第一章 五話 『永久(とわ)の騎士団』
「全く驚いたな。お前がまさかどこぞの誰とも分からない奴に負けるなんてな。あの男の名は何と申したかの?」
ここは城のとある一室。辺りは静けさを漂わせそのなかでベット越しに二人が不適な笑みを漏らして談笑していた。
「確か相原彼方と言っていましたが奇妙な名前ですね聞いたことがありません。どこの出身でしょうか?しかし奴からは感じた事のない雰囲気を感じましたな。」
「感じた事のない雰囲気とな?」
雰囲気という言葉に反応を示し相手にその先を促すそぶりを見せる。
「はい。見たところ指輪もつけてませんでしたし、備兵や奴隷であの力では噂になっていてもいい・・・俺の憶測なんですが・・・・・・いや、やはりなんでもありません。」
余計な見解は相手に失礼と男は感じとり言葉を濁すが、相手は普段ではしないような行動を男がとったことに気になる。
「よい。お前が思ったことを素直に申してみよ。」
男は少し躊躇し考えるそぶりを見せたがはっきりとした口調で言った。
「俺はあいつが『時を渡る勇者〈イージィスタ〉』だと思います。」
最後にただの俺の感ですがと付け足して相手の反応を窺うが、相手は心配とは裏腹に片手を口の前にもっていき小さく笑み浮かべている。
「ほぉ。確かに条件的にはおかしくないな。その可能性も低くはないな。時を渡る勇者〈イージィスタ〉か・・・・・・面白い!その者は一体我らに何をもたらしてくれるのか。」
相手は一段と濃い笑みを浮かべてから身体を翻しドアの方に足を向ける。
「この事は他言無用だ!分かったな。」
「はっ」
そう言って部屋を出ていき緊迫した空気はなくなった。後に残ったのは男の大きな溜息。
「はぁぁああああ。あの喋り方はマジで疲れちまうぜ。」
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「んっ‥いたた。顔面パンチ強すぎだろ団長さんよぉ‥‥てかここはどこだ?」
目が覚めると同時に顔の痛みに悩まされる。ここはベッドの上。まだ痛む頬を摩りながら上半身を起こす。日本でもありそうな典型的な病室だった。
ベットは横に三つ並んであるが、俺しか患者はいないらしい。清潔感がこの部屋からは感じられて悪い気は起きなかった。
≪──ガラガラッ≫
「ふえっ!!」
≪───ばたんっ≫
不意にドアが開くがその入ってきた人物と目が合うと直ぐに閉められてしまった。素直にビビられると結構ショックだな・・・。少しすると今度はゆっくりとドアが開く。
「あ、あのぉ怪我はもう大丈夫ですか?痛くないですか?」
「ああ、怪我ならだいぶ良くなったな。まだ少し痛いけど‥‥‥。」
「そうですか。」
ゆっくりと病室に入ってくる。白衣をきた女の子は腰まである綺麗な金色の長い髪をストレートに下ろし顔も整っているが、身長がどうにも低い。白衣らしき上着が大方地面を磨っている。
「ええっと、君は迷子かなんかかな?ダメだよこんなところに勝手に入ってきちゃ。」
ただの質問であったが彼女は顔を赤くして唇を噛みプルプルと奮え羞恥心をあらわにする。これはこの子にとっての禁句ワードだったらしい。
「わた‥わ、私はこれでも十五歳です!!!城に使えるれっきとした大人なんです。それは少しはドジをしてしまいますがそう言われるのは心外です。今すぐに謝罪を要求します。」
「分かった分かったよ。悪かったから許してくれ。だから顔を離せ。」
十五歳じゃまだ子供だと思うのだが・・・とは口には出さないが心の中で思う。彼女は怒りで人見知りが無くなったのか息がかかるぐらいまで彼女の顔は近づいてきた。
「顔?あっ!!おっ、、ドタッ。」
彼女は自分の行動にようやく気付き慌てて離れようとするが棚にぶつかりバランスが取れなくなったのか大きくこける。鼻を思い切り打ったのか赤く腫れてしまっている。
「ぶっ!!ハハハハハハ。」
「笑いごとじゃないですよぉ。これ結構痛いんですから‥‥‥‥。」
むぅと頬膨らまし恨めしげにこちらを見上げてくるが全然怖くなかった。その動作にまた笑いがこみ上げてくる。
「いつ目を覚ましやがったんだ?随分と楽しそうじゃねーか!俺も混ぜてくれよ。」
「おうフェリス。久しぶりだな。身長伸びたな!!」
「いや3時間ぐらいだからお前が気絶してたの。久しぶりじゃねーよ。てか、聞いたか試験の結果?」
身長のことは突っ込まないフェリスの問いに頭を横に振ると、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせる。眩しすぎるぜ。
「聞いて驚くなよ。なんと第二王子のアラン様の直属精鋭部隊『永久の騎士団』に配属だってよ!!」
「ええー!この人が永久の騎士団にですか。」
フェリスの言葉に驚いたのは俺ではなく少女だった。信じられないといった感じでこちらを見てくる。
「そんなに凄いのか永久の騎士団っていうのは?別に護衛みたいなもんだろ。」
二人はありえないという視線を俺に送る。やめろ。痛いから心が痛いからそんな目で見ないでくれ。
「あのなカナタ。王族に値する人の護衛は、師団長とほぼ同等の奴がやるんだぜ。そりゃあ師団長の方が個々の力としては上かも知れないが半端なくつえーぞ。まさに精鋭だ。」
少女も横で勢いよく首を縦に振っている。
「それにな、もうすぐ王の座を巡って王位継承試合があるんだ。そこで第一王子達とやり合わなくちゃならない。お前はまだ魔法が使えないだろ。辞退した方がいい。」
本気で心配してくれているのはわかるが、折角のチャンスだ。無下にするのはちょっとな。
「まぁ承認式は明日だしよく考えた方がいいな。今日は帰って休もう。」
「そうすっか、俺も頭ん中整理しなくちゃな。」
身支度をして病室をでる。外は暗くなっていて並び建っている店の明かりが道を照らしてくれている。まだ町の方は賑やかな声がしてくる。
「そうだ。俺の名前は相原彼方っていうんだ。カナタでいいから。」
「あっはい。私はミリンセラー・リムシィです。みんなはリムと呼んでいます。」
慌てながらも丁寧に挨拶をするリム。良い奴なのは分かるがおっちょこちょいである。
「そっか、じゃあなミリンセラー・リムシィ。」
「えっ!フルネームですか!!」
「冗談だよ。傷の手当て助かったよ。あと楽しめたぞ!またなリム。」
手を振って別れをつげる。リムは先ほどと同じく頬を膨らませているがちゃんと手を振り返してくれた。今日は疲れたけどカナタの心は結構満たされた一日だった。
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「もう話は聞いておると思うが、貴殿を我が親衛隊に招きたいのだが入ってくれるか?」
城の大広間に呼ばれ行ってみると、第二王子を筆頭に大臣たちが一列に並ばれていて緊張感漂う雰囲気が辺りを包んでいた。大臣たちは俺の方を怪訝な表情で見つめている。やはり貴族は平民をあまりよくは見ていないらしい。
「王子殿。少しご質問があるのですがよろしいですか?」
俺が片膝をつきながら顔だけを向け声をかける。周りからそのことに批判の声がでるがそれを片手で制し目を合わせる。
「何だ。言ってみろ。」
「確かに技量では師団長を倒せましたが、実践では到底師団長達には及びません。それを見抜いている思いますが、なぜ私を親衛隊なんかに?」
俺の質問に周りの大臣たちは「うんうん」と頷いている。自分で言っといてなんだがぶっ飛ばしたくなってきた。
「そんなことお主が気にすることではない。理由がないとダメなら言ってやろう。妾がお主を気にいったからだ。これでどうだ?」
大臣たちは王子の言葉に頭を抱えていたが俺は納得した。この王子はこういう性格なんだからとそれを受け止めるしかない。
「では改めて聞こう。妾の親衛隊に入ってはくれまいか?」
理由は聞いたが俺の返事は最初から決まっていた。王子の評判は商人の人たちから聞いているが悪くない。地球のゲームでもそうだがこういうときは流れに従ったほうがいい。
「謹んでお受けいたします。」
王子は近くにいた執事らしき人から剣を受け取る。そして一気に抜き剣の綺麗な刀身が姿を現す。
「では今この時よりお主を我が親衛隊『永久の騎士』に任命する。この剣を証としてそなたに授けよう。今後のお主に期待しよう。」
刀身が黒く輝いた剣。一切の色を受け付けまいかのように輝いている。それを受け取り剣を前に立て忠誠を誓う。
「─────この身が尽きようと我が主を守り抜こう。」
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何事もなく承認式が行われ、帰っていいということなので今は馬鹿でかい廊下を一人で歩いている。廊下の左右には近づくのすら躊躇いそうな豪華に彩られた壺などが置いてある。それに目移りしながら歩いていると外の方から大きな声が聞こえてきた。
好奇心に身を任せて近づいてみると、そこは練習場なのかいろいろな武器を持った人が互いに試合をしている。その中にはいかにも強そうな人もいるが、小さい子供達もその中に混じってやっている。これはすごい英才教育だな・・・・・・。
「おいそこのお前!!!なに練習をさぼってるんだ。」
突如後ろから怒声を浴びて振り向くと、体格がものすごくいい髭がチャームポイントの会いたくない人物がいた。ガリアはこっちの気も知らずに高笑いをしながら近づいてくる。
「いきなり怒鳴って悪かったなぁカナタ。その剣を持っているってことは承認を受理したんだな。」
「そうなるのかな。それよりガイアはここで何をしているんだよ?弱い者いじめか?」
「違うわ。俺は師団長兼騎士たちの育成係だからな!まぁそんなことはどうでもいいんだが今時間開いているか?」
そういいながらも俺の返答を待たずに片手で頭をガシッとつかみ歩きだされた。俺は半分あきらめながらガイアに連れて行かれた。
連れてこられたのは城のニ階にある一番端の部屋。中に入ると周りはコンクリートらしきもので覆われていて真ん中にポカンと机があり、その上に水晶玉見たいのが乗っていた。ガイアはドアを閉めるとドアに向かって何か言っていたがそこはあえて触れないでおこう。
「カナタ。お前にはこの部屋が何か分かるか?」
「わからんが。こういうことするんだろうなぁっていう予測はできているぞ。」
俺は正直に答えた。ガイアは真剣な顔を崩さないでこういった。
「それはあり得ないんだカナタ。今世界の住人はな一年ごとにこの部屋と同じ所に行き診断を受けさせる。それは王族・貴族・平民・奴隷すべてに当たる。魔族などは例外だがお前は魔族ではないことは見れば誰でもわかる。」
ガイアは間を置き語る。
「正直に答えてくれ。お前は『時を渡る勇者』なのか?」
俺は悩む。ガイアは会った回数こそ少ないけれど信用に値する人だとは思っているが、話ていいのだろうか?しかし今後のことも考えると俺のことを言っておいたほうがいいかもしれないな。
「俺は『時を渡る勇者』かどうかは知らんが、この世界の人じゃない。この世界を救えって言われて半ば強制的に連れてこられた。」
「そうか・・・・・・ならお前はどうする?お前みたいな子供が強制的に連れてこられた世界は、命をかけてまで救いたいと思うか?平穏な生活を望むか?」
「俺は死ぬつもりはないけどこの世界を救うつもりはある。どうしてそんなことをするのかは、自分でもわからんが、あえて言うなら神様いわく優しいからかな?」
カナタは不適笑みを浮かべて言う。その理由にガイアは一瞬ポカンとした顔するがすぐにいつものガイアになった。
「ガハハハハ!!お前は面白い奴だな。優しさだけで命を顧みず世界を救うのか!!久しぶりにこういう馬鹿を見た。」
いきなりの豪快な笑い。さっきまでの緊張した雰囲気が大なしである。黙って見ているといつまでも笑っていそうなので、俺はここに来た理由を尋ねた。
「おおそうだったな。ここは確かめの理由もあったんだが、もうひとつ魔力の適性を調べておこうと思ってな。お前さんは魔法をまだ使えないそうだからな。」
ニヒルな笑みを浮かべてガイアはそういうと水晶玉の説明を始めた。
「まぁ簡単なことだ。両手をここにかざしているだけで勝手に魔力をとりこんでくれて、そいつの魔力量と適正属性が映し出される。」
俺は神様にお願いしたことを思い出す。たしか魔力量は魔王より多くだ。
「ガイア。一つ質問していいか?」
「なんだ?言ってみろ。」
「魔王がここに手を置いたらどのくらいの数値が出されるんだ。」
一瞬キョトンとしていたが、笑いながら水晶玉が爆発するというなんとも愉快な答えを述べてくれた。
「俺はパスするよ。俺は魔力量だけは自信があるからな。」
「何を言ってるんだ。ここまで来たんだからやってけよ。」
ガイアに両手をつかまれて水晶玉に持ってかれる。
〈かなたぁ。魔力量は魔王の二倍にしておいたからそこなへんはよろしくねぇ。死なないようにねぇ☆〉
どこからかそんな声がした。最後の星に苛立ちが芽生える。十中八九あの神様だ。ニ倍かよ・・・ニ倍か・・・・・・俺死んだわ・・・・・。
「まじでやめてくれガイア!!おいb馬鹿あ!や、やめ・・・ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
その日城の二階がつぶれて三階がニ階へと姿を変えたという。その話を俺は一か月後に聞いた。
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「んっ………ここは・・・って、前もこんなことがあったような・・・。」
目を覚ますとついこの前に見た天井があった。すぐに俺は医務室にいるのが分かった。目だけを動かして部屋を見ると、部屋に一つだけある机で書類を整理しているリムがいた。
作業をするときは眼鏡をかけるのか、シンプルな白い眼鏡が割と様になっている。この年で仕事をこういう風にそつなくこなしているのはとても凄いことだ。
「良い仕事っぷりだなリム。見た目からは誰も想像できないぞ。」
「ふえっ!!‥‥‥カナタさん目を覚ましたんですか。人を見た目で判断する人はレディーから嫌われますよ。」
ビクッと体を跳び上がらせてこちらを向くリムだが、俺の言葉に機嫌を損ねたのか口を尖らせて反応する。こういう所は子供のままだ。
「爆発の確信犯はどこにいるんだ?いくら頑丈でも重傷だろ。」
「確信犯?・・・ガイアさんでしたら結構前に退院して、今日も稽古に励んでますよ。カナタさんはちょうど今日で一ヶ月寝てました。私に感謝してください。」
あの野郎・・・・・・。一ヶ月寝たきりって結構すごいよな。んっ?まてよ
「あのさ俺って風呂も入ってないじゃん。なのに身体が綺麗なのはなぜかなぁ?」
質問を聞くと同時にリムの顔がボンッと激しい効果音と一緒にりんごのように顔が紅くなっていく。当たってほしくない考えが見事に的を得ていた。
「わ、わっわわ私は何も見ていませんよ!!ちゃんと目をつぶってやりました。ああ、そんな気を落とさないでください。しょうがないですよ!あそこが元気になってましたが整理現象ですから。」
やばい‥‥‥俺立ち直れないし。リムは逆に俺にダメージを与えてるよ。
「なぁそれって魔法じゃダメなん?」
「大丈夫ですよ。」
‥‥‥えっ。今何て言いましたこの子は。
「じゃあ何で魔法ではなく肉体労働を選んだのかな?」
「それはですね‥‥ええっと、フェリスさんがこっちの方が喜ぶって言ってたので‥‥‥嫌でしたか?」
指を前でもじもじしながら事件の全容を語る少女。上目遣いで聞いて良いことじゃないな。嫌なんて言える分けがない。
「嫌じゃないから、むしろ俺はお礼をいわ『―――――ガラガラ』」
「よう!!もう目ぇ覚ましたかこの野郎!!!お見舞いにぃグゥギャァァァアアア。」
フェリスはドアを開けた瞬間にカナタからの痛烈なるパンチを顔にくらい壁を一枚ぶち抜いて気絶した。カナタは開いてたドアを自然な動作で閉めて何もなかった様にベットに戻る。
「あれ、今フェリスさんが来た気がしたんですけど。」
「俺が断言するよ。それは幻覚だ。リムもきっと疲れが溜まっているから、少し休んだ方がいいと思うよ。」
こんなに爽やかに言っているカナタを見ては、さっきのフェリスは幻覚だと自分に言い聞かすしかないリムだった。
「あ!そうでした。ガイアさんからカナタさんに伝言を頼まれてました。」
あれからしばしの時間が経ち穏やかな時間を過ごしていると、忘れてました!っと手を叩きながらこちらを見てくる。
「アラン様が近隣の村に警備隊の視察に先日出発しましたので、目を覚ましたらすぐに後を追ってほしいだそうです。後、その前にガイアさんに会いに行って下さい。」
俺は渋々と言った顔で返事をして、隣に掛けてある服に手を伸ばして着替えを済まして部屋を出る。あの馬鹿のことだから練習場にいるんだろ。