第一章 八話 姫を侮ったら大火傷
アランは高速にサイドステップを入れ先程とは比べものにならない速度で近づき男に突きを放つ。
しかし男は剣の腹でそれを受け止めるが余裕の顔はそこにはなかった。
攻撃はまだ続き刀の周りに纏われている炎はその突きの流れに沿って前にある剣をものともせず男に向かって一つの意思を持つかのように突き進む。
「ちっ!?」
男は初めて苦い顔を浮かべて空いている片方の手をとっさに前に出す。
『我が身を守りたまえ』
アランはゼロ距離からの攻撃に絶対の勝利の確信があったが油断はできない。先ほどあった喉部分の位置に刀を翻して再度光速の突きを放つ。
爆音とともに舞い上がっていた煙も部屋が数多くの穴を開けられているので、風が強く吹くからなのかすぐに晴れる。だが、今度苦い顔するのはアランの方だった。
「‥‥‥何で立っているんだ。」
アランは男の喉元に寸分くるわず刀を刺しているが、男は平然と立っている。その一瞬の思考停止は命取りになった。
よく見ると血すら流していない。それではまるで水に写る自分を刺しているように‥‥‥アランは慌てて後ろを振り向くが遅い。
「さすが頭の回転がいい。ですが、判断力に難ありですかね。」
男は鋭くとがった氷の塊を横に二つ出現させて男は刀を振り落としている。剣を優先的に刀で受けることを決めて氷は見捨てた。そのモーションと同時に言葉を紡ぐ。
『我が守護なる火よ 周りの大気を焼焦がせ』
アランの両ももに氷が刺さり一瞬後に自分を囲むように周りから炎柱がゴウッと大きな音をたてて現れる。その熱さに男は一旦距離をとり様子を見る。しかし一向に弱らないので男は紡ぐ。
『四彗の方角より射て 水光なる我が水よ』
先程とは比較出来ない程の鋭利な槍が四方から囲むようにでき、同時に炎柱を突き破り中を射る。舞っていた炎は消えたがそこにアランはいなかった。
「いないですか‥‥‥。」
炎柱と同じぐらいの円の穴が床に空いており下に逃げた事に気付く。そこにゆっくりと近づいていくと不意に足元に魔法陣が形成される。
慌ててその場から離れようとするが、足を動かす事は出来ずバランスを崩してしまう。
「動けず魔法も使えませんか・・・・・・まさか、こんな術式陣をあの短時間で仕掛けるなんて、やられましたね。」
そういって膨大な魔力の感じがしてそこから外を見ると、刀を鞘にしまい右足を前にだして低姿勢のアランの姿が見える。
『いざ我が力をそなたに見せよう』
小さいが魂の篭った言葉は、確かな存在感を示し辺りに響く。永唱は続いていく。
『気高く 逞しい 聖なる炎よ共に輝け――――』
辺りには魔力を乗せた風がけたまく吹き出ている。いつもは束ねて帽子を被り、隠していた赤色の長い髪は荒く、しかし月明かりに照らされ、美しく風に揺れる。
『―――孤独な火の鳥』
刀を居合抜きで凄まじいスピードで横に振るう。足に力を入れると傷口から止めどなく血が地面に足を伝わり落ちていく。
アランの刀から出された斬撃は炎から出来ている全長八メートルの大型の鳥だった。それは男目掛けて飛んでいく。これはアランの今出せる最大の攻撃魔法。魔力も無くなるのが近いのか、目眩がして倒れそうになる。
鳥は宿屋ごと丸呑みしてしまい、耳を容赦ないほどの音が襲い、地響きが低くこだまする。
終わったな。被害は大きいが、こんなものは後でどうにでもなる。他の奴らは大丈夫か?早く行かなければ。
歩きだそうとしたが、足に無理を強いていたのかそのまま腰を落としてしまった。
――――ビュンッ
煙の中から男の水の槍が目で追うこともままならない速さで、一瞬前まで頭があった場所に飛んでくる。背筋が凍る。あり得ないと思いながらもその存在を認めてしまう自分がいる。
―――――ありえない。
アランは驚愕の顔をして外れていた視線を男のいる方に向ける。戦いに集中していたからなのか、奴らの魔力を忘れていた。
「いやはや、間一髪とはまさにこのことですね。後少し遅ければ間違いなく死んでました。感謝感謝ですね。」
「だから単独行動は止めろと言っておいたのに。自分の力量をしれ。」
これは手厳しいですね~。と微小の笑みを浮かべて軽く受け答える。その表情は変わる事はなくこちらに向けられる。動悸が速い自分の心臓の音が大きく聞こえてくる。
「残念でしたね。この現状を見れば貴方なら解ると思いますが、あえて言いましょう‥‥‥あなたの負けです。」
最初に感じていた魔力の正体はやはり奴らの仲間だったか‥‥‥。十一人もいては、今の妾では奴の言う通り逃げる事は不可能か。
「フッ‥‥妾は一体何を国にしてこれたのか。一つ約束をしてくれないかの?妾の部隊の奴は無事に帰してやってくれるか。」
男は何故かは知らないがクスクスと笑う。周りの奴らも釣られるように静かに笑う。
「貴方には同情をしていますね。まぁ知ることはないと思いますから、今は貴方の願いを聞き入れてあげましょう。」
言葉が言い終わると同時に男以外の奴らが周りを取り囲む。持つ武器は剣や槍、弓、斧など様々である。
覚悟はしていたが死を前に感じ、アランの身体は微かに震えていた。だがそれを最後まで相手に見せないように強く相手を見据える。
「殺ってください。」
男の一言を皮切りに武器を振りかぶり迫ってくるが、それは一つの声によって遮られる。
「ちょっと待てぇぇぇええいい!!!!!」
攻撃を中断して声のした方を瞬時に見るが、誰も視界に納める事は出来ず変わりに突風が横切る。次に気づいた時には結構な距離を相手からとっていた。
「ええっと‥‥まずは大丈夫か?でいいのかな。」
その救世主じみた奴は自信なさげに笑顔を向けてこちらに聞いてきた。
「カナタァ!!」
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チクショウ。もうすっかり忘れていたぜ。俺は超がつくほど方向音痴だったってことを!!・・・てか初めてきた世界で村がどこにあるかなんてわかるわけねーだろぉが!
俺は星が奇麗に光っている夜空に吠えていた。もう夕陽はとっくに沈み、辺りは街灯などあるわけないので無論真っ暗である。
「ヤバいな‥‥‥こんなことして、あの王子に何かあったら確実にガイアに殺されちまう。どっかに明かりはないかな。」
一番高そうな木に登りどこまでも続く森を眺めてみる。
そうすると視界では何も捕らえられなかったが、自分から右側の方から熱風が伝わってくる。気になり少しずつ近づいていくと、遠くからでも認知できる程の火を纏っている鳥が現れた。
「おお!さすがファンタジー。って感心してる場合じゃないな。」
すぐに気を取り直して走り出す。すぐさま加速を続け自分の限界値まで到達する。
時間にして一分弱で森を抜けると想像よりも遥かに超えている景色があった。大きな建物があったと思われる所は跡形もなく、その周りの建物も所々に穴が空いている。
「これは死亡フラグがたっちまったかなぁ。」
手で頭を覆いNO,NOと呟くが、微かに声が聞こえて前を向き直す。
「あれは‥‥‥リンチか?」
女の子一人をあんな人数で襲うなんて・・・・・・許せん。一体あの王子は何をしてるんだ!治安が最悪じゃねーか、これは一発かまさないとダメだな。
「まぁ今はあの馬鹿はほっといて救出優先だ。ふぅぅうう―――――。」
息を思いっきり吸い込み女の子の方へと駆け出す。
「――――ちょっと待てぇぇぇええいい!!!」
そう言ってから、あの輪にいる女の子の救出はまさにゼロコンマの世界である。自分でも今までにない速さを出して驚いているがそれはおいておく。
奴らから距離をとって場所は家の屋根。夜分遅くにすいません。と心の中で謝っておき、現在進行形でお姫様抱っこ中の女の子を見る。
赤い髪の毛が月の光で綺麗に光整った顔立ちを引きだしている。すこし見とれながらも安否の確認をとる。
「ええっと‥‥‥まずは大丈夫か?でいいのかな。」
「カナタァ!!」
えっと‥‥‥‥‥誰ですか?
俺にはこんな美人な知り合いはいないぞ。よく顔を見ると一人の顔と何故か一致してしまう。だが有り得ない!そんな事はあってはならない。
「分からんのか?そうだったな。この様な姿だったから無理もない。妾は―――――」
嫌だ!聞きたくない。止めろ止めてくれぇ!!!!!!
「―――――第二王子アラン・ドロンだ。」
万遍の笑顔で言ってくる。チクショウ!可愛いと思ってしまう自分がいる。俺はノーマルだ!!ノーマルなんだ。
「誰か嘘だと言ってくれぇぇぇえええ!!!!」