第一章 二話 洞窟の中での出会い
彼方はいつも道理の朝を自分の部屋で向かえるかのように目を覚ます。
「ん‥‥朝か?でもまだ眠い‥‥‥。」
彼方は薄く開けた目から明るさを感じ取ったがまた眠りにつこうと瞼を閉じる。彼方は次第に寝相のせいでどんどんと動いていく。
『───ピチャッ───────』
と、身体を翻した時に水の音がなった。手が触れている水は冷たく動かない頭を目指すには十分だった。彼方は動こうとせずずっとその体制でいる。
外から見れば何もしていないように見えるが、彼方の頭の中では過去の記憶を探して今の状況にいたるまでを整理する作業がマッハの速度でこなしている。
「そうだったぁぁぁああああ!!!」
その叫び声と同時にガバッと身体を起こし辺りの様子を確認する。
自称神様?が移動させた場所はどこかの洞窟の中だと感づく。地面はどっかの海岸をイメージするかのようなきれいな砂で、一本の通路以外は壁に囲まれていてあとは大きな池だけがあった。
「おいおい普通ここは王道にならって森の中とか、ヒロインとのフラグが立つハプニングが起こるようなものだろ。なんで洞窟なんだよ・・・てか俺のほか何の気配もしねーよ!!」
違う世界に来たらいきなり洞窟にいて一人ぼっちとか泣くぞ俺は泣いちまうぞ!!
それから少ししてなんとかモチベーションを戻して当たりの事を探索しようとした。が、先ほども言ったような光景しかないので自然と自分の目の前にある池の方に注目がいってしまう。
「綺麗な水だな。かなり透き通って見える。」
「飲んじゃ・・・だめ・・。」
喉が渇いていたので池の水を両手ですくい口元にもっていくと飲むすんでのところで声がした。さっきまで誰もいなかったのに、いきなりの声で手から水を零して慌てて振り向く。
「うわっ!!」
「きゃっ・・・。」
勢いよく振り向いたがその後ろにいた人物とあまりにも距離が近かったため二人は声をあげて倒れてしまい、後ろにいた人物は砂浜に尻もちをつくが俺は池の方に倒れこんでしまう。
目を瞑ったがいいが一向に水しぶきがあがらない以前に無重力の様な感覚に陥る。体験したことがあるかだって?もちろんナイに決まっている。一つの表現方法だ。
「なんで俺浮いてんの?」
大きなリアクションもせずにただその一言がポツリとでた。
「これは・・・私の魔法。今はこれぐらいしかできないけど・・・。」
そう言って浮いている俺の体を地面に下ろした。今まで生きてきたなかでの初めての経験で奇妙な感覚にとらわれている。
「この池に落ちたら・・・。」
「お、落ちたら?」
この空間に緊張した空気が流れ始める。俺はさっきの自分がどうなってしまうのか気になってしまい気が気ではない。
「・・・濡れて風邪をひいちゃう。」
「えっ!!」
俺はあまりにも予想外の答えに驚いてしまう。目の前の彼女はそんなことは露知らず首を小さく横に傾ける。そんな小動物のような行動にこっちが顔を赤くして目を逸らしてしまう。
「そっそうだ。なんでこの池の水を飲んじゃダメなんだ?なにか理由があるんだろ。」
「飲んじゃだめ‥‥‥その水を飲んだら死んじゃう‥‥‥‥。」
静かに話される声。普段ならよく聞き取れない大きさだがこの場所のせいか、声は響きはっきりと聞こえてくる。
「まだ‥貴方は何もしてないわ‥‥勇者が今死んだら話しは終わりだもの‥‥‥それはあまりにもつまらない・・。」
彼女のゆっくりつした声。彼方は焦る。一体誰がそんな情報を知っているんだ?なぜ彼女は俺のことを・・・・・・。あの暴力少女はいきなり変なバカをしてしまったのか。ここに俺を転移させんなよ。
俺はさきほどのように緊張状態に陥る。しかし今になって彼女の容姿に目がいく。白い髪をまっすぐにおろし、目は日本人でもそうはいないような綺麗な黒色をしていて顔はどこか大人びているようだった。
ヤバいな・・・直球ド真ん中だ。って今はそんなことはどうでもいい!!
「あなたは誰ですか?」
極力相手を刺激しないように低姿勢になり尋ねる。
「‥‥私は‥‥‥エリナ。貴方にはこの名前で知ってもらいたい‥‥‥‥。」
彼女は胸の前で片方の手をぎゅっと逆の手で握る。目は斜め下を見ていてよく顔を見ないとわからないほどだが恥ずかしがっているように見えるがまぁ見間違いだろう。
「俺の名前は「知ってる‥‥‥貴方は相原 彼方。彼方の名前は‥貴方のお母さんが彼方と名付けた。
意味はなくてただの気まぐれで‥‥‥」
俺が自己紹介をしようとすると遮られてしまう。しかしエリナは俺の事を知っていた。大事な物であるかのように俺の名前をゆっくりと言う。あのバカ親がつけた理由までしっかりと知っていた。
普通なら前の人物に畏怖を抱くが、彼女の発している雰囲気がそれを和らげている。
「もう最近会う奴は何でも知ってるんだな。もうツッコム気も失せたぜ。とりあえずありがとうな!エ、エリナのおかげで初日から毒死っていう最悪な展開は避けれたよ。」
笑顔でエリナに感謝を述べている彼方はこの世界の先行きが安心してきて、肩の無駄な張りが消えていくのを感じていた。
しかし和やかな雰囲気はあっちのマンガのように綺麗に終わりを告げることになる。
「なぁ一つ答えてくれ。なんで俺が勇者だと知ってるん『ガウッ‥‥ガッ‥ワオォォォンンン』」
重要なことを聞こうとした直後に通路から犬より低いドスの聞いた鳴き声と駆けてくる音が聞こえてくる。あちらにとってはただの遠吠えかもしれないが彼方にとってはたまったものではない。
「なっなんだよ!!いきなり魔王と戦うなんていう展開は嫌だぜ。」
彼方は慌てた。今まであっちの世界で危険なことは何回もあったがこれはレベルが違う。頭の危険信号は最高潮に上っている。心の中で何回も冷静になれと呟くが一向に鼓動は早まったままだ。
不意に彼方の手はエリナの手で握られた。
冷たい・・・なんて冷たい手をこの前にいる少女はしているんだ。だけど安心をくれる温もりは十分だった。
「・・・・・・大丈夫だよ。私は平気だから・・・今からカナ・・・・あなたを」
「彼方でいいよ。」
あなたではなく名前を呼びたいのだと気づき手助けをする。その言葉にゆっくりと首を縦に振るエリナ。微妙な変化だが頬を赤らめているように感じる。
「今から・・・空間魔法でカ、カナタを安全な場所に送るから‥‥。」
「まっ待てよ!!エリナはどうするんだよ。ここは危険だ!」
「私?・・私はここから出られない・・・大丈夫また必ず会える‥‥。」
エリナは寂しそうに語るがその言葉はカナタに少しながらのダメージを与えた。カナタは大きくはないがエリナに好意があったことに気づく。
「よくわかんないけど。ここに居てもエリナは絶対に平気なんだな?」
俺のはまっすぐとエリナの目を見抜く。エリナはそれに答えるように大きく頷く。これでも不安は拭えないがエリナの言葉をむげにはできない。
「そっかそうだな。俺もまた会えると思うよ。絶対に。」
エリナを安心させるように言った言葉だったがエリナの顔は見て分かるように元気がなくなっていた。
「あっ、ええ!!」
「‥‥‥あったかい。」
いきなり俺に身体を預けるエリナ。俺はエリナをぎこちない手つきで抱きしめる。頭の中は緊急警戒警報をけたましく鳴らしている。
「カナタの匂いって‥‥安心する‥。」
『ズザザザザ!!!!!!』
通路から毛の色が真っ黒な血の気がハンパない狼が物凄い勢いで通路からでてくる。あわせて八匹の狼が現れるがその瞬間に見覚えのある現象がまた起きて辺りが光で包み込まれる。
「私も会いたい・・・カナタと。・・・・悲しい運命だとしても。」
俺の頬にエリナの流した涙がゆっくりと落ちる。俺の足元がぬけていきエリナと離れる。手は反射的にでるが二人は繋がらない。
話したのはほんの少しだったがエリナの心の中は悲しさで覆われているように感じた。彼方は彼女を自分の手で助けたいと思った。反射的に俺はエリナに叫んでいた。
「きっと、きっと俺はまたエリナを見つける。どこにいようとな!だから待っててくれ!!!」
最後のエリナの言葉を打ち消すかのように大声で叫ぶが最後が言い終わる頃には小さな点としてしか認識できない距離。だが、エリナが小さく頷く姿は確かにみえた。
*********
〈姫よ!無事か。〉
通路から出てきたのは体長2メートルはありそうな狼たちだった。その先頭にいた一際強そうな狼がエリナに話しかける。
「‥‥‥大丈夫。なにも起こってない‥‥‥。」
〈確かにここからは我等と相容れない匂いがしたとおもったんだがな。〉
怪しむ目つきで姫と言った少女エリナを見上げる狼。その獣独特の殺気が満ちた視線をまったく感じないのかエリナは表情一つ変えずに一言だけ言う。
「今私はとても悲しい‥‥‥ほっといて‥‥。」
〈なぜ隠すのだ?誰がいた。〉
「ほっといてって言ったのが分からないの?」
〈きゅうん。〉
彼女は静ながらも計り知れない殺気を辺りに立ち込め狼を怯ませ強制的に退場させる。一人になったエリナは水面に映った自分の顔を見ながら先ほどまでの会話を思い出す。
「‥‥‥わたしは‥‥運命の通りにしか動けない‥‥。」
エリナは自分の運命に悲観さえするが抗おうとはしない。それはずっと前に無駄だと気づかされたから。自分の過ちを悔いているから。
「‥‥だからカナタはこの世界において唯一運命を変えられる存在‥‥‥‥私はカナタの決めた運命に従うだけ。たとえ私が────」
エリナはこれからの自分を正面からみつめ受け止める。
「─────魔王という存在だとしても。」