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第一話 出会いと始まり

お世話になっております。龍牙 襄です。今回はこの作品に興味を持っていただきありがとうございます。

今回はファンタジーに挑戦してみました。あとちょっとラブコメ要素もあります。

かなりライトなないようになっていると思いますので、気軽に読んでやってください。

「ん?」

 森の中を進んでいたアーサーはかすかに聞こえる物音に気が付き足を止めた。

「なんだ?」

 森、とはいってもそれなりに整備された道ではある。木々が切り払われ、下草を処理して土を踏み固めただけだが、明らかに人為的に作られた道だ。

 アーサーは立ち止まってくせの強い茶色の髪をかき上げるようにして耳を澄ます。

「三、四人といったところか」

 背負っている大剣の束に手をかけてゆっくりと足音を立てないように進んで木の陰から先の方を覗くように見た。

「何も取って食おうって訳じゃねぇんだ、姉ちゃんよぉ。ちょっと付き合ってくれればいいんだよ」

 盗賊だろうか。ボサボサ髪に粗末な革鎧などを身につけた男三人が一人の鎧を纏った女性を取り囲んで凄んでいる。男の一人は腰から剣を抜いて女性に突きつけていた。

 やれやれ。アーサーは気が抜けた。盗賊らしき連中は目の前の女性に気を取られてまわりにまったく注意を払っていない。それだけで程度が知れるというものだ。

 物陰から出るとアーサーは大股で盗賊らに近付いた。案の定、男らは気が付く様子はない。

「おい」

 そんなに大きな声をかけた訳ではないが、男らは飛び上がらんばかりに驚いて、その時になって初めて背後にアーサーが来ていたことに気が付く。

「な、な、なんだてめぇは?!」

「こんな道で盗賊行為とは、たいした度胸だな」

 もちろん嫌みである。

「うるせぇっ! こっちは取り込み中なんだよ!」

 盗賊は凄むだけではなく、持っていた剣をひらめかせた。

「おっと」

 意外に鋭い踏み込みだ。アーサーは軽く飛び退いてその剣先を避ける。

 その隙に残りの二人が左右に回り込んでそれぞれ剣を抜く。三人ともショートソードだ。見ればどれも刃こぼれがひどい。ショートソードで戦や冒険に行くものは少ない。ということは。

「おっさん、見たとこ剣士かい。おおかた冒険者か冒険者崩れだろう。痛い目を見たくなけりゃあその鎧と背中の剣や袋を置いて消えな」

 アーサーは素早く左右を見る。三人とも細い腕だ。アーサーの半分ほどしかないのではないだろうか。

「悪いことは言わねえからさあ」

 アーサーはめんどくさそうに口にした。

「そっちこそ早めに引き下がっといた方がいいんじゃないか?」

「なっ!?」

 左にいた奴がアーサーの言葉にかっとなって飛び込んでくる。陽光を反射して盗賊の持っていた剣がきらめく。

 次の瞬間。

「ぐぅっ!?」

 男が腹を押さえこんでその場に崩れるように倒れた。アーサーが剣を躱して身をかがめ、その姿勢のままカウンターで肘を撃ち込んだのだ。

「なっ、なんだこいつ!?」

「やべぇぜこいつ、やりやがる」

 そう言うと男らは伸びてしまった男を引きずって退散した。どうやらここに来てやっとアーサーの実力に気が付いたらしい。引き上げる足だけは速かった。

「やれやれ」

 アーサーはそう言って頭をかきながら女性の方に近付いた。

「怪我はないか? 何か盗られたものは?」

 呆然としていた女性はアーサーの手を取って立ち上がる。木漏れ日が銀色の髪にキラキラと反射してきれいだ。ここまできれいな銀髪は珍しいだろう。エメラルドのように深い緑の目と相まって神秘的な雰囲気を纏った、なかなかの美女である。

「あの、ありがとう。特に何もされてないわ。大丈夫よ」

 改めてアーサーは女性を見るが、どうにも奇妙な点があることに気が付いた。

「君は……」

「シルビアよ」

「え?」

「シルビア。わたしの名前」

 アーサーはちょっと面食らった表情になり、目をパチパチとしばたたかせる。

「えーと、シルビア。君は武器は持ってないのか? 盗られたりしたのではなく?」

 シルビアと名乗った女性は剣士のような立派な鎧を身につけている。それでいてどこにも剣はおろか鞘も身に付けてはいなかった。

「ええ、持ってないわ。必要ないし」

「?」

 アーサーは理解できないというふうに首をかしげる。なぜ鎧を身につけて武器を持たないのか。必要ないとはどういう意味なのか。

 そもそも、シルビアは盗賊に襲われていたはずなのだが、既にもうすっかりそんな気配はなくなっている。いや、助けたときも呆然としてはいたが、恐れたりしているようにはなかった。

(何者なんだ?)

 盗賊とグルでこちらが油断したところを背後から、なんてことも考えたが、とてもそういうふうには見えない。そもそも釣り合いがまったく取れていない。

 何にせよこんなところで放り出す訳にもいかなかった。

「もう少し行けば森が開けて集落があるはずだから、そこまで送るよ」

「あなた、名前はなんて言うの?」

「こいつは失敬。オレはアーサー。しがない放浪の剣士さ」

 そう言うとアーサーはひげ面で軽く笑った。


「こいつは……思ったより賑わってるな」

 森を抜けて集落に入ると、そこにはかなりの規模の街が待っていた。人も多い。いや、人だけではない。亜人デミ・ヒューマンと呼ばれるエルフやオークらや、狼男や猫女といった獣人の姿も見える。

「すごいすごい! 街ってこんな一杯人がいるのね!」

 シルビアは両手を握ってぴょんぴょんと跳びはねている。えらいはしゃぎようだ。しかしこのあたりでこの程度の宿場町というのはそんなに珍しい訳でもない。もしかしてよっぽどの田舎のほうの出身なのだろうか。

「とりあえず、君の家はどこなんだい? 場所にもよるが途中までなら送って……」

「わたし、おなかが空いたわ!」

「……は?」

 突然のシルビアの言葉にアーサーは言葉を失う。

「ね! 何か食べましょう!」

 そう言ってアーサーの腕を取って歩き出す。意外な力に思わず彼は引っ張られてそのまま店が建ち並ぶ方へと歩いて行った。

「仕方ないなあ」

 そういうアーサーもここまで歩きづめだったので腹は減っている。二人は通りをしばらく歩いて食事のできそうな店を探した。

「ね、ここは?」

 アーサーが見上げると、どうやら冒険者が集まる酒場らしい看板が掲げられている。ここなら簡単な食事くらいはできるだろうと二人は入ることにした。

 中は薄暗いが客は多く、活気がある。どの客も手にジョッキを持っている。まだ日も高いうちから酒盛りをしているようだ。

 二人が空いている席に着くとさっそく店の主人らしき人物が注文を取りにやって来た。

「何か食べるものを二つ。それと水も頼む」

 ヘイと景気よく答えると主人は早足で店の奥へと戻っていった。ずいぶん対応のいい店のようだ。

 アーサーはそれとなく店内を見回す。確かに腕っ節の強そうな連中が目立つ。亜人や獣人の姿も見えた。集落によっては彼らは人とは差別されるところもあるが、ここではそういうことはないらしい。

 あっちこっちで顔を寄せ合って話している集団が見える。おそらくクエストのパーティをどうするかで話し合っているのだろう。この集落にも冒険者ギルドがあるようだ。そこで難易度別にクエストの募集があり、それを受注してクリアすれば所定の報酬がもらえる。もちろん高難易度のクエストほどもらえる報酬は多く価値のある物になるが、その分危険も多い。ここではそんなクエストを一緒に引き受けてくれるパーティメンバーを探しているものが多いのだろう。

 アーサーもかつてはこんなところで組んだメンバーでいくつかのクエストをこなしていたが、最近はもっぱら一人で小規模なクエストを引き受けては、わずかばかりの報酬を受け取って暮らしている。それでも一人で生きていくくらいはなんとかなるものだ。

「アーサー、どうしたの。遠い目をして」

「あ? ああ」

 物思いに耽ってぼーっとしていたらしい。シルビアに呼ばれて我に返った。

 そうしているうちに食事が運ばれてきた。肉を中心とした具だくさんの煮込み料理のようだ。

「わあ、すごい! これが人間の食べ物なのね!」

「人間の……?」

 引っかかる言い方だ。だが言った本人は気が付いていないらしく、匙を取るとさっそく来た料理を食べようとしている。

 その時だった。

「よお姉ちゃん。こっち来て一緒に飲まねえか」

 赤ら顔の大男がシルビアの肩を無遠慮に掴んだ。

「離してくれる? これからわたし、食事なの」

「そんなつまんねえもん食うより、こっちでオレ達と飲もうぜ」

 匙を置くとシルビアは自分の肩に置かれている大男の手を掴んだ。

「わたし、離してって言ったわよね?」

「ぐっ!?」

 男の顔色がみるみる変わる。眉間に皺が寄り、表情がどんどん険しくなっていった。

「わ、わかった。悪かったよ」

 それを聞くとシルビアは手を離す。男は解放された手をさすりながらいった。

「なんでぇ、この女、獣人かなんかだったのか」

 一連のやりとりを見ていたアーサーは呆然としていた。

「シルビア、君は一体……?」

「そんな事よりっ! 今は食べましょっ!」

 シルビアは待ちきれないとでも言うように匙を持ち直すと料理に取りかかった。

「んっ! おいしっ!」

 口をモグモグと言わせながらも絶品料理を食べたかのように感動する様を見て、アーサーも気が抜けたように料理を口にする。が、キツい香辛料の匂いに思わず手が止まる。マズい訳ではないのだがとにかく匂いがキツく、鼻に来る。これをおいしいとパクパク食えるシルビアを改めて見ながら、本当に彼女は何者なんだと考える。

 次々と匙を口に運ぶシルビアを見ながらアーサーは口を開く。

「シルビアの家はどこなんだ?」

「ん? 家?」

「そう、君の家。これを食べ終わったら送るよ」

 料理を口に運びながらアーサーが聞く。

「うーん、家ねえ」

「? 何か問題でも?」

「わたし、家なんてないわよ」

「は?」

 思わずアーサーの動きが止まる。冗談を言っているのかとも思ったが、見たところそうではないらしい。

「どういうことだ? 家がない?」

「そう。暮らしていたところはあるけど、そこはただの洞窟だし、当分戻るつもりはないから」

 は? 洞窟?

「もしかしてシルビアって……本当に獣人か何かか?」

「んん? どうだろ?」

 すまし顔でシルビアは明確には答えず、料理を食べ続ける。もう皿にはほとんど残っていない。

 どっちなんだ? アーサーは内心首をひねりつつ料理を水で何とか流し込む。

 改めてシルビアをよく観察する。屋内で少ない光りをことごとく反射する銀髪は腰近くまで伸びており、髪と同じくシルバーの睫毛は長く、その下から覗く瞳はエメラルドのように深い緑色をしている。鼻筋はすっと通っており、薄めの唇が口を覆っている。これらが逆卵形の整った輪郭に収まっている。

 彼女の体は剣士の鎧のようなものに覆われている。肩当てがやや大きく左右に突き出しているがそれ以外は腰当てがいくらかルーズに垂れ下がっていることを覗くと、あとはまるであつらえたかのように体にフィットしている。

 そうだ。既製品でここまで体に合った鎧はそうそうない。ましてや彼女は女だ。女性の冒険者がいない訳ではないが、やはり体力的に女性にはキツいことは否めず、そのせいで女性用の防具は少ない。そんな中でここまで体に合ったものを見つけるのは至難の業のはずだ。ということは。

「君は、どこかの領主か貴族の子か?」

「ぷっ! あははははっ! そんな訳ないじゃん!」

 金に糸目を付けなければいくらでも体に合わせた防具を作ることはできる。その辺から想像したのだが、どうやら違うらしい。確かにそれでは先ほどのシルビアの怪力らしきことは説明が付かない。

「何? そんなにわたしの正体が気になる?」

 シルビアがテーブル越しに身を乗り出してアーサーの顔を覗き込んでくる。

「あ、いや。君が言いたくなければ別に……」

 女性の身上をあまり詮索するのも失礼かと思い至り、アーサーは返事を言いよどむ。

「んー、あなたには助けて貰ったし、別にいいか」

 そう言うとシルビアはまた身を乗り出して口元に手を添える。アーサーは釣られるようにそのほうに耳を向けた。

「わたし、実はドラゴンなの」

「……は?」

 は? ドラゴン?

 アーサーは目をしばたたかせる。

「ドラゴンって、竜種のドラゴン?」

「それ以外に何があるっての」

「……ワイバーンとか?」

 飛龍とも呼ばれる体長三メートルほどの比較的小型の龍の一種がいて、この一部は家畜のように飼い慣らされ、乗用に用いられたりしている。

「あんな羽のあるだけのトカゲと一緒にしないで」

 確かに単にドラゴンといった場合、ワイバーンは含まれない場合が多い。

 そもそもドラゴンとはこの世界に数体しか存在しない、一説には人間より高度な知性を備えているのではないかと言われている希有な存在だった。

 その一体が、目の前にいる女性?

「いや、いやいやいや」

 はっはっはっと笑いながらアーサーはジョッキに入った水を飲む。

「まあそうよね。普通は信じられないわよね」

 ちょうどそこでジョッキの水もなくなった。

「とりあえず一度出ましょ」

 そう言うとシルビアは立ち上がるのでアーサーも席を立ってともに店を出る。

 シルビアの背を見ながらアーサーはぐるぐると考えをまとめようとしていた。ドラゴンが変身するのか? いや、そんな話は聞いたことがない。だがそうだとすれば鎧も怪力も説明が付く。

 店の外へ出ると、もうやや日が傾きかけていた。

 通りへ出るやいなや、横合いから声をかけられた。

「よお獣人の姉ちゃん、さっきはずいぶんおちょくってくれたよな」

 先ほど店でシルビアにちょっかいをかけてきた男だ。見れば後ろに数人従えている。仲間だろう。

「わたし、獣人じゃないんだけど」

「うるせえっ! そんな訳あるか! あんな怪力、巨獣の獣人でもなきゃありえねえだろ!」

「この女か」

 後ろから一人の男がのっそりと出てくる。ひどい猫背だが身長は三メートル近くあるのではないか。異様なほどの毛むくじゃらで毛皮を被っているのではないかと思うほどだ。それに口からは決して長くはないが犬歯も覗いている。

 間違いない。獣人だ。おそらく熊人ワー・ベアあたりではないだろうか。

 腕も毛むくじゃらのうえに丸太のように太い。こんなのに殴られたら全身の骨が砕けてしまうだろう。

「何?」

「悪いな」

 大男はそれだけ言うと予備動作もなくいきなりシルビアに腕を振るった。見た目とは違う素早い動きにアーサーは目を剥く。

 だがその直後に別のことに驚愕した。

 シルビアがその細腕で大男の巨腕を受け止めていたのだ。

「なっ!」

 これにはちょっかいをかけてきたほうの男も声を失った。

「ほう、獣人というのもうなずけるな」

 大男の声はさして驚いているふうにはない。むしろどこか楽しげですらあった。

「だから、獣人じゃないってば」

「ふん」

 大男はシルビアに振り下ろした腕をどかすと、間髪入れずに反対の腕で横薙ぎにぶんっと払った。

 まさかその腕までシルビアに止められるとは。それも片手でだ。

 見ようによっては滑稽ですらあった。シルビアはすらっとしているが、平均的な女性の身長から大きく外れている訳ではない。そんな女性が倍近い身長もある大男を手玉に取るように相手をしているのだ。

「今度はこっちの番ね」

 そう言うとシルビアは大男の腕を掴んでいた手に軽く力を入れる。その時、初めて大男の小さな目が大きく見開かれた。

「よっと」

 体格差がある分、シルビアの動きは大きかったが、決して力が入っているようには見えず、クイッと軽く引っ張っただけに見えた。だがそれだけで三メートル近い熊男がシルビアの後方に吹っ飛ばされたのだ。

「ええっ!?」

 アーサーをはじめ、その場に居合わせた者全てが驚愕に目を見張った。目の前で起きたことが信じられないのだ。

 そんな中でアーサーだけはさらなる事実に気が付いていた。シルビアが熊男を投げる腕がその瞬間だけ銀色に輝いていたのを見逃していなかったのだ。

(魔法、か?)

 いや、魔法にしては少しおかしい。詠唱がなかった。この世界では魔法は詠唱に伴う言霊の発露によって発生する事象であり、その詠唱のない魔法はよっぽどの例外以外はあり得ない。

(! ドラゴン!)

 その例外がドラゴンだ。そもそも魔法とはドラゴンの技を見た太古のエルフらが利用しようと研究した結果生まれたもので、今でも古代エルフ語の研究によって失われていた魔法が見つかったりしている。つまり魔法は元々はドラゴンの力の一つに過ぎなかったのだ。

(ドラゴンなら、詠唱なしで魔法が使える?)

「ば、化け物!」

 だがアーサーが思案に耽っている間に事態は厄介なほうに進んでいた。

「……なんですって?」

 吹っ飛ばした熊男が完全に伸びているのを見ていたシルビアが、ちょっかいをかけてきた男が放ったひと言に目をつり上げて振り向く。

(ああ、これは嫌な予感がする)

「ひぃっ!」

 男が逃げようと背を向けて走り出したと思った瞬間、結構間が空いていたと思うシルビアがひとっ飛びにやって来て男の襟首のところを捕まえる。

「ひ、ひぃっ! 助けてくれっ!」

「どこまでも失礼な奴ね。ぶちのめしてやろうかしら」

「ち、ちょい待ち。待った!」

 本当に拳を構え始めたシルビアをアーサーはすんでの所で押さえる。

「これ以上騒ぎを大きくするな。自警団が絡んできたら面倒なことになる」

 どの町にも大抵治安組織のようなものはある。それが自警団だ。だが自警団の質は街によって様々で、さらによそ者であるアーサーらを公平に扱ってくれる保証はない。

「あなたがそう言うなら仕方ないわね」

 シルビアが手を離すと男らはほうほうのていで伸びている熊男を連れてどこかへと逃げていった。

 ふと見回すと、結構な人だかりになっている。

「ここにいるのはマズい。どこかへ移動しよう」

 アーサー達はそそくさと人混みをかき分けてその場を立ち去った。

「ね、これでわたしがドラゴンだって信じた?」

「それを証明するためにわざわざオーバーキルしたのか?」

「べつにオーバーキルじゃないわよ。あのくらい簡単に出ちゃうから」

(うへぇ)

 アーサーは内心頭を抱えた。どうやらシルビアは獣人ではないっぽいが、獣人並みに扱いが難しい存在なのかも知れない。

「それにしても」

「ん?」

 シルビアがアーサーの顔を覗き込むようにしながら言ってきた。

「さっき、わたしを止めたけど、そんな隙を作ったつもりはなかったんだけど?」

「そうか?」

 アーサーはさして気にしたふうもない。そんな彼をしばらく見ていたシルビアは決心したように口にする。

「決めた。わたし、しばらくあなたと一緒に旅をするわ」

「……はい?」

 アーサーは目を丸くする。

「いろんな所に行って、いろんな物を見たいの。人の営みをもっと見たいのよ」

「勘弁してくれ。旅をするなら一人ですりゃあいいだろう」

「あら、女一人で旅しろっての?」

「あんたほどの実力がありゃあ問題ないだろう」

「いちいちさっきみたいに絡まれたら面倒じゃない」

 うーんと歩きながらアーサーは腕を組んで考える。確かに実力は問題ないだろうが、見た目はごく普通の若い女性だ。絡まれることも多いだろうことは想像に難くない。その都度さっきみたいな騒ぎを起こしていたら、シルビア自身は問題なくてもそのうちまわりに迷惑をかけるかも知れない。

「……しょうがないな。当面の間だけだぞ」

「やったぁっ!」

 ぴょんぴょんと跳び上がってシルビアは喜ぶ。

「……そんな喜ぶことかよ」

 アーサーがあきれていると、シルビアはとんでもないことを言い始めた。

「じゃあ今日はもう日も傾いてるし、宿取りましょう!」

「なっ!」

「だってこの時間からじゃあ出発できないでしょ?」

 確かに既に真昼もだいぶ経って、今から市街地を外れるのはあまり得策ではない。

「しかし、なあ」

「別に同室なんて求めませんよ。自分の部屋代くらい自分で出します」

「え、そんな金、いつの間に」

「森で盗賊たちが逃げるときに、ちょっと」

 恐い女だとアーサーは思った。

「じゃあとりあえず宿探すか」

 結局ここでもアーサーが折れて一緒に宿を探し始める。

 しばらく歩くとやや大きめの宿屋があった。一階で食事も提供している典型的なタイプだ。

 二人は入ってカウンターに行く。

「部屋、二つ空いてるかい?」

「へぇ、空いてますけど、二人部屋も空いてますよ。そっちの方が安いですが」

「えっ、そうなんですか!?」

 首を突っ込んでくるシルビアを押しやりながらアーサーが話を続ける。

「一人部屋二つでいい」

「それならそこの階段を上がって正面の扉とその隣をどうぞ」

 宿屋の親父はつまらなさそうにカウンターの下から簡素な鍵を取り出すと、並べて置いた。アーサーは軽く礼をしてその鍵を受け取り、一つをシルビアに渡す。

「わ、これが部屋の鍵ですね! ありがとうございます!」

「食事はこの一階で摂ってくださいよ」

 わかったと答えてアーサーは階段を上がる。今日はどっと疲れた。いったん荷物を置いてゆっくりしたい。

 階段の途中でシルビアが宿屋の親父に聞く。

「ここってお水使えるのかしら?」

「へえ、裏手の井戸をどうぞ」

 ありがとうとシルビアは礼を告げる。

 二階に上がると部屋の前でアーサーは言った。

「オレは飯の前に一眠りしたいから、適当な時間になったら起こしてくれ」

 わかったぁと明るい声で答えたシルビアだったが、扉を開けて中に入りかけたところでアーサーの方を見てひと言言う。

「水浴び、覗いてもいいですよ?」

「覗くかっ!」

 怒鳴りつけると首をすくめてシルビアは改めて部屋へと入っていった。

 やれやれとさらに疲労感を増したアーサーも部屋に入り、荷物だけ降ろすと鎧もそのままにベッドに倒れ込む。ベッドで寝るのは久しぶりだ。

「疲れた……」

 あっという間に彼の意識は睡魔に引き込まれていった。

「剣士とドラゴン」第一話、いかがでしたでしょうか。

今後ですが、今回も少しありましたがバトル要素も入ってくると思います。あとこの世界についても徐々にわかってくると思います、たぶん。

ただ気が向いたら書くっていうスタイルで書いているので、次の更新は半年くらい先になるかも……(^_^;

現時点ではこの先はほぼ白紙っていうくらい何も決まってないので(世界についてはいくつか決まってる)

まあのんびり付き合ってやってください。

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