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Donect  作者: 天霖千
10/14

和龕

 控室に戻って、誰もすぐには口を開かなかった。

 現場の熱が、ゆっくり冷えていく。

 和龕は、壁にもたれたまま腕を組んでいる。

 視線は、神無。

「……なあ」

 低い声。

 神無が、顔を上げる。

「お前」

 一拍。

「いつまで、後ろにいるつもりだ」

 空気が、張りつめる。

 百が、何か言おうとして口を閉じた。

 睦月が、わずかに前に出る。

「和龕」

「遮るな」

 即答。

 だが、声は荒れていない。

「これは、神無に言ってる」

 神無は、マイクケースを握りしめた。

「……前に出たら、壊れるかもしれない」

 正直な声だった。

 和龕は、鼻で笑う。

「知ってる」

 即答。

「壊れないやつなんて、この業界にいねえ」

 神無の目が、揺れる。

「でもな」

 和龕は、一歩近づく。

「後ろにいるままでも、壊れる」

 睦月が、黙ったまま聞いている。

 和龕は、睦月を一瞬だけ見た。

「お前が盾になるのは、悪くない」

 そして、神無に戻す。

「でも、それが“定位置”になったら終わりだ」

 沈黙。

 神無の喉が鳴る。

「……じゃあ、どうすれば」

 和龕は、少し考えてから言った。

「前に出ろ、とは言わない」

 意外な言葉。

「ただ」

 指を立てる。

「自分で選べ」

「選ぶ?」

「立つ場所を」

 和龕は、低く続ける。

「守られてる場所じゃなく」

「立ちたい場所だ」

 神無は、目を伏せた。

 万里の隣。

 空いた場所。

 まだ、痛む。

「すぐじゃなくていい」

 和龕の声が、少しだけ柔らぐ。

「でも、決めろ」

 百が、静かに言葉を足す。

「僕らは、待てる」

 睦月が、初めて口を開いた。

「……僕は」

 和龕を見る。

「神無が前に出る日まで、後ろにいる」

 即答だった。

 和龕は、短く息を吐く。

「重たいな」

「知ってる」

「……まぁ」

 和龕は、神無に視線を戻す。

「選ばなきゃ、進めない」

 それだけ言って、控室を出た。

 残された三人。

 神無は、マイクを見つめる。

 歌わないマイク。

 でも。

 いつか、前に出るための。

 ——宿題を渡された気がした。


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