第一章 九話 王子は姫で姫は王子?
深くにも見知っている男のことを俺は可愛いと思ってしまった。それはあってはならないことで俺の今までのプライドをズタズタにした。
「どうしたんだ急に大声を出して・・・・・・。何かの魔法を食らったのか?」
お姫様抱っこをしているからどうしても目線が上目ずかいになってしまい、俺はこいつがこんな怪我をしてなければすぐにでも下りてほしいところだ。
「まあ気にしないでくれ。それよりも俺は何をすればいいか明確な指示を出してほしい。どうみてもあいつら時間をくれそうにないからな。」
「はてあんな青年が姫の護衛についていましたっけ?調べたところではどこにもそんな情報はありませんでしたが。ですが邪魔をするのであれば一緒に殺すしかありませんね。」
「お前は一度失敗してるんだから、後は俺らにやらせろ。楽しみがなくなっちまう。」
ニヤリと笑い今度は逆に男一人を残し、周りの人達が勢い良く駆け出していく。
(しかし‥‥あのスピードは魔力を感じませんでしたが、まさか身体能力だけであの速さはあり得ませんからね。あの青年・・・・・・気になりますね。)
「カナタは魔法が使えないのだろう。なら逃げるしかない。肉弾戦で勝てる程奴らは甘くはないぞ。」
「逃げるったってどこに行けば良い。」
「まずは他の奴らが気になるからあちらに向かってくれ。安否をこの目で確認したいのだ。」
奴らとは他の精鋭部隊の人達だろう。王子がこんな事態なのに誰ひとりいないってことは先にやられているのか?俺は頷き指を指している方に走り出す。
「右だ!!次は左!ジャンプしろ。」
興奮したような口調で指示を送る王子。俺はその言葉を信じ後ろを向かず言葉通り避け続ける。次々とさっきいた場所に攻撃が通過する。じわりと汗が頬を伝う。
「あのテントがそうなのか?」
少し行くとそれらしき建物が見えてくる。辺りには火がいくつも灯してあるがそこには誰かいるような形跡はない。夜ご飯を取ろうとしていたのか食事の類が辺りに散らばっている。
「ああ。あれだ!!」
王子は一瞬こそ安堵の声を漏らしたがすぐに状況を把握したらしい。痛々しげに顔を歪める。
「だれもいないぞ!どういうことなんだ?」
「分からない。奴らは男達にやられたと聞いたが、食事の類は散乱としているが魔法の痕跡がないというのはおかしいな。」
「やべ!!追いついてきやがった。逃げるぞ。」
「待ってくれ。味方の生死すらわからず逃亡するなどできない。妾は残る・・・それが使える者を持つ主君というもなのだ。」
俺の手から無理矢理離れフラフラした足取りで立ちながら、しかし、しっかりとした目で見つめてくる。
そんなことを当たり前のように言うが一体どれほどの人たちが自分の兵のためだけにそこまでできるだろう?改めてこの王子を一人の人間として認めた俺がいる。
「あんたの気持ちは分からないでもないが、今は別だ。俺はあんたをあいつらから守らなくちゃいけない。だが俺が生きのべる統べは逃げることしかない。だから今は一緒に逃げてもらわないと困る。」
拳を強く握る。俺の前にいるのは本当に女なのではないかと思えるほど弱弱しく見えてしまう。
「妾は・・・・・・できぬ。」
この状況でしっかりと考えたことなのだろう。
「・・・だってそうだろ!何年も妾を守ってくれたあ奴らを見捨てる事など。妾はまだ何一つ奴らに恩を返していない。気にするなカナタ。そなたは城に帰ってこのことを伝えてほしい。一緒に残れとは言わないからな。」
「・・・。」
俺は何も答えられない。こんなときに何が正しいのかなんて俺は習った事がない。
「しょうがないんだ。きっと妾が逃げたらほかの者たちは殺されてしま─────。」
角度的に気付くことが出来なかった。視線の先にはまだ遠くにいる奴らを見る。先程から話に耳を傾けながらも目を離すことはなかった。なのにこの現状はおかしいだろ。
「おい・・・・・・お前・・・。」
剣先が王子の後ろから身体を貫いて姿を現す。そこは鎖骨の中心の少し下を貫通していた。剣が真っ直ぐに何百メートルも伸びてきたのである。
普通の世界じゃない。俺はこの世界の事を軽く考えていたんかも知れない。
前にゆっくりと倒れてきた王子を支える。
「ヒャハハハハハ!!!!見事に刺さったぜ。次はお前の番だぜぇ。」
辺りは敵が囲んでいた。男の声でようやく気付くことができた。
止血は簡単だがした。
早く帰らないと。
「なぁ無視かよ!もしかして怖くて声も出せないか?」
黒いコートを羽織り顔は仮面で隠している。そのせいか非常に甲高い男のバカのような声は場違いの雰囲気を醸し出している。
何も反応がない俺をみて調子に乗ったのか、前に一人だけ出てきて挑発をしてくる。もう恐怖はなかった。勝手にからが動いてしまう。
「そ・・・を・・ど・。」
「んっ?何言ってんだお前。」
「───そこを退けぇぇぇえええええ!!!!!」
俺は今までに何度しかないぐらいの声を張り上げた。顔は俺を知っている奴でも間違いなく見たことがないぐらい怒りをあらわにしていたと思う。
───ドサッ。
前の男が白目を向いたまま倒れ込む。辺りの奴らも次々と倒れていく。だがそんなことはどうでもいい・・・少なくとも今はこの王子より優先的なものはないのだから。
すぐさま俺は城へと駆け出した。
「おいカナタ。お前寝てねぇだろ。今は俺に任せて寝たらどうだ。」
廊下に低い男の声が響いてくる。ガリアは困った表情をして話しかけてくるがカナタは顔を上げず目を合わせなでいる。
あの後は城に駆け込み王子をリムに見せるとすぐさま治療が始まった。それから丸一日が経つがまだ治療室から誰も出てきてはいない。それと同じく治療室のドアの前から一切動こうとしないカナタをガリアは心配していた。
「あの天才少女とかいう奴が見てるんだから王子は助かるってカナタ!!それに精鋭部隊の奴らも一夜経って戻ってきたんだ万々歳だろ。」
「・・・・。」
「・・・まぁいい。好きなだけそこにいろ。だが身体には気をつけろよな。」
無視をするカナタを怒ることもせずガリアは来た道をまた歩きだす。カツカツと聞こえる足音は次第に遠ざかり聞こえなくなる。
またここに静かな空間が戻る。
カナタは虚ろな目で扉を見つめる。思い出すのはあの光景。王子が刺される瞬間。死が自分のみじかに存在することを初めて実感させられた。俺はあんな近くにいて守れなかった。
「・・・くそぉ。」
小さな一言だったがその声は無人の廊下に吸い込まれるように響いた。
それから何時間が過ぎただろうか。突然にドアが開かれた。
────ガチャ
出て来たのは白衣をきたリム。リムは真剣な面持ちをしていたが、俺を見つけると顔がだんだんと笑顔になっていく。
「やりましたぁーーー無事成功しましたよ!!!!!アラン王子の傷は完治しました。」
そう言い終わるとリムは疲れたのか俺にもたれるように眠ってしまった。リムを壁に寄り掛かるように倒して上着をかけて治療室のドアをくぐる。
俺がもっと強ければあの攻撃は防げたのにな。だけどあの後、どうやって奴らを振り切ったのか覚えてないんだよな。
傷があったところは跡も残っておらず、入り口で寝ているリムの凄さを実感した。傷口の方に目をやるともう一つ重大なことに気付いた。
「こ、これは‥‥‥何故ついてるんだ?」
驚愕で目を見開き尻餅をついてしまう。しかし目線はそこから外れない。薄いかけ布団から盛り上がっている部分。お気づきだろうか胸の部分が少しだが膨らんでいる。
「どうしたカナタ・・・ああ、お前は知らなかったな。そこにいる王子っつうのはな女だぞ。」
俺の疑問に答えてくれるようにいつの間にかにいたガリアが教えてくれる。だが急な混乱は思考を鈍らせる。
「はぁ?じゃあ第二王子って何なんだよ。偽物か!偽物なのぉブハァァァ!!!。」
いきなりの張り手。衝撃に耐えられずにまたも尻もちをつくはめになる。
「落ち着けい!ハッキリと言っちまえばコイツは姫様だ。本当の名は直接聞け。まぁ分け合って偽ってるんだよ。」
そうだったのか。じゃあ女と思って助けたら王子だった最悪の展開は無しってことか、ドキドキしたのは俺が、ホモとかではなく通常の現象だったってことなんだな。危なかったぜ。
「ていうか性別を偽る意味が俺には良く分からないんだが。」
「別に好きで変えてるわけじゃないんだぜ。少しややこしい過去がありやがるんだなこれが。俺が勝手に言っていい話じゃないんだがお前ならいいだろ・・・聞くか?」
俺は少し躊躇したが好奇心の方が勝ってしまったらしい。静かに頷きガリアが話始める。
まぁ‥‥じゃあこれから他言無用の昔話を始めるからな。
昔々・・・・・いや悪い。昔と言っても十数年前の話だ。王族っていうのはな一種の特性としてその王族特有の髪の色と瞳をしているんだ。
この物語の国の王族ってのは金髪で碧色の瞳を持っていたんだが、一つの事件が起きちまった。生まれてきた赤ん坊の髪の毛と瞳は赤かった。何百年の伝統のある家系でも、それは異例だった。
その世界ではな赤は血を示して世間からも良い印象を与えない。
周りは口々に言った。「殺せ!はやく殺せ」「悪魔だ。災いがくるぞ」「剣を剣を持ってきてくれ」「醜い子だ」「この子に生きている価値はないな」王様も精神的なダメージが大きかったのか、何もいえなかった。
しかし王女だけは皆にこう言った。
────騒がしい。この子は我等の子であるぞ。誰が何と言おうと手は出させね。
それでも周りは納得しなかった。だから条件をだした。その子の災いをとるために生贄を一人だすこと。
女王は優しい方で広まっていたから周りもそれを言えば諦めてくれると思った。だが彼女は笑顔になり赤ん坊の頭を一撫でししてから。最後に王様をみて「この子を守って」そう言い残し彼女は出産の時に使われたであろう短剣を胸に刺した。
誰もその場から動けなかった。皆の顔は蒼白しきっていたが、一人だけ。王女だけは笑顔だった。
その事もあり周りからは反論がでずに赤ん坊は育てられる事になった。だがなその女の子がつらいのはその後からだった。
性別は女だったが世間には男としてだした。その100年程前にも王族からこのような女の子が生まれて、結果その子は今も語り継がれる魔王の存在に至ったからだ。それを知ったら王女の事があれど国民や他の国々が許してくれないからな。
周りからは親の教えか、『災いの子』と呼ばれいつも一人で過ごす毎日。ちょうどそのころからか俺も騎士になってな城に使えることななったんだが。
入ってすぐにそのことが俺の耳にも入ってきてな。俺の目に入る所は止めに入っていたが、イジメも加速してだんだんと質の悪いものへと変わっていった。
だけど俺が見る奴はいつも笑顔だった。だから聞いたんだよ。「お前は周りの奴らが憎くないのか?なんでそんな笑顔なんだって。」そしてらさ。
「明るくいればきっと誰かが私を必要としてくれると思ったから」だってよ。まだ五歳ぐらいの女だって自分の立場を理解してな。それでも必死に生きてやがったんだ。
だけどなその後も不幸は続いた。彼女に優しくしていた唯一の兄が、暗殺を目論んでいた奴から彼女を守るため刺されたのだ。
その日から段々と笑顔が薄れていった。そしてそいつにもっともつらい事が起きた。
王様はその話を聞くと数日悩んだすえに彼女の部屋に行った。
王女が自分に刺した短剣を持って。例え愛する人に頼まれたとしても、周りからの声や娘のイジメを見てるとだんだん疲れてきてしまった。王様は昔とは比べようもないほどにやつれていた。
部屋のドアを開けると泣いていたのか目を腫らした娘がいた。王様や他の糞な貴族たちは知らなかったろうがそいつは部屋の片隅でいつも泣いていた。
だが俺がいつもその部屋に入ろうとすると泣きやんで笑顔を見せやがる。誰にも甘えることが出来なくてな不器用なんだよ。
王様はな部屋で泣いている娘を見ても同情なんかしねーで娘を力ずくで床に倒すと侮蔑した目を向けやがった。
「お‥‥おとうさ──」
娘は今の状況が理解出来ず、いや、理解したくない為なのかあまり言わない王様の事をお父さんと呼ぼうとするがそれは低い声に掻き消される。
「────お前なんて生まれてこなければよかったんだ」
剣を振りかぶり振るおうとするが騒動に気付いたメイド達や偶然近くにいた俺が止めに入った。その一年後に王様は突然の死を遂げた。
あのことから俺は精神的なことを気にしたが、女の子は前と変わらない性格のまますごした。
いろいろと政治関係にも力を入れはじめた。兄はというと側近を変えてから性格が変わってしまった。国民は王子が二人いると思っているんで、王様を決める決闘が楽しみらしく活気が湧いていた。
「とまぁここまで喋ったがここからはお前さんが来たぐらいの日付じゃねーか?なら話せるのはここまでだ。俺はここいらで退散するからな。」
「あと言っておくがこの姫さんは寂しがりやなんだぜ。だから目ぇ覚めるまで一緒にいてやってくれ。」
ガリアはそういうと背中を向け部屋からゆっくりと出ていった。ガリアなりの気遣いなのだろうか。その優しさが不器用ながらもとても温かかった。
**********
こんな小さな姫さんにそんなことがあったなんてな。壮絶すぎるだろ。
なんもしてないのに周りから嫌われて。だけどガリアや自分の部隊の奴らがだんだんと隙間を埋めてくれたんだな。
ガリアが出ていってから少しの時間が経ち、俺は幸せそうな寝顔をしたリムをみながら物思いに更けていた。と、唐突に声がした。
「そこにいるのはカナタなのか?」
光が眩しいのか細くした目を向けてくる姫さん。
「どうだ体調は?どこか痛い所はあるか。」
「大丈夫だ。お前のおかげで助かったぞ妾は。」
すこし手を握ったり開いたりしてからこちらに笑顔を向けてこたえてくる。
「無理してるなその顔は、いつものような覇気がなくなってるぞ。何かあるなら遠慮なく言ってくれよな。」
「むむ・・・妾の天使スマイルを見破るとはなかなかだの。ただな・・・昔の過去を少し夢でみていただけだ。」
最初はふざけていたが後半は目線を合わせずに小さく言った。その瞳はとても悲しそうな眼をしていた。俺も同情とかじゃなくてこの一人の女の子の支えになりたいと思った。
「なぁ本当の名前って何なんだ?教えてくれよ。」
最初は言葉に驚いてたがガリアの奴か・・・と小さく零して不適な笑みを浮かべる。
「そうだな。じゃあ一つだけ条件を出してやる。カナタは妾の友達というものになってくれるか?なるなら教えてやってもいいぞ。」
友達か。俺は外見だけ大人になって内面は小さい子のままの姫をみた。面白く笑みを零してはいるがその顔は断られるかもしれないといった不安がこみ上げていた。
「そんな言葉はいらねーよ。知ってるか?友達は知らない内になってるもんなんだよ。だから言われなくても俺はお前の友達だ。」
頭の上に手を置きくしゃくしゃと撫で回す。なんていうか母性本能がくすぐられた。姫さんは顔を紅くしながらだけどちゃんと目を見て言った。
「妾の名前はアラン・ファル・ラクティア。この国の美しい第一王女だな。」
「美しいはいらなかったな!」
「なんだとぉ妾を侮辱するきかぁーー。」
「冗談だよ冗談。じゃあティアでいいかな。そう呼んでいいよな?」
俺が呼びやすいあだ名を考えるとティアはまた顔を紅くして顔俯かせる。
「か、かっかか勝手に呼べばいいだろぉう!!いちいち確認するでない。恥ずかしいだろうが。」
動揺しすぎのティアは面白いがいちいちツッコミを入れるのは疲れてしまう。俺は手を出して握手を求める。
「これからまたよろしく頼むなティア。」
「こっこちらこしょ!!!」
今日はこの世界でおかしな主従関係が生まれた日だった。その談笑を気に食わない顔で見ている人がいるとも知らずに二人は今与えられた有意義な時間を楽しむ。