表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Donect  作者: 天霖千
13/14

ライブ

 ライブが終わったあとの楽屋は、いつもより広く感じた。

 神無は、中央にいない。

 鏡の前でもない。

 楽屋の隅で、スタッフと話している。

 笑っているわけでも、無理をしているわけでもなく。

 ただ、そこに立っている。

 睦月は、壁にもたれたまま、その光景を眺めていた。

 かつては、神無から目を離せなかった。

 数分でも、視界から消えると不安になった。

 倒れないか。

 壊れないか。

 戻ってこないんじゃないか。

 でも、今は。

 百が、神無の隣にいる。

 和龕が、少し離れた場所で全体を見ている。

 睦月がいなくても、現場は回っている。

 それに気づいた瞬間、胸の奥が、少しだけ軽くなった。

 楽屋を出る途中、竹下社長とすれ違う。

「どうだった」

「問題ありませんでした」

 即答だった。

 自分でも、驚くほど自然に。

「……神無は?」

「立ってました」

 竹下社長は、それ以上聞かなかった。

 睦月は、自販機の前で足を止める。

 缶コーヒーを買い、開ける。

 苦い。

 でも、嫌じゃない。

 そのとき、後ろから声がした。

「睦月」

 神無だった。

 いつの間にか、そこにいる。

「お疲れ」

「……お疲れ」

 並んで、壁にもたれる。

 以前なら、ここで体調を聞いていた。

 顔色。

 息遣い。

 指先。

 でも、今日は違う。

「楽しかった?」

 神無が、少し驚いた顔をする。

「……うん」

 それだけで、十分だった。

 沈黙。

 気まずくない。

「俺さ」

 神無が言う。

「今日は、自分で立てた気がする」

 睦月は、うなずいた。

「見てた。また、俺の曲を歌ってくれて嬉しい」

 嘘じゃない。

 神無が一瞬で笑顔になる。

 神無もまた歌えて嬉しかったのだろう。

「もう」

 言葉を選ぶ。

「俺が前に出なくても、大丈夫だね」

 神無は、少し考えてから言った。

「でも」

「うん」

「隣には、いて」

 睦月は、小さく笑った。

「それなら、いくらでも」

 神無は、初めて自分から手を差し出した。

 軽く、拳を合わせる。

 それだけ。

 でも、十分だった。

 楽屋のドアが閉まる。

 睦月は思う。

 守らなくていい、というのは。

 離れることじゃない。

 信じることなんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ