第一章 六話 視察地にての奇襲
目を覚ましてすぐにガイアから呼び出しをもらった俺はゆっくりとした足取りで、練習場の方へと足を進める。今日は前の個々の声ではなく纏まった声が響いてくる。そっと覗くと腕立てを綺麗な列を作ってやっていた。俺の耳がおかしくなければ今953という驚異的な回数をやっている。
「ガイア!目ぇ覚ましたから来てやったぞ。」
みんなの隊列を前に腕組をしているガイアは普通に目立ち、すぐに見つけることが出来た。ガイアはこちらに気づくと軽く手を挙げ答える。
こちらに気を配りながらもしっかりと指揮をとっている。意外と訓練ではまじめなタイプなのかもしれない。
「それより凄いなここの騎士たちは・・・。でもこんなにやると体を壊しちゃうんじゃないか?」
俺とガイアはみんなの前で喋っているので、必然的に俺達の会話はみんなに聞こえている。俺の言葉にみんなは首がとれるんじゃないかと思うぐらい縦に振る。
「そんなお世辞を言うなカナタ。まだまだこいつらはいけるぞ!!俺の年になると厳しくやろうと思うんだが、つい甘さがでちまってよ。これじゃ駄目だと分かってるんだが。」
「・・・これでもあまい練習なのかよ。」
俺いわく練習場にいるガイア以外は顔が真っ青になってしまった。気まずい雰囲気を直そうと来た用件を早速言う。
「そういえば、俺を呼び出して一体何なんだ?また魔力測定をするのは嫌だぞ。てかまず俺に誠意ある謝罪を要求する」
「そうだったそうだった!!お前に重要な話がある。」
急に肩を組まれて反対の方を向かされる。謝罪は期待できそうにない。
文句を言おうとしたがガイアの顔が真剣なものになっていたので不本意ながらもそのまま耳を貸す。
「今アラン王子が永久の騎士団をつれて視察に行ったのは聞いたよな?お前には早くアラン王子と合流して守ってほしいんだが。」
「何言ってんだ?俺が行かなくても精鋭部隊がいるんだろ。俺なんかが行ったってなんも変わらないって。」
「俺もそう思うがな、この何日間か胸騒ぎがしてならんのよ・・・。城の居心地も前と比べて悪くなった気がしてならん。こっちは俺が監視しとくから早く行ってくれ。」
「よくわかんないけど。俺はあの王子を守ればいいんだな。場所はどこだ?」
「ここから東に約50キロ行った所のワダラ村だ。」
わかった。と一言言ってそこから並はずれた身体能力を使って走り出した。50キロだと走って約2時間ほどである。もうすぐ日が暮れてしまうので休みはなしだ。
*****アラン~~SIDE~~*****
各地の村を回り視察を行いやっとのことで終わりを迎えた。辺りはもう日が沈み暗くなってしまっている。
最近では段々とあの魔王の復活も予言の通りいくと近くなってきていてほかの国々が戦力をどうにか上げようと躍起を起こしている。そんなこともあり周辺国では小さな戦争もあり、こちらも警戒しなくてはならなくなった。
「はい。大丈夫であります!!最近は他の国同士も牽制をしておりこちらもしばらくは大丈夫かと。」
隣からこの村に配置されている騎士たちからの最近の報告をしてもらい、今日一日この村に泊まってから明日の朝に出発する。
「そうか。ではそのまま警備を怠るな。」
「はっ!!」
「今日はこれでいい。明日の早朝にこの村をでる。他の奴らにも言っておけ。」
後ろに控えていた永久の騎士団の団員にそれだけ言って下がらせる。
ガイアから連絡があったのだがカナタは間に合わなかったようだな。アランは滞在していた宿屋に戻って早くに眠ろうとした。
建物は木造建築だが城と違ってこういう所も悪くないと思う自分がいる。三階建てで狭くはない横に広がっていて城の周りにある宿屋に良く似ている。それでもこの村では限りなく大きい建物である。
黒の騎士団のシルエットともなっている黒いコートを脱ぎ棄て初めから用意していた畳んである浴衣のようなものを着て座敷という所にひいてある布団に入る。
窓から見える月を見つめ静かな溜息を吐き、手を横に軽く振り小さく灯っていた火を消す。
「ッ!?」
一瞬の微かな魔力。先ほどまではまったく感じられなかったもの。一気に油断していた頭を切り替えて辺りに気を張る。
「そこにいるお前は誰だ。」
僅かな殺気に気づきそちらに顔を向ける。気づかれた男は少し驚いたそぶりを見せたが、すぐにクククっと笑い出した。
「出来るだけ抑えたはずなんですけどね。やはり貴方は別格ですね。だが此処で貴方には死んで貰います。」
「他の奴らは殺したのか?」
「いえ・・・お付きの方々には少し夢を見ていただいてます。まぁ半日は起きないでしょうけど。」
あやつらを無傷で相手にしたというのか。不意打ちをしたとしてもそこまで簡単にやられる奴らではなかろう。
それに奴の味方が十人ほどこちらに向かって来ている。こいつらも結構な魔力の持ち主たちだ。
「貴様程の奴を差し向けてここまで入念にするという事は失敗は許されないらしいな。どこの国のさしがねだ?」
「答える義理はないですね。そろそろ時間のようです。」
その言葉道理前の男からはさっきとは比べものにならない程の殺気が向けられる。カタカタカタっと周りにあった家具が震えだす。
妾は背中を向ける事は出来ない。差し違えてもコヤツだけは倒してみせる。
布団の横に並べられた桜の刺繍が入った棒状の袋を無駄のない動作でとり、その中にある刀をスルリと取り出し、鞘を袋の上に放る。
「片方しか刃がありませんね。確か‥‥‥刀と言うんでしたっけ。珍しいものを使いますね。」
「御託はいい。行くぞ。」
アランはそう言って刀を振りかぶり横に一線。襖など邪魔な物はものともせず切り崩していく。
「いい筋してますよ。しかし力がやはり女性ですね。」
何事もないようにそれを受け、感想を述べていく。その言葉道理男は力を余り入れてないようだ。男は笑みを出し余裕というような表情をしている。癇に障る奴だ。
「まだまだぁ!!」
アランは様々な角度から刀を振っていく。それは常人には出せない速さであるがこれも防がれていく。アランは攻撃の手を休めず攻めているが、段々と攻防が逆転していく。
「肩で息をしていますが大丈夫ですか?」
男は澄ました顔でアランに訪ねるが返事ではなく剣を振って答える。
「こんなものですか?少し拍子抜けですね。やはり女性に期待するのは馬鹿でしっ!!!」
アランは今までと同じ振りのままでさっきより倍近い重い一撃を浴びさせ二人の間に少しの距離が出来る。男は刀の攻撃を防いだ自分の剣を見ている。
「ふっふっふ‥‥‥。女を怒らせると恐いということを貴様に教えてやろう。」
アランは刀を横に向け男に宣告する。それと同時刀の切っ先の方向にある壁に丸い半径二メートルの穴が空く。そして一瞬の間の後刀に炎が纏う。
「知っているか?さっきの喧騒で今この宿屋には誰もいない。」
「だからどうしたんですか?」
男はなにを言いたいのか分からないといった風に聞き返してくる。その問いに薄ら笑みを浮かべて前の男を睨む。
「この建物もろとも貴様をブッ潰す!!」