただ、ここにいないという事実を、確かめただけだ。
スマートフォンは、ポケットの中で沈黙している。
連絡先は、まだ消していない。
消さない、と決めた。
足音。
振り返ると、百がいた。
「やっぱり、ここ」
「……見つかりましたか」
「わかりやすい」
百は、少し距離を置いて立つ。
「おめでとう」
「ありがとうございます」
形式的じゃない声。
百は、夜景を見る。
「頂点に立って、どう?」
神無は、少し考える。
「……静かです」
「だろうね」
「でも」
言葉を選ぶ。
「下にいたときより、息はしやすい」
百は、微笑んだ。
「ちゃんと、自分で立ったからだ」
その言葉が、胸に落ちる。
「睦月は?」
「下で、社長に捕まってる」
想像できて、少し笑った。
百が、ふと思い出したように言う。
「和龕が言ってた」
「なんて?」
「“ここからが本番だ”って」
神無は、うなずく。
「……はい」
それは、怖い。
でも。
以前ほど、逃げたいとは思わなかった。
「戻る?」
「もう少し、ここにいます」
「了解」
百は、屋上を出ていく。
一人になる。
神無は、マイクを取り出した。
電源は、入れない。
握るだけ。
「俺は、ここにいる」
誰に言うでもなく。
でも、確かに。
頂点は、終わりじゃない。
自分で立ち続ける場所だ。輝き続けないといけない。
夜空に、星は見えなかった。
それでも。
足元は、揺れていなかった。
今作品を読んでいただきありがとうございます。
この作品でシリーズ作「Donect」を完結とさせていただきます。
趣味程度の拙い作品を今まで読んでいただき、ありがとうございました。




